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2019/02/8

菅野 直人

平成軍事メモリアル(4)「新時代の戦争が始まった日」~「911」と非対称戦争~

ソ連の崩壊で冷戦が完全に終結、超大国はアメリカのみという状況となり、ソ連崩壊の煽りを受けた局地紛争がいくらか続いたものの、世界大戦が遠のきいずれは世界平和が訪れると期待できる世の中がしばらく続きました。しかし平成13年(2001)年9月11日、21世紀最初の年に世界をひっくり返すような大事件が起きます。アメリカ同時多発テロ事件、通称『911』です。

前回記事:平成軍事メモリアル(3)「中国の台頭」~六四天安門事件からの加速~







茶の間で突然突きつけられた『新時代』

UA Flight 175 hits WTC south tower 9-11 edit.jpeg
By UA_Flight_175_hits_WTC_south_tower_9-11.jpeg: Flickr user TheMachineStops (Robert J. Fisch)
derivative work: upstateNYerUA_Flight_175_hits_WTC_south_tower_9-11.jpeg, CC 表示-継承 2.0, Link

現地時間2001年9月11日8時46分(日本時間:平成13年9月11日21時46分)、ハイジャックされたアメリカン航空11便(ボストン発ロサンゼルス行き・ボーイング767旅客機)がニューヨークのワールドトレードセンター(世界貿易センタービル)・ツインタワー北棟へ激突、爆発炎上しました。

筆者は当時のことをよく覚えています。
テレビで『NHKニュース10』を見ていると、台風の襲来を伝えるヘッドラインが終わった直後、キャスターがいきなり「ニューヨークでビルに飛行機が衝突、火災が起きています。」と、緊迫した表情で伝えたのです。

映像はニューヨークのツインタワーに切り替わりましたが、その時点では「このビルに飛行機が突っ込んだ機種や原因はわからない。」という状況で、現地リポーターも何が起きているのかわからず、ただとにかく写っているビルが燃えているという現実を伝えるのみ。

しかしその直後、画面の端から何か黒い影が飛び出したと見るや火災が起きていない方のツインタワー(南棟)へ吸い込まれ、反対側に爆発の炎が突き抜けたのです。
カミカゼ……?」

黒い影は翼の下へエンジンを左右1基ずつ吊った双発機のように見えました(実際はユナイテッド航空175便・ボストン発ロサンゼルス行きボーイング767)。
当時27歳だった筆者はもちろん既にミリタリーマニアでしたから、これが事故ではなく航空機による意図的な体当たり攻撃、それもアメリカの経済の中枢、ニューヨークを標的にしたものだとすぐ気づきます。

頭の中では該当するような航空機があるか、一瞬画面に映ったシルエットとさまざまな飛行機を照合しようとしますが、少なくとも実用化された現用軍用機、それも戦闘を目的とした航空機は全く思いつきません。
まさか「ハイジャックしたテロリストの操縦する旅客機が乗員もろとも突っ込む自爆テロ」などとは、夢にも思わなかったのです。

やがてツインタワーは2棟とも衝撃による破壊と火災の熱で崩壊しますが、それこそが超大国アメリカであろうと容赦しないテロ組織と、アメリカおよびテロを憎む国家や人々との間で長い戦いが続く『新時代』の号砲でした。

ペンタゴン(アメリカ国防総省)ですら標的に

Flight 77 wreckage at Pentagon.jpg
By U.S. Navy Photo by Journalist 1st Class Mark D. Faram. (RELEASED) – 010911-N-6157F-001 from http://www.navy.mil/view_image.asp?id=2445, パブリック・ドメイン, Link

ツインタワーは日本時間で22時59分に南棟が、23時28分に北棟が崩壊しますが、その間にも22時38分、アメリカン航空77便(ワシントンD.C.発ロサンゼルス行きボーイング757)がペンタゴン(アメリカ国防総省)へ突入していました。

唯一、ユナイテッド航空93便(ニューアーク発サンフランシスコ行きボーイング757)のみはハイジャックしたテロリストが乗員乗客からの抵抗を受けたらしく、目標(国会議事堂かホワイトハウスだったと思われる)へ到達することなく墜落しますが、報道はまさにパニック状態。
テロ発生時点でアメリカの空を飛ぶ飛行機は軍用機も民間機も数多くあり、軍用機はともかく民間機は旅客機から個人所有の軽飛行機に至るまで、何が信用できるのか全くわかりません。

あるいは既にテロリストに乗っ取られてさらなる自爆テロが起きるのかもしれず、緊急で最寄りの空港へ着陸する指示が飛ぶ中、指示に従わない飛行機はアメリカ軍の戦闘機に撃墜されてもおかしくない状況。
さらにアメリカ以外でも世界中の飛行機でハイジャックなどされていないかが確認され、いきなり進路を変えてどこかへ突入するのではと恐慌状態に陥ったのです。

虚実ないまぜの情報が飛び交うインターネット

ツインタワーが2棟とも崩壊した頃、筆者は既にインターネットで自らのホームページの掲示板へ「21世紀だってのに今更カミカゼ攻撃だと馬鹿野郎!」と書き込み、犯人を呪っていました(当時はSNSなどなく、交流や自分の意見を主張する場所は主に『掲示板』だったのです)。

当時まだマイナーなアングラ掲示板だった『2ちゃんねる』でもデマを含む各種情報が飛び交っており、筆者の掲示板にも「スピルバーグがタワー崩壊に巻き込まれて犠牲になったらしい」などデマに引っかかった友人の書き込みや、掲示板に出入りする全国の友人知人からの感想が多数書き込まれます。
後から考えればデマとはいっても、当時の光景は想像を絶するショッキングなものばかりで、どんな被害があった、誰が犯人だなどと出処不明の書き込みがあっても、それを明確に否定する術はありませんでした。

ともかく一つだけわかっていることは「アメリカが攻撃を受けたつまりどこかの誰かが何を思ったかアメリカに戦争を仕掛けた!」だけだったのです。

まさに全世界が大混乱に陥った中、やがてイスラム系テロ組織『アルカイダ』の犯行であること、アルカイダは元々ソ連のアフガニスタン侵攻へ対抗するため、アメリカをはじめ西側諸国が支援していたイスラム戦闘集団を母体としていることが判明。
自らが生み出した悪夢によって深刻なダメージを受けたアメリカは、混乱の中で自らケリをつけるべく、テロ組織の活動拠点をしらみ潰しにする対外戦争開始を決定しました。

アフガニスタンへ、イラクへ、終わらない対テロ戦争の始まり

US Marines in Operation Enduring Freedom.jpg
By Cpl. Jemssy Alvarez Jr. (reference) – United States Marine Corps, パブリック・ドメイン, Link

911テロ』から1ヶ月とたたない平成13年(2001年)10月7日、911以前からアルカイダおよびウサマ・ビン=ラディン司令官の引渡しを拒否していたアフガニスタンのタリバン政権に対し、アメリカを中心にイギリスなど有志連合による『不朽の自由作戦』を発動。

タリバン政権をアルカイダごと打倒すべく、空母機動部隊に爆撃機、巡航ミサイルに陸軍部隊多数と核兵器以外の投入可能な戦力がアフガニスタンへ襲い掛かり、瞬く間に首都カブールを制圧、2ヶ月足らずでタリバン政権を消滅させます。

さらにアメリカはテロ支援国家であり大量破壊兵器保有国と断じたイラクへ平成15年(2003年3月20日)『イラクの自由作戦』を発動、やはり有志連合による猛烈な攻撃によって1ヶ月足らずで首都バクダッドを占領、フセイン政権は崩壊しました。

「アメリカは決してテロに屈せず、攻撃に対しては猛烈に反撃する」という意思を示した2つの戦争は一見鮮やかな『復讐劇』のようにも見えましたが、そもそもテロ組織とは世界中に根を張ったネットワークであり、どこかの国を打倒すれば壊滅する、という性質のものではありません。

確かにアメリカ軍を中心とした有志連合は個々の戦闘の勝利、狙いを定めた国家の打倒は果たしますし、相手の軍事力が極端に小さい『非対称戦争』ゆえ、その結果は始める前から明らかです。
イラク戦争など、筆者が当時勤めていた会社の上司はバクダッド占領のニュースを見て「これで終わったよ、アメリカの勝ちだ」と呑気なことを言っていましたし、軍事的素養を持たない人であれば、世界中で多くの人がそう思ったかもしれません。

しかし筆者は知っていました。
アフガニスタン戦争にせよイラク戦争にせよ、負けたのはそれぞれの国家を支配していた政権だけで、アメリカが本来目的としていたテロ組織壊滅などは全く果たされておらず、ダラダラと続く小規模な戦闘やテロ攻撃に対して、終わりのない戦いがずっと続くことを

そして実際その通りとなり、アフガニスタンにせよイラクにせよ真の平和など全く来ないどころか、アメリカのみならず対テロ戦争に参加したほとんどの国が、いつ終わるともわからない戦争を世界中で始めてしまい、ただ疲弊し続けています。

あるいは平成13年(2001年)、誰もが気づかぬうちに第3次世界大戦は始まっていたのかもしれませんが、終わりが見えないまま平成は終わろうとしており、あまり意識されていないだけで、日本も参戦国の一員なのです。

平成軍事メモリアルはこちらからどうぞ







菅野 直人

物心付いた時には小遣いで「丸」や「世界の艦船」など軍事情報誌ばかり買い漁り、中学時代には夏休みの課題で「日本本土防空戦」をテーマに提出していた、永遠のミリオタ少年。撤退戦や敗戦の混乱が大好物で、戦史や兵器そのものも好きだが、その時代背景や「どうしてこうなった」という要因を考察するのが趣味。

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