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2018/08/1

菅野 直人

核弾道ミサイルの開発(特に再突入)はどうやって確かめる?過去の実践事例

2017年に北朝鮮が打ち上げまくって話題になった弾道ミサイルですが、2018年に入ってからはすっかり音沙汰無し。トランプ大統領との何かよくわからない合意以前から「ICBM開発終了宣言」を出していますが、本当にICBMとして完成しているかは謎のままなのです。特に弾道ミサイルで重要な「再突入」が成功しているかどうかが不明なのですが、他の国の弾道ミサイルでは、どのようにして確かめているのでしょうか?







失敗? 成功? なかなかわかりにくい弾道ミサイル実験

日本の目の前でドカスカ打ち上げるもので、2017年にはすっかり「恒例行事」のようになってしまった北朝鮮の弾道ミサイル実験。

時には日本の上空を越えて太平洋はるか彼方まで飛ばすこともありましたが、実際に何千kmも飛ぶことがわかってくると、ロフテッド軌道と呼ばれる、とにかく高いところに打ち上げる撃ち方に切り替え、弾道ミサイルの発射実験というよりは、ロケットの高度記録挑戦でもしているかのようでした。

さすがにアメリカ本土やハワイ、グアムに近いところへ飛ばすとアメリカを刺激しすぎると思ったのか、果てはあまり敵に近いところへ飛ばすと回収されてしまうと思ったのか、細かい理由はわかりませんが、「北朝鮮製のロケットでも、とにかく飛ぶ」ことだけは理解されたと言えます。

ただし、衛星打ち上げ用ロケットならばともかく、弾道ミサイルとなるとただ「飛ぶ」だけでは完成したものとは言えません。
それゆえ、弾道ミサイルが発射されるたびに「これは脅威と言ってよいのかどうか?」と、軍事関係の知識が深い人ほど首を傾げざるを得ないわけです。

弾道ミサイルの目的達成は、「再突入」で決まる

宇宙空間とはどこから(どの高さから)?」という疑問に対しての答えは、何を基準とするかによって変わってきますが、高度100km(10万m)以上というのが一般的です。

弾道ミサイルはそれより高い高度まで上昇し、大気が非常に薄く空気抵抗の少ない高度、つまりごく低高度の宇宙空間を突き進むことで数千kmから時には1万kmを超える射程を実現しますが、目標に近づけば当然地表に向けた「落下」を始めます。

そうなると宇宙空間から地球大気の濃い高度へ向け、重力に引かれて加速度を増し、高度が下がるほど空気密度が濃く抵抗は増え、それでいて加速するので猛烈な高熱にさらされるのです。

その高熱たるや、姿勢制御や耐熱処理に失敗した宇宙船ですら、空中分解や燃え尽きさせるほどのもので、かつて小惑星イトカワから地球に帰還した日本の無人探査船「はやぶさ」も故障続きの挙句、最後は耐熱カプセルを確実に届けるため本体ごと落下して燃え尽きました。

それでもカプセルだけは燃え尽きず無事にオーストラリアに落下したわけですが、弾道ミサイルも最後は搭載している弾頭が燃え尽きずに地表、または炸裂すると定められた高度まで降下できなければ意味がありません。

まず弾頭が燃え尽きてはいけませんし、仮に原型を保った部分があったとしても、中の起爆装置などが壊れては、核弾頭なり何なりの、狙った効果は発揮できないわけです。
さらに、核弾頭がどうにか燃え尽きなかったとしても空気抵抗でとんでもない方向にそれてしまった場合、そこで爆発していいものかどうかという問題も出ます。

つまり、再突入がうまくいかない弾道ミサイルなど、撃ったが最後どこに飛ぶのかわからないテッポーのようなもので、兵器としてはおよそ意味が無い代物です。
少なくとも、発射する当事者にとっては具体的に何かを破壊したくて発射ボタンを押すような兵器では無いでしょう。

発射実験で見事に目標へ命中したインドの『アグニV』

では他の国ならどんな実験をしているかといえば、当たり前ですが発射実験に際して目標を設定し、そこにどれだけ正確に命中するかを確かめます。

北朝鮮が行ったように、何かが落下する範囲に飛行機や船舶がいては都合が悪いので事前に警報を出すわけですが、現在は大気圏内核実験が禁止されているので核弾頭と再突入体の試験は別個に行うため派手な爆発はせず、とにかくミサイルの軌跡を追うしかありません。

比較的近年の実験でその詳細が明らかになっているのがインドのICBM(大陸間弾道ミサイル)『アグニV』で、2012年4月に行われた最初の発射実験では、5,000km以上離れたインド洋上に設定されている標的へわずか数mという誤差で着弾しました。

もちろん、その時点で再突入体の内部機器が無事に機能していたかどうか、という詳細な情報は重要機密ではありましたが、少なくとも狙ったところへほぼ正確に着弾したということは、再突入体が破壊しないまま標的へ到達したことを意味します。

まさにこれぞ弾道ミサイル発射実験のお手本』というべき実験で、それに比べれば、発射前に適当な位置へ標的を置きもしない北朝鮮の弾道ミサイルは、「ただ飛んだだけに等しい」と言ってよいくらいです。

飛んだ、落ちた、「成功した」は言ったもの勝ち

他にも、アメリカのトライデントSLBM(潜水艦発射弾道ミサイル)など、MIRVと呼ばれる子弾頭を別々な目標に着弾させる実験の画像が公開されていますが、その画像が存在すること自体、撮影者が撮影できる範囲、つまり予定の範囲内に着弾したことを示します。

北朝鮮の弾道ミサイルの問題はそこにあり、そもそも目標が存在しないので「落下したところ、それが目標だ。つまり命中したのだ万歳!」と言ってしまえば、言ったもの勝ちになるだけです。
ただ、再突入体はその高度や飛翔距離、再突入体に生じる空気抵抗などによって、成功した場合の決まった再突入速度というものがあり、数千km飛ぶICBMの場合はマッハ21~24あたりで落ちてきます。

北朝鮮のミサイルで弾頭部分が海面に達したと思われるものでも、レーダー追跡ではマッハ21に達していなかったと言われており、そうなると再突入体が破壊されて空気抵抗を増しながらただ落ちただけの可能性が高いとわかるのです。

それでも明確な目標さえ設定しなければ、「最初から想定内なのだから成功したと言って良い」と言いたい放題で、軍事的に正確な分析の可能な組織などがいくら否定しても、一般人からはわかりません。
もちろん兵器としては全くアテになりませんが、政治的効果を狙うにはそれで十分であり、軍事的というより政治的、心理的な兵器である弾道ミサイルとは、確かにそこまでして真面目に開発する必要も無いのでしょう。

問題は北朝鮮の所業を見て真似をする国が出てくることですが、北朝鮮がその「本当はよくわからないけど政治的効果はバツグン」なミサイルを輸出するだけでも十分恐ろしい話になりますので、ロシアと中国を除く国際社会が北朝鮮の経済制裁緩和に慎重なのも当然ですね。

菅野 直人

物心付いた時には小遣いで「丸」や「世界の艦船」など軍事情報誌ばかり買い漁り、中学時代には夏休みの課題で「日本本土防空戦」をテーマに提出していた、永遠のミリオタ少年。
撤退戦や敗戦の混乱が大好物で、戦史や兵器そのものも好きだが、その時代背景や「どうしてこうなった」という要因を考察するのが趣味。

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