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2017/05/6

菅野 直人

懐かしの仮想戦記名タイトル(4)~クライマックスは英ソ空母同士の砲撃戦! 「レッド・デルタ浮上す」

1970年代後半から1980年代冷戦末期にかけて、「第三次世界大戦もの」の仮想戦記が流行しました。日本であれば攻めてくるソ連と自衛隊の激しい戦いを描くものが多かったものですが、海外モノで日本でも刊行されたのは一言で言えば「米軍大活躍」。
 
その中でイギリスを中心とした英米仏連合機動部隊による南米沖決戦を描いたのが、ジャン・アレン・プライスによる「レッド・デルタ浮上す」でした。

本人たちも気づかぬまま、第三次世界大戦の危機を呼んだソ連原潜


物語の舞台は、1つ1つは小規模な事件ながら、積み重なることで西側・東側世界の緊張感が高まっている状況で突如大西洋に浮上した、1隻のソ連原潜。

一部乗員の反乱で西側への亡命を求めて救援信号を発しましたが、第三次世界大戦が始まりかねない世界情勢など、政治将校の戯言に過ぎないと考えていた彼らの行動は、一歩対応を誤ればソ連に第三次世界大戦への口実を与えかねない暴挙でした。

なぜなら、彼らが乗っ取ったのはSLBM(潜水艦発射型弾道ミサイル)を搭載する原子力弾道ミサイツ潜水艦の最新型、プロイェクト667BDRM
NATOコードネーム「デルタIIII型」と呼ばれるその潜水艦は、ソ連の核戦力に大打撃を与える軍事機密の塊だったのです。

西側は突如目の前に浮上した「ありがたいけど迷惑な気がする軍事機密」に困惑しつつも、奪還もしくは撃沈を図るソ連軍から逃れるため、南米ホーン岬経由でアメリカ西海岸への回航を決定。
 
ただし、本当に第三次世界大戦の引き金とならないよう、あくまで極秘で護衛戦力も最小限。

大西洋で活動していた西側艦隊から英空母「イラストリアス」、米原子力ミサイル巡洋艦「アーカンソー」、仏原子力攻撃潜水艦「カサブランカ」の3隻のみ。
デルタの脱走に気づいたソ連軍もまた、人知れず彼らを葬り去るべく行動を開始するのでした……

英国面に堕ちているなら大喜びする展開の数々!

HMS Illustrious (AWM 302415).jpg
By Australian armed forces – This image is available from the Collection Database of the Australian War Memorial under the ID Number: 302415
Commons:Licensing for more information.
パブリック・ドメイン, Link

 

この物語はなんといっても主役が英空母であるということで、シーハリアーFA2を搭載した「s」以外にも、英国面に堕ちた人なら喝采を叫ぶような展開の連続です。
 
まず、回航中にもデルタを調査すべく、イギリスからやってくる専門家の到着時間を聞いたアセンション島(大西洋の孤島)の担当者が「そんな早く、どうやってくるんだろうな?」と疑問に思っていると、飛んでくるのがいきなりコンコルド!
1980年代末期の話ですから、英仏の誇りとしてまだまだバリバリ現役な頃ですね。

そして南大西洋を南下してホーン岬に向かうならば、途中でフォークランド諸島駐留の英軍が支援しますが、そこにアルゼンチン駐在のソ連大使が「フォークランド紛争での恨みを晴らすチャンスですよ」と焚きつけます。
早速出撃するのは当時まだ現役だったアルゼンチン空母「ベインティシンコ・デ・マヨ」。

それに対して阻止行動のためポート・スタンレーを出撃する英空軍のブリティッシュ・ファントム。
ここでアルゼンチン軍を抜かりなく出してくるあたり、マイナー軍マニアにとっても嬉しい展開です。

シーキングAEWが一番大活躍する小説では?

Sea King - RNAS Culdrose 2006 (2579347455).jpg
By Tim Felce (Airwolfhound) – Sea King – RNAS Culdrose 2006, CC 表示-継承 2.0, Link

南米チリ沖の東太平洋南部では、長駆出撃してきた空母「ミンスク」を基幹とするソ連艦隊を雌雄を決するのですが、お得意の対艦ミサイル同時攻撃に対して、西側連合軍側は原子力ミサイル巡洋艦「アーカンソー」と英空母「イラストリアス」のシーハリアーが頼り。

イージス艦無しで対抗できるのか…と手に汗握るところですが、そこでソ連軍指揮官が発狂せんばかりに対艦ミサイルを叩き落とすアーカンソーを支援するのが、イラストリアスのシーキングAEWです。
フォークランド紛争の戦訓で開発されたAEW(早期警戒)ヘリコプターですが、これが大活躍する仮想戦記というのは、なかなか無いのではないでしょうか。

そしてブリテンばかりに任せておれんとばかりに、アーカンソーもスタンダードSAMから主砲まで全火力をフル動員してソ連の対艦ミサイルを次々に撃墜する大活躍!
もちろんシーハリアー対フォージャーの英ソ航空戦力激突も見逃せません。

クライマックスは何と英ソ空母の砲撃戦!

数次に渡るソ連艦隊からの攻撃に対し、何とか軽微な損害で乗り切った西側連合艦隊ですが、最後に米機動部隊来援までの時間稼ぎ、そしてソ連艦隊への決定的な打撃を与えるために奇策を用います。

罠に引っかかったふりをして、2機のシーハリアーを載せて離脱するアーカンソー、降伏勧告を突きつけるため接近してきたソ連空母ミンスクに対し、イラストリアスの舷側には米英の海兵隊が決定的瞬間を待って待機。

英空母から伸びるブローパイプ(英海兵隊の携帯対空ミサイル)に叩き落とされるフォージャー、大混乱に陥ったソ連軍機の編隊につかみかかり、次々とロックオンをかける2機のシーハリアー。
そして英空母の舷側に陣取った米海兵隊が次々と放つ、カール・グスタフ(無反動砲)の砲弾がミンスク最後の76mm砲塔を吹き飛ばすと同時に、勝負は決しました。

何とクライマックスは英ソ空母同士の砲撃戦! いえ、「接舷戦」に近いかもしれません。
まさに「ご先祖は海賊」たるイギリス海軍らしい展開に、英国面に堕ちた諸兄なら感涙間違いなしであります。

第三次世界大戦モノというと原子力空母やイージス艦が大活躍するハイテク戦争のイメージが強いのですが、イギリス軍を中心にすると一味違った展開になる、そんなブリテン風味バリバリな仮想戦記「レッド・デルタ浮上す」でした!

レッド・デルタ浮上す (光文社文庫―海外シリーズ)

菅野 直人

物心付いた時には小遣いで「丸」や「世界の艦船」など軍事情報誌ばかり買い漁り、中学時代には夏休みの課題で「日本本土防空戦」をテーマに提出していた、永遠のミリオタ少年。
撤退戦や敗戦の混乱が大好物で、戦史や兵器そのものも好きだが、その時代背景や「どうしてこうなった」という要因を考察するのが趣味。

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