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2019/03/11

菅野 直人

陸の珍兵器「世界最強の戦車砲?165mm破砕砲ロイヤル・オードナンスL9」

装甲戦闘車両の王様『戦車』。運用環境が限られるためどこでも気軽に投入できる戦力とは言えなかったり、見かけほど強いと言い切れない面もありますが、今なお出てくれば厄介な兵器には変わりありません。搭載されている強力な戦車砲もその印象を強めていますが、そうなると「最強の戦車砲って何だ?」と気になるものです。今回は実際に戦車へ搭載されているわけではありませんが、間違いなくある分野では最強クラスの珍兵器、『165mm破砕砲ロイヤル・オードナンスL9』をご紹介します。







あの障害を破壊せよ!

とある時代の、世界のどこかにある戦場。
その最前線では膠着した戦線を突破すべく歩兵部隊が浸透突破を図り、頑強に抵抗する敵部隊の後方へ回り込んで、連絡線を絶とうとしていました。

もし連絡線を絶てなくても、その意図だけで包囲を避けたい敵は後退するかもしれない……と期待しての進撃でしたが、敵もそう甘くはなく、歩兵部隊は敵が「どうせここから反撃の糸口をつかむんだろう?」とばかりに設置していたトーチカへ引っかかってしまいます。

強固な作りのトーチカは歩兵部隊の火力で崩せるものではなく、ご丁寧に前面へ鉄条網まで貼られており、地雷まで埋められていそうです。
それならこのトーチカも迂回してしまえ……と言いたいところですが、地形的にあまり迂回ばかりしていると、かえって自分たちが包囲されかねませんし、あまり時間をかけると敵の増援が来るかもしれません。

工兵を呼べ!」
ついに部隊長から要請を受けた工兵部隊が、歩兵部隊の掩護射撃のもとで地雷原や鉄条網の破壊撤去を試みますが、もちろんそんな遮蔽物もない場所で工兵がノコノコ作業していては、歩兵が自力で地雷原や鉄条網を突破するのと変わりなし。
そのため工兵は奇妙な装備を身につけた『戦車』、あるいは『戦車らしきもの』で作業を行います。

さしもの頑強なトーチカも有力な対戦車兵器まで持っていないのか為す術もないようでしたが、砲兵支援や航空支援を呼ばれる前にケリをつけた方が良さそうです。
その時、歩兵部隊の後方からひと際奇妙な、『ひどく短いものの太くたくましい砲身』を振りかざした『戦車っぽいもの』がやってきました。

その『戦車っぽいもの』はトーチカの銃眼から覗く機関銃の有効射程外で停止すると発砲、着弾、爆発!
一撃で頑強なトーチカがバラバラに吹き飛び、周囲の塹壕からも敵兵が後退していくのが見えます。
まだ砲口から薄く煙を吐いている『戦車っぽいもの』と、その主砲を歩兵部隊は「味方で良かった」と思いつつ、畏敬の念で見つめていました……。

散々に終わったディエップ上陸作戦を教訓にした特殊車両

登場した奇妙な車両群は、『戦闘工兵車』などと呼ばれる戦車改造の特殊車両です。

戦闘工兵』というと、戦術級シミュレーションゲーム『大戦略』シリーズでは火炎放射器や迫撃砲など歩兵とはちょっと一足違う重装備を持つユニットとしてお馴染みで、実際の戦闘工兵もそうした装備は自分たちの任務を支援するため不可欠なものでした。
ただし、結局は鉄条網の破壊や地雷原啓開など作業中に敵の眼前へ生身を晒さねばならないため非常に危険な任務であり、大損害を出すどころか任務達成の困難さが予想されます。

その予想が最悪の形で現実になったのは第2次世界大戦中の1942年8月、フランス南部のディエップで行われた連合軍の上陸作戦で、短時間の実験的な作戦だったとはいえ、情報漏洩により待ち構えていたドイツ軍の猛反撃で大失敗に終わりました。

それも戦闘工兵は予想通り壊滅的な損害を受けた結果、連合軍は内陸への血路を開くこともできぬまま、ほうほうの体で逃げ出すハメに陥ります。
この教訓により生まれたのが、イギリス陸軍のパーシー・ホバート少将が開発を主導し、『ホバーツ・ファニーズ』(ホバーツの愉快な連中)と呼ばれた奇妙な走行車両群でした。

AVRE 04.jpg
By Levy (Sgt), No 2 Army Film & Photographic Unit
Post-Work: User:W.wolny
This is photograph NA 20861 from the collections of the Imperial War Museums (collection no. 4700-39)
, パブリック・ドメイン, Link

それらは火炎放射戦車や装甲ブルドーザーなども含まれましたが、もっとも奇妙なのが『チャーチルAVRE』と呼ばれる多目的工兵戦闘車。
車体前面へ工兵作業用のさまざまなアタッチメントを装備して工兵が装甲化された……というより重装甲な戦車そのものの車体内部から作業可能になっており、1944年6月のノルマンディー上陸作戦では迎撃する海岸陣地のドイツ軍からの射撃をものともせず、多くの工兵作業をやってのけ、上陸部隊の血路を開きました。

しかもベースのチャーチル歩兵戦車の砲塔は残されており、主砲は6ポンド戦車砲(57mm砲)から290mm『ペタード』臼砲へ換装されており、射程が短いため対戦車どころか対車両向けではなかったものの、移動しない障害物や塹壕相手なら吹き飛ばす威力を持っていたのです。

戦闘工兵車の実用性を向上させた165mm破砕砲ロイヤル・オードナンスL9

ペタード臼砲の威力は大したものでしたが、いかんせん20kgの爆薬を100mほど飛ばすだけの性能しかなく、290mmという砲口径に見合った威力や、より安全な位置から射撃する能力もありません。
さらに爆薬は外から装填する方式だったため、装填時に役立つ装甲カバーがあるとはいえ、より安全確実、大威力で障害物を破壊できる戦闘工兵用の主砲が求められました。

Centurion-AVRE-165-Fosgene.jpg
By Fotograph: Oliver Gottlob Dl1oliOwn work, CC BY-SA 2.0 de, Link

そこでチャーチル歩兵洗車の決定版というべき75mm戦車砲を搭載しさらなる重装甲化、その代わり重くて鈍足(最高速度20km/h)の『チャーチルMk.VII』をベースに戦後改めて開発した『チャーチルMk.VII AVRE』です。
ベース車の鈍足ぶりは障害突破後の追撃まで考慮しない戦闘工兵では重視されなかったため、重装甲のMk.VIIはまさに『適材適所』でしたが、主砲もロイヤル・オードナンス・ファクトリー(王立兵器工場)で開発した新型の165mm破砕砲L9でした。

当時既に登場していた120mm、128mm級の戦車砲より砲口径は大きく、結局完成しなかったナチス・ドイツの超重戦車用175mm戦車砲より小さいものの、しっかり量産されて部隊配備した現実の兵器です。
とはいえ『破砕砲』の名の通り、あまりに強固で通常の戦車砲では直撃でも破壊が難しく、榴弾砲やカノン砲のように大口径で長射程なものの基本的に面制圧兵器で、直撃させることが難しいトーチカや建物、塹壕など固定目標を文字通り『破砕』するための砲でした。

そして何より、他にも何かと忙しい戦車部隊や砲兵部隊と違い、歩兵を直接援護してともに戦う戦闘工兵用装備という点が大きな魅力。

砲身が短く装甲貫徹力には劣り、対戦車戦闘向きではありませんでしたが、ペタード臼砲より多くの爆薬を仕込み、着弾面での激しい爆発で目標を砕き割って破壊してしまうHESH(粘着榴弾)を最大射程2,400mまで飛ばせました。
HESHは強固な目標を破砕するだけでなく、普通に大威力榴弾としても使える(ただし破片効果は通常榴弾より劣る)事から、歩兵や工兵の直協火器としても頼もしい存在です。

センチュリオンAVREやアメリカのM728戦闘工兵車にも搭載

M728 Combat Engineer Vehicle woodland from right.jpg
By Lou Rivera – http://www.dodmedia.osd.mil, パブリック・ドメイン, Link

チャーチルAVREが古くなると、戦後イギリス陸軍の主力戦車センチュリオンをベースとしたセンチュリオンAVREや、アメリカでもM60スーパーパットン戦車をベースにしたM728戦闘工兵車へ165mm破砕砲L9(アメリカではライセンス生産版のM135)が搭載されています。
これらは後継車がなかった事もあって長く使われ、1991年の湾岸戦争でも障害物を破壊するため165mm破砕砲が火を吹きました。

その後、両車とも最新鋭戦車に対して機動性が不足していたため高速化する戦場での移動に対応できなくなってきたことや、旧式化によりそれぞれチーフテンやチャレンジャー2、M1エイブラムスをベースとした新型の戦闘工兵車へ更新されていきます。

しかし戦車砲の性能が上がった事やFCS(火器管制装置)の能力向上でAVRE以上の遠距離から強固な目標を破壊可能になったこと、装備しているアメリカ軍やイギリス軍なら強固な固定目標程度はバンカーバスターなどを使った空爆で破壊可能になったこともあって、破砕砲はその役目を終え、新型の戦闘工兵車には搭載されなくなりました。

既に165mm破砕砲を搭載した軍用現役車両は存在しないと思われますが、それでもこれだけ大口径の直接射撃用火砲を装備した姿は非常にたくましく、『戦車ではなく戦闘工兵車』とはいえ、一般的な『戦車』とはまた違った魅力があります。

なお、アメリカではFBIなど捜査機関の重装備部隊で、相手によっては強固な壁を破壊しての強行突入も想定して陸軍お下がりのM728を導入したと言われており、もしかすると今でもまだ、戦場ならぬところで165mm破砕砲の出番があるのかもしれません。







菅野 直人

物心付いた時には小遣いで「丸」や「世界の艦船」など軍事情報誌ばかり買い漁り、中学時代には夏休みの課題で「日本本土防空戦」をテーマに提出していた、永遠のミリオタ少年。撤退戦や敗戦の混乱が大好物で、戦史や兵器そのものも好きだが、その時代背景や「どうしてこうなった」という要因を考察するのが趣味。

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