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2017/08/6

菅野 直人

軍事学入門(8)「徴兵制と国民皆兵の違い~兵役強制の条件」

戦争を、軍事を理解し、そこに自分の意見を持つためには学んだ方が良い「軍事学」。
 
なぜ人は、国家は戦争という手段に訴えるのか?そこに兵器や軍隊があるから戦争になるのか?前回は2回に渡って「戦争とは切っても切れない地理的要因」という話を紹介しましたが、今回は前回ともちょっと関係ある話……徴兵制と国民皆兵制度の必要性と、その違い。

戦争が起きるかも?!徴兵されちゃうかも?!


太平洋戦争に負けてからここまで、日本は戦争と無縁な平和国家だと思われてきました。
 
実際にはまだ連合国の占領下にあった時代には朝鮮戦争に関わり、冷戦時代やベトナム戦争でも米軍機がバンバン日本を基地に飛んでましたし、日本自身も湾岸戦争以降は割と積極的に海外に展開し、今や海賊対策のため海外基地(ジブチ)すら持ってます。

幸い、周りを囲んでいる国が一癖も二癖もあるような国ばかりなので、かえって自らの本土が巻き込まれるような戦争にだけは巻き込まれずに済んできましたが。

しかし、最近は北朝鮮や中国ともしかしたら戦争になるかもしれない、そうなれば自衛隊なんか人数が少ないから、アレコレと理由をつけて徴兵制度をつけて、若い衆をなりふりかまわず無理やり「ヘータイ」にしちゃうに違いない!
過去の歴史的経緯を考えてしまうと、そう思うのは無理からぬことです。

実際に一部とはいえ本土が地上戦の戦場になり、無差別爆撃や核攻撃で多くの犠牲を払ってまでなお「いやいや国が行けというのですから兵隊に」などと言われても、反対して当然でしょう。
ただ、その前に「ヘータイ」にされる制度というのはどのようなものか、一度考えてみてもいいかもしれません。

徴兵制度とはちょっと違う「国民皆兵制度」


たぶん、「みんなヘータイにとられちゃう!」と心配になる人のイメージは、「国民皆兵制度」だと思います。
 
これも徴兵制ありきなので、徴兵制とつなげて考えるのは間違いではありませんが、ここで注意なのは「徴兵制=国民皆兵制度では無い」ということです。

国民皆兵制度というのは読んで字の如くで、「国民みんなでこの国を守ろう!」という制度で、身体的事情など特別な理由がある以外、基本的には国民全員が一度は軍務につきます

もちろん、志願して職業軍人になり士官など管理職(指揮官)コースを選ぶ場合もあるでしょうから100%兵士とは限りませんが、いずれにせよ誰もが一度は軍人として登録され、実際に軍役につき、満期除隊後も予備役として戦争の時は招集されます。

国民皆兵制度が採用されるのはどんな国?


こうした制度が採用されるのは、基本的に強力な外敵(仮想敵国、あるいは戦争状態が解除されていない敵国)と隣接している上に逃げ場が無く、戦争で最悪の場合滅ぼされてしまう可能性がある国が多いです。

その上で相手に対して人口が限られている場合はなおさらで、戦争で誰の味方もしない代わり、誰の味方も頼めない中立国ならば、まず国民皆兵を採用することで「国民みんなで頑張って独立を維持しようね」となります。

スイスなどその典型的な例で、周辺各国と常に微妙な関係にあるイスラエルや、北朝鮮と今でも公式には休戦していない韓国も同様です。

徴兵制は国民皆兵では無いのか?


これに対し、単なる徴兵制で国民皆兵制度まで導入していない国は、ちょっとパターンが異なります。
 
まず徴兵検査を全員受けるとは限りませんし、受けたところでまずは兵士としての適性を見られるだけで、そこから人件費の予算内で適性のある人材を選抜、指名するのが徴兵制だと思った方がいいでしょう。

その場合でも指名されれば必ず徴兵されるわけではなく、例えばかつてのドイツ(西ドイツ)のように「良心的兵役拒否権」を認め、徴兵される代わりにちょっと福祉施設や消防活動などでちょっと長めの奉仕活動を要求されるケースもあります。

要するに徴兵制だから兵隊になると決まったものではなく、徴兵制ならばその中身が問題になってくるわけです。

なぜ志願制ではなく徴兵制が必要なのか?


しかし、最近では前述のドイツも含め、世界各国で徴兵制度は減少傾向です。

なぜかと言えば、よく言われるような「今の兵器はハイテクだから強制的に徴兵した者に任せられない」というわけではありません。

軍隊というのはどんな人間でも何かしら仕事があるもので、ハイテク化したからついていけない人は仕事が無い、そんなわけは無いからです。

実際には人件費の問題があり、志願兵ですら試験でふるいにかけているような状況で、徴兵で余計な人員を抱え込む予算的余裕が無いからだと思って良いでしょう。

それでも徴兵制が残る国は、よほど仕事が無くて人が余っている上に戦争や内戦ばかりしている国か、逆に兵隊のなり手がいなくて徴兵せざるを得ない上に、そんな制度があっても選挙で負けない国です

日本の自衛隊は志願性だけでやっていけるか?


さて、わが日本でのケースですが、確かにかつては徴兵制がありました。これから徴兵制が復活する可能性は無いのでしょうか?

そこはちょっと結論の出し方が難しいところで、今現在の話で言えば自衛隊の定員は幹部(将官や士官)、准尉(士官に准ずる)、曹(下士官)といった、指揮官クラス(幹部)と現場監督クラス(准尉や曹)は90%以上の充足率です。

ただし、現場作業員クラスたる士(兵士)の充足率が75%というのはちょっと心もとない数字。

各国の軍隊で言えば予備役に当たる予備自衛官(即応予備自衛官、予備自衛官補を含む)も含めれば一応定員に近くなるのかもしれませんが、必要な技能や階級にある人間の不足が起こらないか、少々心配ではあります。

ただし、2011年の東日本大震災まで予備自衛官が実際に実戦招集(定められた訓練招集は別)されたケースは無いので、このレベルの国家的危機にならなければ必要は無いということなのかもしれません。

将来の日本で徴兵制は復活するか?

しかしそれも、「少子高齢化による若者の減少」で人材不足になるかと思えば、「人材不足による賃金上昇」でかえって予算が足りなくなるかもしれませんし、「ハイテク化による省力化」で人員削減というケースもあります。

その一方で、少子高齢化による福祉施設や消防団の維持困難も予想されますから、そういった方面でのボランティア義務という選択肢含みの徴兵制が施行される可能性ならば、皆無では無いでしょう。

将来の日本で不可避となっている少子高齢化社会では、兵役に限らず「どれかは選択させるので強制的に奉仕」が若者に求められる時代が、あるいは来るのかもしれません。
 
例えばある災害現場で、災害派遣された自衛隊員も、対応に追われる消防団も、避難所で高齢者などの世話をする福祉要員にも、招集された結果その道をを選択した若者が含まれるという、未来もありえるのでは?
 
せめてそういう時代が来た時は、どれを選択するにせよ、若者がそれを選んで良かったと思えるような制度を設けてほしいですね。

菅野 直人

物心付いた時には小遣いで「丸」や「世界の艦船」など軍事情報誌ばかり買い漁り、中学時代には夏休みの課題で「日本本土防空戦」をテーマに提出していた、永遠のミリオタ少年。撤退戦や敗戦の混乱が大好物で、戦史や兵器そのものも好きだが、その時代背景や「どうしてこうなった」という要因を考察するのが趣味。

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