- コラム
陸の珍兵器「“ニー・モーター”だからって膝撃ち厳禁!八九式重擲弾筒」
2018/11/21
菅野 直人
すごいー! たーのしー!
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菅野 直人
2018年に東京の晴海埠頭へ入港、一般公開されたイギリス海軍の揚陸艦『アルビオン』。自衛隊や米軍の兵器を見慣れているミリタリー・マニアでもイギリス軍モノといえば時折飛来する軍用機程度で、特に車両はほとんど見る機会もありません。次の機会はいつだかわからないことや、一部『英国面に堕ちた』ブリテンマニアも加わり大賑わいとなった展示会場で濃いマニアから熱い視線を浴びたのが、マニアックすぎて用途も不明なヒッポBARVでした。
海岸装甲回収車『BARV(Beach Armoured Recovery Vehicle)』。
軍用車両の中でも陸上自衛隊はおろか日本でおなじみ米陸軍や米海兵隊にもそんな車種は無い、というほどマニアックな車種のため、2018年8月にイギリス海軍の揚陸艦『アルビオン』の一般公開でヒッポBARVが登場した時も、用途不明で首をかしげるマニア多数。
まず何に使うかといえば、海兵隊が乗艦する揚陸艦で使われているからには、上陸作戦時が主な出番です。
今はホバークラフトで直接海岸や港湾に上陸することもありますが、昔ながらの『海岸(ビーチ)へ乗り上げて艇首の板を落として作ったスロープ上を戦車や歩兵がワラワラと』という上陸用舟艇も数多く使われます。
そうした舟艇が海岸で車両を下ろすには障害物が多いと乗り上げるポイントが限られてしまうし、しかもせっかく揚陸した戦車が迎撃砲火で撃破されたら障害物と化すことも。
BARVがこうした海岸障害物を押したり引いたりしてその場からどかして揚陸スペースを作ることと、海岸に乗り上げたはいいものの、潮の満ち引きの関係で離岸できなくなった舟艇を押して海に戻す役割を持っています。
そのため、一応は戦車回収車『ARV(Armoured Recovery Vehicle)』の1ジャンルとして定義されてはいるものの、故障や撃破された戦車の回収、修理といった機能は持っておらず、能力的にはブルドーザーにちかいかもしれません。
少なくとも日本では旧軍、自衛隊を通じてこの主の車両は保有しておらず、米軍も同様ですが、必要に応じて他の車両に任務を割り振り、専用車両を持たないだけなのかも?
専用のBARVを保有したことがあるのは、イギリスとオランダ、オーストラリア軍だけのようです。
By Photographer not identified. “Official photograph”.
Post-Work: User:W.wolny –
This is photograph MH 3660 from the collections of the Imperial War Museums (collection no. 5207-04)
, パブリック・ドメイン, Link
最初にBARVが開発されたのは1944年、ノルマンディー上陸作戦に参加したイギリス軍用で、それまでの上陸作戦の教訓から海岸に乗り入れて直後に撃破された車両が場合によっては揚陸の障害となることや、離岸できない舟艇を支援する必要性を感じてのもの。
任務の性格上、底がつかえて離岸できない舟艇を押すならある程度海にジャブジャブ入れないといけないので防水処理は必須。
溶接車体でトルクフルかつ温度変化による始動性の悪化など影響を受けにくいディーゼルエンジン搭載型なら改装の手間は省けるという理由で、M4A2『シャーマン』中戦車から、60台ほどが改造を受けました。
砲塔を撤去して防水構造の上部構造物を追加、離岸できない舟艇や波打ち際で『沈没』した車両にワイヤーを引っ掛けるためダイバーが乗り込むなど、BARV特有の基本的要素はこのシャーマンBARVで既に確立されています。
ノルマンディーでの実績が良好だった同車は戦後も1963年まで使われ、またオーストラリア軍も独自にM3A5『グラント』中戦車を改造したグラントBARVを1970年まで使っていましたが、重い車両が増えてくると能力不足となって次期モデルに代替されました。
By コンピュータが読み取れる情報は提供されていませんが、Bukvoedだと推定されます(著作権の主張に基づく) – コンピュータが読み取れる情報は提供されていませんが、投稿者自身による作品だと推定されます(著作権の主張に基づく), CC 表示 2.5, Link
シャーマンBARVに代わって製作されたのは、第2次世界大戦末期に登場し、機動力と防御力、攻撃力のバランスに優れて『第2次世界大戦後型主力戦車』初期の代表的モデルとなった、センチュリオンをベースとしたセンチュリオンBARVです。
ベース車がガソリンエンジンだったことを除けば改造要領はシャーマンBARVと同じで12台ほど生産、当初はイギリス陸軍で使われていましたが、強襲上陸作戦の担当がイギリス海兵隊に固定されると、海兵隊の装備となりました。
1982年にはフォークランド紛争にも揚陸艦フィアレスやイントレピッドに搭載されて出撃しましたが、イギリス軍はフォークランド諸島への上陸作戦に戦車を使わなかったため、揚陸された最大の装甲車両でもあります。
だからといって強力な武装を持っているわけでもないのでアルゼンチン軍を蹴散らしたわけではありませんが、足回りを破損しつつも上陸海岸で働き続けていました。
センチュリオンBARVは結局2005年まで使われていました。
By Andrzej Otrębski – Own work, CC BY-SA 3.0, Link
第3世代のBARVとして2003年から配備の始まった『ヒッポBRV』は少々来歴が変わっており、イギリス陸軍で研究に使うため開発された4台のドイツ製『レオパルト1A5』戦車がベースです。
研究が終わって用済みになったためか4台すべてがヒッポに改造され、改造容量は基本的にそれまでのBARVと変わらないものの、激しい砲火の中を敵前上陸するような作戦はもはや行われないという判断なのか、運転席は完全に装甲されず思い切り視界が良さそうなキャビンに変更。
その結果、BARVから『装甲(Armoured)』を抜いたヒッポ海岸回収車『BRV(Beach Recovery Vehicle)』が正確な呼称です。
ベース車のディーゼルエンジンを搭載していますがトランスミッションのギアを変更、走行速度は低下しましたが低速での作業トルクを強化し、作業用の補助発電機を追加してエンジンパワーを車両や舟艇の押し引きに集中させました。
その結果として重量は砲塔や弾薬を外したにもかかわらず50tに増加していますが、能力はイギリス軍の歴代BARV中で最強。
イギリス海兵隊用の4台のほか、オランダ海兵隊もヒッポBRVを配備しているとする資料もありますが、こちらはヒッポと同様の改造で若干キャビン形状の異なるものをオランダが独自製作したもので、ヒッポBRVではありません。
晴海埠頭で展示されたヒッポBRVをが珍しいのは当たり前で、世界に4台しかない超レア車です。
物心付いた時には小遣いで「丸」や「世界の艦船」など軍事情報誌ばかり買い漁り、中学時代には夏休みの課題で「日本本土防空戦」をテーマに提出していた、永遠のミリオタ少年。
撤退戦や敗戦の混乱が大好物で、戦史や兵器そのものも好きだが、その時代背景や「どうしてこうなった」という要因を考察するのが趣味。
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