- コラム
第二回 軍事学入門 ~戦争とは平和のようなもの~
2017/01/7
菅野 直人
すごいー! たーのしー!
2018/04/27
菅野 直人
歴代のアメリカ大統領で、これほど人騒がせな人物がこれまでいただろうか? と言いたくなるトランプ大統領が打ち出した「今までより使いやすい新型戦術核兵器の開発促進」。これに対して怒るのはもちろん、旧ソ連時代から核軍縮につき合ってきたロシアで、プーチン大統領もよほど腹に据えかねたのか、敵対国沿岸を破壊しつくせる大陸間長距離核魚雷を大々的に発表しました。
アメリカとロシアは、旧ソ連以来「まず超大国から核兵器の削減を」とばかりに、核軍縮に関しては歩調を合わせる盟友のような存在でありましたが、そのバランスを崩すような出来事がありました。
それが2018年2月2日にアメリカのトランプ大統領が発表したNPR(核戦略見直し)で、小型の戦術核兵器の新型開発を再開することで、「威力が大きすぎてとても使えず、抑止力になりにくかった」という核戦略の修正を発表したのです。
これにより、ちょっとした戦争でもアメリカが核兵器を投入することを躊躇しない、イコール戦争やめようという雰囲気で「世界の警察」としての権力を維持したい意向ですが、それに黙っていないのはもちろんロシア。
今までの核軍縮は何だったんだ! それならこっちにも考えがあるぞ……というわけで、同年3月1日、報復するかのように6種類もの新型兵器の存在を明らかにしました。
存在するということは、今まで何だかんだで自分たちもダンマリで作っていたということになり、結局今までの核軍縮は何だったんだ……と思いますが、インパクトはなかなか強力です。
ICBM(大陸間弾道ミサイル)はもちろん、空中発射型弾道ミサイル、極超音速滑空ミサイル(昔、ドイツのゼンガー博士が考案した、宇宙空間と大気圏の間を滑空する軌道爆撃機みたいなもの?)、このあたりはまあ、核弾頭つきとしても比較的「常識」な兵器です。
戦闘用レーザー砲も、まあ似たような兵器をアメリカも中国も作ってます。
原子力推進巡航ミサイルという物騒なものもありますが、漫画「ラジヲマン」(あさりよしとお作)のような、原子力推進だけど通常弾頭だったら大笑い。
そして、なかなかシャレにならないのが原子力推進の無人潜水艇“ポセイドン”です。
このポセイドン、単なる原子力無人潜水艇というわけではなく、核弾頭を装備しており、発射されれば敵対国の沿岸部に向かって突き進みます。
原子力推進……まさか原子炉で暖めた蒸気を噴出するわけも無いでしょうから(いろいろ問題がありますが、中でも泡で凄まじく目立つ)、潜水艦と同じ原子力タービン推進と思われ、原子力潜水艦同様に航続距離も長大。
しかも核弾頭の規模は不明ですが、目標は大都市沿岸の港湾施設、および軍事施設なのは間違いなく、戦争勃発と同時に、核ミサイルほど派手にレーダーに捉えられることも無く、はるかにゆっくりとしたスピードながら、潜水艇としてはかなりの速力で突っ込むことに。
つまり、「大陸間におよぶ射程を持った核魚雷」というわけです。
類似の兵器として、大昔の旧ソ連で核兵器の開発に成功した頃、マトモな運搬手段の確立に苦労したため、潜水艦から発射する直径1,550mmの超大型核魚雷T15が作られたことがあります。
参考までに、海上自衛隊の潜水艦が搭載している魚雷(対水上艦船 / 対潜水艦用)の直径が483~533mmですから、その3倍近く、全長も3倍以上という代物で、もちろん普通に魚雷発射管から発射! とはいきません。
そのため旧日本海軍の人間魚雷“回天”のように潜水艦の甲板上に搭載して発射する予定だったらしいのですが、“回天”同様に母艦となる潜水艦が相手に相当(遠くても数十km)近づかなければならず、厳重に警戒された海域で発射できる可能性が低すぎるとボツになりました。
しかし、現代の「ロシア版核弾頭つき回天」は原子炉を搭載することで、潜水艦どころか自国沿岸の地上からそのまま発射可能かもしれません。
もっとも、原子力を動力とした潜水艦や砕氷船で多数の実績を誇るさすがのロシアといえども、未だにT15並の船体に収まる小型原子炉は開発していないようです。
「家庭でも使える小型原子炉」は時々誰かが考えたり特許を取ったりして話題になりますが、実際に作る人はほとんどおらず、いたとしても大学用の研究炉止まりで実際にそれでタービンを回してみようという人や組織はいません。
そのため、無人化で「魚雷」に徹することでかなり小型化はされているものの、原子炉とタービンを収納できるよう、相応な大きさにはなるようです。
そうなるとかなりの大きさになるので「製造」というよりは「建造」というレベルになり、旧日本海軍で言えば“回天”より大きい“蛟竜(こうりゅう)”のような、ちょっと大きめの小型潜航艇サイズになるでしょう。
蛟竜は最大で月産80隻が計画されたこともあるので、それなりに大量生産ができそうにも思えますが、原子炉を積むならもっと大きくなり、さらに大量生産も難しくなります。
無理して作っても常に放射能漏れなどの危険に晒された数十基の「ポセイドン」基地など、ちょっと考えたくないですね。
また、原子炉は始動・臨界まで時間がかかるので、兵器として必要な即応性(すぐ使える)にも欠けます。
これは発射から自国領海内程度まではバッテリーで電気推進すればいいだけの話ですが、それとも平時の「ポセイドン」はどこか辺境の沿岸で小型発電所を兼ねていたりするのでしょうか。
ちなみに「ポセイドン」というか長距離大型核魚雷そのものは実は目新しい話題では無く、過去に「偶然」、それも「ロシア国営テレビで」紹介されたことがあります。
もちろん、「偉大なるロシアの新兵器」などと朝鮮中央通信じみた報道がされたわけではありません。
しかし、2015年11月10日にロシア国営「チャンネル1」にて、プーチン大統領が軍幹部と協議している映像が流された時、軍幹部の読んでいた書類がわざわざ背中越しに大きく撮影され、そこには「海洋型多目的ステータス6システム」という長細い魚雷が描かれていました。
その資料によれば、最大深度1,000mを最大100ノットで突き進み、射程は最大1万km。
「大陸間魚雷」としては少々物足りないスペックで潜水艦に搭載、発射予定だったようですが、射程がそれだけあれば潜水艦が危険な海域に近づかなくて良いとう判断もあるでしょう。
これがそのまま、現在発表されている「ポセイドン」かどうかは不明ですが、当時のロシア当局は「機密情報が誤って放送されてしまった」と伝えています。
それにしてもわざとらしい映像だったので「誤って」も何も無いものですが、少なくともかなり以前から研究が進められ、何かのタイミングで意図的に情報もリークされ、そしてこの春、公式にその存在を認めることが、プーチン大統領からのメッセージというわけです。
さてこの「ポセイドン」、実際に発射された場合に迎撃は可能でしょうか?
2015年に「誤って」公衆の目にさらされたスペックを見る限り、通常の魚雷と同じようなスクリュー推進で深海深くを航走してくるので、SOSUS(改訂ソナー監視ライン)や、どの船舶搭載型SURTASSの監視網にかかる可能性は少なくありません。
ただ、問題はそれを見つけたとして攻撃可能かどうかです。
各国の潜水艦や魚雷のスペックは最重要軍事機密とされており、特に最新兵器の正確なスペックはハッキリしません。ただ、現在までに伝えられるだけでも水深1,000mを100ノットで航走する目標を追尾可能な魚雷はほとんどありません。
おそらくそれが可能だと思われるのはロシアが保有するロケット魚雷、VA-111シクヴァルくらいなもので、深々度性能は不明ですが、雷速はロケット推進で200ノットを超えます。
輸出型もあるようですがもちろんもっとも高性能なのはロシア海軍のもので、ロシアは核魚雷という“矛(ほこ)”と、シクヴァルという“盾(たて)”を同時に持っていると言えますが、シクヴァルにしてもロケット推進なので射程はそれほどではありません。
結果、「ポセイドン」が仮に実在した場合、それを遠距離で探知、追尾して航空機からシクヴァルのような超高速ロケット魚雷を撃ち込む以外に迎撃方法は無く、使用される可能性が生じた場合、相手国によってはかなりスリリングな展開になるのではないでしょうか。
もちろん、前述のように大量生産・使用は非現実的という見方もありますが、ブラフのみで実在しないことを祈るばかりです。
物心付いた時には小遣いで「丸」や「世界の艦船」など軍事情報誌ばかり買い漁り、中学時代には夏休みの課題で「日本本土防空戦」をテーマに提出していた、永遠のミリオタ少年。撤退戦や敗戦の混乱が大好物で、戦史や兵器そのものも好きだが、その時代背景や「どうしてこうなった」という要因を考察するのが趣味。
2018/01/2
Gunfire
1
2018/03/31
Gunfire
2
2018/01/11
Gunfire
3
2018/05/29
Sassow
4
2018/12/4
Gunfire
5
2017/07/26
Sassow
6