- コラム
ステルス機発展史「近代ステルス機の先駆け、ハブ・ブルーとタシット・ブルー」
2019/03/20
菅野 直人
すごいー! たーのしー!
2019/01/23
菅野 直人
ステルス機はしばしば「見えない飛行機」と言われることもありますが、実際に見えないわけではなく「見つからない工夫をした飛行機」と考えるのが正しいところ。どんな時に何から見つからないのが正しいのかもケースバイケースで、中には「音がほとんどしないので見つからない」という解釈も。今回はそんなコンセプトで作られた『一種のステルス機』、ロッキードYO-3Aクワイアト・スターをご紹介します。
2019年1月現在開発・配備されている『ステルス機』と呼ばれる機体は、主にレーダーからの探知や赤外線センサーから「なるべく探知されにくい」ことを目的に開発されています。
何しろ撃墜手段といえばレーダー誘導か赤外線(現代だと大抵は赤外線イメージ)誘導のミサイルか、レーダー管制された対空砲に限られるため、他の手段で探知されたとしても撃墜されにくいことには変わりがありません。
例えば目視で見つけて地上の対空砲や戦闘機の機関砲で撃墜しようとしても、具体的にどこをどう飛んでいるかわからない目標に対しては、実は見当違いな空間へ向けて射撃したり、射程外の目標に「届かない!」「当たってると思うのに弾が避けていく!」など、妙な感想を言い出すハメになります。
とはいえ、何らかの形でステルス機の場所を見つけ出すこと自体には意味があり、ステルス機を探知しやすい方向へ、ステルス技術があまり有効でない周波数の射撃管制レーダー波を発したり、エンジンの排気ノズルへ向け赤外線センサーを向けることも不可能ではありません。
また、ステルス機自体がドローンなど比較的低速の飛行機な場合は、それこそ数撃ちゃ当たるで対空砲火が有効かもしれませんし、TV誘導やレーザー誘導式など発射機側の兵員が手動・あるいは視界に捉えている限り誘導する方式のミサイルも使えます。
任務によってはそれでアッサリ居所がわかっては困るわけで、特にジェット戦闘機の場合は激しい爆音を立てますが、高速で移動しているため音を聴かれてからそっちを向いても通り過ぎた後だったら問題ありませんが、遅く飛んで監視する任務だとそうはいきません。
そこで、「夜間にコッソリ忍び寄り、ほとんど音も無く飛ぶので気づかれないまま監視を続けられる飛行機」も存在します。
アメリカ海軍ではテストパイロット養成用にさまざまな航空機を所有していましたが、中にはジェット戦闘機はおろか、プロペラ機でも困難な低速時の飛行を経験するために無動力グライダーのシュワイザーSGS2-32を所有しておりました。
ジェット機やプロペラ機で飛べない速度の訓練に何の意味が……と思うかもしれませんが、空気の薄い高々度だと失速速度が高いもんで、いちいちそんな高々度まで上昇しなくても再現できるようにしたのかもしれません(そんな飛行機、アメリカ海軍にあったっけ? という疑問はさておき)。
軍用に供されたSGS2-32には実験機を表すXナンバーが与えられ、X-26の名で4機が採用されましたが、3機が破損(墜落?)して追加購入したらしいので、それなりにハードなテストをしていたようです。
しかしベトナム戦争が始まった頃だったので、対ゲリラ戦用に夜間隠密偵察機を欲しがっていた海軍と陸軍の共同プロジェクトとしてロッキードで2機のX-26にエンジンを搭載してモーターグライダー化、ロッキードQT-2PCとして南ベトナムで試験を行いました。
By QAANPO – Own work, Public Domain, Link
試験終了後にアメリカ本土へ戻されたQT-2PCは再びテストパイロット用訓練機に戻り、無動力版X-26をX-26A、QT-2PCをX-26Bと改名しますが、試験結果は良好だったようで、実戦向け隠密偵察機YO-3Aがロッキードに発注されます。
By NASA, パブリック・ドメイン, Link
1969年に初飛行したYO-3Aは全幅17.37mという数値がX-26A/Bと全く同じで、QT-2PC(X-26B)の設計を流用し、パイロットおよび観測員が登場するコクピットは大型化して視界良好なバブルキャノピー化され、乗員の背後へミッドシップ配置されて延長軸で機体前上部のプロペラを回していたエンジンは普通のフロント配置化。
車輪も前後二輪式だったのを主翼に格納する主車輪と尾輪からなる、第2次世界大戦中の戦闘機のような形態として、普通の舗装された飛行場での運用を容易にしています。
エンジンは排気音も含めて静粛化へ特に気が払われるとともに、大直径で太いプロペラを低速で回すことで風切り音も最小化、高度300mで飛んでいれば地上へは爆音はまず響かず、高度60mですら「鳥の群れがいる程度の音だった」と言われました。
これで夜間に飛べばベトコンゲリラに見つからないのは確実! とはいえ、YO-3Aも真っ暗な中を飛んでゲリラを見つけねばなりませんから、アクティブ方式(赤外線照射機つき)の暗視装置や、レーザー目標照射機も搭載しています。
14機が生産されたYO-3Aは1970年からアメリカ陸軍によってベトナム戦争に投入、何しろ見つからず任務をこなすのが目的ですからひたすら地味に働き、派手な功績は全くありませんが、ともかく見つかって激しい対空砲火を受けるような事は無かったようです。
問題は1970年からベトナムに持ち込まれても、アメリカ軍の有利に作戦を展開するには少々遅すぎたことで、ベトナム戦争末期にアメリカ軍が撤退するより先にYO-3Aは本国に引き上げられていました。
その後同種の任務はセンサーの発達もあって遠隔操作のドローンが行うようになりますが、YO-3Aはその元祖的存在です。
しかし、ベトナム戦争から引き上げたYO-3Aが即、お役御免となったわけではありません。
静かにコッソリ忍び寄れる飛行機というのは戦争以外でも役に立つもので、ルイジアナ州での密猟者取締や、FBIの捜査用などに使われます。
By USAF / Judson Brohmer – Armstrong Photo Gallery: Home – info – pic, パブリック・ドメイン, Link
また、飛行中の雑音が無いためNASAへ移管されたYO-3Aは主翼などにマイクを装備し、ヘリコプターなどの音響記録、マッハ3級超高速偵察機ロッキードSR-71『ブラックバード』のソニックブーム(衝撃波)観測など、2015年まで使われました。
物心付いた時には小遣いで「丸」や「世界の艦船」など軍事情報誌ばかり買い漁り、中学時代には夏休みの課題で「日本本土防空戦」をテーマに提出していた、永遠のミリオタ少年。撤退戦や敗戦の混乱が大好物で、戦史や兵器そのものも好きだが、その時代背景や「どうしてこうなった」という要因を考察するのが趣味。
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