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2018/10/31

菅野 直人

日本の防衛宇宙機『闇夜も雲も通して覗く、レーダー衛星』

東西冷戦時代の頃までは「偵察衛星なんて贅沢なモンは米ソとか大国のもので、日本はとてもとても……」などと思っていたものですが、気がつけば日本独自の偵察衛星を常時軌道に送るなど、日本も宇宙を防衛に活用する時代がやってまいりました。今回はお天気に関わらず情報収集が可能な『レーダー衛星』について。







光学衛星と対で運用される『レーダー衛星』

H-IIA F12 launching IGS-R2.jpg
By Naritama (NARITA Masahiro) – photo taken by Naritama (NARITA Masahiro), CC BY 2.1 jp, Link

現在、日本が打ち上げている防衛用偵察衛星のうち、『レーダー衛星』と呼ばれて軌道上で運用されていると思われるのは、『レーダ3~6号機』と『レーダ予備機』の5機。
光学センサー(つまり超高解像度カメラ)を搭載した光学衛星が『光学5~6号』の2機だけに比べると2.5倍です。

一応、偵察衛星は光学とレーダーが1機ずつ2機1組で運用され、現状は光学衛星2機とレーダー2機で4機2組体制さえあればいいはずなのですが、レーダー衛星はどうも故障が多いらしく、不安に感じられたのでバックアップ2機+さらに予備1機を追加しています。

性能はもちろん『防衛機密』に属するわけですが、『レーダ2号』まではJAXA(宇宙航空研究開発機構)の地球観測衛星『だいち』に搭載されたものを改良したレーダーが搭載されており、最大分解能1~3mの能力がありました。
それが現在運用中の『レーダ3~4号』および『レーダ予備機』では最大分解能1mへ、さらにそれ以降新しい『レーダ5号』以降は50cmにまで性能向上していると言われていますが、定かではありません。

なお、最大分解能とは例えば1mなら1m四方の物体を識別できるというわけではなく、『画像の画素数一辺が1m』という意味で、つまり地上の物体が1m四方のモザイク状で識別できると考えると良いでしょう。
それでも建物や車の形状などはある程度わかりますが、分解能が細かくなればなるほど、モザイクが薄くなって、地上の物体の詳細がわかるようになります。
ちなみに光学衛星の方は最大分解能30cmで、レーダー衛星よりも細かく目標を識別可能です。

レーダー衛星の持ち味は『全天候偵察』

より細かく目標を把握できる光学衛星があるのに、なぜそれより劣るレーダー衛星があるのか?
それは単純な話で、「光学衛星は目標との間に雲があったり、夜間だと見えない」からで、もちろん赤外線センサーの類は無いわけではありませんが、直接形を識別できるわけではありません。

目標上空がいつも晴れているとは限りませんし、地上で光学衛星からの偵察を防ごうと思えば夜間に行動すれば良くなってしまいます。そうした光学衛星の欠点をカバーできる存在がレーダー衛星で、例えば何日も雲がかかったままの梅雨時などはレーダー衛星が頼りです。

ただし、もちろん全天候・夜間撮影が可能だからといって光学衛星より乏しい情報しか得られないのでは意味が無いので、分解能を向上させる努力が常に払われています。
光学衛星でもそうですが、分解能が上がればデータ量も増える(解像度が上がったデジカメで撮影した画像の容量が昔とは段違いなのと同じ)ので、大容量データを迅速に送る役目を持った『データ中継衛星』が2019年度の打ち上げを目指し、計画中です。

まだまだ課題のある運用体制

レーダー衛星で全天候偵察能力を持った日本ですが、その運用にはまだまだ課題があります。
初期の『レーダ1~2号』で問題になった短すぎる運用寿命は3号以降で改善されたようですが、現在の4機2組体制では地球上の任意の地点を1日最低1回は観測できる程度の頻度に過ぎません。

これを改善するため、4機2組体制から8機体制にする予定ですが、単純に8機4組に倍増するのではなく、従来の4機体制で収集した情報を元に、4機は移動目標の重点的監視などのため、より柔軟な運用がなされるとされています。
そのため今後の打ち上げ計画はかなり数が増えていますが、予算上には限りがあるので衛星の運用寿命を伸ばしてコスト削減するのも課題です。

また、衛星の収集した情報は、それを受け取った側に十分な処理・分析能力が無ければ意味をなしません。
運用は防衛省だけでなく、警察や消防、外務省に海上保安庁と、おおよそ地上の高分解能データを欲しがる省庁が共同で方針を定めており、直接的な運用は内閣情報調査室の内閣衛星情報センターが行っています。

この体制が果たして正しいのか、予算や人員は十分なのか、という点がもっとも不安視されるところですが、こればかりは機密のベールの向こうで「予算をかけただけの効果はある」ことを祈るしかありません。

今後は同時多発的有事への対応のため、超小型衛星の活用も

もともと、日本の偵察衛星は北朝鮮が核弾頭も搭載可能な弾道ミサイルの開発と、そのための試射で日本列島を飛び越すようなルートを選択するものですから、国防上の必要性から日本独自の情報収集手段を持つことが、国の責務であると考えられたからです。

2018年10月現在もその状況には変わりありませんが、それだけでなく日本海における北朝鮮漁船の、小笠原諸島における中国サンゴ漁船の違法操業の監視や、尖閣諸島など南西諸島全域に対する中国の脅威、さらに北方領土で強化されるロシアの軍事力への警戒も必要になります。
これは何も「情報を早く仕入れて先制攻撃してしまえ」といった乱暴な話に限らず、収集した情報を外交などで活用して、戦争を未然に回避する努力を助ける意味合いもあるのです。

それだけに見られる側としてはやりにくくてたまらないのですが、少なくとも中国やロシアも(場合によってはアメリカも)偵察衛星で日本を監視しているでしょうし、北朝鮮に情報共有が行われている可能性もありますからお互い様。
それより問題なのは同時多発的に有事の兆候が見られた際、1度に収集できる情報に限りがありすぎると対応しきれないどころか、均一な情報収集ができないことで判断を誤る可能性すら出てきます。

例えば南西諸島で同時多発的に、中国海軍や空軍、海警、民間漁船(らしき不審船)の動きが起きたら……という事態を見越し、超小型衛星を多数打ち上げて数を補い、性能は軌道を低くすることで補うような計画もあるようです。
その場合、天候や時間(夜間)を見越した対処が可能な光学衛星よりも、レーダー衛星の比重はより高くなると思われます。

願わくは、機密のベールの向こうではSF映画さながらのハイテク情報収集能力がありますように。

菅野 直人

物心付いた時には小遣いで「丸」や「世界の艦船」など軍事情報誌ばかり買い漁り、中学時代には夏休みの課題で「日本本土防空戦」をテーマに提出していた、永遠のミリオタ少年。
撤退戦や敗戦の混乱が大好物で、戦史や兵器そのものも好きだが、その時代背景や「どうしてこうなった」という要因を考察するのが趣味。

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