- コラム
買える! カスタマイズする? 日本車の軍用車両5選
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菅野 直人
すごいー! たーのしー!
2018/09/26
菅野 直人
第2次世界大戦での無条件降伏から約5年後の1950年8月10日、後に保安隊を経て現在の陸上自衛隊の前身となる『警察予備隊』が発足しました。初期には米軍からの払い下げや旧軍の保管品を使っていた車両も国産化を目指す事となり、『国産ジープ』の要求に応じたのがトヨタ、日産、三菱の3社で、各社がそれぞれの『ジープ』を提出、採用されたのはご存知の通り三菱の『ジープ』でしたが、不採用となったトヨタ版と日産版も別な形で現在に続く名車となります。
1950年8月10日、後に保安隊(1952.10-1954.6)を経て現在の陸上自衛隊となる戦後日本最初の軍事組織『警察予備隊』が、その名とは裏腹に警察とは独立して内閣総理大臣の指揮を受ける、総理府の外局組織として誕生しました。
当時の日本は1947年5月3日に施行された『日本国憲法』第9条で戦争や軍隊を否定した存在になっており、警察予備隊という『実質軍隊』の扱いはその当初から微妙なものでしたが、日本をいつまでも占領してその防衛力全てを肩代わりするわけにいかないのは最初からわかっていた話です。
よって軍事力再建は当初から日米双方で考えるところが無かったわけではないものの、1950年6月に朝鮮戦争が勃発したことで占領軍(在日米軍)を朝鮮戦争に急派せねばならず、日本国内の治安維持戦力にコト欠くような有様になったのでは否応もありません。
かくして誕生した警察予備隊ですが、何しろ急な話なので人員装備が追いつかず、発足後に人員を募集して幹部や隊員の速成教育を始めるとともに、兵器や車両の供与も始まりました。
しかし占領軍に余剰装備といっても余裕が無いため多くは中古もいいとこのお古で、小銃にいたっては菊の御紋章を塗りつぶして米軍と同じ弾が使えるよう改造された九九式短小銃まで配備されていたのは有名な話。
車両の方もジープなどが供与されたものの、当時の日本では戦前、戦中からのトラックやバスのメーカーが戦後復興のため稼動を続けており、限定的ながら乗用車の開発・生産能力も有していたので年間数百台レベルながら生産も許可されていました。
そこで、ともかくジープ程度は国産化を進めて日本で生産しようという動きが始まり、1941年にはトラックや乗用車を生産していたトヨタ、日産、三菱に警察予備隊から国産ジープの入札参加要請が出されて1951年には各社のモデルが出揃います。
なお、旧軍の野戦用四輪駆動車としては九五式小型乗用車(くろがね四起)を開発・生産した日本内燃機製造(後に合併などを経て現在の日産工機)もありましたが、戦後はオート三輪メーカーに徹した同社は四輪車を作っていなかったためか、入札に参加していません。
3社の中で、入札に参加しなかった日本内燃機を除けば四輪駆動車の開発にもっとも深く関わったのがトヨタ自動車工業(現在のトヨタ自動車)で、戦時中には米軍のジープをコピーしたAK10型『四式小型貨物車』や『KCY型四輪駆動トラック』『スキ型四輪駆動水陸両用車』を生産しています。
そのため、ジープ同様の性能を持つ小型トラックを求める警察予備隊の要求仕様にマッチした車両はある意味お手の物と言えて、戦後もトラックや乗用車の生産を続けており、技術者など開発体制も整っていました。
1951年8月には試作車が完成、同社で1947年から生産していた小型トラック『トヨペットSB型』のシャシーを強化し、サイドバルブ直列4気筒1,000ccのS型に換えて、より大排気量大出力の大型トラック用エンジン、OHV3,400cc直列6気筒のB型を搭載したものです。
後輪駆動をベースに前輪も駆動可能としたパートタイム4WDシステムはAK10などでの経験を踏まえた完成されたもので、B型エンジンを搭載したジープ(Jeep)ということでトヨタBJ型ジープと命名。
富士山6合目までの登坂試験や路外走行試験でも良好な成績を収めましたが、制式採用には至らず民生に転じて1953年にトヨタジープとして発売、1954年に商標の問題で『ランドクルーザー』と改名、その後いくどもモデルチェンジを経て今に至ります。
警察予備隊には採用されなかったトヨタジープ改めランドクルーザーでしたが、警察や消防用として採用されて重宝され、そのジープ級車両としての高性能や耐久性は国内外から高く評価、まだ乗用車技術が未熟だった時代のトヨタ輸出車は全てランドクルーザーだった時期もありました。
後にハイラックスともども後部に機関砲などを載せて武装化すると、世界中でタフな軍用車両として正規軍からゲリラまで数多く使われ、敵味方が武装版トヨタ車で戦うことから『トヨタ戦争』なる言葉まで生まれたほどです。
なお、BJ型ジープは不採用となったものの後述する3/4tトラックが採用されたので軍用車両の納入実績は得られ、トヨタ車としては後に高機動車(民生版名称『メガクルーザー』)も陸上自衛隊に採用されるのでした。
By JOHN LLOYD from Hanover, Pennsylvania, United States – Nissan Patrol, CC 表示 2.0, Link
戦前から『ダットサン』ブランドで小型トラックや小型乗用車を生産・販売していた日産重工業(現在の日産自動車)も入札に参加、日本内燃機やトヨタほど四輪駆動車の実績はありませんでしたが、1951年9月には日産4W60型の試作車を完成させます。
トヨタBJ型ジープと同様、小型乗用車/トラックと大型トラックしか作っていなかったためジープ級にちょうどいいエンジンの無かった日産は大型トラック用3,700ccサイドバルブ直列6気筒エンジンを搭載。
ただ、トヨタがフロントアクスル後方へ今でいう『フロントミッドシップ』式に搭載していたところ、フロントアクスルをまたぐ形でエンジンを搭載しており、キャビンスペースはライバルよりやや広く、前輪への荷重もかかって4輪駆動時の走破性には有利でした。
デザインは戦時中のAK10型で『ジープに似せないように』と言われた経験を持つトヨタBJ型ジープよりもジープに似ており、エンジングリルの縦スリットが横スリットに変わっている部分にオリジナリティを持たせています。
やはり警察予備隊から不採用となって以降は民需に転じるとともに『パトロール』と名付けられて警察や消防への盛んな売り込みを開始。
後にエンジンが4リッターに拡大されて余裕がある割に小型ボディはそのままだったので、パワフルでポンプなどの駆動余力も大きく、狭いところにも入っていける万能車的な扱いとして特に消防で好評で『ファイヤーパトロール』と名付けられたものは1990年代まで各地の消防団などで活躍しました。
日本でも3代目へのモデルチェンジ時に『サファリ』と改名されて1980年代から1990年代前半のRVブームにちょっとした人気が出ましたが、ランドクルーザーや三菱パジェロほどの人気が持続せず、現在は元の『パトロール』が海外で引き続き販売されています。
By まも – 投稿者自身による作品, パブリック・ドメイン, Link
最後は大本命の三菱で、戦後の財閥解体により1950年から分割されていましたが、そのうち水島製作所や名古屋製作所を擁する中日本重工業(新三菱重工業を経て現在の三菱自動車工業)が1950年から米軍向けにジープの生産を決定していました。
この背景には当時アメリカでジープを生産していたウイリス社が日本での生産・販売パートナーを求めていたもので、その流れで警察予備隊から『ジープ級国産車調達』の入札へも参加しましたが、米軍と装備を共用化した方が便利な警察予備隊がこれを選ぶのは明らかです。
いわばトヨタと日産は出来レースの中で採用のアテも無い車両を試作して入札参加したような形になりますが、『これを機会に国産車で同種車両の開発実績を』と経験を積ませる目的があったのかもしれません。
ともあれウイリス・ジープは旧型のサイドバルブ2,200cc直列4気筒エンジンを搭載した、ジープ級にはちょうどいい排気量の(ジープそのものなので当然ですが)モデルから中日本重工業で1953年より生産開始。
当初は全ての部品を輸入して日本国内で組み立てるノックダウン生産方式でしたが、同年中にはライセンス生産・販売契約で同意し、正式に中日本重工業(後に三菱自動車工業が継承)が日本でのジープメーカーとなりました。
これにより三菱が保安隊(1952年10月に警察予備隊から改組)へとジープを『1/4tトラック』として供給し1954年7月陸上自衛隊への改組後も継続、1973年に積載量を増した1/2tトラック版を『73式小型トラック』として制式化。
1996年に民生用のRV『パジェロ』をベースに陸上自衛隊仕様とした2代目『73式小型トラック』(現在の1/2tトラック)となるまで三菱製ジープの供給を続けたのです。
なお、ジープ級の1/4tトラックでは不採用となったトヨタ・BJ型ジープと日産・4W60ですが、代わって米軍中古を供与されたダッジWC(M37)後継としてトヨタBQ型/FQ型および日産Q4W70などが『3/4tトラック』として採用、陸上自衛隊時代まで使われています。
物心付いた時には小遣いで「丸」や「世界の艦船」など軍事情報誌ばかり買い漁り、中学時代には夏休みの課題で「日本本土防空戦」をテーマに提出していた、永遠のミリオタ少年。
撤退戦や敗戦の混乱が大好物で、戦史や兵器そのものも好きだが、その時代背景や「どうしてこうなった」という要因を考察するのが趣味。
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