- コラム
意外な傑作機「NASAではまだ現役!イングリッシュ・エレクトリック・キャンベラ」
2019/02/6
菅野 直人
すごいー! たーのしー!
2018/12/7
菅野 直人
練習機や小型輸送機を武装して実戦投入するのは現在でも行われており、小型でレーダーに映りにくいなど気づかれにくい特性を活かした隠密任務に投入されることも。一見時代遅れな飛行機がその種の任務で効果的なのを証明したのが、第2次世界大戦や朝鮮戦争で活躍したポリカルポフPo-2練習機。朝鮮戦争での通称は『ベッドチェック・チャーリー』でした。
朝鮮戦争中、朝鮮半島某所にある国連軍航空基地。
北朝鮮空軍は既に緒戦で壊滅、地上部隊は怒涛の進撃を加えて国連軍を釜山から追い落としかけたものの国連軍は何とか持ちこたえ、仁川上陸作戦で戦局をひっくり返し、中国軍の介入で押し戻されてからは、戦線は膠着状態に陥っていました。
とはいえ空の戦いは基本的に国連軍が優勢で、昼間は猛威を振るう中国軍のMig-15ジェット戦闘機も、夜にまで、ましてや国連軍基地上空に現れるはずもありません。
しかし、すっかり安心しきっていた国連軍将兵の頭上から、それはほとんど音もなくスーっと上空へ侵入し、小型爆弾を投下したのです。
炸裂、怒号、悲鳴、警報、空を向くサーチライトと、遅まきながら上空へ打ち上げられる対空砲火……いや、誰かが持ち出した拳銃かライフルか? しかし姿の見えない敵機は、悠々と引き上げにかかります。
同時刻。アメリカ軍のジェット夜間戦闘機、ロッキードF-94『スターファイア』が国連軍からの悲鳴を聞きつけレーダーで探索、捉えた目標はひどく弱い反射波を返しながら北へ向けて遁走中。ただし非常に低速。
スターファイアは射撃時間をなるべく長く取るべくエアブレーキを開き、相手に合わせてごく低速で背後から近づきますが……急に目標がつんのめるように減速、焦ったスターファイアのパイロットはプロペラ機のクセが抜けずに自らもスロットルをしぼり減速しようとします。
「しまった!」
低空で失速したスターファイアは、初期のジェットエンジンが抱えた悪癖『スロットルレスポンスが遅い』によって増速もかなわぬまま地上に叩きつけられ、爆発炎上しました。
「くそっ、『ベッドチェック・チャーリー』め……」
闇夜へ消えていった敵機の名はポリカルポフPo-2、30年近く前に初飛行した旧式複葉練習機に対して、国連軍は何度も煮え湯を飲まされたのです。
By Jan Rehschuh – Own work, CC BY-SA 3.0, Link
ポリカルポフPo-2が初飛行したのは、実に1927年。
1920年代後半になってソ連で初めての独自設計航空機として開発され、当時としては最先端の機体に固定されたエンジンで機首のプロペラを回していました(それまでは冷却を兼ねてエンジンごと回す回転式……ロータリーとも呼ばれる……エンジンが主流)。
安定性が非常に優れ、どれだけ乱暴な操作をやっても墜落につながるようなキリモミ状態にはならず、仮にキリモミが始まっても簡単な操作ですぐ回復するほどの優れもの。
それゆえ未熟な訓練生が飛ばしてもなかなか落ちない初頭練習機に最適な機体と言われ、軍民問わず練習機として、あるいは雑用機として用いられ、最終的に40,000機以上が生産される傑作となりました。
と、ここまではどこの国でもある平凡で飛行安定性優秀、操縦も簡単な飛行機の話です。
第2次世界大戦の頃には、練習機として、というより第1線の戦闘機はおろか、練習機でもより上級課程の機体と性能差が開きすぎ、軍用機としての寿命は尽きかけていました。
しかし、機体が小さく主要部分を除けば布や木を多用して作られた機体はレーダーに対する投影面積が極端に小さい、後のステルス機のような特性を持っていた上に、アンダーパワーのエンジンは轟音など立てないので静か。
しかも夜間に超低空をふわふわと静かに、地形をすかして見るように低速で飛ぶPo-2はレーダーでは発見しにくく、肉眼でも頭上を飛びでもしない限りそうそう見つからないため、後方かく乱任務の小部隊への連絡や輸送、偵察、監視、観測と多様な任務をこなします。
万が一昼間や月夜の明るい晩に戦闘機から捕捉されても、非常に低速で飛べるPo-2は高速の戦闘機からしてみれば「微妙に動いている小さな的」に過ぎないため、他の高速機より速度差は大きく、静止した地上目標ほど狙いをつけにくく、撃墜しにくい相手でもあったのです。
そうした特性を活かしたPo-2専門の夜間爆撃隊すら存在し、女性ばかり約600人も集めた第588夜間爆撃連隊は、夜間にドイツ軍の目を覚ますだけの『嫌がらせ爆撃』や連絡任務に飛び回り、爆弾投下直前にエンジンを切って滑空する時の音から「魔女のホウキ」と呼ばれました。
この活躍を認められた同連隊は名誉称号を与えられ『第46新鋭夜間爆撃航空連隊』と改称、終戦まで戦い続けれいます。
最初に書いた朝鮮戦争でのエピソードは実際にあったもので、北朝鮮または中国軍のPo-2にとって、夜間作戦可能な数少ない機体として第2次世界大戦同様の『嫌がらせ爆撃』で国連軍兵士の神経を消耗させました。
もちろん国連軍の夜間戦闘機隊も出撃、F-94『スターファイア』はPo-2の撃墜記録も残していますが、失速墜落による『撃墜』も2回記録されています。
ただしプロペラ機の夜間戦闘機相手にはそこまで極端な損害を強いる事はできなかったようで、米海兵隊のF4U-5N『コルセア』や、F7F-3N『タイガーキャット』夜間戦闘機によってPo-2はレーダーに捕捉されると有効な砲火を浴びせられました。
それ以降はヘリコプターやより搭載量の大きいアントノフAn-2複葉輸送機がPo-2の任務にとってかわりましたが、1927年初飛行の旧式機が30年近く経っても第一線で運用できたのは非常に興味深い前例で、現在でも同種の機材は極秘任務用に存在すると言われています。
物心付いた時には小遣いで「丸」や「世界の艦船」など軍事情報誌ばかり買い漁り、中学時代には夏休みの課題で「日本本土防空戦」をテーマに提出していた、永遠のミリオタ少年。撤退戦や敗戦の混乱が大好物で、戦史や兵器そのものも好きだが、その時代背景や「どうしてこうなった」という要因を考察するのが趣味。
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