- コラム
軍事学入門(7)「軍事力から離れたいのに離れられない~地理的要因(2)~最強の迷惑緩衝国」
2017/07/1
菅野 直人
すごいー! たーのしー!
2017/06/10
菅野 直人
戦争を、軍事を理解し、そこに自分の意見を持つためには学んだ方が良い「軍事学」。なぜ人は、国家は戦争という手段に訴えるのか? そこに兵器や軍隊があるから戦争になるのか? 今回は地理的要因から避けられない戦争についてご紹介します。
戦争の要因について、ここまで外交や経済に関わる話をしてきました。
しかし、それらと関係があるか無いかに関わらず、戦争に巻き込まれざるをえない時もあり、それが「地理的要因」です。どういうことかと言えば、大きく分けて2種類あります。
どちらもひどい話ですし、両方兼ねている場合もあるのですが、それぞれのケースについて説明しましょう。
まずは「通った方が近い国」から。
「ある国が他の国に攻め込む時に、そこを通った方が近いから」という理由で実際に2度も世界大戦に巻き込まれた国と言えば、有名なのはベルギーです。
もともとベルギーはともにネーデルラント連合王国を形成していたオランダから独立するに際して、1839年のロンドン条約で永世中立国を宣言していました。
それにも関わらず第1次世界大戦ではフランスの早期撃破を図るドイツ軍に侵攻されて、ほぼ占領されてしまいます。
それにこりて同大戦終結後はフランスの軍事協定を結びますが、1936年に再び中立政策に回帰。
しかし第2次世界大戦でフランス侵攻が始まると、今度こそフランスを殲滅しようとするドイツ軍に再び侵攻され、今度は完全に占領されてフランスも崩壊してしまいました。
さすがにその後は「よほど侵攻するのに便利な国」と自覚したのか中立を放棄し、現在はNATO(北大西洋条約機構)に加わっています。
なぜこんなことになるかと言えば、本当に「ベルギーを通れば便利だから」の一言です。
似たような例は第2次世界大戦のイランもそうで、ソ連南部への補給路確保のため、イギリス軍とソ連軍に侵攻されてしまいました。
そうした国は、本来は仲が悪い国同士がちょっとした小競り合いを原因に戦争まで発展しないよう、直接国境を接しないために独立しているケースもあります。
特に理由も無いのに、ちょっとした撃ち合いがいつの間に大戦争に発展していた、というのは誰にとっても大損なので、国境さえ接していなければ原因不明の戦争だけは避けられる、そんな理屈ですね。
そうした国は「緩衝国」と呼ばれ、ベルギーなどはまさに19世紀のヨーロッパ列強各国からそうした役割を期待され、中立国家として独立を許されました。
同じような例はアジアにもあり、周囲をイギリス・フランス・オランダの植民地に囲まれている中、それらが衝突しないよう配慮された緩衝国だったので、タイは古くから独立を維持しています。
しかし、緩衝国であることは同時に「仲の悪い国に挟まれた国」であることを意味します。
おまけに、たいていの場合は「どちらにとってもそこを通って侵攻するのに便利」であるがゆえに、どちらの国からも独立させているわけです。
そのため、戦争する気さえ無ければどちらの国も緩衝国の独立を尊重しますが、本気で戦争する気になった場合は「その国を通れば有利なので」遠慮なく攻め込みます。
第1次世界大戦・第2次世界大戦のベルギーや、第2次世界大戦のタイ、イランはまさにその好例でしょう。
それなら通りたい国には勝手に通ってもらい、勝手に戦争してもらえば良いのでしょうか?
もちろん、それで攻め込まれる国にとってはたまったものではありません。
相手がそこを使わなくても「予防占領」してしまう場合もあり、第2次世界大戦でイギリスに占領されたアイスランドはそのケース。
そうした事態を避けたいので、緩衝国の側も平時から特定の国に肩入れしないようにしたり、なるべく戦争から距離を置こうとするのですが、大抵は無駄な努力で終わるのでした。誰だって戦争になれば勝ちたいですし、勝つために有利になるなら何だってしますからね。
以上、今回は緩衝国について説明しましたが、「それなら緩衝国自体が強力な軍備を持てば攻められないんじゃない?」と思うかもしれません。
ある程度はその通りなのですが、それも度を越すと別な戦争の原因に……というのは、次回のお話です。
物心付いた時には小遣いで「丸」や「世界の艦船」など軍事情報誌ばかり買い漁り、中学時代には夏休みの課題で「日本本土防空戦」をテーマに提出していた、永遠のミリオタ少年。
撤退戦や敗戦の混乱が大好物で、戦史や兵器そのものも好きだが、その時代背景や「どうしてこうなった」という要因を考察するのが趣味。
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