• TOP
  • 陸自AH-Xの大本命となるか?ベル・ヘリコプターが積極提案中のAH-1Z『ヴァイパー』とは

2019/02/18

菅野 直人

陸自AH-Xの大本命となるか?ベル・ヘリコプターが積極提案中のAH-1Z『ヴァイパー』とは

陸上自衛隊に配備されている対戦車ヘリ、AH-1SAH-64D。いずれも陸上自衛隊にとっては地上部隊を直接援護する貴重な空中火力ですが、時代の変化に対応できないまま特にAH-1Sは数を減らし続けています。31大綱や31中期防でも明確な次期攻撃ヘリ導入計画は浮上していませんがが、国防計画の変化に対応した攻撃ヘリとしてベル・ヘリコプターが積極提案しているのが、AH-1Zヴァイパー』です。







旧式化が著しく、純減続く陸自対戦車ヘリ隊

陸上自衛隊は1978年から対戦車ヘリコプター、ベルAH-1Sコブラ』の配備を開始して90機を調達、第1から第5までの5個対戦車ヘリコプターを編成して、有事に対戦車ミサイル『TOW』やロケット弾、20mm機関砲で地上部隊を直接援護する空中火力の要としました。

AH-1Sはもともとベトナム戦争中にアメリカ陸軍がUH-1汎用ヘリのプラットフォームを使ってコストパフォーマンスの高い攻撃ヘリとして開発したもので、アメリカ陸軍系の単発エンジン型と、アメリカ海兵隊系の双発エンジン型が存在します。

日本で導入したのは陸軍系の決定版といえるAH-1Sで、優れたセンサー類を持つため災害派遣時にもその特性を生かした偵察や監視作業に使われており、東日本大震災でも津波に襲われる東日本沿岸市街地の姿を捉えていました。

ただ、日本で本格配備が始まった時点でAH-1Sは既にアメリカで後継機AH-64アパッチ』の配備が始まっており、AH-1Sは『最新鋭過ぎて数を揃えるのに時間がかかるよりは』と配備された過渡期の存在。
旧式ながら信頼性の高い攻撃ヘリとして長く現役にあったものの、2000年代には退役が始まり、2018年3月時点では56機まで数を減らしています。

もっともこれは書類上のことで、現実には56機全てが飛行可能とは限らず、この記事を執筆している2019年2月時点で飛行可能なのは50機を割り込んでいるかもしれません。

たった13機で調達中止となった後継機AH-64D

陸上自衛隊のAH-64D
By Toshi Aoki – JP Spotters – Gallery page http://www.airliners.net/photo/Japan—Army/Boeing-%28Fuji%29-AH-64DJP/2227712/L
Photo http://cdn-www.airliners.net/aviation-photos/photos/2/1/7/2227712.jpg, CC 表示-継承 3.0, Link

もちろん自衛隊ではAH-1Sの後継機を配備するつもりで2001年には当時AH-64の最新型で各種センサーを強化、主ローター上の大型センサーが特徴的なボーイングAH-64Dアパッチ・ロングボウ』を採用しました。
62機の調達が決定、2006年には配備の始まったAH-64Dでしたが、防衛省はなぜか2008年度予算で調達を打ち切り、AH-64Dはわずか13機、つまりAH-1Sの退役スピードに全く追いつかない状態で配備打ち切りとなってしまったのです。

ボーイングがAH-64Dの生産を打ち切って部品供給が滞るから』と、もっともな理由がつけられたものの実際にはボーイングは部品供給継続の意思を示しており、同社への生産ライセンス料を防衛省から一方的にキャンセルされた富士重工が防衛省を提訴する一幕もありました。

結局、なぜ防衛省がAH-64Dの早期打ち切りを決めたのか正確な理由は定かではありませんが、イラク戦争などで対戦車ヘリがこれまで言われていたような頑強な存在ではなく、歩兵携帯の対空ミサイルどころか、対空射撃でアッサリ戦闘不能に陥るケースなどから、純粋に性能へ疑問を持ったのかもしれません。

また、冷戦終結とロシア極東方面軍が当面北海道へ大規模上陸作戦を行いそうもないことや、中国の対等による西方重視で離島防衛を行うにも海上自衛隊のヘリ護衛艦などから運用できる仕様ではない(要するにサビやすい)のも問題になったと思われます。

陸軍型とは違う進化の道を遂げた究極のAH-1、『AH-1Zヴァイパー』

Composite Training Unit Exercise (COMPTUEX) 140506-M-CB493-013.jpg
By Gunnery Sgt. Rome Lazarus – https://www.dvidshub.net/image/1353568, パブリック・ドメイン, Link

これに対し、AH-1Sを開発したベル・ヘリコプターが究極進化型のAH-1Zヴァイパー』を積極的に売り込んできています。

そもそもAH-64D採用時にも検討されたものの結局不採用となったAH-1Zですが、アメリカ海兵隊ではAH-1シリーズ初期から艦上運用を考慮した防錆能力や双発エンジンによる信頼性が高いAH-1Jシーコブラ』を採用していました。
アメリカ海兵隊仕様はそのまま独自の発展を遂げ、2000年に初飛行したAH-1Zではもはや先代のAH-1Wスーパーコブラ』とすらほとんど共通点のない95%新規開発の、実質新型攻撃ヘリといってよい最新鋭機です。

特に艦載前提でブレードを畳める、海上艦艇での運用が容易という点は『ひゅうが』級、『いずも』級ヘリコプター搭載護衛艦からの運用には便利で、車両甲板の耐荷重性を改善すれば、『おおすみ』級輸送艦や次期強襲揚陸艦からの運用も視野に入ります。

アメリカ海軍の同種艦艇より小型で隻数も限られる海上自衛隊のヘリ運用艦艇からすれば、AH-64と同系統のエンジンを同じく2基搭載していて最初から艦載型として作られたAH-1Zは、離島防衛を考慮すれば非常に合理的な選択と言えるでしょう。

最大のライバルAH-64Eは耐久性問題で脱落寸前

AH-64 アパッチ
By Jerry Gunner from Lincoln, UK – AH-64A Apache Greek Army Stefanovikion, CC 表示 2.0, Link

ただし、AH-64シリーズもイギリス陸軍仕様のWAH-64はヘリコプター母艦や空母から運用されており、F-35Bがまだ実戦配備段階にない2019年2月現在ではイギリス最強の洋上航空火力なほどです。

そう考えればAH-64シリーズの最新型、AH-64Eアパッチ・ガーディアン』を採用するパターンもありえますが、同機は2018年2月に主ローター部品の破断で墜落した陸上自衛隊のAH-64Dと同じく、主ローターヘッド部品の耐久性に深刻な問題を抱えていると言われます。

アメリカ陸軍ですら問題解決までAH-64Eの新規調達を一時中止したほどですが、AH-1Zにはこの種の問題は発生しておらず、センサーの性能や武装搭載能力こそAH-64Eが勝るものの、耐久性の面でAH-1Zが大きくリードしているかもしれません。

さらに31中期防以降、防衛省は海外で開発された航空機の国内ライセンス生産にこだわらず、完成品輸入でコスト低減とハイペースな配備を目指しています。
現状でAH-64Dが飛行停止でもAH-1Sがある、というありがたい状況を維持するため、あるいはAH-64E(艦載仕様)とAH-1Zの双方を半々で採用する可能性があるかもしれません。

同じAH-1シリーズでも独自の進化を遂げたAH-1Zは、AH-1Sから機種変更しても新型機の配備と変わらず、それならAH-64Eで全部統一してもいいのではという声もありますが、陸上自衛隊がこれまであまり行ってこなかった海上自衛隊艦艇からの艦上運用という新時代において、AH-1Zが次期AH-Xの大本命として脚光を浴びる日が近いのではないでしょうか







菅野 直人

物心付いた時には小遣いで「丸」や「世界の艦船」など軍事情報誌ばかり買い漁り、中学時代には夏休みの課題で「日本本土防空戦」をテーマに提出していた、永遠のミリオタ少年。撤退戦や敗戦の混乱が大好物で、戦史や兵器そのものも好きだが、その時代背景や「どうしてこうなった」という要因を考察するのが趣味。

この記事を友達にシェアしよう!

この記事が気に入ったら
いいね!しよう

サバゲーアーカイブの最新情報を
お届けします

関連タグ

東京サバゲーナビ フィールド・定例会検索はこちら
東京サバゲーナビ フィールド・定例会検索はこちら

アクセス数ランキング