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2018/08/15

笹木恵一

ビルマの竪琴(1954年版)~終戦の瞬間人は何を思ったか~

ビルマの竪琴』は小説家竹山道雄による唯一の児童文学を原作とし、市川崑監督によって製作された日本映画。出演は三國連太郎安井昌二他。音楽はゴジラシリーズの伊福部昭が担当している。
なお今作は公開当時は製作上の都合により、第一部、第二部と時期をずらして公開された後、一部二部の同時上映、さらに二つを一本に編集しなおした「総集編」が公開されており、現状で視聴が可能なのは「総集編」のみとなっている。

ビルマの竪琴出典:ビルマの竪琴 総集篇







ストーリー

1945年7月、日本軍の戦況が徐々に悪化する中、ビルマ(現在のミャンマー)のある小隊では隊長の井上が音楽家という事もあり、士気を高めるため兵士たちに合唱を覚えさせていた。特に兵士の一人水島上等兵は天性の音楽の才能を発揮し、合唱の際には竪琴を演奏し、彼の奏でる音色は他の兵士たちにとっても心の癒しとなっていた。

ある日小隊は食料と一晩の宿を求めて小さな村に入り、村民も歓迎ムードに見えたが先にイギリス軍が潜んでおり、これが罠であることに気づく。隊長はあえて兵士たちに合唱をさせ、敵を油断させ逆転のチャンスを狙う。ところがこのとき水島が奏で、兵士たちが歌ったのは『埴生の宿』。その美しい音色と歌声に英兵たちも共に歌い始め、戦闘がないまま夜が明け、小隊は英軍から日本の降伏を告げられる。

数日後、英軍はまだ山奥に立てこもり抗戦をつづける日本の小隊の説得を水島に依頼する。水島は承諾し、竪琴を片手に日本軍が潜伏する洞窟へと入っていくが、彼の説得は聞き入れられないまま交渉のタイムリミットが来てしまい、英軍の砲撃によってその小隊は全滅してしまい、水島も消息不明となってしまう。その後井上の隊は日本人捕虜収容所に送られ労働の日々を送っていたが、ある日水島に瓜二つの僧侶と出会う。仲間たちが声をかけるも無言で立ち去ってしまう僧侶。兵士たちの中で水島は生きていた、いや水島を気遣う自分たちが幻を見ているのではないかという疑念が生じる。水島の安否がわからないまま3日後に帰国が決まった兵士達は、再びあの僧侶と出会うのだった。

レビュー(以下ネタバレあり)

第二次世界大戦は日本人全体のトラウマだ。史上最大の悲劇、二度と起こしてはならない大事件。当然映画やテレビの題材にはうってつけ、嫌な言い方をすれば簡単に観客を泣かせ、感動させ、良い作品だと評価されやすい題材なのかもしれない。今作も感動できる映画、観る人を感動させるプロット、演出。観る前から、観ている最中も「ああ、感動のラストに向かって進んでいる」とずっと感じていた。クライマックスで「一緒に日本に帰ろう」という仲間に向けて『仰げば尊し』を演奏し、無言の別れを告げる水島のシーンなんてまさにそう。

ここで終わっていれば自分は文句なしの名作だと思っていただろう。いや、その直後に隊に届いた水島からの手紙を受け取った隊長が、手紙を読まずとも彼の気持ちはわかっていると、手紙をしまってしまうシーンも無言の別れを強調する素晴らしいものだった。しかしその直後のシーンはこれら台無しにしてしまうかもしれなかった。日本へ向かう船の上で隊長がみんなの前でこの手紙を読むのだ。しかもその手紙も長々と水島が日本に帰らない決意を述べるもので、正直言って観ている最中はなんて余計なシーンなんだと、なんでこんな下品な演出をと残念でならなかった。

感動はエンターテイメントだ、観客が解りやすく泣ければ泣けるほどエンタメ性は高まるが、お涙頂戴がわかりやす過ぎると作品の品格を落とす。無言の演奏だけで水島の真意は伝わるのに! それ以上やると下品なだけなのに! と、思わずがっかりしてしまった。

しかしラスト2分でその考えは覆される。ラスト2分で描かれる兵士たちの姿は、敗戦に嘆くものでも、戦争によって変わってしまった水島を憂うものでもない。帰国後に何をして遊ぶかとか、職場に戻るだとか、すでに彼らの頭の中は日常生活に帰っている。まるで夢から覚めたように戦争のことも水島のことも頭にはない。この瞬間何か体中をぞわぞわするものが走った。

これが戦争のリアルなのかもしれない。

戦後生まれの自分たちが戦争に抱いている印象は史上最大のビッグイベント、それ以前と以降で時間の流れが分断され、まったく違う世界に変わってしまった、もう二度と元の生活には戻れない、そう思い込んでいるだけなんじゃないか?しかし戦争はただの祭りだ、祭りが終われば皆日常に帰っていく、それが負けだったとしても関係ない。なかには水島のように祭りの世界から帰ってこれなくなった人物も少なからずいる、ただそれだけの事。

戦争は二度と起こしてはならないし、一度起これば取り返しがつかないのは事実だ。しかしそんな悲劇に遇いながらも、当たり前の日常を途切れさせることのなかった人々が、いまの世界を作っていて、我々もそこで生きている。そう思い知らされた一本だった。

ビルマの竪琴 総集篇

笹木恵一

幼稚園時代からレンタルビデオ屋に足しげく通い、多くの映画や特撮、アニメ作品を新旧国内外問わず見まくる。
中学時代に007シリーズにはまり、映画の中で使用される銃に興味を持ちはじめる。
漫画家を目指すも断念した過去を持つ(笑)。

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ビルマの竪琴

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