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2017/05/28

菅野 直人

軍事学入門(5)「軍事と経済の密接な関わりその2~経済問題解決に軍事を使う理由」

戦争を、軍事を理解し、そこに自分の意見を持つためには学んだ方が良い「軍事学」。なぜ人は、国家は戦争という手段に訴えるのか?そこに兵器や軍隊があるから戦争になるのか?

前回は経済がどう軍事に関わるか、なぜ経済的問題で戦争につながるかを解説しましたが、今回は「経済的問題を軍事によらず解決できないのか?」をご紹介します。

商売で儲けようと思ったら、大事なことは何か?


ザックリ言ってしまえば、経済とは「商売」であり、いかに儲けを出していい暮らしをするかが問題になります。では、儲けを出すためにはどうしたらいいでしょうか? いい製品を作れば売れますか? 安く買い求めやすい製品を作れば売れますか?

そもそも、いい製品で安く買い求められれば誰もが買うからそれで問題無いのでは?

しかし、それより大事な問題が「その製品を売らせてもらえるか」です。
どれだけ良い製品で、それを売って欲しい人がたくさんいたとしても、そこで商売をする許可をもらえなければ何もなりません。

日本は第2次世界大戦後、1950年に始まった朝鮮戦争による「朝鮮特需」で経済的復興のキッカケをつかみ、1960年代以降は品質も向上して世界中で製品やサービスを売りまくりました。

それがなぜ可能だったのかと言えば、アメリカを中心として、主に資本主義国家で構成された「西側世界」に日本が組み込まれていたからです。

その西側世界は共産主義国家で構成された「東側世界」に対して常に軍事的拮抗を守り、結果的に大戦争が起こることも無かった自由経済の中で「安い製品やサービスを売りさばく」ことに専念しました。

その利益を使って「安くて良い製品」の開発に成功したことで、経済大国に成長していったわけです。

そしてその根底には、「西側世界」に日本を留め、「東側世界」に対する最前線国家として、常にある程度の反映してもらわないと困るという、アメリカの事情もありました。
もちろん、常にアメリカが1番であるのは言うまでもありませんが。

純粋な経済力で、経済的繁栄を謳歌することは可能だったか?


もしそこでソ連をはじめとする「東側世界」との対立が無かった場合、日本は1990年代はじめまでの経済的繁栄を得ることができたでしょうか?

もしも朝鮮戦争が無く、アメリカとソ連が対立せず、従って日本が西側世界の最前線である必要も無い世界なら、どうだったでしょうか?

まず朝鮮特需はありませんから、経済的浮上のキッカケをつかむのはだいぶ遅れたでしょう。既に1950年当時、連合国占領下にあった日本にはある程度の経済活動が承認されてはいましたし、貿易も再開されてはいましたが、それはあくまで「占領下日本の運営に必要な範囲」です。

つまり、当時の日本は一時的にはありますが独立国家とは言えない、事実上アメリカの保護国でした。重ねて言えば、第2次世界大戦は1945年9月2日に日本の無条件降伏で事実上終結していたとはいえ、戦争終結を意味する平和条約の締結が為されていないため、正式には戦争が終わっておらず、独立も認められていません。

独立したばかりの韓国(大韓民国)から対馬の割譲を要求されるほど弱体化しており、国際的立場など無いも同然だったのです。
朝鮮戦争の勃発で全てが変化したとはいえ、それが無ければ1952年のサンフランシスコ平和条約発効による、大日本帝国後継国家としての日本国の再独立もだいぶ遅れたでしょう。

ある意味、世界が「西側」と「東側」に分かれて軍事的対立が始まったこと(冷戦)、そして日本がその対立の最前線になったこと。
そして、実際に朝鮮戦争で軍事的衝突が起きたこと、対立の激化で「東側抜き」での平和条約締結と、再独立が早まったことが、国際舞台早期復帰に繋がったと言えます。

それが無ければ、独立もままならない日本が各種製品の国際市場に再参入するのも遅れ、アメリカや他の西側諸国に対する立場はずっと今の「新興国」に留まっていたかもしれません。
つまり軍事的対立の無いところに経済力は必要とされず、今の経済的繁栄は無かった可能性すらあります。

揺らぐ軍事的バックボーンの中で、経済的繁栄は続くのか

1990年代はじめのバブル崩壊と、それに続く少子高齢化によって日本は短期的好況はともかく、長期的には構造不況に突入して2017年に至っています。
その背景には

・ 冷戦終結により日本の重要性が低下し、アメリカにとっては負担が重く、
     1990年代前半以降はむしろツケの取立てに回っていること。

・ 中国がその軍事力を背景とした経済的台頭を成し遂げたことにより、
アメリカにとっては対立すべきかビジネスパートナーとなるべきか、未だ結論が出ていないこと。

・ それまでアメリカの軍事力と日本の経済力の影響下にあった国々で、
いずれも中国の影響力が強まっていること(ヨーロッパですら例外ではありません)。

 

こうした複数の要因の背景には、それまで日本の後ろ盾となっていたアメリカがかつてのような超大国では無くなってきている、より深く突っ込めば軍事的影響力の低下という問題があります。

今はまだその影響力を行使しようと努力しているアメリカですが、年々その軍事力維持が困難になっているのが実態で、
その影響で台頭した中国により、日本企業が「かつてのように、国際市場で物を売れなくなりつつある」という現象が起きています。

まとめ

最初の話に戻りますが、経済的繁栄のためには「製品を売らせてもらう」、この大前提が維持されていなければ、どれだけ良い製品を作ったところで意味がありません。

そして、製品を売らせてもらうためには、その製品を売る市場に対して自国、あるいは同盟国による軍事的影響が及んでいるか、最低でも特定の国の強い影響下に無いことが求められます。

そうでなければ、仮に市場に参入できても何かよくわからない理由で受注を失うことも(近年ですと、インドネシアでの新幹線建設を中国に逆転受注されたのは典型的な例でしょう)。

「良いものを安く売る」も商売の大前提ではありますが、まず商売をやらせてもらえる環境が無ければ話にならず、その環境のためには軍事力が陽に陰に重要な役割を果たす。
もちろん経済的繁栄など不要だから軍事力もいらないという考え方もあるでしょうが、地理学的問題でそうもいかないケースもあります。

そんなわけで次回も日本を例に「軍事力から離れたいのに離れられない~地理的要因」をご紹介します。

菅野 直人

物心付いた時には小遣いで「丸」や「世界の艦船」など軍事情報誌ばかり買い漁り、中学時代には夏休みの課題で「日本本土防空戦」をテーマに提出していた、永遠のミリオタ少年。撤退戦や敗戦の混乱が大好物で、戦史や兵器そのものも好きだが、その時代背景や「どうしてこうなった」という要因を考察するのが趣味。

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