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2018/11/30

菅野 直人

2018年11月の軍事トピック「中国航空ショーでステルスJ-20など乱舞」

2018年11月6日から11日にかけ中国の高級ショー『中国国際航空航天博覧会(珠海航空ショー)』が開催されましたが、新型ステルス戦闘機J-20をはじめ最新鋭機が続々と登場、躍進著しい中国空軍の現状をアピールしてみせました。一昔前は旧式機ばかりだった印象のある中国空軍は、少しずつ、しかし着実に脱皮しつつあります。







過去最大規模で開催された珠海航空ショー、日本の基地祭とどう違う?

日本でも航空自衛隊をはじめ固定翼機やヘリを運用する基地での『基地祭』は毎回多数の航空ファンが詰めかけて大賑わいとなりますが、それらはあくまで『国防に関わる人や組織は決して秘密のベースに包まれた怖い人たちではありませんよ?』という親睦会。
つまり文字通りの『お祭り』であって、飛行機の展示やデモ飛行はアクロバットチーム『ブルーインパルス』を含め、あくまで祭に華を添える、あるいはメインイベントの花火のようなものです。

これが国際航空ショーとなると話は全く別で、自国の航空機開発技術や関連技術、飛行隊の技量アピールといった様々な要素が絡んできますし、何より商談など経済的、あるいは考えようによって外交など政治的な思惑すら絡むのがほとんど。

日本でも数年に一度『国際航空宇宙展』が開催されており、現在でこそ単にビッグサイトで開かれる展示商談会になっていますが、1983年までは航空自衛隊の基地が舞台となっており、第3次FXではF-14とF-15が採用をアピールすべく激しいデモフライトをしていたものでした。

2018年11月6~11日に開催された『中国国際航空航天博覧会(珠海航空ショー)』も基本的にはそうした性質のイベントで、中国の兵器開発や宇宙技術開発を担う『10大軍事企業集団』のほか、43カ国・地域から770社も出展する過去最大規模で開催されています。

飛行機だけでも現用航空機のみならず配備が始まったばかりの新型機、開発中の新型機の模型まで集まり、可能なものはバンバン飛んで見せるですから航空ファンにとっては見所満点、日本やアメリカ・ヨーロッパではお目にかかれないものも見られて大満足。
しかし一方で、中国空軍の大躍進に自国の国防が不安になる日本人も多数……ということだったようです。

もはや黒煙など吐かない最新ステルス戦闘機J-20

J-20 at Airshow China 2016.jpg
By Alert5投稿者自身による作品, CC 表示-継承 4.0, Link

2011年1月11日という、いかにもプロパガンダ的な語呂の良い日に初飛行したとされる中国空軍の最新鋭ステルス戦闘機『J-20』。

2年前の同じ航空ショーで初公開された時には、リーク画像などで確認された黒い塗装のまま2機がデモフライトを行ったものの、エンジンからどす黒い排気煙を引いていたので『大丈夫なのかこれ?』と日本からさえ仮想敵国ながら心配する声も。
ましてやビッグコミックで連載中の『空母いぶき』では奮闘する“やられメカ”扱いされているので、日本では割と「張子の虎」「エセステルス機」「ただの実験機じゃないの?」など散々な言われようを目にします。

しかし2018年の珠海航空ショーに現れたJ-20は2017年3月から部隊配備されたと伝えられた通りグレーの制空色を施した『実戦配備仕様』で、もちろんエンジンから黒煙など出しません。
低空から機首を引き起こし瞬間的な垂直上昇でエンジン推力をアピールし、他にもさまざまな機動で運動性能の高さをアピールしました。

現代の空戦だと、機動性はミサイルを遠距離から発射して有利に進めるためのものとはいえ対地攻撃などで求められる事もまだ多く、ハイパワーなエンジンで推力に余裕があるなら搭載併走のオプションや大量に積んだ燃料での広い作戦行動半径など、やはり脅威には違いありません。

まだ本格量産に入る前の増加試作機(最近だと『低率量産機』とも言います)とはいえ、初飛行から6年で部隊配備し、翌年には完成度の高いデモ飛行をやってのけるのですから、中国の航空機開発能力やそのスピード感をアピールするには格好の素材だったでしょう。

推力偏向ノズルつき新型エンジンを搭載したJ-10改良型

会場で『脅威』に映った最大の航空機はJ-20として、技術的アピールでもっとも激しかったのは配備が進む主力戦闘機J-10Bを改造した推力偏向ノズル実証機
J-10自体は2004年から配備が始まり、中国空軍のアクロバットチーム『八一飛行隊』でも使用されている実績ある機体で、改良型J-10B、J-10Cも存在するなど、J-20実戦配備後もそれを補完する小型単発戦闘機としてハイ・ローミックスの一翼を担いそうです。

2018年のショーに登場したのは改良型J-10Bのエンジンを国産のWS-10B3に換装、排気ノズルは推力偏向(スラスト・ベクタリング、またはベクタード・スラストとも呼ばれる)型。
既に実用化されている戦闘機でもアメリカ空軍のステルス戦闘機F-22やロシアのスホーイSu-27フランカー系発展型の一部へ搭載されており、特にステルス性を追求するため空力的手法で機動性向上が難しいステルス機で有効な技術とも言われます。

言い換えれば「J-10などカナード翼のついた飛行機ならそれほど必要性は無い」装備で、確かに機動性は上がってショーでも空力的にありえない機動を多彩にこなしていましたが、J-10としてはそれほど意味がありません。
運動エネルギーや位置エネルギーを失う、つまり旋回性能が高くても、その結果としてヘロヘロのスピードになったり高度を失い機動の自由度を失うなどデメリットの方が大きいと言われて、普通の戦闘機ならあまり重要視されないわけです。

しかし、レーダーへの映りにくさを追求するためその他の性能が犠牲になるステルス機では機動力不足を補うのに有効な手法とも言われ、J-10Bでのテスト結果次第ではJ-20改良型にも採用、いずれJ-20からカナード翼が消え、よりステルス性が上がるのかもしれません。

日本にとって一番厄介? 新型ステルス・ドローンCH-7はどんな任務をこなす?

会場では既に実戦配備されている新型機だけでなく、まだ試作段階の最新鋭機の模型も展示されましたが、中でも注目を集めたのは『彩虹7(CH-7)』と呼ばれるステルス・ドローン(無人機)。
飛行機というものは用途や性能が似てくればどれも似たようなスタイルになりますが、アメリカのRQ170ステルス・ドローンが2011年にイランでハッキングを受けて捕獲されて以来、同機のコピー機はイランでも『サーエゲ』が開発されており、今回はその中国版です。

中国側のセールスによれば、「F-22すら捕捉可能な無人戦闘機」とされていますが、実際にそんな実力があるのか、そもそもそんな用途に使用可能なのかすらよくわかりません。
何しろ元のRQ170が示したように『AI(人工知能)による完全自律飛行をしない限り、ハッキングされちゃう』というのは遠隔操縦ドローンの泣き所で、その弱点がある限りゲリラへの嫌がらせなど非対称戦争にしか使えない代物。

しかも米軍では非武装偵察機として使っていたようですが、イランがコピー機のサーエゲをシリア内戦で攻撃任務に投入してみたところ、何だこりゃ?と気がついたイスラエル軍のAH-64攻撃ヘリにアッサリ叩き落とされています。
コンセプトとしては将来の何かにつながるのは間違いありませんが、戦時の戦力としては極端に警戒するほどの能力は現在の技術でまだ持ち得ないでしょう。

あるいは米軍もそれをわかっていて、わざわざ回り道させるために捕獲していたというオチかもしれませんが。
ただ、日本にとってはレーダーに映りにくく、人が乗っていないため小型で長時間対空可能なステルス・ドローンの存在は少々厄介で、尖閣諸島や先島諸島周辺などへ偵察や情報収集のため頻繁に飛んで来られると、自衛隊としても対処に困るような気がします。

案外、日本にとって平時から一番面倒なのが、このCH-7なのではないでしょうか?

菅野 直人

物心付いた時には小遣いで「丸」や「世界の艦船」など軍事情報誌ばかり買い漁り、中学時代には夏休みの課題で「日本本土防空戦」をテーマに提出していた、永遠のミリオタ少年。
撤退戦や敗戦の混乱が大好物で、戦史や兵器そのものも好きだが、その時代背景や「どうしてこうなった」という要因を考察するのが趣味。

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