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2016/10/21

菅野 直人

現代航空母艦のトレンドと運用思想 【後編】

多用途艦ではなく、正規空母を選択した国も

代表的な多用途艦がスペインのファンカルロスI世やイタリアのカブール、そして、F-35Bを搭載する予定はありませんが、日本のいずも級です。

F-35B - RIAT 2016 (28339519775).jpg
By Airwolfhound from Hertfordshire, UK – F-35B – RIAT 2016, CC 表示-継承 2.0, Link

垂直着陸中のF-35B

現在はそれら軽空母から発展した「全通甲板を持った多用途艦」を保有するか、インドや中国のように、いずれは「アメリカのような高性能機を運用可能な正規空母」の保有を目指すかで二極化しています。
なお、ロシアも旧ソ連時代にヤコゴレフYak38「フォージャー」というV/STOL攻撃機と、それを搭載するキエフ級空母を保有していました。

しかし、フォージャーはハリアーより性能劣悪で、旧ソ連崩壊とともに退役してしまい、後継機のYak141も生産されずに終わったのです(後にその技術は、F-35Bに活かされました)。

キエフ級空母4隻も全て退役、または売却してしまい、現在は正規空母のアドミラル・クズネツォフただ1隻を運用しています。

なぜか正規空母保有国のほとんどが財政難

なお、艦載機をカタパルトで発艦させ、アレスティングワイヤーで着艦させるCATOBAR空母、着艦は共通なものの、カタパルトを使わずスキージャンプで短距離滑走発艦させるSTOBAR空母が、「正規空母」と呼ばれます。

ただし、新たに運用することになった国を含め、正規空母保有国のほとんどが悩まされているのが予算問題です。
アメリカは、世界の紛争に介入する必要性そのものが疑問視される中で、10隻もの原子力空母と、その搭載機を維持する意味が本当にあるのか、議会から追求されおり、原子力空母シャルル・ド・ゴールに続く、2隻目の空母の必要性を疑問視されているフランスも、同様です。

ロシアはアドミラル・クズネツォフが就役した瞬間に旧ソ連が崩壊、その後独立したロシアの空母にはなったものの、同国の極度の財政難で、最低限のメンテナンスで何とか退役だけは逃れているという状態が長く続きました。
何とかロシアの経済が持ち直した頃には旧式化が進行した上に、旧ソ連時代の造船技術や軍こと技術も衰退しており、根本的な修理や現代に合わせた改装、搭載機の調達にひどく時間と予算がかかってしまいます。

就役26年目の今年、ようやくシリア内戦への介入で初の実戦参加予定ですが、ロシア経済が低迷している中、空母、搭載機ともに今後も困難を乗り越えながらの維持を強いられるでしょう。

ブラジルはフランスから購入した空母サンパウロが1960年代の建造で老朽化しており、2005年には蒸気カタパルトの爆発こと故を起こしています。

そのうえ、ブラジル経済が極度に悪化している中で、後継艦の建造や新しい搭載機の計画も進まず、先行きが不透明になっています。

要するに、正規空母保有国はそのほとんどが財政難にあえいでいるか、旧ソ連崩壊後もその強大な戦力を保有する意義を問われている国ばかりというわけです。

議会や財政の話ばかりになってしまいますが、正規空母というものはそれ自身が議会と対決してでも維持する必要のある国家プロジェクトであり、国の威信をかけた存在でもあります。

先行き不透明なアメリカ、元気な中国

中でも深刻なのはアメリカで、空母数削減で重要海域の空母空白期間が目立ったり、予算の問題で空母航空団も削減されたため、海兵隊機の派遣が恒常的になっています。
かつては原子力、通常型合わせて15隻の空母と、それに搭載する航空団、さらに太平洋、大西洋に1つずつの予備空母航空団まで持っていたアメリカ海軍航空隊は、もはや10隻の空母に搭載できる航空機も無いほど、無残にやせ細ってしまいました。

それでも世界のどこかで紛争があるたびに出撃し、時には空爆など任務をこなさなくてはいけませんから、海兵隊から航空隊の派遣を受けて、どうにか頭数を揃えている状態です。
議会からは予算カットでさらに減勢されそうになっており、現状の洋上航空兵力をいつまで維持できるか、わかりません。

他の国も同じように予算問題を抱えていますが、通常型空母2隻(001A型、002型)を建造中、さらに原子力空母2隻を建造予定の中国だけが元気です。
正規空母は本国から遠く離れた洋上に大規模な航空兵力を展開できるため、わかりやすい形で「いざとなれば軍こと力行使」のサインを送りやすいのが特徴でした。

それが「世界の警察」の役割に疲れ、サインを送る必要性が薄れつつあるアメリカでは縮小傾向で、必要性が増すばかりの中国では増加傾向にある、と考えればわかりやすいでしょう。

かつての軽空母群は多用途艦へ

一時期流行った各国の軽空母群は、イタリアの「カブール」、スペインの「ファン・カルロス一世」のように、「全通甲板を備えた大型多用途艦」へと発展しました。
現代の空母は、正規空母、軽空母に関わらず、その国の海軍単独で使うというより、同盟国と組んだ統合任務部隊で、多様な任務をこなす柔軟性が求められます。

「昔ながらの軽空母」は、イギリスで建造中のSTOVL空母クィーン・エリザベス級くらいで、それ以外は旧時代的な意味での空母とは言えません。

ですが、揚陸艦や給油艦、災害時の救難艦など運用に柔軟性があるため、現在のトレンドと言えるでしょう。
正規空母や「昔ながらの軽空母」の新規整備に熱心と言えるのは、普段から国威発揚や国外への備えという必要性があり、いざという時は単独でコトにあたらねばならない危機感を持った国くらいです。

菅野 直人

物心付いた時には小遣いで「丸」や「世界の艦船」など軍事情報誌ばかり買い漁り、中学時代には夏休みの課題で「日本本土防空戦」をテーマに提出していた、永遠のミリオタ少年。
撤退戦や敗戦の混乱が大好物で、戦史や兵器そのものも好きだが、その時代背景や「どうしてこうなった」という要因を考察するのが趣味。

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