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2017/03/21

星野 祐毅

“大島てる”さんに“軍港のある場所の見分け方”について聞いてみた

前回のおさらい…… 

“大島てる”さんに“銃による事故物件”について聞いてみた

埼玉で、銃による死亡事故発生! しかし、その事実は事故物件サイト「大島てる」には掲載されていなかった!
不審に思った我々サバアカ取材班は、某所にてサイト主宰者・大島てる氏に極秘に接触。事故物件掲載の基準とは? ということや、実際に銃により事故物件となった建物はここだ! という話を聞いたのであった。

その取材の終わり際。大島てる氏から、衝撃のセリフが飛び出した。
「ミリタリー系をあつかうサイト、ということで…… 不動産業界人が地図を見ると、軍港がどこにあるかすぐにわかる、という話、おもしろいと思いませんか?」

大島てる氏はもともと家業が不動産業。当初は自身の仕事の必要性から、事故物件をピックアップしだしたのだとか。いうなれば、不動産のプロ中のプロ。
そんな大島てる氏が、軍港の所在地は地図を見ればわかる、という。

これはおもしろくないはずがない! ということで、このたび再度、某所にて大島てる氏に極秘接触。お話を聞くことになった!
はたして、どのように地図だけで軍港のありかを突き止めるのだろうか!?

■マクロとミクロ、2段階の立地

待ち合わせ場所に現れた大島てる氏。
0234_01

そもそも、海というのは道なのです。

–そんな話から、本題に入る。

「昔から、みな船で海を渡り、交易をして来たのです。なので、海の上には道があります。
海だからといって、どこを通っても良いわけではない。あそこは浅瀬なので遠回りしよう、しかしここから行くとあの国があり前を通ると厄介だ、などと。それが、道です。
そうすると、地図をひろげたとき、だいたいこの辺りに軍事施設をつくるだろうな、ということがわかってきます。ここに軍港があれば、他国はかなり厄介だろうな、などと」

–ふむふむ、なるほど。たしかに!

「そして、いくらそのあたりのどこかに軍港をつくるべき、ということになっても、具体的にどこになるのかは地勢次第です。たとえば、水深が浅ければ適しません。」

–と、2つの地図を見せてもらった。

「おなじ島の、別の場所です。
第一段階として、この島に軍港をつくる必要があるということを前提とした上で、第二段階としてどちらが軍港でしょうか? 地名が見えてしまっていますが(笑)」

–うむむ! 1枚めの方は真っ直ぐ伸びていてたくさん船を並べられそうでもあるが…… 敵からも丸見え。逃げ場なし。
かたや2枚めは、おお! なんとも複雑に入り組んでいて、なんとなく要塞みたいだぞ!
と、いうことで、2枚めの方ですか?

「正解です。ただ、なんとなく要塞みたい、ではなく、これにも理由があるのです。
軍港の地勢上の条件として、湾口が狭く敵が侵入しづらい湾内では軍艦が航行・停泊できる、といったことが挙げられます。他にもありますが。これらは普通の地図を見ればわかります。

この2つの地図、答えを明かすとハワイの真珠湾とワイキキビーチです。引き(広域)の地図で見て、米国としてはこの太平洋上にある、大陸本土以外の領土に軍港を置くことは必然である訳です。北方、南方、西方と自在に出て行けるし、東方にある本国の守りにも行けます。
その上で、そのハワイのどこに軍港をつくるのか。
ハワイ諸島を見まわして、外からは入りづらく、中では自由に動ける広さがある、と考えると、もうここにつくるしかない。出来るべくして出来たわけです。
真珠湾は水深がそんなに深くないのですが、それを差し引いてもあまりある、天然の好立地条件である訳です。」

–たしかに! 最初の方で出て来た「地形が良くなければ軍港にはなり得ない」を地でいってますね!

「そこですね。いくら土木技術が発達したからといって、港なんてどこにでもつくれるじゃないか、とはいかないわけです。お金がかかりますし。

では、ほかの軍港も見てみましょう。

日本では旧海軍時代に主に4つ軍港がありました。それが、神奈川の横須賀京都の舞鶴広島の呉と、長崎の佐世保です。
早速、地図を見てみましょう」

横須賀


舞鶴



佐世保

–おお! どこもここも、本当に天然の要塞! 入り組んでいて、かつ湾内にはそれなりのスペースもある。
まさに軍港が出来るべくして出来た場所としかいえませんね!

「そうなんですよね。マクロ的な地政学上の理由がまずあって、その上で、敵が入りづらいこと、湾内にスペースを取れること、水深、それに風が強く吹かないことなどもあるのですが、慎重に具体的な立地が選定され、必然的にこれらの地が軍港になったわけです。あくまでも、選定当時の発想ですが。

さらに、大事なこととして、この4か所は険しい山に囲まれているということも挙げられますね。
河口にあっては不適格なわけです。
大阪や広島が軍港になり得なかったのは、そんなところもあります。
河口が広がる土地は、貿易港には適しているのですが、先程の真珠湾ではないですが、『天然の要塞』にはなりにくい。逆に、入口が狭かったりすると貿易港には向かないですね。

ちなみに、山の高さとか水深は通常の2次元の地図では判りにくいところが、机上だけで軍港探しをする時のマイナス点です。
『大島てる』を見ていて、『飛び降り自殺の多いエリアがあった!』と色めき立つも、実は単に高層ビルがならんでいるだけだった、というときに感じるのと似ているマイナス点です」

–おっと!ここで「事故物件」との共通項が(笑)

「しかし佐世保なんて、まずマクロ的な立地も十分。黄海・東シナ海から日本海に出るときには、かならず通過しなければならないあたりにあります。

その上複雑に入り組んでいて、もう見るからに攻め入ってこられなそう。よくぞここに軍港をつくったな、と思いましたよ」
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–たしかに。まさに、地形を最大限に活かしているわけですね。地形あっての軍港!

「さらには、軍艦に物資を届ける鉄道や、そもそもの物資をつくる工業地帯との関係もあります。もとから近場に、工業地帯になりうる条件が揃っているのか、つまり、工場を建てる土地、労働者となる人口、などですね。それらも総合的に考えていくと、軍港は本当に『ここにないはずがない』というところにあるんですよ」

■机上世界軍港巡り

では世界に目を向けてみましょう、ということで、地図上で軍港巡りのスタートだ。

「まずは、ここですかね。ロシアのウラジオストク」

ウラジオストク

「ロシアには、不凍港、字の通り凍らない港が絶対必要なのですよ。なければ、海の道を通れないからです。

ロシアの海岸線は、北は北極海に面し、西は黒海、バルト海。東側が、このウラジオストクが面する日本海側です。
北極海は当然冬期は氷に被われますし、黒海側は、海上封鎖をされやすい。ウラジオストク周囲は冬でも海面が凍らないため、ロシアが外洋に出て行くためには、この場所に軍港をつくることは必然なのです。
天然の地勢で敵から攻められにくく、かつ湾内に余裕がある
もう、ここしかないわけです。」

–なるほど。たしかに、いままでハワイ真珠湾、日本海軍4大軍港、そしてウラジオストクとみてきましたが、全部その「必然性」が感じられますね!

「それが、地図を見れば軍港がどこにあるかわかる、ということなのです。

では、次を見てみましょうか。フランスのトゥーロンです」

トゥーロン

「ここは、王政の頃からの軍港で、地中海にのぞむことから重要な場所にあります。
拡大してみましょう」

「ここも、やはり良質な地勢ですね。囲まれていて、かつ湾内に余裕もある。王政時代には近代土木技術はないわけですから、このような天然の要塞を活かすしかなかったのです。
横須賀はフランスの指導のもとつくられていますが、参考にしたのが、ここトゥーロンです。

では、最後に、グアンダナモを見てみましょうか」

グアンダナモ

–これはまた! もう、軍港にしてくださいといわんばかりの地形! 地理的要件さえあえば、どこの国でも必ず軍港にするんじゃないですか?

「わかってきましたね(笑)。そうなんです。みてください。入口は狭く、中には余裕がある。攻められにくく、湾内では十分に補給・修理などが出来ます。
そして。この軍港がすごいのは、キューバの島の一部が米国の軍港、という点です」

–なんと? キューバと言えば、もともとは反米の急先鋒。キューバ危機なんて事件もあったくらいじゃないですか! なぜ、そんな、敵の喉元みたいなところに米軍基地が?

「これは、もともとスペインから独立した新生キューバ政府が、米国に永久租借させたことが始まりです。租借とは、賃料をもらうかわりに治外法権をみとめる制度です。
その後、キューバ革命が勃発。政権を取ったカストロは租借の無効を訴えるのですが、米国は聞くはずもなく。以後、キューバ島の中にある米軍基地、として、ある種不思議な状態が続いています」

–そんなことがあったとは…… 
地図を見れば軍港がわかる。軍港がわかれば歴史が見える。なんともおもしろい!

■青森に軍港?

–大島てるさんが、次に見せてくれた地図は、これだ。

青森

–ええっと。青森、ですよね?

「そう。青森です。ここに、軍港をつくるとしたら? というか、ここに軍港、あるべきでは? と探してみたら、ありましたよ! という話です。」

–え? 青森に軍港が?

「戦前は軍港というほどの規模のものでもなく、戦後になって先述の横須賀などと並んで語られるようになったものなのですが。
この形を見て、なにか感じません?」

–あ。
天然の地形で! 出口が狭く! 湾内では余裕がある!
ひょっとして…… 陸奥湾そのものが、ってことですか?

「ある意味正解、でも、本当の正解をいうと、むつ市の大湊湾に、海上自衛隊の基地があるんですよ
陸奥湾の中に、さらに大湊湾があり。まず陸奥湾そのものが軍港に最適。その中の大湊湾も、これも最適の中の最適ではないですか。」

「少し拡大してみましょう」

–これ、まったくの初耳でしたよ! でも、本当に地図を見て、これは、というところに着目すると…… あるものなんですね、軍港(軍事施設)。
でも、なぜこんなところに軍事施設が?

「津軽海峡がありますよね。ここは、『国際海峡』とされているのです。通常は、ある国の領海を外国船が通過する際は、いろいろ制約があるわけです。しかし、あまりにも狭い海峡の場合、厳格に適用していたら他国はその海峡をおいそれとは通れなくなり、非常に問題となります。
そのため、あまりにも狭い海峡は、自由に通航できることになっているのが国際海峡です。」

–そんなものがあったとは。

「で、国際海峡ですから、各国自由に行き来できるわけです。ロシアがウラジオストクを出航し、津軽海峡のただ中で急旋回、攻めて来たら? 中国艦隊がアメリカ攻撃のために通過しようとしたら?
あり得ないような話ですが、あるかも知れないのが戦争です。そんなとき……」

–日本側の軍港としての陸奥湾、大湊湾の出番ですね!

「そうなんです。そのときに、青森からならすぐに向かえるわけです」

■地図を見よう!色々なものが見えて来る!

地図を見ると、わかることがある。むしろ、たくさんある。
今日の話を聞いて、痛烈に思った。
軍事基地が、その地政学的必然から「そこにあらざるを得ない」。それは、なんとなく、肌感覚で知っていたつもり。
でも、天然の地形がここまでその立地要件に関わって来るとは衝撃だった。
だって、もう見るからに「軍港でしかあり得ない」地形なのだ。

地図を見よう。そうすれば、意外と見落としているものが見えて来る。そう。軍港がなぜここにあるのか、というように。

…… 

取材が終わり、別れ際に。
そうそう。実は、もっとおもしろい話もあるんですよ
大島てるさんは、そう言った。
前回とおなじ引きじゃないか! でも、気になる!

てるさん、それは、どんな話です?
そう問うと、「それは、また次回のお愉しみ、ということで。」そう言い残し、夜の闇に消えていった。
今日もこれから、事故物件の調査にまわるのだとか。

てるさん、どれだけ引き出し多いんだ!
次回も乞うご期待!

大島てる

事故物件サイト大島てる運営代表。海事代理士。日本の城で一番好きなのは五稜郭。
書籍:大島てるが案内人 事故物件めぐりをしてきました

文/写真:星野 祐毅

扇風機評論家。アイドル周辺研究家。バスに乗ったら吐く人。物流問題趣味者。
TBSラジオ、ニッポン放送、Abema TV、東京MXなどに出演しては毎度バカバカしいお喋りをしています。

好きな軍港はグアンタナモ!さすがアメリカ、ようあの場所であそこまでやるな!

twitter: https://twitter.com/ohsentaku
blog: http://ameblo.jp/ohsentaku0222/

企画/編集 サバアカ編集部 ともりん

海軍カレーでおなかいっぱいにしたい。

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