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2018/11/26

菅野 直人

ステルス機発展史「ステルスボマー1940年代に現わる?ノースロップB-35/B-49」

ステルス爆撃機と言えばアメリカ空軍の戦略爆撃機ノースロップB-2。真っ黒な塗料に身を包んだ全翼機という異様な姿ですが、どうも最近は中国も似たような(ハッキリ言えばパクったような)全翼ステルス爆撃機を作っているようです。しかしアメリカ航空史の奥は深く、第2次世界大戦直後、既に現在のB-2を思わせる全翼爆撃機を作っていました







執念のジャック・ノースロップ、3度目の正直で全翼爆撃機の発注をつかむ!

アメリカの航空機開発史に輝ける功績を残した人物の1人に、ジャック・ノースロップという人物がいます。

1927年に初めて自分の航空機メーカー『ノースロップ・エアクラフト』を設立するも1929年に他社に吸収合併されてしまい、1932年にドナルド・ダグラス(ダグラス社の創業者)と共同で再び『ノースロップ』社を設立。
しかしこれも1937年に手放してダグラス社に吸収されてしまったかと思うと、1939年には三度『ノースロップ』社を設立するのでした。

特に2代目ノースロップ社はガンマやデルタといった優れた構造の全金属単葉機で名を売るほどある程度の成功を収め、後にミッドウェーで南雲機動部隊を壊滅させるダグラスSBDドーントレスの原型さえ作っていたので、何をそんなにコロコロ会社を作り直すのか、不思議です。

しかしジャック・ノースロップはドイツのホルテン兄弟などと同じ夢にとりつかれていたのでした。そう、「全翼機こそ飛行機の理想だ全翼機を作りたい!」という夢が。
もしかしたら、先に作った2つの会社では自分の好きな飛行機を作らせてもらえなかったのかもしれません。

特に共同出資者がいたりすると、「いつまでも夢を追うのはやめとけよジャック?」みたいに説教でもされたのでしょうか。

大西洋横断爆撃機、B-35を開発せよ!

さて、1939年に今度こそとばかりと設立されたノースロップにとっての朗報、そして世界にとっての不幸なニュースとして、その年の9月にポーランドへ侵攻したドイツへイギリスとフランスが宣戦布告、第2次世界大戦が始まりました。

当初中立を決め込んでいたアメリカでしたが、自国の能力では必要な兵器をまかないきれないイギリスやフランスから注文が舞い込み、飛行機も多数を両国およびその同盟国(というよりドイツの敵国)に売るようになります。
しかし、1940年6月にフランスが敗北、同7月に始まったバトル・オブ・ブリテン(英本土防空決戦)ではかろうじてイギリスが勝利しますが、どうもアメリカとしてはこのまま兵器を買ってもらうだけでなく、自ら参戦する必要性を感じ始めました。

というのも、既にフランスがそうであるように、兵器を売った相手が負けては代金の取立ても容易ではないため、とにかくイギリスに勝ち、フランスにもアメリカへの支払い相手として復活してもらわねばなりません。
さりとて、アメリカが参戦するキッカケを探しあぐねている間にイギリスがドイツに負けてしまう可能性はまだ残っており、最悪の場合はアメリカ本土から太平洋を超えて直接ヨーロッパを攻撃する必要性が出てきました。

XB35-8 300.jpg
パブリック・ドメイン, Link

こうして1941年4月に明かされたのが『10×10ボマー』、すなわち10,000ポンド(約4.5トン)の爆弾を搭載して10,000マイル(約16,000km)を飛行可能な大西洋横断戦略爆撃機
これに応じたのがノースロップの全翼爆撃機XB-35で、ほかにコンソリデーテッドの巨人爆撃機XB-36が応募しました。

戦後初飛行したXB-35とYB-35

もっとも、1941年4月に明かされた『10×10ボマー計画』に対し、ドイツは同6月にソ連へ宣戦布告してわざわざ戦線を広げ、イギリスへのプレッシャーは弱まりましたし、同12月には前から経済制裁で締め上げていた日本がハワイに攻めてきて、アメリカも大戦に加わります。

こうなると戦時体制へ完全に切り替わったアメリカの工業力たるや面目躍如というもので、相変わらずヨーロッパの大半はドイツが抑え、日本は破竹の快進撃を続けていたものの、ひたすらガマンして戦力を整えれば、いずれ勝てるのは目に見えてきました。
それ以前にイギリスが負ける事もありませんし、連合国の各国から戦後各種兵器や物資の代金取立てもできるようになりますから、急ぐより確実に買った方が利口です。

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パブリック・ドメイン, Link

そのため『10×10ボマー』も開発はスローダウンし、コンソリデーテッド社は爆撃機B-24などの大増産、ノースロップはこの機会を活かしてXB-35のスケールダウン型全翼実証機N-9Mを飛ばし、双方ともに『10×10ボマー』に通じる経験を得ました。

もちろん開発そのものはスローペース、あるいは慎重に実行されており、アメリカ軍でも戦争が長期化した場合、あるいは戦後を見据えた調達計画をしていたので、試作機XB-35に加え、量産先行型YB-35、初期量産型B-35Bの発注まで1943年6月までに行われています。

ただ、ノースロップはしょせん中小企業で開発体制に軍としても不安を持っており、実際実験機N-9Mを使ったテストでも要求性能が難しそうだとわかったので、軍は量産型B-35Bをキャンセル、コンベア(コンソリデーテッド)XB-36が本命に決まりました。

ただ、N-9Mはまがりなりにも飛んでいましたし、軍としても戦後の世界で頂点に立つ覇権国家として全翼機の可能性を見ておくのも悪くないと思って、XB-35とYB-35の開発続行を承認、ついにXB-35は1946年6月に、YB-35も1948年5月に初飛行したのです。
前代未聞の全翼爆撃機、ついに空へ

ジェット化ならどうだろうと登場したYB-49

ただし、初飛行に成功したXB-35/YB-35は、ただでさえ全翼機というブーメラン状の怪しげな飛行機なのに、二重反転プロペラなど複雑で面倒なメカを組み込んだ四発爆撃機だったため、振動が激しくエンジンや期待寿命が極端に短くなるのは明らかでした。

性能低下をしのんで通常のプロペラへ換装して「あーちゃんと飛ぶんだ?」と証明はしたものの、元から実用機はコンベアB-36に取られて不採用になった実験機扱いなので、その先はありません。
しかし軍もただ「あー飛んだんだ良かったねー?」と言うためXB-35/YB-35の開発続行を承認したわけではなく、その先を見越した計画が存在しました。

試験飛行中のYB-49
パブリック・ドメイン, Link

それが1945年に開発がスタートしたB-35のジェット化版試作機YB-49で、プロペラを回す4基のレシプロエンジンの代わりにターボジェットエンジン8基を搭載し、見た目はスッキリ! 余計なものが無いブーメラン!(さすがに垂直尾翼は小さめなものが残りましたが)
1947年10月に飛行するや、当たり前ですがプロペラやギアボックスを原因とした振動も無く、実に快適に飛行しました。

問題は初期のジェットエンジンがまだパワー不足なくせに燃費が悪く、速度性能はプロペラ機よりマシなものの期待ほどでも無し、航続距離は短くなって当時戦略爆撃機に必須だった核爆弾も積めないので、どうも爆撃機としては使いものにならないのが判明します。

それでも燃料タンクを増やして偵察カメラを積めば、長距離高速偵察機として使えそうなのでRB-49Aとして一度は採用されたものの、結局試作機が墜落するなど当時の航空力学技術では安全に飛行させるのが難しすぎて、不採用になってしまいました。
結局爆撃機改造ジェット偵察機はノースアメリカRB-45やボーイングRB-47などでコト足りてしまったため、わざわざRB-49Aを採用するまでも無かったというわけです。

そしてB-2へ

これでノースロップ社はお先真っ暗、3度目の消滅を……とはならず、夜間戦闘機F-89スコーピオンや傑作と名高い輸出戦闘機F-5シリーズなどでそこそこメジャーな存在になっていき、ステルス機や全翼機の研究・実験も続けていました。

その間、RB-49Aすら不採用になって全翼機の夢破れたりと悲嘆にくれながら隠居生活をしていたジャック・ノースロップの晩年、1980年代にある日にノースロップ社からある飛行機模型がプレゼントされます。
普通の人なら見慣れぬ飛行機と思うところ、ジャック・ノースロップ自身にとってそれは心血注いだ全翼機。

B-2 Spirit 060530-F-5040D-016.jpg
By U.S. Air Force / Staff Sgt. Bennie J. Davis III – http://www.af.mil/News/Photos.aspx?igphoto=2000555126, パブリック・ドメイン, Link

それが開発中のステルス爆撃機B-2であることを知った彼は、涙を流して喜び、間もなくこの世を去ったそうです。

菅野 直人

物心付いた時には小遣いで「丸」や「世界の艦船」など軍事情報誌ばかり買い漁り、中学時代には夏休みの課題で「日本本土防空戦」をテーマに提出していた、永遠のミリオタ少年。
撤退戦や敗戦の混乱が大好物で、戦史や兵器そのものも好きだが、その時代背景や「どうしてこうなった」という要因を考察するのが趣味。

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