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2018/12/10

菅野 直人

海自護衛艦『いずも』空母化は大げさ?F-35B運用能力『洋上不時着場化』が意味するもの

日本が安全保障政策の基本的方針を定める『防衛大綱』新たな大綱が2018年12月中にもまとまりますが、そこに「護衛艦いずもの空母化とF-35Bの搭載が明記される方針」と報道されて大騒ぎ! ついに日本にも空母復活だ万歳! と早とちりしている方もいますが、実態はかなり異なります。







ヘリコプター搭載護衛艦『いずも』級へのF-35B運用能力追加

DDH-183 いずも (4).jpg
By Kaijō Jieitai (海上自衛隊 / Japan Maritime Self-Defense Force) – http://www.mod.go.jp/msdf/formal/gallery/ships/dd/izumo/183.html, CC 表示 4.0, Link

2015年に1番艦『いずも』が、2017年に2番艦『かが』が就役したヘリコプター搭載護衛艦『いずも』級は、その姿が明らかになった時から「今度こそ空母だ!」と話題になっていました。

何しろ旧日本海軍の中型高速空母『飛龍』よりひと回り大きい上に飛行甲板は長く、アメリカ海軍のワスプ級強襲揚陸艦より少々短いと言ってもSTOVL機(短距離離陸・垂直着陸機)の運用には十分。
格納庫は広いし、飛行甲板のど真ん中で上下するエレベーター開口部のサイズしか艦載機を積めないわけでも無く、サイドエレベーターで結構大柄な機体も搭載可能です。

飛行甲板右最先端部に近接防空用20mm機関砲『バルカン・ファランクスCIWS』がデンと構えてるのが離陸滑走には邪魔そうですが、それを除けば見事に軽空母そのものな姿?
かくして就役当時からF-35Bを搭載したり、はてはスキージャンプ甲板を追加した合成画像などが多数作られたものですが、2018年12月中に策定される新たな防衛大綱で「いずもへF-35Bの運用能力を追加する方向で」と明記されるようになったものですから、大騒ぎ。

いずも、空母化へ!」と報道での見出しが踊り、インターネット上ではその可否を巡る議論になってネット右翼も大喜びですが、さてその実態は?

今に始まったわけじゃない、『戦後初の空母』議論

そもそも海上自衛隊で独自に空母を保有しようという話はかなり歴史が古く、それこそ戦後の創設時にまでさかのぼります。

かつて多数の空母を保有、太平洋戦争初期には無敵艦隊と言わんばかりの強さを誇った日本海軍空母機動部隊は壊滅してしまいましたが、日本海軍の後継者として戦後に海上自衛隊の前身、警備隊が創設された時から、既に空母保有計画はありました。
これは単に日本がかつての強い海軍を復活させたいという独りよがりな思想ではなく、対ソ連戦略で日本の空母保有が望ましいと考えていたアメリカからも、軽空母や護衛空母の貸与、または供与案が出ています。

その頃の日本は空母を維持運用できるだけの国力が無い貧乏国なので断念されましたが、警備隊が海上自衛隊となってからも対潜空母、ヘリ空母、ハリアーV/STOL機(垂直離着陸機)を搭載したVTOL空母の保有案が浮かんでは消えていきました。

中にはかなり具体案まで決まり建造決定した計画すらあったものの、結局は当時の国内情勢やオイルショックなど経済的に厳しい時期と重なるなど不運もあり、『はるな』級、『しらね』級といった後部にヘリコプター甲板を持つDDH(ヘリコプター護衛艦)へ落ち着くことに。

議論が再燃したのは1998年から就役を開始した『おおすみ』級輸送艦が就役した時で、ヘリが発着可能なのは最後部だけ、実際には車両甲板だったとはいえ艦首から艦尾まで『全通甲板』を持つ海上自衛隊として初の自衛艦だったのが話題を呼びます。

当時まだ各国で多数が現役にあったV/STOL機ハリアーIIとの合成画像を作る人まで現れましたが、2009年に対潜ヘリ3機の同時発着が可能な全通甲板を持つ『ひゅうが』級DDHが就役すると、これはF-35Bを搭載できるのでは? と期待が高まりました。

実際には『ひゅうが』級でも飛行甲板が短すぎてF-35Bの運用には向きましたが、2015年に『いずも』級が就役すると、もはやF-35B搭載を否定するハードルは無いように思われたのです。

『いずも』級のF-35B運用議論はだいぶ前から

F-35B - RIAT 2016 (28339519775).jpg
By Airwolfhound from Hertfordshire, UK – F-35B – RIAT 2016, CC 表示-継承 2.0, Link

2018年11月に入ってからの報道で「ついに『いずも』空母化」などと書かれていますが、どうも各メディアは自らが過去に発信したニュースをすっかり忘れる癖があるようで、それこそ『いずも』就役直後からF-35Bを絡めた活用案は報道されていました。
すなわち、南西諸島など離島防衛用に各離島の飛行場を有事にも自衛隊が使用できるように整備を進め、『いずも』級もそれらをカバーする『移動可能な飛行場』としての機能を付加することが、以前から提言されていたのです。

その研究結果が実って防衛大綱で正式な方針に決定したのを、過去の流れから書くと煩雑になると考えたのか「いずも空母化決定!」と思いっきり端折って書いているのですから、そりゃ誤解する人も出ます。
すなわち、「中国が空母を多数建造し始めたから、自衛隊もそれに対抗するんだ! 軍拡だ!」というわけで、右翼的思想を持つ人など「これで中国の空母は一気に旧式化して元のポンコツ艦隊に逆戻りだ! 日本万歳!」と始めているわけです。

中国海軍の空母が海上自衛隊を撃破するためにあんな戦力整備を行い、自衛隊もF-35Bを搭載した空母で対抗して空母同士の対決、あるいは中国が「いずも」を恐れて出撃してこないのでは、などという論調までありますから、国威発揚にしても逆効果にならないか心配されます。
ネット右翼の鼻息に眉をひそめ、「やっぱり空母なんてやめた方がいいよ」と反対意見が出ても防衛計画に支障が出て困るのですが。

『いずも空母化』どころか『ただの洋上不時着場化』の実態

さて、話題先行ばかりで肝心の中身に触れられることの無い「いずも空母化」ですが、実際は前述したように「離島防衛用に整備する飛行場のひとつ」です。

関連記事:離島防衛、その島に軍事目標はあるのか?F-35Bがあれば運用できるのか?

具体的には短距離離陸/垂直着陸が可能なため、ある程度の長さと強度があり、猛烈なジェット排気にも耐えられる飛行甲板を持つ艦船になら、何でも発着可能なF-35Bを「離発着可能」かつ「格納庫への収容能力」までが求められています。

すなわち、沖縄本島の那覇基地や南西諸島各島で自衛隊が使用可能な飛行場を飛び立ったF-35Bが、滑走路が破壊されたり燃料不足など、何らかの理由で最寄りに着陸できる飛行場が無い時の『不時着場』としての役割がメイン。
燃料以外に武装などの補給、簡単な整備のみならず修理まで含む広範な整備能力まで追加しないと「搭載機を作戦運用させるため離発着させる能力」があるとは言えないため、空母と呼ぶのは少々はばかられます。

おそらく国民大多数が持つイメージは、アメリカ海軍の原子力空母がそうしているように、多数の搭載機がひっきりなしに飛行甲板から離発着して作戦を行う姿だと思いますが、そこまでは求められていません。

早期退役するF-15SJ戦闘機(近代化改修が容易なF-15MJと呼ばれるタイプは残る)や、廃止されるRF-4E/EJ偵察機の後継としてF-35Aを導入、その中からいくらかをF-35Bにする案もあるようですが、別に自衛隊機で無くとも構わないわけです。

仮に有事となった際、防衛作戦に協力する同盟国機、すなわちアメリカ海兵隊やイギリス空軍のF-35Bが『いずも』や『かが』を利用してもいいわけで、それができないより運用の選択肢が増えて便利、何かあっても機体を失わずに済む程度だと考えられています。

そもそも『いずも』級DDHは対潜ヘリ運用能力のほか、高速給油艦、高速輸送艦、災害派遣時の避難民収容艦など多彩な能力を備える冗長性の高い『多用途艦』として建造されました。
そのキャパシティを活かし、F-35Bの発着および格納庫への収容能力を追加するというだけの話で、「いずも空母化」は大げさ過ぎるというか、読んでもらえるよう過激な見出しをつけたがるマスコミの暴走に過ぎません。

以前からの経緯を知っている人間からすれば、「洋上不時着場としての能力追加が、ようやく実現したってだけでしょ? 前から知ってるよ。」と、冷めた目で見ているだけなので、降って湧いたニュースと勘違いしている人が大声で目立っている、それだけの話ですね。

国民一般に与える影響としては、「やっぱりマスコミもネット右翼も具体的な国防については言っていることが適当すぎてアテにならない」と、改めて理解されるよいキッカケのひとつになるかと思います。

菅野 直人

物心付いた時には小遣いで「丸」や「世界の艦船」など軍事情報誌ばかり買い漁り、中学時代には夏休みの課題で「日本本土防空戦」をテーマに提出していた、永遠のミリオタ少年。撤退戦や敗戦の混乱が大好物で、戦史や兵器そのものも好きだが、その時代背景や「どうしてこうなった」という要因を考察するのが趣味。

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