- コラム
意外な傑作機「NASAではまだ現役!イングリッシュ・エレクトリック・キャンベラ」
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菅野 直人
すごいー! たーのしー!
2018/10/12
菅野 直人
東西冷戦真っ盛りの頃に発展したジェット戦闘機。朝鮮戦争など初期に使われたものはともかく、超音速で飛んで誘導ミサイルや誘導爆弾を使うようになると、経済的に余裕の無い国が自力で買える代物では無くなっていき、大抵はアメリカかソ連の援助で揃えていくことになります。しかし「いやいや、そこまで高い要求出さなきゃもっと安く作れるって!」と立ち上がったのがイギリスの軽戦闘機、フォーランド・ナットでした。
第2次世界大戦中にドイツやイギリスで同時発達的に生まれたジェット戦闘機や、レーダーや電子妨害装置など電子戦に長けた夜間戦闘機、それにミサイルや爆弾などの各種誘導兵器。
大戦が終わるとこれらは統合されて、『誘導兵器を使用、あるいは妨害可能な高度な電子戦能力を持ち、天候や昼夜を問わず活動可能で、超音速に達する高速で戦争可能なジェット戦闘機』を目指すようになります。
それでもジェットエンジンの能力や燃費に余裕の無かった時代、そこまで理想を追求したジェット戦闘機は短距離を飛べば済む防空戦闘機に限られ、朝鮮戦争の頃でも前線に現れるのは第2次世界大戦同様の目視で機銃を発射し空中戦を戦う戦闘機ばかり。
しかし、次世代機はいよいよ『理想の戦闘機』を実現だ! と試作機は1950年代はじめでもバンバン飛んでいたのですが、問題はその価格でした。
とにかく性能のいい飛行機を武装すれば良かった時代と違い、各種電子装備を備えた『兵器システム』としてのジェット戦闘機は、飛行性能と各種兵器を扱う能力を統合してシステムとしてまとめあげなかればいけません。
当然開発費用は高騰し、それは量産機の価格にも反映されて、最新鋭ジェット戦闘機の数を揃えるどころか、あまりに軍事機密が多すぎてマトモに輸出もできないのでは? という懸念すら生じます。
そんな中、『シンプル・イズ・ベストでとにかく安いジェット戦闘機の需要はあるはず!』と立ち上がったのが、ヘンリー・フォーランド氏率いるイギリスのフォーランド社でした。
フォーランド社が考えたのは、「価格が高騰する一方の戦闘機じゃ、疲弊したイギリスで数を揃えるのなんて無理! とにかく安い戦闘機を大量配備しないと、大英帝国の栄光は守りきれないよ!」という発想。
そこで同社の設計者、テディ・ペッターがは第2次世界大戦でもなお、その軽さによって活躍の余地があった零戦など軽戦闘機のジェット版で、非力なエンジンでも高性能が可能かどうか、自社開発の実証機『ミッジ』を飛ばしてみます。
ミッジは操縦ミスでテスト飛行中に墜落、失われてしまったものの、大した性能を持たない平凡なジェットエンジンでも、とにかく軽い機体を作れば機動力でパワフルな最新鋭戦闘機に劣るものではない事は証明されました。
By MKFI – 投稿者自身による作品, パブリック・ドメイン, Link
そこでミッジを手直しして武装化、当初予定していたエンジンは開発中止となったので、日本でも富士T-1Aに使ったことで知られる練習機や軽戦闘機用エンジン『ブリストル・オーフュース』へ換装。
性能は平凡ですが安価、そしてミッジ譲りの軽さで素晴らしい飛行性能を発揮した新型戦闘機『フォーランド・ナット』は1954年8月に初飛行しました。
次世代ジェット戦闘爆撃機の採用試験でナットの審査をしたイギリス当局によれば、その機動性や低コストは大したものだと認めましたが、いかんせん機体が小さすぎて燃料を積むところも武装をぶら下げるところも少なく、戦闘爆撃機として不適格、とされてしまいます。
結局採用されたのは一回り大きいホーカー・ハンターでしたが、ハンターは機体に余裕があったため2000年代まで空対空ミサイルやマベリック空対地ミサイルを搭載するアップデートを施して現役に留まることが可能で、民間に払い下げられた機体は米軍の訓練支援のため、今でも日本ですら飛ぶことがあります。
By RuthAS – 投稿者自身による作品, CC 表示 3.0, Link
そう考えると当時のイギリス当局がハンターを採用して正解でしたが、低コストで飛行性能に優れたナットもただボツにするのは捨てがたく、練習機として採用するから複座型を納入するよう指示しました。
アクロバットチーム『レッドアローズ』で採用したほどですから、機動力の高さは折り紙つきでしたが、いかんせん『機体が小さすぎる』という問題は最後までつきまとい、大柄なパイロット訓練生はナットのコクピットに収まらないため、ハンターの訓練型に乗らざるをえなかったようです。
つまりナットは『軽戦闘機』どころか、『豆戦闘機』と呼ぶべき代物で発展性に乏しく、後々強力なエンジンを積んで搭載量も拡大しようとすると、どうしても全然別な飛行機になってしまって低コスト戦闘機にならない、という問題もありました。
仕方ないので輸出戦闘機として海外へのセールスに切り替えたフォーランド社ですが、まだジェット戦闘機が『購入できないほど高価』になるには少し間があり、しかもよほど貧乏な国でも、アメリカやソ連の味方になれば、ジェット戦闘機を安く、場合によっては無償で供与してくれます。
日本の航空自衛隊もそうした『友好国割引価格』でF-86FセイバーやF-104Jスターファイターを購入したクチでしたが、中には貧富以前に政治的に東西どちらにもつきたくない『第3世界』(あるいは非同盟諸国)や永世中立国もありました。
そうした国では自国開発や東西からバランスを取りながら最新鋭戦闘機を買うなどお金をかける一方、誰にでも売ってくれて、手早く数を揃えられるほど安い戦闘機としてナットに目をつけます。
こうして北欧のフィンランド、やバルカン半島のユーゴスラビアといった『東西を天秤にかけてうまく立ち回る国』が購入、ユーゴスラビアは結局採用せず、フィンランドも13機購入しただけでライセンス生産は断念しましたが、ナットを気に入ったのがインド空軍です。
イギリスからの独立以来、パキスタンとの恒常的な国境紛争を抱え、3度に渡って正面から武力衝突したインド空軍は、精鋭のハンターやMig-21に加え、安価な戦闘機で数を揃える『ハイローミックス構想』を持っており、ナットは最適任でした。
さすがにパキスタン空軍の精鋭超音速戦闘機F-104Aスターファイターには分が悪かったものの、主力のF-86セイバーに対してはこれをキリキリ舞いさせるほどの格闘戦性能を持っており、互いに機銃を撃ち合う有視界戦闘では断然優位。
もちろん、既に空対空ミサイルが登場していましたが、まだ赤外線誘導ミサイルサイドワインダーの性能は低く、高温地帯の上空で交わされる空戦では、非力ゆえ赤外線排出量の小さいエンジンを積むナットが、サイドワインダーのロックオンを外すことなど朝飯前です。
結果、『セイバー・スレイヤー』と賞賛されたナットはインドでライセンス生産された以外に独自改良型『ヒンドゥスタン・アジート』へ発展し、1991年まで配備されていました。
しかしナットの活躍はそこでは終わりません。
ジェット戦闘機映画の大傑作『トップ・ガン』(1984年)のパロジィ映画としてチャーリー・シーン主演で製作された『ホット・ショット』(1991年)に、架空のアメリカ海軍主力戦闘機『オスカーEW-5894 ファルウス』として登場したかわいい軽戦闘機こそナットでした。
おいおいナットは空軍用軽戦闘機だぞ? 空母で運用できるわけが無いだろう? と怒るなかれ、パロディ映画ですから、本物を使わずに「あれ? どこかおかしい? 何か間違ってる?」くらいがちょうどいいのです。
実際、そのコンパクトさを活かして空母の飛行甲板場では「オーライ! オーライ!」見事なバックによる車庫入れ? まで披露するなどナットらしい場面が笑いを誘いましたが、主役メカなので一応某国の指導者に爆弾を投下し、口から詰まらせて昏倒させるほどの活躍はします。
一説によると、あれは本当にアメリカ海軍の空母からナットを発着艦させたんだ! と主張しているサイトもありますが、まあ実際にはイントレピッドなど記念艦、あるいはオリスカニーなど予備艦としてまだ浮かんでいたエセックス級空母をセットに撮影しただけでしょう。
さすがに本気でナットを蒸気カタパルトで打ち出したら、加速Gでバラバラになりそうな気がします(汗)
物心付いた時には小遣いで「丸」や「世界の艦船」など軍事情報誌ばかり買い漁り、中学時代には夏休みの課題で「日本本土防空戦」をテーマに提出していた、永遠のミリオタ少年。
撤退戦や敗戦の混乱が大好物で、戦史や兵器そのものも好きだが、その時代背景や「どうしてこうなった」という要因を考察するのが趣味。
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