- コラム
第二回 軍事学入門 ~戦争とは平和のようなもの~
2017/01/7
菅野 直人
すごいー! たーのしー!
2017/12/15
菅野 直人
日本にいると身近な話題のひとつが在日米軍。どうして日本の国土に外国の軍隊が駐留しているの?日本はまだ占領されているの? という、100%誤解とも言い切れない理屈で未だに議論が絶えません。しかしこうした例は日本に限らず世界各国にあり、それらをケースバイケース的に紹介していきましょう。
ある国の国土内に他国の軍隊が駐留する、というケースは今に始まったものではなく、かなり古い歴史を持ちます。
その理由はさまざまですが、日本人にとって一番身近な例は在日米軍でしょう。
特に沖縄に集中していることやその歴史的経緯、それ以外の場所でも利用している土地の問題、騒音問題もあって厄介者になるかと思えば、地域雇用を支えているため無くても困るなど、あらゆる立場からさまざまな問題が提起されています。
ただ、沖縄駐留米軍に関しては移転したくとも同じ日本国内で「だからってウチに来られても嫌だ」という土地の方が多いので、ここではあえて「いわゆる基地問題」には触れません。
そこで純粋に「自国に駐留する外国軍軍隊」について話したいと思いますが、基本的にその定義は「自国の領域内に駐留する、自国籍以外の軍隊」を指します。
ここでポイントなのは、「自国の領域内」だからといて、「自国の国土」や「自国の勢力内」とは限らないこと、さらにその軍隊が必ずしもその国を占領したり、勢力下に置いたりする迷惑な存在とは限らないことです。
まず最初のケースですが、在日米軍がこの「戦略的要衝に展開する他国軍」に当たります。
後述のように在日米軍の任務には、日本で戦争が起こった場合の共同防衛も含まれますが、普段配備されている戦力はそれ以外が多数を占めるというのが実情です。
特に日本のように「常日頃の自国の防衛は自国でまかなう」ことがそれなりにできている国の場合、普段から米軍がいないと困る、ということはなかなかありません。
数少ない例外としては2011年の東日本大震災で在日米軍を中心に発動された「トモダチ作戦」で、横須賀や佐世保を母港とする米海軍の艦艇や、沖縄に駐留する海兵隊を中心に、多数がこれに参加しました。
しかし、それ以外は基本的に「米軍が海外でその軍事的能力を示す」ための前線基地、前線司令部として機能しているというのが主な目的。
日本自体も対ロシア、対北朝鮮、対中国の「最前線」でありますが、それ以外にも極東地域からはるかペルシャ湾やハワイまで広い範囲で活動するのに必要な「戦略的要衝」なんですね。
最前線でありながら先進国なため必要なインフラや共同作戦が可能で有力な同盟国軍(自衛隊)が存在し、国連軍の基地として他の同盟国軍との作戦にも便利、という日本はかなり特殊なケースです。
もっと単純に「戦略的要衝」というだけなら、自衛隊もアフリカ北東部のジブチに海賊対処作戦用の基地を持って海上自衛隊の哨戒機などが駐留しています。
また、インド洋のイギリス領ディエゴ・ガルシア島もアメリカ軍が戦略爆撃機などを全世界で運用するための戦略的重要拠点です。
こうした「戦略的要衝」は駐留する外国軍にとって失うと困るものなので、普段から経済的、軍事的恩恵との取引で使われています。
東日本大震災時の「トモダチ作戦」も、アメリカによる「重要な同盟国の危機を助ける」ことで、戦略的要衝としての重要性を認識、あるいはアピールしていると考えられます。
「占領」とはまた異なるのですが、たとえば戦争の結果としてその国の体制が完全に崩壊して国家の提供するサービスが完全に停止してしまう場合があります。
古くは第2次世界大戦で敗北した日本、近年だとイラクやアフガニスタンがそうでしたが、その停止したサービスの中に国土防衛や治安維持活動が含まれていると、一時的にせよ勝った側がそれを代行しなければいけません。
もっとも、その代行費用は戦勝国側の持ち出しになることが多く、しかも実際に戦場で戦ったり治安維持で住民から恨みを買っては割に合わないので、タイミングを見て国家とともに軍隊の再建にも手を貸し、訓練やその支援を行います。
ではそれが終わればお役御免で撤退するかと言えば、あまり元通りになってまた敵対されてもかなわないので、ある程度の影響力を残すため、いくらかの兵力を駐留させ続けることが多いもの。
わざわざ戦争して勝たなければいけない上に、勝ったら勝ったで戦勝国の負担で復興させるなど戦争とはずいぶん割の合わないものだとよくわかる話です。
ただし戦争しない方が余計に悪化するケースもありますし、日本のように経済的発展で駐留費用をかなり負担するケースもありますから、一概にそれが良くないとは言えません。
最近ではあまり聞かない話なのですが、戦争や限定的な紛争、あるいは不平等条約の結果として、ある国の中に別な国の領域が出現する時があります。
第2次世界大戦前の中国に存在した「租界」や、1999年までイギリスが借りた形になっていて現在は中国に返還された香港などが代表的な例ですね。
これらは獲得した「権益」として、所有者が防衛しないと在住している住民の保護ができませんから、必然的に軍隊も駐留します。
ただ、もちろんそんな状況が面白かろうはずも無いので、本来の国土の持ち主がちょっかいを出してくることもままあり、日本も中国と第1次、第2次の上海事変を起こしています。
周辺に敵対的、あるいはどう考えても友好的ではない国家がズラリ立ち並ぶような場所では、それなりの軍事力を保有している国でも単独での防衛に困難を感じる場合があります。
ケース1で紹介した日本もその例の1つで、戦略的要衝として国土を利用する見返りに、いざ戦争となれば自衛隊と共同で米軍にも防衛に参加してもらう、あるいはそもそもそういう事態にならないよう、普段からある程度の戦力駐留を許容するという政策です。
ほかには冷戦中の西ドイツ(当時。現在は統一されたドイツ)、現在まで朝鮮戦争が正式には終結していない韓国がこれに相当します。
ただし韓国の場合、厳密には在韓米軍というより「国連軍」が戦時には韓国を防衛することになっており、平時はともかく戦時には韓国軍も国連軍(実態はほとんど米軍ですが)の指揮下に入るわけです。
たまに「自衛隊は戦争になったら米軍の指揮下に入る」と勘違いしている人がいますが、おそらくこの韓国における国連軍との混同があるのでしょう。
現実には戦争が起こった時でさえ、日米両政府による同意が無ければ米軍が必ず戦争に介入するわけではありません(もちろん自衛戦闘の結果として介入はありえます)。
この「共同防衛」は他国にとってもよほどメリットが無いと意味が無いので、戦略的要衝、または非友好的国家との間の緩衝国でも無いと、滅多には本気で行われませんが、日本はその数少ないケースの1つというわけです。
世界にはいろいろな国があるもので、中にはあまりに小国で経済力も無いので、自国で軍事力を保有する能力が無く、防衛を完全に他国に依存している国があります。
ヨーロッパだとリヒテンシュタインやモナコ、バチカン市国、ほかに南太平洋のミクロネシアやマーシャル諸島などがそんな国で、場合によっては軍事だけでなく外交も他国に依存、一応独立国という体裁はとっているものの、実質的には自治領同然の国も。
ただ、そうした国では実際にどこかの国が攻めてくるということも無く、貿易相手も限られたりするので、「それでいいのだ」式でのほほんと暮らしている場合もあります。
なお、このケースの場合は差し迫った脅威も無いので、実際に外国軍が駐留している、というケースは稀です。
内戦などで疲弊した国には、そこを元々植民地としていた国が旧宗主国として責任を持ったり、あるいはアメリカあたりが国益のため国情安定のため介入することもありますが、宗主国に力が無かったり、アメリカにとって旨味も無いので手を出したがらない地域もあります。
そうした場合に介入するのが国連で、国連平和維持軍(PKF)や、近年は日本も参加することの多い国連平和維持活動(PKO)として各国軍が派遣されます。
その国の国民からヨソ者が占領しに来たように思われても困るので基本的には中立で、朝鮮戦争やコンゴ動乱における国連軍のように、一方の勢力を攻撃して体制の安定を図ろうということはありません。
そのため駐屯地の周りで銃撃戦などが起きても自衛以外で介入することは無く、ただそこに存在するだけで現地勢力の軍事行動を制限したり、あるいは戦災復興に携わったりしますが、これも外国軍の基地が置かれるケースの1つと考えて良いでしょう。
ここまでいくつかの代表的なケースを紹介しましたが、基本的に国家が提供するサービスに「国土防衛」も含まれるので、外国軍を頼りにするというのはある意味で国家が国民に対し十分に責任を果たしていない、とも言えます。
ただ、その国が置かれた実情によってはそうした「きれいごと」では済まないことも多いので、現実的選択肢として他国軍の駐留が許容されている、というのが実情です。
日本もそうした「仕方ない」ケースのひとつですが、それは日本を守ったり政治的・歴史的事情だけではなく、日本周辺国家にとっても「第2次世界大戦の時のように攻めてこないような歯止め」を期待されている場合もあるので、なかなか複雑です。
どんなケースでも、理由を調べてみるとこうした「複雑な事情」が絡んで外国軍駐留に至るケースが多いと思った方がいいでしょう。
物心付いた時には小遣いで「丸」や「世界の艦船」など軍事情報誌ばかり買い漁り、中学時代には夏休みの課題で「日本本土防空戦」をテーマに提出していた、永遠のミリオタ少年。撤退戦や敗戦の混乱が大好物で、戦史や兵器そのものも好きだが、その時代背景や「どうしてこうなった」という要因を考察するのが趣味。
2018/01/2
Gunfire
1
2018/03/31
Gunfire
2
2018/01/11
Gunfire
3
2018/05/29
Sassow
4
2018/12/4
Gunfire
5
2017/07/26
Sassow
6