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2019/02/15

菅野 直人

平成軍事メモリアル(5)「現実になったステルス戦闘機」~F-117初の実戦出撃から最新ステルス戦闘機F-35やJ-20まで~

平成時代が終わろうとする頃、ステルス機はもはや珍しい存在ではなくなっており、日本の航空自衛隊も最新鋭のF-35ステルス戦闘機多数の配備を決めました。しかし平成時代初期のステルス機は昭和時代末期に公表こそされたものの依然として『謎の多い飛行機』であり、その後平成時代を通したいくつかの戦争で少しずつその実態が明らかになっていきました。







昭和時代末期に過熱した『ステルス戦闘機F-19ブーム』

昭和50年代(1975~1985年)あたりの米軍機は現在の空に溶け込むように地味な迷彩の『ロービジ塗装』ではなく、現在ならスペシャルマーキングとすら言えそうな『ハイビジ塗装』がまだ主流でした。
レーダーに映りにくい飛行機『ステルス機』はまだまだメジャーではなく、将来の戦争に備えてそんな飛行機が極秘で開発されているに違いない、という陰謀論じみた存在でしたが、それを一気にメジャー化したのが昭和60年(1986年)あたりから発売された架空機のプラモデルです。

F-19ステルス戦闘機』などの名で販売されたこの架空機はSFに登場しそうな滑らかで有機的な曲面を持つ戦闘機のプラモデルで、確かに機体形状でレーダー波を乱反射させたり、表面の黒い塗料でレーダー波を吸収して『いかにもレーダーに見えにくそうな』雰囲気はありました。

まだ冷戦時代の末期でしたし、プラモデルメーカーも調子に乗って独自の情報収集によるステルス戦闘機の予想図をモデル化したものだ、など言い張るものですから、「アメリカはこんな戦闘機を極秘開発して第3次世界大戦に備えているのだ」とまことしやかに語られたものです。

しまいには国防総省の記者会見で「F-19ステルス戦闘機は実在するのか?」「F-19などという戦闘機は我が軍にない」というやり取りまで見られるようになり、否定すればするほど「アメリカは何かを隠している」と陰謀論が語られるようになります。

国防総省側もどこまで真面目に受け取るべきか困った挙句一般論に終始したので、「真実」を暴こうとする議会の公聴会へ、極秘プロジェクトに関わる事が多いロッキード社の航空機製作チーム『スカンク・ワークス』の責任者が召喚されそうな事態にまで発展しました。

ついに姿を現した『ステルス戦闘機F-117』と『ステルス爆撃機B-2』

ではアメリカにそんな極秘プロジェクトはなかったのか? と言えば実は大ありで、まだベトナム戦争が終わったばかりの昭和52年(1977年)にはロッキード『ハブ・ブルー』、昭和57年(1982年)にはノースロップ『タシット・ブルー』という2種のステルス実験機が初飛行していました。

後から考えれば2種の実験機は後にそれぞれのメーカーが作るステルス機に似ていましたが、実用機としてのステルス機は昭和63年(1988年)、いよいよ公開されることとなります。
それが同年4月に想像図を公表後、11月に初号機のロールアウトが行われたステルス爆撃機、ノースロップB-2『スピリット』と、同月に写真が初公開されたステルス戦闘機、ロッキードF-117『ナイトホーク』です。

F-117 Nighthawk Front.jpg
By Staff Sgt. Aaron Allmon II – http://www.defenselink.mil/, パブリック・ドメイン, Link

もっとも、F-117の方は昭和56年(1981年)にハブ・ブルーの実験結果を元にした試作機が初飛行、翌年には部隊配備が行われていましたが、数年間夜間飛行のみで詳細な姿が明らかにならなかったものを、昼間も訓練飛行するため公開へ踏み切ったものでした。

発表されてみれば、ハブ・ブルーを元にして角ばった面で構成されているF-117はF-19と似ても似つかず、しかも戦闘機を表す『F』記号を持つとはいえ、武装は各種誘導爆弾や対地ミサイルのみの純粋な攻撃機。
開発時期が遅いタシット・ブルーの印象があり曲面を多用したB-2の方が、『F-19ステルス戦闘機』の曲面に近かったと言えます。

ひとつ『F-19』が現実離れしていたのは、B-2はもちろんF-117でさえも、対戦闘機戦闘で優位に立つためのステルス性能や空戦性能など持ち合わせておらず、レーダーからの被探知を避けるため無理やりといってよい形状の航空機を、コンピューター制御で無理やり飛ばし、敵地深くへ侵攻爆撃するための飛行機であり、『F-19』は当時の技術ではありえないコンセプトでした。

湾岸戦争などへ出撃、ユーゴスラビア紛争で撃墜もされ、早々に退役したF-117

F-117は平成元年(1989年)のパナマ侵攻が初出撃でしたから、いつまでも夜間しか飛ばない極秘扱いにせず、昼間の部隊移動を可能にして始めて実戦参加できました。
本格的な実戦参加は平成3年(1991年)の湾岸戦争で、出撃機数が少ないため誘導爆弾の投下数こそF-111『アードバーク』よりはるかに少なかったものの、誘導爆弾による重要目標への攻撃に投入されています。

この湾岸戦争中、レーダーにF-117が鮮明に映ることが明らかとなり『ステルス機なのにレーダーに映る?』と話題になりましたが、作戦行動中でもない通常の移動時まで高いステルス性を発揮したのではニアミスや衝突事故などの原因になるため、むしろ反射材を装着している事も明らかになりました。

この戦争では全く被害を受けずにステルス機らしく任務を全うしたF-117でしたが、ユーゴスラビア紛争中の平成11年(1999年)、アメリカも加わったNATO航空部隊によるセルビア人勢力への空爆作戦で、F-117は唯一の被撃墜記録を残します。

旧式のロシア製レーダー誘導対空ミサイルS-125N(NATOコードネーム・SA-3ゴア)による戦果でしたが、F-117が空爆のため上空を頻繁に通過するのに気づいていた指揮官が、レーダーの周波数や射撃管制装置に現地改造を加えた『対ステルス仕様』で撃墜に成功しました。
結局、ステルス機とは「一般的に使われる軍用レーダーから探知されにくい」だけの飛行機で、決して『見えない』わけでも『撃墜されない』わけでもないことが証明されたのです。

結局、化けの皮が剥がれてみるとコストパフォーマンスが優れていると言えないF-117は新型ステルス戦闘機F-22やF-35の就役で現役に留まる必要もなくなり、平成20年(2008年)には全機が退役しました。
その後もおそらくは実験目的で飛行する姿が何度か目撃されていますが、F-117は結局過渡期のステルス戦闘機に過ぎません。

本格ステルス戦闘機F-22に見る『維持とアップデートの難しさ』

F-22A
By U.S. Air Force photo by Senior Airman Gustavo Gonzalez – http://www.af.mil/shared/media/photodb/photos/100702-F-4815G-217.jpg, パブリック・ドメイン, Link

平成2年(1990年)にはアメリカ空軍でF-15『イーグル』の後継となるATF(先進戦闘機)計画によるステルス戦闘機の試作機、ロッキードYF-22とノースロップ・グラマンYF-23が初飛行しました。
この2機は制空戦闘のため、ステルス性と高度な火器管制能力で相手を圧倒する目的で開発された初の『ステルス戦闘機』で、YF-23には架空プラモデル『F-19』の面影がありましたが、正式採用されたのは機動性に優れたF-22『ラプター』。

また、アメリカ海軍でも同時期にA-6『イントルーダー』攻撃機の後継となるステルス艦上攻撃機、ジェネラル・ダイナミクスA-12『アヴェンジャー』を開発していましたが、冷戦終了後の時勢で予算が降りず開発中止。
F-22も採用こそされたものの生産数は大幅に削減され、日本などへの輸出もアメリカ議会の反対で実現しなかったため、F-15の後継にはなりきれなかった上に、後のF-35同様、あるいは上回る性能を獲得するための予算もなかなか降りません。

そのためF-22は一時期『最先端のステルス戦闘機でありながら、既に旧式化が始まっている』と看破され、制空戦闘機としては出番がなく戦闘爆撃機としての任務はF-35でコト足りるため、対北朝鮮戦略など『アメリカの本気を見せるためのパフォーマンス』以外ではあまり出番がないのが実情で、F-22はヘタするとF-15と同時期に退役するのでは、という観測すらあります。

初の本格量産ステルス機F-35と、中国製J-20やロシア製Su-57

アメリカ空軍のF-35A
By U.S. Air Force photo by Master Sgt. Donald R. Allen – http://www.dvidshub.net/image/935698/aerial-refueling-f-35-lightning-ii-joint-strike-fighters-eglin-afb-fla#.UZyEMrVU8QY, パブリック・ドメイン, Link

平成12年(2000年)にはアメリカのJSF(統合打撃戦闘機)計画によるボーイングX-32とロッキードX-35が初飛行、テストの末にX-35がロッキードF-35『ライトニングII』が採用されました。
F-35は単にステルス戦闘機というだけでなく、空軍向けA型、短距離離陸/垂直着陸型のB型、空母艦載機向けC型が並行開発され、開発に技術や予算面で参加した各国で配備する西側標準戦闘機でもあります。

つまり「これからはステルス戦闘機が普通という世の中の主力戦闘機」がF-35シリーズで、日本の航空自衛隊でもA型とB型を大量採用するほか、世界各国で配備が始まりました。
既にイスラエル空軍やアメリカ海兵隊などが実戦参加させており、もはやステルス機の実戦参加は極秘でも何でもなく、当たり前になりつつあります。

J-20 at Airshow China 2016.jpg
By Alert5投稿者自身による作品, CC 表示-継承 4.0, Link

また、中国でも平成23年(2011年)に初飛行したJ-20や、その小型輸出版と言われる平成24年(2012年)初飛行のJ-31といったステルス戦闘機が登場、J-20は中国空軍で平成29年(2017年)から部隊配備も始まりました。
ロシアでも平成22年(2010年)に初飛行した試作名PAK-FA、採用名スホーイSu-57が平成31年(2019年)には部隊配備が始まると思われており、平成30年(2018年)には実験的にシリア内戦に派遣されたとも報じられています。

まだ世界各国ではユーロファイター・タイフーン(イギリス/ドイツなど)、ダッソー・ラファール(フランス)、サーブ39『グリペン』(スウェーデン)などステルス性能以外の性能は高い最新鋭機がありますが、平成時代に発展したステルス戦闘機は、次の時代において確実に主力になるでしょう。

平成軍事メモリアルはこちらからどうぞ







菅野 直人

物心付いた時には小遣いで「丸」や「世界の艦船」など軍事情報誌ばかり買い漁り、中学時代には夏休みの課題で「日本本土防空戦」をテーマに提出していた、永遠のミリオタ少年。撤退戦や敗戦の混乱が大好物で、戦史や兵器そのものも好きだが、その時代背景や「どうしてこうなった」という要因を考察するのが趣味。

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