- コラム
自衛隊の一歩手前の軍事力~原子力関連施設警戒隊
2018/09/12
菅野 直人
すごいー! たーのしー!
2018/12/17
菅野 直人
日本にいくつか存在する特殊部隊の中でも、警察が編成しているのが『SAT』こと特殊急襲部隊です。あくまで警察内部の組織ではありますが、その任務には他国では軍隊や準軍事組織が担うものも含まれており、事実上「自衛隊の一歩手前の軍事力」と称して差し支えないレベルにあると考えられます。
By National Police Agency – https://www.npa.go.jp/archive/keibi/syouten/syouten276/image/P02-P11_40.jpg, CC 表示 4.0, Link
警察の特殊急襲部隊(Special Assault Team)、通称『SAT』。
警視庁のほか、大阪や北海道、沖縄など大都市圏および、他の地域からの応援が間に合わなそうな遠隔地の道県警察内に編成されている特殊部隊です。
その行動方針は、建前上は「事件に巻き込まれた被害者や関係者の安全を確保しつつ事態を鎮圧、被疑者を検挙(逮捕)する」とされてはいるものの、報道では「身柄拘束より犯人による現場の危機的状況を狙撃などで排除」すると言われています。
報道を裏付けるように、公開された訓練ではSAT隊員が人型標的への頭部射撃による無力化(射殺)を行っており、必要とあらば事件解決において犯人の生死は必ずしも問わないようです。
通常はあくまで「犯人逮捕」を行うべき警察組織においてはまさに異例の存在で、あくまで国内での警察活動を前提としているとはいえ、国民にとっては自衛隊以上に強力な国家権力の行使を目的とした組織と言えます。
刑事ドラマなどで強力な武器を持った警察官が時には犯人をためらいなく射撃で排除するシーンが存在しますが、SATはより隠密に、確実に任務を成し遂げる警察組織なのです。
SATの前身となる部隊が創設されるきっかけとなったのは、1972年に西ドイツ(当時)のミュンヘンで行われた夏のオリンピックで、選手村へ侵入したパレスチナ武装組織のテロリストがイスラエル選手団11人を殺害した『ミュンヘンオリンピック事件』でした。
この当時は西ドイツでも対テロ特殊部隊が存在せず、後に連邦警察の特殊部隊『GSG-9』が誕生するキッカケとなりますが、同様に日本の警察でも特殊部隊の必要性が認識され、1977年に警視庁の『特科中隊』および大阪府警の『零中隊』が誕生。
1979年に大阪で発生した三菱銀行人質事件で突入した零中隊の隊員が、至近距離から犯人を射殺したのが初の『実戦』と見られています。
その後1980年代には警視庁の特科中隊は非公式にSAP(Special Armed Polic)と呼ばれるようになり、1995年にはオウム真理教事件での強制捜査や、ハイジャックされて函館空港に着陸した全日空機への突入支援でもバックアップに出動しました。
役割としては隊員が先頭切って突入するというより、各警察の捜査員や機動隊が突入するのを後方から支援、必要とあらば狙撃で犯人を無力化するものの、実際にそのような事態に陥いったケースはまだ無いようです。
『SAT』として公式部隊化、正規予算での編成が可能になったのは1996年で、それ以前は存在こそ噂されていたものの実態は不明な極秘部隊。
当初は警視庁、大阪府、北海道、神奈川県、愛知県、福岡県の各道府県警察に編成されましたが、後に本土からの派遣に時間のかかる沖縄県警察にもSATが創設されました。
SATの装備は銃器類がSIG、グロック、S&Wなどの自動拳銃やH&KのMP5シリーズ短機関銃、さらに自衛隊と同じ64式小銃や89式小銃、ボルトアクションライフルなど。
自動小銃やライフルは狙撃が主目的と思われ、一般的な警察官に多いリボルバータイプの拳銃ではなく、装弾数の多い自動拳銃や弾をバラまく制圧射撃も可能な短機関銃は、市街戦や屋内戦を意識した装備のようです。
最近は防弾ガラスごしの狙撃も可能にするため対物ライフル(昔なら対戦車ライフルと呼ばれたような大口径ライフル)も納入されたようで、相手が装甲車や戦車でも繰り出してこない限りは圧倒できる火力を備えています。
さらには激しい閃光と爆音で対象を無力化するスタングレネード(閃光手榴弾)や、必要に応じて壁や障害物を破壊するためのプラスチック爆弾も所有、突入支援用の車両やヘリコプターも防弾仕様で、隊員を守る防弾装備も多数所有。
By National Police Agency – https://www.npa.go.jp/archive/keibi/syouten/syouten269/img/s02_1203.jpg, CC 表示 4.0, Link
基本的にはハイジャック対策部隊として創設され、実際にはハイジャックのほか武装した犯人がたてこもる事件へ投入(主に突入支援)されていますが、仮にテロ組織や犯罪組織などが国内で破壊活動を行った場合に投入されることは間違いありません。
一般的な警察組織では手に余るものの、自衛隊を投入するほど重武装をしていない相手にとっては、SATこそが投入すべき『警察力以上軍事力未満の戦力』なのです。
もちろん、SATは自衛隊ほど自力での移動手段を持たず、いざ現場に出てみれば武装工作員などSATでは手に余るほどの重装備を持った相手だった場合に備えて、自衛隊との連携も積極的に行われています。
公式・非公式の訓練が自衛隊の駐屯地や演習場で行われるケースもあれば、SAT隊員が陸上自衛隊の輸送ヘリから自衛隊員とともに降下するような訓練も行われており、警察組織ではあるものの自衛隊と非常に濃密な関係を保っているようです。
仮に武装組織や都市ゲリラ部隊へ対応する場合、自衛隊とSATが担当地区を分けつつ共同作戦を行うケースも想定されていると見るべきでしょう。
有事の際に日本国内の都市部などで行われる破壊活動への対処まで考えると、SATと自衛隊の境界線は『所属する組織が異なるだけで、やることには変わりがない』レベルまで達しているのかもしれず、事態によっては明確に軍事力の一部とみなすこともできそうです。
ただ、自衛隊員と違ってあくまで警察官なので、国内法による捜査権を持つのが警察組織らしいところでしょうか。
物心付いた時には小遣いで「丸」や「世界の艦船」など軍事情報誌ばかり買い漁り、中学時代には夏休みの課題で「日本本土防空戦」をテーマに提出していた、永遠のミリオタ少年。撤退戦や敗戦の混乱が大好物で、戦史や兵器そのものも好きだが、その時代背景や「どうしてこうなった」という要因を考察するのが趣味。
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