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2019/01/15

菅野 直人

陸の珍兵器「世界でもっとも見た目がアレな自走砲、ベスパ 150 TAP」

自走砲」といえば多くの人は戦車より強そうな砲塔を持った装甲車両や、大砲を積んだ車両を思い浮かべると思います。あまり軍事的知識が無ければ戦車との区別がつかないかもしれませんが、まあ普通の人はそれでも良いのです。しかし、全く別な意味で「これが自走砲だ!」と紹介したら戸惑うような車両もあり、今回紹介するベスパ150TAPなどその好例では無いでしょうか?







チャリで……原チャリできた!

厳密には排気量150ccなので、日本的な意味での原チャリ(原動機付自転車)では無いのですが。
とある戦場で、敵地のど真ん中へ降下してしまった空挺部隊がいると思ってください。

時は1960年代前半あたり、既に対戦車ミサイルは登場していたものの、軽装備の空挺歩兵にまでまだ行き渡っていない状況ですから、有力な対戦車兵器といえば無反動砲やロケット砲くらいしかありません。
歩兵が担いでいくには少々重いため、拠点防衛用やジリジリと詰め寄るような陣地攻撃ならともかく、流動的な戦線でアッチへコッチへとは使いにくいもの。

ここで紹介するある小隊も、無反動砲のような重火器を持たないままである廃墟に隠れていましたが、そこへコトもあろうに敵の戦車が1個歩兵中隊を引き連れやってきました。
小隊長(大抵こういう場面で正規の小隊長は戦死し、曹長や軍曹が指揮しているもの)は携帯無線で中隊長を呼び出しますが、「増援が来るまでしのげ」と死守命令。

この世にあるもの、既に去ったものを恨みつつ小隊は射撃を開始、敵の頭数が多いのですから、引きつけて撃つなどという贅沢をする余裕は無く、ともかく少しでも数を減らさねばなりません。
当然のごとく敵戦車の砲塔が周り発砲、悲鳴、衛生兵を呼ぶ声、敵は軽戦車でしたが、貧弱な76.2mm砲でも歩兵の陣地へ榴弾を撃ち込めば、装甲など持たない歩兵には大打撃です。

クソッ、このままじゃ増援が来る前に楽しいことになっちまうぞ、と小隊長代理の曹長が敵の軽戦車をにらんでいると、それは突然黒煙を吹き上げ停止しました。
何事?と思っていると2撃目は榴弾だったらしく、炸裂した砲弾で敵の歩兵も何人か倒れ、やがて勢いが削がれた事を察して撤退していきます。

助かった……と思った曹長が場違いなほど軽快な排気音に気づいて振り返ると、先ほど殊勲を上げた主が、146cc単気筒2ストロークエンジンを唸らせ2台で陣地へやってきて、やあ! とばかりに手を振りました。
いやあ、まさかこんなのでも役に立つとはね?」

弾薬込みで低コストの機動対戦車砲が欲しい……

銃にせよ大砲にせよ、発射薬が燃焼した際に生じるガス圧で何かを発射する装置は、その圧力に見合った反動を受け止める術をどうやり過ごすかが問題でした。

20世紀初め、反動が生じる方向へガスや物体を噴出させることで反動を相殺する『無反動砲』や、砲弾自体が発射されるのではなくロケットモーターによって自力飛翔していく『ロケット砲(いわゆるバズーカ砲)』が登場し、歩兵でも大口径砲弾の発射が容易になります。
第2次世界大戦時にこれらは連合軍・枢軸軍問わず広く使われ、歩兵携行火器でありながら重戦車すら撃破可能な威力を存分に発揮。

発射された砲弾の運動エネルギーではなく、命中した砲弾の化学エネルギーによって装甲を貫通する成形炸薬弾の登場が大きな変化を促しましたが、威力が弾頭直径に比例する成形炸薬弾は歩兵携行用の無反動砲やロケット砲でも大威力な一方、問題もありました。

それが射程距離の短さと、いかに簡素な砲身で軽量化したとはいえ弾薬類の重さで、陣地にこもった歩兵が用意された火器を次々と発射したり、敵陣に迫って一発だけブチかます! といった用途以外では、機動力が高いとは言えません。
さりとて、機関銃や無反動砲を搭載したジープや小型の装軌車両はどこにでもあるわけではありませんし、空挺戦車に至っては高コストに過ぎます。

そこで「どうにかして低コストの自走砲ができないかな?」と考えた末に、イタリアのピアッジオ社で1946年に開発された傑作スクーター『ベスパ』へ無反動砲と弾薬を搭載すればいいんじゃない? と誰かが思いつきます。
確かにそれまでも自転車へ簡素な装甲板と軽機関銃を搭載した『軽装甲車(?)』は存在したので、エンジンがついている分だけベスパの方がマシとはいえ、考えるだけならともかく、よくぞマジメに作ろうとしたものです。

世界でもっとも貧弱な自走砲『バズーカ・ベスパ』ベスパ150AP

Vespa militare2.JPG
By R.I.V.A.R.S. Registro Italiano Veicoli Abitativi Ricreazionali Storici, foto di C.Galliani, CC 表示 3.0, Link

実際に対戦車型ベスパ(こう書くと勇ましいですが、あくまでスクーターです)を作ったのは、フランスでベスパのライセンス生産を行っていたACMA社。
フレームを強化したベスパの風よけに穴を開け、アメリカ製の75mm無反動砲M20の砲身を通して前方に長く突き出し、座席の後部左右には3発ずつ、計6発の弾薬が搭載できます。

後部砲身は車体に対して斜めになって後端まで伸び、運転手は砲身の上へしつらえられた座席、というか砲身へまたがる形で搭乗し、車体後端には無反動砲の装填口がありました。
もちろん砲身にまたがったまま射撃すると乗員の尻がアッチッチとヤケドするどころではないため、「さっそうと走りながらズドンと砲撃」とはいきませんでしたが、射撃位置まで走って固定用のスタンドを立て、下車して砲弾を装填すればすぐ砲撃可能だったので、なるほど『対戦車自走砲』には違いありません。

ベスパへガッチリ固定したままでは狙いをつけるのが難しいため、実用上は下ろして三脚に乗せて砲撃、弾薬ももう1台のベスパ150で運ぶという運用だったようなので、どちらかといえば『砲運搬車』に近いともいえました。
しかしせっかくなので面白い自走砲の一種として紹介しちゃおうという例がほとんどで、この世界一貧弱な自走砲は通称『バズーカ・ベスパ』として知られています。

一見するとトンデモ兵器に見えますが、意外というかさすが名車ベスパというべきか使い勝手は良好で、M20無反動砲も成形炸薬弾頭なら100mmもの装甲を貫徹する能力があったため簡便な軽自走砲として重宝され、500両がフランス軍の空挺部隊用に生産されました。

元々はインドシナ戦争で使うため開発されたようですが、アルジェリア独立戦争で実際に使われたと言われています。
おそらくは対戦車ミサイルやオートバイの発達、75mm無反動砲で対処できる相手がいなくなって装備から外されたものと思われますが、発想としてはなかなか面白い兵器だと思いませんか?







菅野 直人

物心付いた時には小遣いで「丸」や「世界の艦船」など軍事情報誌ばかり買い漁り、中学時代には夏休みの課題で「日本本土防空戦」をテーマに提出していた、永遠のミリオタ少年。撤退戦や敗戦の混乱が大好物で、戦史や兵器そのものも好きだが、その時代背景や「どうしてこうなった」という要因を考察するのが趣味。

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