- コラム
現代航空母艦のトレンドと運用思想 【前編】
2016/10/12
菅野 直人
すごいー! たーのしー!
2018/03/5
菅野 直人
アメリカ製STOVL(短距離離陸/垂直着陸)戦闘機、F-35Bを自衛隊が採用する、という報道が盛り上がっています。「いずも」級護衛艦や離島の飛行場と組み合わせ、防衛や奪還に活用しようという構想のようですが、想定される離島とはどこか、そしてF-35Bを配備することでどう変わってくるのか、離島防衛の現状も踏まえて考えます。
By Rachouette, teacher in Seoul, SOUTH KOREA at en:Windows Live – Original source from n876705213_1335763_4105 among Chuseok Trip to Ulleungdo and Dokdo Islands
Image obtained from http://en.citizendium.org/wiki/Image:Dokdo_Photo.jpg, CC 表示-継承 3.0, Link
日本は本州・北海道・四国・九州と4つの大きな島(本土)のほか、沖縄本島をはじめとする大小さまざまな島で構成された島国です。
その中には北方四島(2018年2月現在はロシアが実効支配)のように第2次世界大戦以降、国際的にはまだ帰属未定の島や、竹島(同、韓国が実効支配)のように第2次世界大戦後に占領されたままそれっきり、という島もあります。
また、明確に日本の領有化にありながら、対馬のように韓国資本による土地の買収が進み、かつ韓国が領有を主張している島、尖閣諸島のように中国が領有を主張している島、与那国島のように、台湾で武力衝突の危機があると巻き込まれかねない島も。
既に実効支配されている島はともかく、対馬や与那国島のようにそれなりの人口がある有人島ですら周辺国がアレコレと理由をつけては領有を狙っている状況でありながら、離島防衛にはなかなか力が入らない状況でした。
例外は在日米軍も含め大規模な部隊が配備され、さらに増強の進む沖縄本島と、戦闘力の高い対馬警備隊(ただし防衛計画は本土からの増援が前提)が配備される対馬、それに沿岸監視隊などが配備された北海道の礼文島くらいのものです。
これは冷戦期の国防計画が北方の対ソ連重視時代の名残ではありますが、さすがに1990年代以降は対中国シフトが重視されるようになり、主に九州以南の離島防衛が真剣に議論されるようになってきました。
画期的だったのは2016年3月に与那国駐屯地が開設されたことです。
与那国島は沖縄よりさらに南、先島諸島先端にある日本最西端の島で、台湾とは目と鼻の先にある「国境の島」。
それにも関わらず与那国島には自衛隊は配備されておらず、与那国駐屯地の開設以前、島の防衛力と言えば島に駐在する警察官2名の拳銃2丁という有様でした。
そこに与那国沿岸監視隊を中心に150名程度の自衛官が駐在するようになりましたが、それでも武装は警備小隊に配備された小銃など小火器のみで、基本的には戦闘部隊ではなく、中国や台湾、ロシア(こんな南でも情報収集に来る)の軍事力監視が主な目的となります。
これに加えて宮古島と石垣島に地対空ミサイルや地対艦ミサイルを持つ陸自部隊(当然、警備を目的とする小規模な普通科部隊も加わるでしょう)が配備される予定となっていますが、性急な配備を推進したい国が住民に十分な説明をしていないことで、反発もあるようです。
そのほか、離島では航空自衛隊のレーダーサイトが久米島・宮古島(以上、沖縄県)、沖永良部島(鹿児島県)、奥尻島(北海道)、海栗島(長崎県対馬)に、奄美大島に通信隊が駐屯しており、海上自衛隊も沖縄本島や奄美大島、対馬に基地を持っています。
この中で、例えば他国の軍事力が侵攻してきた場合に積極的な抗戦を行う能力を持つのは陸上自衛隊の対馬警備隊くらいで、レンジャー資格を持つ精鋭隊員に加えて装備の質も高いとはいえ、数は少ないのであくまで増援が来るまでの時間稼ぎや監視が主任務です。
前項で石垣島や宮古島での陸自部隊の配備に反発があると書きましたが、与那国島でも配備は一筋縄ではいきませんでした。
地元住民の感情としては、「国が責任を持って守ってほしい」という気持ちもある一方で、防衛施設が置かれることで攻撃目標となり、「かえって危険では無いか」という気持ちもあります。
そこまで考えなくとも、危険な武器・弾薬に万が一のことがあった場合でも、住民の安全は確保できるのか、という側面も無視できません。
また、配備される自衛隊員があまり増えると、その家族も含めて島の人口バランスに大きな影響を与える可能性も指摘されており、つまりは選挙などでの「ヨソ者による影響」も無視できなくなっています。
これらに対して「日本そのものだけでなく自分たちの防衛にもなるから我慢しろ」と言うのは簡単ですが、地域社会に波風まで立てるとなると、住民がある程度納得してもらえなければ、有事の際の避難などで協力を得られない可能性もあるでしょう。
感情的な部分はある程度の金銭的補償や十分に説明を尽くすことで補えるかもしれませんが、問題は「自衛隊の配備=軍事目標になるかどうか」です。
これについては、そもそも軍事目標にならないならば自衛隊の配備など必要が無いわけで、与那国島のように明確に島の防衛を求められて配備するケースもあります。
それ以外の、対空・対艦攻撃部隊が配備される島は、必ずしも島の防衛だけとは言い切れない部分もあるのは確かです。
ただし、仮に周辺国からの攻撃、あるいは占領が行われるのはそこに自衛隊がいるかどうかではなく、「攻撃や占領に必要かどうか」で決まりますから、極端な話を言ってしまえば、それは自衛隊や国が決めることではなく、攻撃や占領する国や組織が決めます。
そういう意味では「自衛隊の配備=攻撃を招く」とはならないでしょう。
むしろ防衛側としては「ここに自衛隊がいると、相手にとって都合の悪い島」に配備計画を進めるしかありません。
さて、そこで離島に配備される、あるいは既に配備されている部隊の役割についてですが、現実問題としては上陸、あるいは空挺降下してきた「敵」に対して、積極的な防衛作戦「水際防衛」は困難です。
小規模な破壊工作部隊がゲリラ的に活動する程度であれば、「山狩り」のレベルで対処していくこともあるでしょうが、本格的な侵攻作戦を受けた場合、まさか住民を巻き込んだ戦闘を行うわけにもいきません。
事前に侵攻を受けるとわかっていれば住民を避難させておくという手もありますが、わざわざ「ここを攻撃しますよ」と言ってくれる親切な「敵」もいないでしょう。
そうなると攻めてきた「敵」に対して積極的な攻撃を行うことも、反撃で住民が死傷する恐れがあることを考えれば、現実的ではありません。
残るは可能な限り監視を継続することですが、「敵」がそれを許すとも思えないので、侵攻を受けた事実のみ報告して降伏するか、山中に分散して破壊工作などを行う以外の選択肢は無い、となります。
唯一それを防ぐ方法は、空路または海路で接近してくる敵を可能な限り早期に探知し、対艦ミサイルや対空ミサイルで迎撃し、侵攻の意図をくじくしかありません。
だからこそ対馬にはレンジャー、与那国島には監視隊、石垣島と宮古島には対艦ミサイルと対空ミサイルの部隊が配備される、配備されようとしている理由が見えてきます。
離島防衛とは、島に「敵」が到達することを許した時点で、何をどうしようと事態を短期間で収拾するのは困難なのです。
それでも、力及ばず離島が「敵」に占領された場合について。それが尖閣諸島のような無人島であれば、話は簡単です。
2018年に西部方面普通科連隊を基幹として創設予定の上陸戦部隊「水陸機動団」および、中央即応集団の特殊作戦群や第1空挺団、場合によっては海上自衛隊の日本版SEALSこと特別警備隊も参加した、「奪還」作戦が行われることが予想されます。
問題は有人島に侵攻された場合で、「水際防御」がほぼ不可能なことは説明した通りですが、民間人を巻き込めないという意味で「奪還」作戦にも問題が出て来るでしょう。
仮に「敵」が住民を人質に取らない場合でも、あるいは普段通りの生活をさせてその中に「敵」の部隊が混ざっているような場合こそ、もっとも「奪還」をしにくいと言えます。
そうなると可能なオプションはほかに「圧倒的な戦力で包囲」もありますが、住民を巻き込むのを恐れて攻撃できない状況では、包囲してもそれほど意味はありません。
残るは「封鎖」くらいで、周辺を完全に包囲して「敵」を孤立させた上で、食料や医薬品など人道的な援助を日本側が主導権を持って行うくらいしか、できることは無いでしょう。
1982年のフォークランド紛争では激戦の中で島民にも3人の犠牲者が出たそうで、紛争後に住民による民間防衛組織が立ち上がるなどかえってイギリスへの帰属意識と愛国心が高まったとも言われますが、同じ状況を日本で期待するのは酷な話です。
By Roger Smith from USA – 2015-10, パブリック・ドメイン, Link
そのような「将来の戦場」において、F-35Bに求められる役割は何でしょうか。
無人島の奪還作戦であればこれはシンプル、「敵」侵攻部隊への攻撃から制空戦闘まで、多様な上空支援任務が可能です。
ただし、そのような無人島(尖閣諸島や沖の鳥島、南鳥島など)は大抵、離れ小島ですから、いずも級護衛艦から発着するしかありません。
有人島の場合、前項で書いた通り長期間の「封鎖」による外交的解決、あるいは「敵」侵攻部隊の降伏以外の手段が無いとなると、仮にF-35Bを導入したとしても封鎖を徹底するための監視飛行、場合によっては飛行禁止区域に侵入した飛行機を撃墜する必要もあります。
それが先島諸島のように周辺の島に空港のある場合は、そうした空港と「いずも」級を組み合わせて、もっとも効率的なミッションを行うことが最適でしょう。
そうした任務では、那覇基地から飛んでこなければいけないF-35Aより、護衛艦や、短い滑走路しかない離島の空港からでも運用できるF-35Bにも大きな意味が出てくることに。
ただし、F-35Bは短距離/垂直離着陸を実現するため超高熱のジェット排気を滑走路に叩きつけますから、そのような運用を想定する場合、滑走路の耐熱舗装工事が必要になってきます(米海兵隊のF-35Bが配備された岩国基地は改修済)。
与那国、石垣、波照間、多良間、下地、宮古といった各島の空港でそうした改修がいずれ行われたら、F-35Bが有事には展開する基地ということになり、定期便が発着しない空港から行われるのではないでしょうか。
それに合わせて、有事には離島空港を早急に前線基地化できる機動力を持った、設備や整備関連の部隊も編成されると思われます。
物心付いた時には小遣いで「丸」や「世界の艦船」など軍事情報誌ばかり買い漁り、中学時代には夏休みの課題で「日本本土防空戦」をテーマに提出していた、永遠のミリオタ少年。撤退戦や敗戦の混乱が大好物で、戦史や兵器そのものも好きだが、その時代背景や「どうしてこうなった」という要因を考察するのが趣味。
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