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2019/02/6

菅野 直人

意外な傑作機「NASAではまだ現役!イングリッシュ・エレクトリック・キャンベラ」

軽爆撃機』というジャンルは第2次世界大戦までソコソコ栄えたものの、大抵は戦闘機ほど速いわけでもなく重爆撃機ほどの破壊力もないため、次第に廃れていきました。ジェット爆撃機の初期まで存在した双発軽爆撃機が最後でしたが、使い勝手の良さから今でも役目を変えて現役なのがイギリス発祥のジェット双発軽爆撃機『キャンベラ』です。







モスキートの再来を狙った高速軽爆

第2次世界大戦では連合国・枢軸国とも単発あるいは双発の軽爆撃機を保有していましたが、単にコストが安いというだけで爆弾搭載量は少なく、機体が小さすぎて発展余地も少なかったので、戦前に期待されたような『軽快に飛んでいって爆弾をバラまく』ような任務をこなすには少々力不足なのがわかりました。

そのため多くは哨戒機や対潜水艦任務、敵の戦闘機がいないような辺境での第2線級任務に回され、その役割はより搭載量も発展余地も多い重爆撃機か、重装甲で軽快な襲撃機、高速で駆けつける火消し役の戦闘爆撃機が取って代わります。

その貴重な例外がイギリスの木製爆撃機、デ・ハビランド『モスキート』で、強力なエンジンとヘタな戦闘機を上回る高速性能、余裕ある搭載力で高速隠密爆撃任務や爆撃先導、夜間用重戦闘機として大活躍。
双発重戦闘機としての後継は1944年に初飛行、戦後に活躍したデ・ハビランド『ホーネット』がありましたが、高速爆撃機としては当時開発されたばかりのジェットエンジン双発の軽爆撃機が1945年から開発スタートしました。

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By JohnnyOneSpeed投稿者自身による作品, パブリック・ドメイン, Link

当初電機メーカーとしてスタート、1942年に航空機部門を設立して航空機メーカーとしても参入したイングリッシュ・エレクトリック社の案が採用され、1949年に試作1号機を初飛行させたのが『キャンベラ』です。

保守的な設計ながら、非凡な飛行性能で存在感を示す

キャンベラは戦後ドイツの技術を用いて開発された後退翼など新規な技術を盛り込まず、左右に長い直線翼の途中へジェットエンジンを埋め込み、操縦士・航法士・爆撃手の3名が乗り込む機体はスマートで洗練されていたとはいえ、やや古めかしいスタイルです。

しかし1940年代後半には既に安定した性能を発揮するジェットエンジンを量産可能だったイギリスらしく飛行性能は優れ、特に高高度での高速飛行や機動性はその後登場したジェット戦闘機でも手こずるほどの高性能を発揮しました。

当初、固定武装は持たず、2,720kgまでの爆弾を搭載可能な爆撃機型、照明弾や焼夷弾を搭載する爆撃先導型、胴体を延長して偵察カメラを搭載、爆弾倉にタップリ燃料を積める長距離偵察機型が配備され、まさにモスキートの再来

さらにガンパックを装着して低空で銃撃や爆撃、ロケット弾攻撃を行う戦術阻止攻撃型も開発されて、イギリス以外にオーストラリアやニュージーランド、インドなどイギリス連邦諸国のほか、エチオピアやペルー、アルゼンチンなどへも輸出され、実戦も数多く経験しました。

アメリカでもライセンス生産、マーチンB-57『キャンベラ』

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By United States Air Force Historical Research Agency – Maxwell AFB, Alabama – Transferred from en.wikipedia ; transfer was stated to be made by User:Gato76680.
Original uploader was Bwmoll3 at en.wikipedia, パブリック・ドメイン, Link

その優れた性能にジェット軽爆の開発がうまくいっていなかったアメリカも着目し、XB-51を開発していたマーチン社に同機の試作を打ち切らせ、代わりにキャンベラをライセンス生産させてマーチンB-57キャンベラ』として採用。
朝鮮戦争で阻止攻撃に活躍したダグラスA-26インベーダー』の後継として初期生産型B-57Aを除くB-57B以降はタンデム複座化などアメリカ流の改造が加えられ、重艦上攻撃機A3Dを改設計したダグラスB-66デストロイヤー』ともども配備されます。

ただしアメリカ空軍ではリパブリックF-105サンダーチーフ』やジェネラル・ダイナミクスF-111アードバーク』など有力な大型戦闘爆撃機を開発したためジェット軽爆の出番は早々になくなり、B-57は主に偵察機として運用されました。

ここでもキャンベラが非凡な性能を発揮したのはやはり高高度性能で、『黒い秘密偵察機ロッキードU-2登場以前は主翼を延長して高出力エンジンへ換装、補助エンジンも追加したRB-57D/RB-57Fが共産圏への秘密偵察任務に活躍。
戦術偵察型RB-57Eもベトナム戦争で活躍したほか、B-57Bや夜間攻撃型のB-57Gもホーチミン・ルートへの夜間爆撃任務などへ投入されています。

改造に改造を加えて21世紀まで活躍、NASAでは今でも現役

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By Arpingstone投稿者自身による作品, パブリック・ドメイン, Link

本家イギリスではマラヤ紛争や第2次中東戦争で爆撃任務に投入されたキャンベラですが、爆撃任務からは1970年代はじめに退役、以降はアメリカ同様、主に偵察機型の運用が続けられます。
中でも1958年に初飛行して23機が生産された高高度偵察型キャンベラPR.9は長期間使われ、2001年のアフガニスタン侵攻では世界で唯一、偵察映像のリアルタイム伝送能力を持つ偵察機として21世紀の戦場上空でキャンベラPR.9はまだ飛んでいました

あまりに長く現役にいたので、パイロットOB会が空軍への圧力団体となってキャンベラを退役させないのだ』という、本気ともジョークともつかない逸話があったほどでしたが、2006年にようやく退役。
しかし古い飛行機を動態保存して航空ショーで飛行させ続けるのが得意なイギリスゆえ、現在も飛行可能なキャンベラが数機残されています。

さらにアメリカ空軍の高高度偵察型RB-57Fキャンベラも核実験などで上空の放射性物質を採取する気象偵察機WB-57Fとして1974年まで使われて退役しますが、それはアメリカにおけるキャンベラの引退を意味しませんでした。

なぜなら豊富な搭載能力と高高度飛行能力を併せ持つキャンベラはNASA(アメリカ航空宇宙局)での観測や実験、通信中継やスペースシャトルなどの追跡任務に非常に有用だったからで、4機がNASAに移管されたWB-57Fのうち1機は1982年に退役したものの、残り3機は2019年2月現在も現役です。
うち2機は2019年に退役すると見られているものの、最後の1機『NASA928』は2021年まで現役を続けると思われます。

NASAの現役機は空軍から退役後に長期保管状態にあった期間も長いためずっと飛んでいたわけではありませんが、それでも1949年に1号機が初飛行して70年たつ軍用機が未だに現役なのはまさに驚異的。
それより古く、まだ現役と思われるジェット軍用機は、旧ソ連で1948年に1号機が初飛行したイリューシンIL-28(の中国版H-5)が北朝鮮空軍でまだ現役「かもしれない」、という例があるのみです。







菅野 直人

物心付いた時には小遣いで「丸」や「世界の艦船」など軍事情報誌ばかり買い漁り、中学時代には夏休みの課題で「日本本土防空戦」をテーマに提出していた、永遠のミリオタ少年。撤退戦や敗戦の混乱が大好物で、戦史や兵器そのものも好きだが、その時代背景や「どうしてこうなった」という要因を考察するのが趣味。

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