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2018/04/4

菅野 直人

軍事学入門「民間軍事会社とは何か?傭兵との違いは?」

戦争や軍事関連のニュースを見ていると、時々「民間軍事会社」という言葉が出てきます。軍隊であれば国の組織と思うところ、会社と言われれば民間企業、しかし軍需産業ならメーカーや商社と言うでしょうし、さりとて雇い兵、すなわち傭兵とも言いません。一体何だろうと思う人も多いのではないでしょうか?

冷戦終結であぶれた軍事力が生んだ民間軍事会社

British PMC with G36K and ANA soldier.jpg
By Staff Sgt. William Greeson – http://dams.defenseimagery.mil/defenselink/assetcolcreate.action?name=previewcol&id=10468355023ff2bd55fc6bcbdb5cd00c56857682&scope=request&nextpage=/vims_dlink_preview.jsp, パブリック・ドメイン, Link

1980年代後半からの開放政策は、最終的に1991年のソ連崩壊、冷戦終了という結果を産み、それまでの西側(アメリカを中心とした自由主義陣営)・東側(ソ連を中心とした共産主義陣営)、あるいはどちらにも属さない第三世界に世界が分かれていた時代が終わります。

しかし、それは明確に敵味方が分かれ、ある種では整然としていた時代の終わりでもありました。
東西冷戦時代にはアメリカとソ連が直接対決する「第3次世界大戦」こそ起きなかったものの、互いの勢力圏の境目では激しい戦い、あるいはにらみ合いを有利に進めるため、外部から積極的な支援が行われていたのです。

その支援には軍事的なものも含まれ、兵器を与え、軍備を整えたり兵士を訓練するための資金、さらに自力で軍備を整えるのが難しい国には、直接人員を送り込む、つまり○○国軍と言いつつ実態は西側か東側の人員が主要な地位を占めたことも珍しくありません。
もちろん、第2次世界大戦の敗戦直後は軍事力を解体されながら、東西冷戦が始まると自衛隊という形で復活させられた日本も、そうした国のひとつです。

しかし、冷戦終結によって、そうした国のほとんどから支援が引き上げられることになり、予算を失った軍備は縮小され、そして多数の軍人が失業することになりました。
そうした人々が、特定の国家の公的な組織ではない「国境の無い軍事組織」として立ち上げたのが、現在の民間軍事組織です。

歴史の古い傭兵部隊とは違うのか?

もっとも、「特定の国家に属しない軍事組織、あるいは兵士」は、太古の昔からありました。
そう、娼婦とともに世界でもっとも古い職業のひとつ、傭兵です(ニュースなどでは「雇い兵」と表現されることもある)。

ある国の国民が、自分の国のための義務で、あるいは職業として選択して入る軍隊とは違い、特にその国に属するわけではありませんが、報酬と引き換えに契約した分だけ戦うのが傭兵ですが、それが会社組織として兵隊を派遣するのが民間軍事会社のようにも思えます。

実際、国家や企業と契約して戦闘要員を派遣する民間軍事会社もありますが、それだけではなく、単に訓練の支援や輸送だけを行い、直接的な戦闘行為は行わないという会社もあるので、傭兵ともまた異なる印象です。

傭兵の国際的な定義には「紛争当事国の軍人にならず、報酬を得て戦闘行為を行う第三国の人間、または集団」とあるので、戦闘を行う民間軍事会社は傭兵のようにも思えます。
ただし、契約により一時的にせよその国の軍隊に編入されたり、その指揮下で行動すれば、正規の軍人と同様の扱いになる、という解釈もできるので、その境目は非常に曖昧です。

本当に戦闘行為を伴わない業務(としか言いようが無い)であれば、それがいかなる軍事的行動でもせいぜい「民間の警備員」程度のものになりますが、戦闘行為を伴う場合は、「傭兵をソフトに表現しただけ」とも言えます。
民間軍事会社」としてその企業や人員が紹介された場合、それが実際にどういう「業務」を行う企業なのかを確認してからでないと、それが傭兵のようなものかそうでないかの判断は難しいでしょう。

まるで漫画のような、強大な戦力を誇る民間軍事会社もあった

Nigerian Air Force Mil Mi-24V Iwelumo-2.jpg
By Kenneth Iwelumo – http://www.airliners.net/photo/Nigeria—Air/Mil-Mi-24V/2119326/L/, GFDL 1.2, Link

なお、現在の民間軍事会社は一見して「軍隊」に見えないようなイメージ作りに取り組む企業が多いのですが、かつては「電話一本で革命を起こすも鎮圧するも思いのまま」という、大きな軍事力を持った企業もありました。

冷戦末期の1989年に南アフリカで設立されたエグゼクティブ・アウトカムズ社が代表格で、アフリカのアンゴラやシエラレオネの内戦で政府と契約するや、圧倒的な軍事力で反政府組織を鎮圧した実績も。
その装備たるや、東側世界の崩壊で余剰兵器として横流しされたと思しき銃火器、戦車や装甲車、攻撃ヘリから戦闘機まで多数保有しており、漫画「エリア88」に登場した傭兵組織“プロジェクト4”そのもの!

まさに冷戦終結の申し子だった同社でしたが、あまりの強大な軍事力で介入するため契約した政府の方が「金と暴力で問題を一方的に解決しようとしている」と国際的非難を浴びるハメになり、同社と契約を解除せざるをえないほどでした。

後を引き継いだのは国連でしたが、基本的に自身が攻撃されない限り中立を保ち、どちらか一方のために武力を行使しない国連平和維持軍は無力なことが多く、同社撤退後に内戦が再開してしまうというオチまでついています。

それだけ強力な軍事組織だったエグゼクティブ・アウトカムズ社は介入をチラつかせるだけで地域の軍事バランスを変えてしまうだけでなく、「軍事力で押さえつけないと維持できない社会」を生む元だとして、1998年に南アフリカ政府から非合法化、解体されてしまいました。

今や軍が指導を受ける立場

その一方、現在の民間軍事会社は大国や国連など国際社会から目をつけられて非合法化されないよう、「戦力として見られないようなイメージ」つまりソフト路線に転換しています。
戦争を行うのはあくまで国家に忠誠を誓った軍隊と軍人であり、民間軍事企業はその活動を助けるだけですよ、というわけです。

実際には前線で何が起きているかなどわかりにくいものですが、ともかく表向きには戦場にならない地域の警備員だったり、訓練に対するオブザーバー的な役割に徹していることになっています。
また、高度な訓練や教育を受けた退役軍人が多いことから、そうした兵員の育成ができない貧困国で重宝されそうなイメージもありますが、近年ではむしろ先進国での需要も増えてきました。

その最たる例がアメリカで、戦闘機も含む退役した軍用機に、退役した軍人が乗って訓練の時に敵機役を演じるなど、各種の訓練支援プログラムを提供する民間軍事会社と常に契約しており、日本の米軍基地でも民間登録の軍用機が活動しています。
かつては軍組織の一部にそうした部隊がいましたが、訓練した人材をそうした任務に投入するより、必要な人材や機材を、必要な時に必要な分だけ契約する方が経費削減になるようです。

また、政治的理由などで特定の国の軍隊が活動しにくい地域でも、民間企業なら自由に行動できるというメリットも買われており、ある民間軍事会社がA国で活動しているとして、実はB国からの依頼によって、B国に代わり協力A国に協力しているというケースもあるでしょう。

民間軍事会社とは今や「国や軍隊の代理人」であり、国家間の紛争や内戦において、裁判における弁護士のような役目を果たしているとも言えます。

日本で民間軍事会社は成り立つか?

そんな軍事会社が日本で成り立つかどうか。
実際に民間軍事会社を“自称”しているケースもありますが、今の日本では民間での銃や刀の所持ですら極端に制限されていますし、ましてや兵器など合法的には購入も持ち込みも一苦労です。

また、内戦状態にあるわけでもなく、仮にそのような状況を望む組織があったとしても、警察に代わる法執行、自衛隊に代わる制圧行動は民間企業に許されていません。
つまり合法的な依頼を行うことが不可能である以上、民間軍事会社のオフィスを日本に置くメリットがあるとすれば、「社長や従業員が日本に住みたいから」というトボけた理由以外では、なかなかありえないでしょう。

ただ、それに類する話が皆無というわけではありません。
日本では、訓練こそ行っているものの、有事の際にカーフェリーなど民間船舶を雇って部隊の移動を行えるかどうかは、船会社がそれに応じるかどうかにかかっており、拒否されればそれまでです。

おまけに、第2次世界大戦で国に差し出した船舶はほとんどが沈められ、船員にも多くの犠牲者を出した上に戦後も国から手厚い保証や経営保護を受けられたわけでもなかった船会社側は「もう戦争に関わるのはゴメンだ」と、当然の感情を持っています。

そのため、予備自衛官補など「身内」で船会社を立ち上げて平時は民間企業として運航し、有事は人員ごとそっくり自衛隊の指揮下に入って輸送任務につく会社を立ち上げようかという話が出ました。

平時の採算が合わなければどうするのか、経営がうまくいかない時に国が支援したら民業圧迫にならないか、さりとて支援せず倒産しては意味が無い……など困難を感じますが、仮に実現すればこれも一種の民間軍事会社と言えなくも無いでしょう。
公にされていないだけで、既にその種の企業が存在していてもおかしくはありません。

菅野 直人

物心付いた時には小遣いで「丸」や「世界の艦船」など軍事情報誌ばかり買い漁り、中学時代には夏休みの課題で「日本本土防空戦」をテーマに提出していた、永遠のミリオタ少年。撤退戦や敗戦の混乱が大好物で、戦史や兵器そのものも好きだが、その時代背景や「どうしてこうなった」という要因を考察するのが趣味。

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