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2018/11/14

菅野 直人

陸の珍兵器「関節連結型トレーラー型装甲車!?BvS10ヴァイキング」

2018年8月に東京晴海埠頭へ来航したイギリス海軍の揚陸艦『アルビオン』は、自衛隊や米軍ではほとんど見られない、それも単に形やメーカーが違う程度では無い珍しい車両を搭載していました。以前にヒッポBARV(海岸装甲回収車)を紹介しましたが、今回は何と2両編成! 装軌式関節連結型装甲トレーラー『BvS10ヴァイキング』です。

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元は連結式の全地形装軌輸送車

Bandvagn 206 02.jpg
By Joshua06投稿者自身による作品, CC 表示-継承 3.0, Link

Bvs10ヴァイキングには原型となった車両Bv.206があります。
元々はスウェーデン陸軍向けとして1980年に制式採用された関節連結型トレーラー車両で、見かけは可愛らしいとも言える小型雪上車の『2両編成』。

なぜ1両編成ではいけないかというと、北欧のスウェーデンならではの雪上走行はもとより、同国北部に存在する泥炭地、わかりやすく言えば『限りなく沼に近い湿原』でも兵員輸送を可能にするべく、可能な限り履帯(キャタピラ)の接地圧を低くするため。

同じ重量でも地面に接地する履帯の面積が大きいほど接地圧、つまり面積あたりの重量は小さくなるのですが、だからといって履帯の幅をむやみに広げたり全長を伸ばしていては、狭い地形に入る事もできなければ、小回りも効きません。
そこで小型ながら幅広い履帯を持ち、グラスファイバー製の大きな軽量ボディを載せて積載性を確保した上で、2両編成として連結部を曲げ、小回りも可能としました。

似たような設計は日本でも小型特殊貨物登録の農機に見られますが、多用途を目指したBv.206は軽くて水密性を持つので水陸両用性能まであり、履帯を駆動することで微速(4.7km/h)ながら水上航行性能すら持ちます。

実は意外と使われている原型Bv.206、航空自衛隊でも使用中

小型軽量で積載性に優れ、『2両編成』により小回りが効くだけでなく、険しい地形でも例えば前の車両が岩を乗り越える時に後ろの車両が押す、その後は前の車両が後の車両を引っ張るという使い方も可能(前後車両はそれぞれエンジンを積んでおり、独立使用も可能)。
おまけに限定的な水上航行能力すらある装軌車両となれば世界中の極地で需要があるのは当然で、各国の南極観測隊や極地の捜索救難サービスなどで利用されている、案外メジャーな車両です。

もちろん軍用にも有用で装甲兵員輸送車版Bv.206Sもあり、前後をバラせば中型戦術輸送機だけでなくヘリで吊り下げても空輸可能、後部車体には迫撃砲など多少の重火器も搭載可能なので、他の車両が環境制約から展開できない場所での火力支援などに重宝します。

意外なところでは、アフガニスタンでの軍事作戦に参加したカナダ軍が険しい地形な上に酸素が薄く、通常の歩兵では行軍にひどく時間がかかる高山の踏破へBv.206を使用、はるかに早く行軍した上に兵員の披露も最低限に抑える大きな効果を上げました。

日本では『アルビオン』でBvs10を見た時に「こんな車両あったのか!」という声多数でしたが、実は航空自衛隊でも日本海の佐渡島にある航空自衛隊佐渡分屯基地がBv206J-01/02こと、正式名称『大型雪上車』を使っています。

同基地は妙見山(標高1,042m)の山頂で『ガメラレーダー』ことJ/FPS-5を稼働させているレーダーサイトがあり、冬季に庁舎からサイトへの連絡路は大まかな除雪後に大型雪上車で往復するしか無く、Bv.206が大活躍というわけです。
もっとも、大きいとはいえ日本海の孤島・佐渡島ですから誰もが気軽に行けるわけでもないため、自衛隊が配備している車両の中では極めてレアな存在となっています。

拡大強化版BvS10はイギリスとオランダの海兵隊などで使用中

Hägglunds BvS10.jpg
By joost j. bakker – originally posted to Flickr as Hägglunds BvS10, CC BY 2.0, Link

2両編成、水陸両用の全地形車というBv.206の特徴を受け継ぎつつ、重量増加に対応した拡幅など拡大強化版として、イギリス海兵隊向けに開発されたのがBvS10ヴァイキングです。

Bv.206S同様に装甲化されていますが、より強力なエンジンを搭載しており、見た目も雪上車に装甲を貼ったようなBv.206Sよりも『装甲車らしく』なって生残性を向上、武装のオプションも増えています。
日本へ来航した『アルビオン』に搭載されていたように、ドック型揚陸艦の艦内へ注水して船舶やホバークラフト、水陸両用車両の発進や収容を容易にするウェルドックを利用可能で、BvS10は自力で発進および艦内へ帰還可能という便利な戦力。

ただし、近年は上陸戦闘などほとんど機会が無いので普通に陸戦で使われることが多く、採用したイギリス海兵隊やオランダ海兵隊はアフガニスタンなど内陸の地域紛争で便利な全地形車として使われることが多いようです。

その際は米軍などの軽装甲しか持たない汎用車両(日本ではハンヴィー、あるいは民生用ハマーH1として知られる)と同様、車両を狙った爆破装置(IED)によるテロへ脆弱なことが指摘され、増加装甲や成形炸薬弾を防ぐ網が装着されました。

地域紛争拡大で採用拡大が続くBvS10とBv.206

冷戦時代のように『押し寄せる東側の大戦車軍団をヨーロッパで迎え撃つ』戦争などほとんど起きそうも無い今、軍隊が出動する場所といえば地域紛争を終結させるための平和維持活動がほとんどです。

その名とは裏腹に、どこの誰が本当の代表なのかもよくわからない現地武装勢力と本気で戦うハメになるケースもあるため、非武装・非装甲のトラックでの移動などもってのほかという場所も多く、道路などインフラが破壊されている地域ではまさに大活躍。

アフガニスタンでのカナダ軍のように、国際共同部隊にでも参加しなければ縁が無かったような僻地や極地で作戦を行うため、BvS10やBv.206のような車両の評価は急上昇中で、近年はフランスやオーストラリア、本家スウェーデン陸軍でも採用されています。

日本でも大原鉄工所製の10式雪上車など制式装備として採用されていますが、あくまで雪上車であり全地形対応でも装甲車両でも無いため、平和維持活動や災害救助など海外派遣用に、いずれ同種の車両が必要とされるのではないでしょうか。

菅野 直人

物心付いた時には小遣いで「丸」や「世界の艦船」など軍事情報誌ばかり買い漁り、中学時代には夏休みの課題で「日本本土防空戦」をテーマに提出していた、永遠のミリオタ少年。
撤退戦や敗戦の混乱が大好物で、戦史や兵器そのものも好きだが、その時代背景や「どうしてこうなった」という要因を考察するのが趣味。

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