• TOP
  • 自衛隊の一歩手前の軍事力~原子力関連施設警戒隊

2018/09/12

菅野 直人

自衛隊の一歩手前の軍事力~原子力関連施設警戒隊

日本国内に何らかの武装勢力が! という時、自衛隊がすぐに出動してコトに当たればいいでしょうというのは早計。昔よりだいぶ即応性が高まったとはいえ、根本的には命令無ければ動けないようシビエリアン・コントロール(文民統制)でガッチリ固められており、その軍事力は簡単に行使できないようになっています。では自衛隊が動き出す前の段階で無防備かといえばさにあらず、そんな一歩手前で動き出す「警察力以上軍事力未満」な組織をご紹介します。最初は『原子力関連施設警戒隊







事故や災害に注意だけしても仕方のない『原子力発電所』

Fukushima I by Digital Globe.jpg
By Digital Globe – Earthquake and Tsunami damage-Dai Ichi Power Plant, Japan, CC 表示-継承 3.0, Link

日本の原子力関連政策は未だに将来的な方向性を決めかねていると言えますが、仮に原発(原子力発電所)の全廃が今すぐ決まったとしても、今日明日中に原発が解体、もしくは全く危険性の無い存在になるわけではありません。
であるならば、(それが可能かどうかはともかくとして)よほどの事態が生じても安全性を確保できるようになるか、あるいは原発の全廃が完了するその日まで原発の安全確保に全力を投じなければいけないのです。

そのためには災害や事故に対する備えはもちろんの事ですが、外部からのテロ攻撃に対抗できる組織整備はとっても重要。
何しろ原子炉そのものは緊急停止ができても、その後の冷温停止までキッチリやらなければメルトダウン(炉心溶融)以上のダメージを受け、深刻な放射能汚染などの被害が避けられない事が、福島第一原発事故(2011年3月)で広く知られるようになりました。

その時は災害による外部電源および非常電源の喪失、およびそれに伴う混乱が大きな原因となりましたが、災害が無くとも外部からの攻撃で同じ事が発生する可能性は大いにあるわけです。

自衛隊はどの段階から原発の警備に関与できる?

しかし、外部からの武力攻撃があったら大変! だからといって、普段から自衛隊が強力な武器を使って原発警備をできるわけではありません。
国では破壊されることで国民の生命や財産に甚大な被害が出ることが予想される施設を『重要防護施設』(もちろん原発も含まれる)と定め、戦争が勃発しそうになった場合、勃発した場合には可能な限りの部隊を派遣する準備があります。

ただしそれも命令あっての話ですから、例えば『今すぐ戦争が始まりそうな兆候も無かったのに、国籍不明のテロ集団が原発を奇襲!』などという事態が起きれば、攻撃されて初めて命令が出るわけですから、とても間に合いません。

もちろん、そのような動きを事前に察知できるよう、あらゆる組織が努力していると信じたいところですが、国民を安心させるためのリップサービスはともかく、最悪の事態は最悪のタイミングを選んで発生する法則も無視できないでしょう。
つまり「間に合えば自衛隊が駆けつけるが、間に合わない場合は一兵たりとも原発を守備する自衛隊員はいない」という事も、十分にありえるわけです。

今考えると『お寒い状況』から原子力関連施設警戒隊を創設

Commissioner General of the NPA to review the nuclear-related facilities security guards.jpg
By National Police Agencyhttps://www.npa.go.jp/hakusyo/h15/image/S0600500.jpg, CC 表示 4.0, Link

それでは原発の警備は皆無か、あるいは電力会社の雇った警備員程度なのか? いくら何でもそりゃ無いだろう、というわけで、原発には建設当初から各地の警察組織から機動隊が常駐警備を行っています。
とはいえ、機動隊の応援が必要な切迫事態というのは何も原発に限った話では無いわけで、例えば大規模な暴動や原発以外でのテロが起きた場合、あるいは厳重な警備が必要な国家的・国際的大イベント時などが問題です。

原発警備の部隊から引き抜きされるとは思いたくありませんが、応援が必要な際に人員不足になるのは確かで、それが問題視されたのは2002年の日韓サッカーワールドカップの時だというから不思議です。
それまで誰も何も考えなかったわけでは無いはずですが、公式に問題として取り上げられたのがその時だったのでしょう。

2002年の時は、銃器などが絡む重大犯罪に対処するためサブマシンガンなどで武装した銃器対策部隊が臨時編成で原発警備の強化に当たったようですが、いくら武装していても肝心の原発の配置や構造をいきなり行って把握しろというのも無理な話。
これは自衛隊が警備しても同じ問題が発生するはずですから、その点についてどのような対策が為されているのか気になるところですが、平時においては武装部隊が普段から編成され、常駐することになりました。

それが2004年に福井県警で初めて編成された『原子力関連施設警戒隊』で、その後も他の原発立地で同様の部隊が編成されましたが、基本的には各地の警察組織にある機動隊銃器対策部隊からの選抜要員です。
(※ただし『専門要員』を配置した原子力関連施設警戒隊は、敦賀原発など若狭湾沿岸に多数の原子力関連施設を持つ福井県警のみ)

なお、『SAT(特殊部隊)』を想像する人がいるかもしれませんが、SATはどちらかといえば事態発生後の火消し』的な役割を機動的に果たす部隊なので、常駐警備任務とはまた異なります。

有効性を発揮するためには、まだまだ問題あり

これら各地の『原子力関連施設警戒隊』の役割は、基本的に破壊工作などを行うため襲撃、あるいは潜入してきた武装組織や不審者の制圧を試み、少なくともSATや自衛隊部隊の応援が到着するまで、これを阻止する事となります。

そのために必要な武器弾薬、防弾装備などは保有しており、相手が爆薬を仕掛ける破壊工作などを支援するため、拳銃やライフルで武装している程度までなら、そしてそれを早期に発見できればそれなりに対処する能力はあると考えてもいいでしょう。

しかし、何しろ場所が場所ですから放射能汚染下や、その危険性がある場合に防護服を来て交戦する事も考えなければいけませんが、「そんな状況でもテロ組織が自爆同然の攻撃を仕掛けてくる」とまで考え、対応できる装備を十分保有しているのでしょうか。

福島第一原発事故の際、最悪の事故にまで至らなかったもののまだ危険な状態にあった福島第二原発に右翼団体の街宣車が侵入した時、同地の『原子力関連施設警戒隊』は屋内待機下にあって動きませんでした。
あるいは破壊工作まで始める兆候が見られれば別だったかもしれませんし、実際にはスピーカーでがなり立てるだけで去っていったので制圧命令が出なかったとも解釈されますが、いざという時に本当に行動を起こせる組織なのかと不安にさせたのは確かです。

その後に放射能汚染下であろうと制圧や検挙が行える装備を整える方針が発表されましたが、逆に言えばそれまでは「安全な場合のみ対処する部隊」だったのでしょう。
現在は改善されていると信じたいところですが、「こうする方針です」だけではなく、国民を少しでも安心させるためのPR活動に力を入れて欲しいところです。

もちろん、以前からのように「あまり話題にすると不安を煽るし、無責任にレアケースばかり持ち出して重箱の隅をつつく人が続出するから、かえって何も言わない方がいい。」という判断かもしれません。
ただ、国民に伏せている間に国の方でも対策を忘れたり、必要性が薄いような気になられても困りますから(筆者としては、これが福島第一原発事故の本質だと考えています)、よほど秘密にしたい部分を除けば積極的に広報すべきです。

それが、結果的には国民のみならず、応援が駆けつけるまでほぼ独力で対処しなければいけない現場の部隊員たちのためにもなるのではないでしょうか。

菅野 直人

物心付いた時には小遣いで「丸」や「世界の艦船」など軍事情報誌ばかり買い漁り、中学時代には夏休みの課題で「日本本土防空戦」をテーマに提出していた、永遠のミリオタ少年。
撤退戦や敗戦の混乱が大好物で、戦史や兵器そのものも好きだが、その時代背景や「どうしてこうなった」という要因を考察するのが趣味。

この記事を友達にシェアしよう!

この記事が気に入ったら
いいね!しよう

サバゲーアーカイブの最新情報を
お届けします

関連タグ

東京サバゲーナビ フィールド・定例会検索はこちら
東京サバゲーナビ フィールド・定例会検索はこちら

アクセス数ランキング