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2018/11/23

菅野 直人

50mm砲!?と誤訳された事もある50口径12.7mm重機関銃、「ブローニングM2」とは?

最新のハイテクを駆使した兵器は現代でも数多く開発されていますが、それでも最後に頼りになるのは銃。それも信頼性が高く、発砲してもブレずに高い命中精度を誇り、遠くまでよく弾が届き、しかも安い。そんな兵器はたとえ何十年経っても色あせず、ヘタに小細工した新型銃をアッサリお役御免にしてしまうほど優れた平気で有り続けるのです。その代表例が西側最高の重機関銃、ブローニングM2でしょうか。







始まりは第1次世界大戦中、ドイツ機の防弾を貫通するため開発開始されたM1921

Junkers J 1 at Döberitz 1915.jpg
By 不明 – Scan from “Over the Front”, Spring 2005 issue-page 19, photo from the Peter M Grosz collection
(Transferred from en.wikipedia to Commons by User:EH101 using CommonsHelper.), パブリック・ドメイン, Link

ブローニングM2のベースとなる機関銃にその必要性が生じたのは第1次世界大戦中、ドイツが実戦投入した世界初の全金属機で装甲を持つ複葉攻撃機、ユンカースJ1の登場でした。

後の大戦で猛威を発揮したイリューシンIL-2『シュツルモヴィーク』のごとく、第1次世界大戦当時の戦闘機で標準的だった7.7mm機関銃で容易に撃墜できなかったJ1に苛立ったアメリカ遠征軍のパーシング大将はより強力な機関銃を求めたのです。

当初フランス軍制式の11mm機関銃弾を発射する実験銃が作られましたがそれでも威力不足で、最終的には50口径の水冷式機関銃ブローニングM1921が開発されました。

なお、銃の場合「口径」とは銃口内径を表し、口径12.7mm、つまり100分の50インチゆえ「50口径」「キャリパー50(Cal.50)」などと呼ばれます。
M1921は制式採用されたものの航空機用としては大きく重すぎたため地上用にしか使えず、ブローニングでは改良を加え、口径は同じで空冷式のブローニングM2を開発しました。

第2次世界大戦中から、敵味方のあらゆる兵器で使われたブローニングM2

M2E2 Quick Change Barrel (QCB).jpg
By PEOSoldier – https://www.flickr.com/photos/peosoldier/4277416726/, パブリック・ドメイン, Link

第2次世界大戦前から航空機や車両、あるいは船舶用、はては歩兵用にまであまりの使い勝手の良さから日本軍など敵にまでコピーされて、あらゆる兵器、戦場で使われました。
代表的だったのはアメリカ軍の航空機用で、第2次世界大戦初期には7.7mm機関銃が使われ、後には20mm機関砲なども加わったものの、機種を問わずほとんどの航空機に戦闘機や攻撃機なら空中戦や地上掃射用に、それ以外なら防御機銃として使われます。

飛行中のG(重力)による弾倉のねじれなどで多少の装弾不良が生じても問題無いよう、通常6~8丁、場合によってはA-26攻撃機のように機種と主翼へ14丁ものM2を搭載して、全て問題無く発砲できた時の威力は圧倒的でした。

さらにアメリカ軍でもさまざまな車両に使いましたが、中でもハーフトラックにブローニングM2を束ねて4連装にした機銃砲塔を載せ、その火力で地上掃射した際の威力は『ミートチョッパー(ひき肉製造機)』という通称で想像がつくでしょう。

第2次世界大戦後もあらゆる軍隊、戦場で使われ、朝鮮戦争まではジェット戦闘機ですらM2を搭載、さすがに射程や威力に問題が出てきたので20mm機関砲や電動20mmガトリング砲(いわゆるバルカン砲もそのひとつ)に代わっていきますが、ヘリコプターなどの地上掃射用としてはまだまだ現役です

一時は世界最強クラスの狙撃銃でもあったブローニングM2

ここまで使われる理由に、コストパフォーマンスや信頼性の高さ、さらに地上火器として用いる際には左右どちらからでも装弾可能な柔軟性などが挙げられますが、地上火器としてはもうひとつ重要な性能を持っていました。
それが航空機用や船舶用としてはともかく、地上戦闘用としては異例なほど長距離を直射弾道で攻撃、つまり狙撃可能なことで、基本的には頑丈な三脚で固定され、銃自体も小銃や軽機関銃よりはるかに重いブローニングM2は、発砲時のブレがほとんどありません。

単発時ならなおさらで、狙撃スコープを装備して狙撃銃として用いれば、砲兵支援でも呼ばないほど遠くから敵を狙撃することができました。
その典型的な例で伝説化しているエピソードがいくつかあり、たとえばベトナム戦争では実に約2,300m、並の小銃ではゴルゴ13か! と思いたくなるレベルの超人でも無ければ応戦すら不可能な距離から兵器で狙撃を命中させます。

また、フォークランド紛争でも重火器を持たないイギリス軍に対してアルゼンチン軍がM2を狙撃銃として使用、呼ぶべき火力支援も無い、それでいて前進はしなければいけないイギリス軍は困り果てた挙句、ミラン対戦車ミサイルをアルゼンチン軍陣地に撃ち込みました。

さしものブローニングM2も、固定陣地にいる限り射程外から飛んでくるミサイルにはお手上げでしたが、イギリス軍も相当な無茶をしたのは確かで、それ以来こんなジョークがあります。
イギリス軍には、敵陣地へ無闇に高価な対戦車ミサイルを発射しないよう、財務省の担当者が前線でも監視している。」

海上での非対称戦に再評価されたブローニングM2

一方、軍艦では高度なFCS(火器管制装置)に制御された、トロトロした目標なら百発百中で撃破してしまう高価な兵器が搭載しているため、一時はミサイルのみで艦砲すら持たない艦艇すら考えられたほどでしたが、最近はかなり事情が変わりました。

一見して脅威とは思えない貧相なトロトロしたボートが実は爆薬満載の自爆ボートだったりすることや、逃走を図る不審な船舶にミサイルや強力な艦砲では威力過剰で捕まえるより沈めてしまう可能性の方が高いため、一時廃止されたブローニングM2が倉庫から引っ張り出されたのです。

他にもバルカン・ファランクス20mmCIWSの対水上射撃モードや20mm機関砲もありますが、「フトコロまで接近してきた相手に直接照準で狙って撃ってあたり、効果のある兵器」として12.7mm機関銃は最適で、ブローニングM2は今や世界中の軍用艦艇で現役復帰しました。

もちろん海上自衛隊でも不審船対策のため、いざとなれば威嚇から船体射撃、本格的な銃撃戦まで対応できる兵器として護衛艦に搭載されています。

ん? 「50mm砲?」予備知識不足で飛び出した思わぬ誤訳

最後に第2次世界大戦中にアメリカ軍の爆撃機B-17によるヨーロッパ爆撃行を描いた映画「メンフィス・ベル」にて、ブローニングM2にまつわる逸話。

B-17の機体下部旋回銃座に閉じ込められ、胴体着陸の際に押しつぶされる可能性の高い乗員が生じた時、あるB-17クルーが名案を思いつきました。
50mm砲で銃座の床を吹き飛ばして、そこからパラシュートで降りればいいんだよ!」

字幕スーパー版を筆者は見ていませんが、吹き替え版をTV放映で見た人の中にはひっくり返った人もいるのではないでしょうか。
B-17に50mm砲それを機内からぶら下げて発射この映画の考証はオカシイ

しかし一瞬後、こう気づいた人もかなりいたはずです。
「あー、キャリパー50(50口径)、つまり12.7mm機関銃を知らんのね? それにしても50mm砲と誤訳するこたあるまいに……」
まあ、「50」と名のつく何かの武器を使おうというので50mm砲と訳しちゃうのは、予備知識無しなら仕方ありません。誰もがミリタリーマニアではありませんし。

ただ、この場面で一瞬目を剥くか聞き流すかで、ミリタリーマニアの見分けがつく典型的な例かも、という余談でした。

菅野 直人

物心付いた時には小遣いで「丸」や「世界の艦船」など軍事情報誌ばかり買い漁り、中学時代には夏休みの課題で「日本本土防空戦」をテーマに提出していた、永遠のミリオタ少年。
撤退戦や敗戦の混乱が大好物で、戦史や兵器そのものも好きだが、その時代背景や「どうしてこうなった」という要因を考察するのが趣味。

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