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2017/07/1

菅野 直人

軍事学入門(7)「軍事力から離れたいのに離れられない~地理的要因(2)~最強の迷惑緩衝国」

戦争を、軍事を理解し、そこに自分の意見を持つためには学んだ方が良い「軍事学」

なぜ人は、国家は戦争という手段に訴えるのか?そこに兵器や軍隊があるから戦争になるのか?

前回は地理的要因でどうしても戦火に巻きこまれる「緩衝国」について説明しましたが、その独立を保つため緩衝国自体が強力な軍備を持つ場合について。

攻め込まれる運命ならば、抑止力を強化すればいいじゃない?


前回はベルギーやイラン、タイなどを引き合いに出し、敵対的国家の間で直接国境を接しなくて済む手段として独立を許された「緩衝国」について説明しました。

そうした国は、平和な期間はその平和を維持するため重要な役割を果たす反面、いざという時には好むと好まざるとに関わらず、どちらからか攻め込まれる運命にあります。

そのために戦争になりそうな国の間を取り持ったり、距離を取ったりと緩衝国自体も戦争回避のため努力はしますが、大抵は空しい努力で終わることに

それならばいっそ、そこに攻め込もうなどという気を起こさないよう、緩衝国自体が強大な軍備を持てばいいじゃない?そういう発想も、あるにはあるんです。

実は難しい、緩衝国の軍備強化


さて、そうなると緩衝国の軍備強化にはどのような手段があるでしょう?


(1)国境を接するいずれかの国から兵器など装備を購入する。
(2)同、第三国から購入する。
(3)同、自主開発する。

 
この3つのパターンが考えられます。

弾薬や整備、技術指導などアフターサービスまで含めれば
(1)が有望なのですが、例えばA国からだけ武器やその整備・運用について頼ってしまうと、その国と敵対関係にあるB国からよく思われません

緩衝国としての枠割を果たしていないと非難される場合もありますし、実際にA国に軍事力を事実上掌握されてしまう恐れもあります。そこでB国や第三国からも兵器や装備を購入することで、一方に肩入れしているわけではありませんよ、と姿勢を示す必要が出てきます。

(2)はそうした事態を回避できますが、いざという時に必要な弾薬や部品の入手に難が出る可能性がある上に、国境を接するA国からもB国からも恨まれたり、第三国とA国またはB国との関係によっては、結局(1)と同じ問題が起きます。

(3)は理想的ですが、輸出しないと生産数の少ない製品(兵器や弾薬)は高価になりがちですし、だからと輸出に精を出すと他の国とは商売敵に。

結局、どれに偏ってもいけないということで大抵は(1)~(3)をミックスした手法を取る場合が多いようです。冷戦時代のフィンランドや旧ユーゴスラビア連邦がその典型的なパターンで、中立国時代のスウェーデンもそれに近いものがありました。

たまにトンデモ無い軍備を行いだす緩衝国もある


しかし、中には良好な関係を保ち事実上その国の衛星国のようになっていたA国が衰退、さりとて敵対していたB国と関係を強化するわけにもいかず、いつの間にか独立独歩の緩衝国になってしまった上に、軍備も自前で増強しなければいけなくなった国もあります。

そうした国では、そもそも誰もマトモな支援を行わないので、とても陸海空とマトモな軍備を揃えるわけにはいかず、仕方が無いので「核戦力」に一点集中。「ウチに手を出した日にはどうなるかわかってるよね?」と、ひたすら周囲を脅し続ける場合もあります。

ここまで書けばどの国かわかると思いますが、北朝鮮のことです。
旧ソ連崩壊後は中国の保護国のように思われており、今でも中国はそう思っているかもしれませんから、
「北朝鮮って中国の属国でしょ?」と思っている人もいるでしょうし、あるいはそれも真実かもしれません。

しかし、核戦力や弾道弾の技術開発に成功してしまい、今や中国の影響下にあるのか怪しく、中国をはじめとする周辺諸国を非難し、アメリカですら核攻撃の対象から除外しないとすら言い張る北朝鮮は、誰も積極的に攻撃できない国となってしまいました。

むしろ米中露および周辺各国が共同で平和維持すべきかどうすべきかと思い悩む始末で、結果的にはそれらの国が争ってる場合ではなくなり、妙な形で緩衝国としての役割を果たしています。

あまり強大すぎる緩衝国は迷惑ながら、どうしようも無い


北朝鮮としてもそれを自覚しているので、「瀬戸際外交」と言われる戦争ギリギリのところで独立を維持しているのですが、周辺国家にとっては良い迷惑です。

北朝鮮に備えた軍備を持つ日本にせよ、韓国にせよ互いに相手にとってその軍備が脅威になってしまっていますし、中国やロシアにとってもこの2国の軍備強化は面白くありません。

さりとて日韓の後ろにいるアメリカはこの2国を最前線基地として重要視しているので表立って反対できませんし、結果として中露への牽制にもなるからいいかと考えている節があります。

ならば中露がもっと北朝鮮をコントロールできるかと言えば、あまり露骨に影響下に置いても、事実上韓国と地続きで国境を接している状態になり、北朝鮮の存在意義が薄れますし、もちろん意義が薄いからと潰すわけにもいきません。

では韓国にとって北朝鮮など無くなってしまえばいいかと言えば、代わりに中国やロシアと国境を接するのも御免こうむりますし、日本にとって見れば北朝鮮消滅後は韓国の仮想敵国が日本、ということになりかねないのです。
結果、周辺各国は誰もがワーワー騒ぎながら、誰も何もできない事態に陥っています。

一番戦争の原因になりそうな国を放っておくのが、一番戦争にならなそうだという妙な緩衝国、北朝鮮がある限り、誰にとっても「戦争と隣り合わせの平和」が続くことでしょう。

最後は日本周辺の話になってしまいましたが、朝鮮半島はそれこそ大和朝廷の昔から似たような状況にありますし、「戦争と地理」を語る際の格好の材料ということです。次回は「徴兵制と国民皆兵の違い~兵役強制の条件」についてお話します。

菅野 直人

物心付いた時には小遣いで「丸」や「世界の艦船」など軍事情報誌ばかり買い漁り、中学時代には夏休みの課題で「日本本土防空戦」をテーマに提出していた、永遠のミリオタ少年。撤退戦や敗戦の混乱が大好物で、戦史や兵器そのものも好きだが、その時代背景や「どうしてこうなった」という要因を考察するのが趣味。

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