- コラム
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2018/06/1
菅野 直人
すごいー! たーのしー!
2018/12/28
菅野 直人
2018年12月に策定された新たな防衛大綱および中期防衛力整備計画は、日本を取り巻く環境の変化を反映して、これまでの防衛計画から大きく見直された点が注目されました。要旨としては『グレーゾーン(平時でも有事でも無い状態)への対処、少子高齢化による予算・人員減へ対象する効率化』なのですが、策定後に判明してきた事柄も合わせて、注目すべきポイントをいくつか紹介しましょう。
By Kaijō Jieitai (海上自衛隊 / Japan Maritime Self-Defense Force) – http://www.mod.go.jp/msdf/formal/gallery/ships/dd/izumo/183.html, CC 表示 4.0, Link
2018年12月に閣議決定を受けた30大綱(平成31年度以降に係る防衛計画の大綱について)では既に報道その他で注目されている事柄がいくつもあり、防衛力整備の方針が大きく様変わりしたことが伝えられています。
その多くは『大型護衛艦いずも級の空母化』(後述しますが、この表現には問題あり)および、『新型スレルス戦闘機F-35Aの大量購入および、自衛隊初のSTOVL(短距離離陸・垂直着陸機)であるF-35Bの導入』が焦点となっていますが、より大きな方針変更が見られました。
その最たるものは新たな装備の調達や部隊の新設ではなく、『急速な少子高齢化や厳しい財政状況を踏まえれば、過去にとらわれない徹底した合理化なくして、かかる防衛力の強化を実現することはできない』という部分でしょう。
日本は1970年代までの第2次ベビーブーマーを最後に人口の爆発的増大期を終えており、その最後の世代は既に40代を迎えています。
戦後第1次ベビーブーマーが世を去り、後を支える世代には社会福祉を保証する人口も財源も無い超少子高齢化社会では第2次ベビーブーマーが長きにわたり国と国民にとって負担となり続けることに。
つまり今後は人口が減り労働者も税収も減る一方で、面倒を見なければならない高齢者がやたらと多く、国家財政がパンクするか社会福祉を最低限に抑えて『間引き』するかの選択を迫られた挙句、どっちつかずのギリギリ低空飛行を続ける時代が約10~20年後に迫るのです。
そのような時代、少なくとも第2次ベビーブーマーのほとんどがこの世を去るであろう約40年後までは、国がマトモに防衛力の整備などできなくなるかもしれません。
今回の『30大綱』で少子高齢化に言及した事で、「この先は金と人の限界でどうにもならない嵐に備え、その嵐が過ぎ去る40年後を見据えた防衛力整備をせねばならない」という、悲鳴が聞こえてくるように思えます。
「今から20年後、早ければ10年後から終わりを迎える40年後まで、防衛力増強などと言っていられない暗黒時代が来る!」という観点からすれば、大型護衛艦へのSTOVL発着能力の獲得やSTOVLの配備、大量のステルス戦闘機、イージス・アショアなど個別の案件は大した問題ではありません。
「今のうちにこれらを整備して40年後まで持ちこたえる覚悟」の方が大事だと考えれば、むしろ当然のことでしょう。
最新で高性能な兵器を大量にズラリ揃えるため派手に見えますが、一部は不安を、最近増えているもう一部は期待すらしているであろう『この大綱を足がかりに将来はより強力な防衛力整備を』など、夢物語です。
むしろこの30大綱を境に、今後40年は防衛力に関して景気のいい話は聞かなくなる、そのつもりでいた方がいいかもしれません。
高齢化して社会からリタイヤした第2次ベビーブーマーという、『大量の扶養家族』への高齢者福祉の終了に目処がつく40年後までは、周辺国への脅威どころか防衛力を苦労して維持するハメになります。
それゆえ防衛力整備も大幅強化というより、「最後の大盤振る舞い」であり「今のうちに新設できる部隊は手をつけておかないといけない」であり、「既存の垣根を無くした効率化をしなければやっていけない」という悲鳴が聞こえてくるのです。
25大綱(平成26年度以降に係る防衛計画の大綱について)と30大綱で他に大きく変わったのは、『国際平和』という言葉がほとんど消えたことです。
実際に両大綱から「国際平和」で検索すると、25大綱では18個見つかりますが、30大綱では『国際平和協力活動等については、平和安全法制も踏まえ、派遣の意義、派遣先国の情勢、我が国との政治・経済的関係等を総合的に勘案しながら、主体的に推進する』この1つだけ。
シーレーン防衛、あるいは安定化のため自衛隊がアフリカのジブチ共和国へ維持している唯一の海外基地は長期的・安定的に活用するとされていますが、25大綱のように『国際平和協力業務や国際緊急援助活動を始めとする国際平和協力活動に積極的に取り組む』などとは言わなくなりました。
むしろアメリカなど同盟国と、同盟国では無いながらも防衛問題では緊密な関係にありたい韓国との連携を重視する一方、もはや地域派遣国家の枠を超えつつある中国へも『地域や国際社会において、より協調的な形で積極的な役割を果たすことが強く期待される』としています。
25大綱では『中国は軍事力の強化の目的や目標を明確にしておらず』としていましたが、30大綱では『中国は今世紀中葉までに「世界一流の軍隊」を建設することを目標に』と、軍事力増強の目標だけでも明確化させました。
北朝鮮のみならず中国からの脅威を明確化する一方、世界のスーパーパワーとして責任ある国際協調路線を求めるなど、敵視するよりむしろ「頼むから戦争に巻き込まないでくれ。今はそれどこじゃないから」と、これまた悲鳴をあげているようにも思えます。
もはや現状は、日本が国際平和への積極的な貢献をするよりも、日本自体の平和を他国と協力しながら積極的に維持しなければいけない時代へシフトしたようです。
かつて『国連常任理事国の椅子が欲しくてPKO(国連平和維持活動)へ自衛隊の派遣を決めた、世界第2位の経済大国』は、もはや存在しません。
30大綱の別表にある整備予定の部隊や装備を見ると、脅威の増加・深刻化に伴う各種部隊の新設や装備増強の一方で、現有戦力の大部分を状況に応じて容易に移動、投入する『機動防御』が前提にあると見えます。
25大綱で『将来』とされた戦力に対して増加/減少する分は以下。
・サイバー防衛部隊:1個防衛隊(25大綱では人員増強程度)
・海上輸送部隊:1個輸送群(海自のおおすみ級輸送艦に加え中小輸送艦艇や『はくおう』など民間からの転用船舶)
・島嶼防衛用高速滑空弾部隊:2個大隊(滑空弾は開発中)
・弾道ミサイル防衛部隊:2個隊(イージス・アショア。従来は海自と空自の管轄)
・戦車は600両→300両(既定路線。戦車の過半は機動師団/機動旅団用の機動戦闘車へ)
・火砲は600門→300門(既定路線。火砲を扱う特科部隊の一部が機動師団/機動旅団の重迫撃砲部隊へ転換中または転換済)
・4個護衛隊群に加え、2個護衛/掃海隊群を新設(護衛艦隊直轄の2桁護衛隊と掃海隊群を統合)
・1個掃海隊群は廃止
・FFM(多用途フリゲート艦)大量整備による護衛艦54隻体制は変えないまま哨戒艦12隻を新たに整備。
・作戦用航空機:170機→190機(純増)
・地対空誘導弾部隊:6個群→4個群(ただし24個高射隊は変わらず)
・宇宙領域専門部隊:1個隊(新設)
・無人機部隊:1個飛行隊
・作戦用航空機:360機→370機(うち戦闘機280機→290機)
ここで明確に減少しているのは陸上自衛隊の戦車と火砲で、移動が容易ではない戦車は陸自唯一の機甲師団である第7師団を残して著しく減勢するものの、機動戦闘車に置き換えて輸送や陸上移動を高速化。
さらに火砲も移動が容易では無い牽引式榴弾砲や大口径自走砲を廃止して機動力の高い重迫撃砲や即応機動連隊の高射部隊(高機動車へSAMを搭載)などへ置き換えます。
海上自衛隊で置き換えられる哨戒艦は排水量1,000t未満で乗員30名ほどの小型艦艇と言われており、脅威度の高い海域へ護衛艦隊が注力できる環境を作るか、逆に偶発的衝突が発生しやすい海域で戦闘力より監視能力に重きを置いた艦艇を配置する模様。
基本的には冷戦時代に考えられた大規模な地上戦に対処する人員を、機動力向上やネットワーク上での防衛力に振り分けることで人員規模を現状に止めたまま、部隊や艦艇、航空機を増やす事になります。
あるいは直接作戦に関わらない部分の民間委託を増やしたり、民間軍事会社への委託などの努力も行われるかもしれません。
直接的な数的増強につながるのは陸自の高速滑空弾とイージス・アショアが主で他は微増か現状維持にとどまるため、有事に際してはとにかく機動力重視。
護衛艦「いずも」級の空母化などと騒がれますが、そんなところへ空自の数少ない戦闘機隊を回していたら平時のアラート任務(領空侵犯対処)などもままならなくなりますから、「いずも」級の改装など単なる「使用可能な飛行場増加による『飛行隊の機動化』で弾力的運用を可能にする施策」に過ぎないことがわかります。
そして前述のように、もはやこれ以上の戦力増加など逆さにして振っても出てこない状況へ追い込まれており、よほど周辺状況が変化(あるいは悪化)したところで、この戦力を基本として今後40年間どのように維持するかに腐心せねばならないのが、将来の日本というわけです。
物心付いた時には小遣いで「丸」や「世界の艦船」など軍事情報誌ばかり買い漁り、中学時代には夏休みの課題で「日本本土防空戦」をテーマに提出していた、永遠のミリオタ少年。撤退戦や敗戦の混乱が大好物で、戦史や兵器そのものも好きだが、その時代背景や「どうしてこうなった」という要因を考察するのが趣味。
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