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2019/02/11

菅野 直人

陸の珍兵器「路面電車改造の装甲トラムまであった!装甲列車」

地上を移動する兵器といえば昔なら動物や、動物もしくは人力で牽引する車、自動車が登場して以降は数々の軍用車両が登場しましたが、積載量とスピードなら負けじと有効活用されたのが鉄道です。その鉄道を使った『装甲列車』も、さまざまな欠点がありつつ世界中で大々的に使われました。







鉄道を守る鉄道、『装甲列車』

鉄道は当初、馬が牽引するいわゆる『馬鉄(馬車鉄道)』や人力で動かすトロッコの類から始まり、16世紀には存在したと言われます。
19世紀には蒸気機関車が登場、動力化された鉄道は線路がある限り非常に効率が良い陸上輸送機関として人員貨物問わずあらゆる物を運び始めたので、兵士や兵器、弾薬や戦争に必要な物資を運ぶのにも非常に有用だったのは言うまでもありません。

それどころか鉄道輸送は兵力の迅速な移動、補給の維持といった面で戦局を左右するほどの存在になったので、特に大陸で大規模な地上戦が行われる場合には、敵対している国の鉄道網を破壊することが戦略的に重要な目的となりました。

もちろん相手の鉄道網を破壊する一方で自陣営の鉄道網維持も戦略的に重要なのですが、そのためのパトロールや兵力の輸送にも鉄道を使うのが最適です。
ならばいっそのこと、強力な武器を搭載して装甲化された『装甲列車』を作り、移動要塞として活用しようじゃないかと考えたのは、当然のことでした。

こうしてアメリカの南北戦争(1861-1865)やアフリカの第1次ボーア戦争(1880-1881)で使われ始めた装甲列車は、次第に活躍の場を広げていきます。

代表例:日本も中国大陸で『九四式装甲列車』などを投入

装甲列車の仕様は各国の国情に合わせたさまざまなものがありましたが、日本でもシベリア出兵以降は装甲列車の必要性を認識し、満州事変(1931-1933)などで満州鉄道を守るための急造装甲列車を活用、1933年には『臨時装甲列車』を投入しました。
これは15cm榴弾砲や10cm高射砲、7.5cm高射砲や各種機関銃を搭載し、各車両と機関車・炭水車に装甲を施したものです。

Type 94 Armored Train.jpg
By Imperial Japanese Army – http://www.oocities.org/sadakichi09/army/IJ-MRAT.htm, パブリック・ドメイン, Link

ただし既存の機関車や貨車を改造したがゆえの負担で走行性能などに悪影響があり、最初から装甲列車として新造された決定版が1934年に制式化された『九四式装甲列車』でした。臨時装甲列車では編成の中央に配置された機関車が編成後方へ回され、その前方に強力な通信能力を持つ指揮車、さらに前方には高射砲や重機関銃を搭載し、高射砲は全周射界を持つ火砲車、先頭に重機関銃を搭載した警戒車を配置。

満州鉄道の警備に投入された九四式装甲列車は日中戦争でも活躍し、中国軍1個旅団を撃破したり、中国軍の装甲列車と堂々たる砲戦の末に撃ち勝ったり、中国軍が占領している駅へ突撃して文字通り蹴散らしたりと大戦果を挙げます。

もちろん『日本軍は点(都市や拠点)を維持できても線や面の維持には弱く、中国を攻めきれない』と言われた日中戦争ですから、中国側も線路を爆破するゲリラ戦法や、爆薬を積んだ自爆列車で九四式装甲列車に対抗。
しかし日本側も警戒車よりも前の先頭車両に応急資材を搭載した貨物車を連結、自爆列車に突っ込まれても被害を極限し、ついでに破壊された先頭貨車から吹き飛んだ資材を集めて瞬く間に線路を復旧するという荒業すら見せました。

まさに中国大陸向きの兵器でしたが、もちろんヨーロッパでもソ連やポーランド、ドイツなどの装甲列車が同様に活躍しています。

装甲列車の亜種、装甲トラム(装甲路面電車)なるものも存在

Hitler-gustav-railway-gun.jpg
By Unknown Germany army photographer – 不明, but widely published at the time (in Signal) and since, パブリック・ドメイン, Link

武装化された鉄道車両には他にもよく知られる例として『列車砲』が存在し、ドイツの28cm超長射程列車砲K5や、実戦投入された火砲としては世界最大の対要塞用80cm超重列車砲『グスタフ』および『ドーラ』などが有名です。

さらに変わりダネとしては、ドイツで路面電車を装甲化し機関銃の銃眼や対空射撃用と思われる銃当を持つ『Pz Tb Nr15』や、ソ連で路面電車の軌道用車両にT-26戦車用の45mm砲塔を搭載した『DT-45』など『装甲トラム(装甲路面電車)』もありました。

市街戦で移動トーチカとして活用する目的があったようですが、重い貨物列車も走る一般的な鉄道と異なり、装甲トラムがどこまで有効だったかは定かではありません。

戦後は廃れるも、ユーゴスラビア紛争などで復活した例もあり

装甲列車は線路がある限り、地上を走る車の中では大抵の軍用車両より高速で移動できましたが、日本でも新幹線とJR在来線ですら異なるほど国や地域によって線路の軌間はマチマチであり、制空権を失うと爆撃で容易に行動不能とされるため、第2次世界大戦以降はあまり使われなくなりました。
しかし、逆に考えれば的に有効な航空戦力がなければ有効ということでもあり、インドシナ戦争(北ベトナム独立戦争)でのフランス軍や、アメリカ本土で核兵器を運搬する列車に装甲列車は使われています

さらには列車砲の末裔として鉄道発射型ICBM(大陸間弾道弾)までソ連で作られましたが、1990年代のユーゴスラビア紛争ではクロアチア領内のセルビア人国家、クライナ・セルビア人共和国軍が『クライナ・エクスプレス』という装甲列車を使っていました。

76mm砲やロケット弾発射機、AT-3サガー対戦車ミサイル、120mm重迫撃砲などで武装し、最大25mmの装甲を持つクライナ・エクスプレスは各地の戦闘で使われましたが、最後はクライナ・セルビア人共和国がクロアチアに敗北したことで破壊放棄されたと言われています。







菅野 直人

物心付いた時には小遣いで「丸」や「世界の艦船」など軍事情報誌ばかり買い漁り、中学時代には夏休みの課題で「日本本土防空戦」をテーマに提出していた、永遠のミリオタ少年。撤退戦や敗戦の混乱が大好物で、戦史や兵器そのものも好きだが、その時代背景や「どうしてこうなった」という要因を考察するのが趣味。

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