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2017/03/21

菅野 直人

駄作兵器を傑作にしてみせよう! 「パンジャンドラム」

世の中の駄作兵器に、活躍の可能性は無かったのか?ちょっとエンジンがダメとかそういうレベルならともかく、コンセプトからしてどうにもならない兵器を、何とかモノにしてみないかと頭をひねってみるこのシリーズ、最初は駄作兵器の王様、パンジャンドラムです。

あまりにも有名ですが「パンジャンドラム」とは何?

Grand Panjandrum IWM FLM 1627.jpg
By British Government –
This is photograph IWM FLM 1627 from the collections of the Imperial War Museums.
, パブリック・ドメイン, Link

単なる駄作兵器というだけではなく、あまりにも駄作でどうしようも無い、何でこんなものを作ったんだ責任者出てこい!というレベルであり、ネタとして漫画その他でも多用されることから超有名なパンジャンドラム。

第二次世界大戦中の連合軍が、いずれ行うべきヨーロッパ大陸への反攻において、きっとドイツ軍が上陸敵地に障害物や陣地を多数構築するだろうから、それを上陸当初に破壊してしまおう、と考えられたビックリドッキリメカです。

基本的には単純明快なコンセプトで、糸巻き車、あるいは今の若い人でもわかりやすい例えですと、電線などをグルグル巻にしてまとめるコードリールの形をしています。もちろん糸や銅線が巻かれているわけではなく、その形をしているのが非常に大事。

「芯」の部分には爆薬が入っており、上陸用舟艇などから発進させてゴロゴロと転がっていき、上陸部隊の障害となる陣地や対戦車障害物、鉄条網などを爆破してしまおうという、目的そのものは明快になっています。

問題は、その糸巻き車というか巨大なコードリールを回転させるために、「両輪」の部分に多数のロケットをつけて、その推進力で回そうとしたことでした。

もげるロケット、Uターンして戻ってくるパンジャンドラム

Panjandrum at rest.jpg
By Lieutenant Louis Klemantaski, Royal Navy photographer – Scan of an illustrative plate in “The Secret War”, by Gerald Pawle. page 126., パブリック・ドメイン, Link

テストでは、点火と同時に脱落するロケットが相次ぎ、マトモな推進力を発揮しないことが問題となりました。

海岸の地形は起伏もありますから、海から転がっていって砂浜を駆け上る程度の登坂力と悪路走破力が無ければ話になりません。

そこで、「ロケットが脱落するのはわかった。ではロケットの数を増やせば、多少脱落しても問題が無いんだな?」と考えたわけです。

そもそも脱落自体を解決しなければ、ぶっ飛んでいくロケットが増えるだけとは思わなかったのか?しかも、左右で抜けるロケットの数があまりにも異なると当然左右で推進力の差が出るので、その場でクルクル回ったり、ひどい時にはUターンして戻ってきます。

発射したはずの自走爆雷が戻っていくなど、相手するドイツ軍も見ていて何か気疲れしそうですが。

おまけに、両輪のグリップ、つまり砂浜の上など悪路でキッチリ地面をつかむだけの摩擦力が無いので、ロケットが完調に働けばそれはそれで推進力過多で空転するばかりで、サッパリ前に進みません。

そんなことは作る前にちょっと考えていればわかりそうなものですが、明らかに何も考えていなかっただろう!という勢いで作ってしまったため、「究極の思いつきダメ兵器」として、めでたくパンジャンドラムはお蔵入りになったのでした。

どうすればパンジャンドラムはまっすぐ進めたのか?

The Great Panjandrum.jpg
By Lieutenant Louis Klemantaski, Royal Navy photographer – Scan of an illustrative plate in “The Secret War”, by Gerald Pawle. page 126., パブリック・ドメイン, Link

では、パンジャンドラムは全く成功する可能性は無かったのでしょうか?
上陸時に敵の陣地や障害物を吹き飛ばすという発想自体は、至極真っ当なものですから、コンセプト自体はそう間違ってはいません。

艦砲射撃にしろ空爆にせよ、硬い物だと目標に直撃しないと破壊できないことも多いですし、鉄条網のように爆風を流してしまうものでは無効になります。

そこにパンジャンドラムが突っ込んで鉄条網にからまったところで爆発すれば、工兵が危ない目に遭いながら鉄条網を切断することもありません。

ですから、パンジャンドラムが役に立てば、それなりに役に立ったはずなのです。同じような目的で、ドイツ側は超小型戦車のようなリモコン自走爆雷の「ゴリアテ」を使ってますし(これもダメ兵器でしたが)。

そこで、パンジャンドラムの「両輪」にロケットをつけるのではなく、「芯」の方にロケットをつけ、それなりに出力さえあれば、まっすぐ進んだ可能性は高くなります。少なくとも、推進力が左右でバラバラよりはマシでしょう。

ジャイロを使って直進

4197_02
ただ、タイヤを転がしてもまっすぐ進むとは限らないのと同じで、それなりに真っ直ぐ走らせる工夫は必要になります。ジャイロなり何なりで、走る方向をあらかじめ決めておき、そこから逸れそうになったら片方の車輪にブレーキをかけるくらいの仕組みはあってもいいでしょう。

簡単お手軽な自走爆雷としてはちょっと手間がかかりますし、そもそもジャイロが壊れたらという話もありますが、実用性ははるかに増します。

あるいは、そもそも車輪型をしているのが問題かもしれません。片輪にブレーキをかけたら抵抗ではなくソリのように滑って、かえってコントロール不能になるおそれも。

それなら車輪型をしているのが悪いのであって、いっそのこと最初からソリにしてもいいのかもしれません。

最初から空中を飛ばせば、というのはもっともな話ですが、それだと目標に直撃しないといけないですとか、障害物や鉄条網に引っ掛けて爆破したいという目的は達成できないので、最初からソリにロケットつき爆薬なら、何とかなったのではないでしょうか。

まとめ~自動車爆弾はパンジャンドラムの子孫?~

結局のところ、「小型ロケットモーターを多数つけた両輪」にこだわらなければ何とかなったような気もします。

ただ、あまり手間暇かけた上に構造を複雑にすると、1944年6月に予定されたノルマンディー上陸に間に合わないので、それ以上は無かったことにしてパンジャンドラムは放棄されてしまいました。

最初のアイデアの部分だけどうにかしていれば、ノルマンディーで少しは役に立ったかもしれませんが、「もう量産しちゃったし、それでもいいから投入しよう!」とならなかっただけマシかもしれませんね。

それに、あまりうまくいってしまって、21世紀になっても簡易版パンジャンドラムみたいなものがISISの装備とかに登場しても困惑したかもしれませんし。

というより、もしかしてパンジャンドラムは自動車爆弾の先祖みたいなものでしょうか?

菅野 直人

物心付いた時には小遣いで「丸」や「世界の艦船」など軍事情報誌ばかり買い漁り、中学時代には夏休みの課題で「日本本土防空戦」をテーマに提出していた、永遠のミリオタ少年。
撤退戦や敗戦の混乱が大好物で、戦史や兵器そのものも好きだが、その時代背景や「どうしてこうなった」という要因を考察するのが趣味。

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