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2019/02/20

菅野 直人

ステルス機発展史「電波が『透ける』プラスチック製ステルス試験機ウィンデッカーYE-5」

航空機がレーダーに映りにくくなる(映らないわけではない)ステルス性を発揮する方法はいくつかあり、最新のステルス機はそのいくつかを組み合わせて成り立っています。そのうちのひとつが『素材によるステルス』で、史上初のグラスファイバー製軽飛行機を改造した『ウィンデッカーYE-5』を使った1970年代からのアメリカ軍による試験が行われています。







金属製以外は意外と探知しにくいレーダー

飛行機は第1次世界大戦末期の1918年頃には既に機体構造のみならず外板や翼まで金属製とした『全金属機』が登場しており、1930年代以降には軽量かつ強靭な素材として軍民問わず全金属機が登場、従来からの機体構造が木製で外板は布製の飛行機は時代遅れとされていきます。
しかし、1939年に始まった第2次世界大戦の戦火が文字通り世界中へ拡散していくと、「このまま金属製の飛行機を作っていたら、資源が足りなくなるのでは?」という真剣な懸念が出てきました。

日本のようにそもそも生産力がない国は戦争末期になってから慌てて対策を始めましたが、生産力が大きい国ほど戦争初期から資源不足を見越しており、イギリスのデ・ハビランド社など時代遅れとされていた木製航空機の経験が豊富なのを逆手に取り、木製新型機を開発します。

イギリス空軍のモスキート B Mk.IV
By RAF – From:en:Image:Mosquito.inflight.600pix.jpg Uploaded originally by en:User:Arpingstone on 25 April 2003, パブリック・ドメイン, Link

それが有名な『モスキート』で、エンジンなど必要な部分はもちろん金属製だったものの、胴体や主翼など主要部分はほとんど木製で、しかも木製機の経験豊富を活かして滑らかな表面仕上げや接着剤接合による重量軽減で素晴らしい高速性能を発揮、爆撃にも偵察にも戦闘機としても大活躍したのです。
さらに副次的効果として、金属製部品が表面にあまりない同機はレーダーに映りにくいという特性を持っており、高速で忍び寄って突然爆撃をかける『嫌がらせ爆撃任務』や、爆撃機の先導機として特性をフルに発揮しました。

もっとも、湿気に弱くて高温湿潤地帯では機体が腐りやすくキノコが生えたり反り返ったり、ジェット時代になると圧縮された空気による熱に耐えにくいなど木製機ならではの問題もあり、次第に木製機の用途は旧式ゆえに信頼性が高く、いつまでも生産される軽飛行機などに限られていきます。

『レーダーに映りにくい素材で作った飛行機』の提案


初期のステルス機の特徴である『視覚的に見えにくい』『音が静かで聞こえにくい』といった特性に加え、『レーダーに映りにくい』という特性が再び注目されるようになるのは1960年代のことです。

それまでの超音速飛行や大量輸送、全天候性能など飛行機としての性能向上がひと息つくと、その頃には飛行機にとって厄介な相手となりつつあったレーダー誘導式のSAM(地対空/艦対空ミサイル)への対処が求められてきました。

それにはレーダーへの投影面積が小さい方が遠くから探知されにくく、近づいても鳥のように小さな面積で飛行機と判別されにくければ有利というわけで、そのための形状を開発する技術が進歩する前に、素材による対レーダーステルス性が提案されます。

1950年代からグラスファイバー(ガラス繊維樹脂)による軽飛行機を研究していたアメリカのリオ・ウィンデッカーはその過程で樹脂製航空機の対レーダーステルス性について国防総省に提言していたものの、なかなか相手にされないのでまずは民間向け軽飛行機を開発販売する事にして、1962年に自前の航空機メーカー、ウィンデッカー・リサーチを設立します。

1967年に世界初の樹脂製軽飛行機『ウィンデッカー・イーグル』の試作1号機を飛ばしたあたりで国防総省も重要性に気づいたようで、石油産業を中心とした新経営陣へ同社を買収させるとともに、固定脚だったイーグルを引込脚へ改設計させました。
この改修でイーグルの販売価格は大幅に高騰したので商業的には失敗作となるのが決定したようなものでしたが、素材ステルス実験機としては最良の形態となったのです。

米陸軍と空軍で試験、良好な結果を得たウィンデッカーYE-5

続けて1972年、『イーグル』の軍用版『CADDO』がアメリカ陸軍に納入され、1973年には空軍へイーグルに電波吸収素材を追加してプロペラもプラスチック製とした『YE-5A』が納入されました。

試験の結果、エンジンや機体内部へ収納された引き込み脚など金属部分はレーダー波を反射してしまうものの、逆に言えば樹脂製の機体そのものは確かにレーダー波を透過、あるいは電波吸収剤が吸収しており、対レーダーステルスへの有効性が確認されます。

もっとも、その頃には『イーグル』の商業的失敗、つまり一般的な金属製軽飛行機より高価な樹脂素材を使ったための機体価格高騰でサッパリ売れなかったウィンデッカー社が倒産してしまったことや、ベトナム戦争が終結してしまったこともあり、YE-5Aが軍にある程度採用されて極秘任務へ投入……ということはありませんでした。

それぞれ1機のみ納入された陸軍向け『CADDO』と空軍向け『YE-5A』はいずれも事故や悪天候で失われ、後に陸軍向け『YE-5A』が1機だけ『イーグル』から改造されてテストを続行、退役後は現在までアメリカ陸軍航空博物館へ収蔵されています。

CADDO』および『YE-5A』の成果がその後のステルス機へどのように応用されたかは定かではありませんが、形状ステルスとともに応用されていることでしょう。
なお、『電波が透過しすぎて内部機器が反射してしまう』という問題はステルス戦闘機などのレドーム(レーダーアンテナの覆い)で再度問題となり、自機のレーダーなど特定の周波数のみ透過する素材が使われているそうです。







菅野 直人

物心付いた時には小遣いで「丸」や「世界の艦船」など軍事情報誌ばかり買い漁り、中学時代には夏休みの課題で「日本本土防空戦」をテーマに提出していた、永遠のミリオタ少年。撤退戦や敗戦の混乱が大好物で、戦史や兵器そのものも好きだが、その時代背景や「どうしてこうなった」という要因を考察するのが趣味。

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