• TOP
  • 戦車乗りの死神とは? A-10? Su-25? いえいえルーデルです。

2017/03/10

菅野 直人

戦車乗りの死神とは? A-10? Su-25? いえいえルーデルです。

戦車でも戦艦でも空から飛んでくるものには大抵かなわないことになっていますが、中でも戦車にとっての対戦車攻撃機は悪夢です。攻撃ヘリみたいにすぐ落ちませんし火力も兵器搭載量も強力ですから、それらが出てこないように味方が制空権を握っていないと大変! しかし、それらを押しのける一番の「死神」といえば、ハンス・ウルリッヒ・ルーデルの右に出るものはいないでしょう。

あたしルーデル、今あなたの上空にいるの

Special Film Project 186 - Hans-Ulrich Rudel.jpg
By Kameramann des Special Film Project 186 der United States Army Air Forces (USAAF) – Screenshot aus Welche Farbe hat der Krieg? Spiegel TV 2000. Teil 2 bei 1:06:42 (VHS), パブリック・ドメイン, Link

アドルフ・ガーランド(後ろ)と共に
 
よくあるジョークのひとつで、「戦場にいて電話がかかってくると怖い人」というジャンルがあります。

その中で、1939年からの冬戦争で活躍したフィンランドの名狙撃兵「シモ・ヘイヘ」や、第二次世界大戦ドイツの撃墜王「エーリヒ・ハルトマン」と並んでよくネタに上がるのが、第二次世界大戦の東部戦線でソ連戦車を撃破しまくり、賞金首までかけられた「ハンス・ウルリッヒ・ルーデル」です。

あなたがもし、当時の東部戦線でソ連軍の戦車に乗っていたとしましょう。無線機からなぜかジリリリンと電話の呼び出し音が鳴り、受信するとこう告げられます。
「あたしルーデル、今あなたの上空にいるの」

さあそこであなたの運命は決まりました。
かすかの聞こえる爆音が迫り、あなたの最後の時が迫ります。

白い雪原を汚すイワンの染み、あたしは許さない…ぷち、ぷち。
無慈悲なルーデルの一撃で、たちまち撃破・炎上するT34/85の群れ。

もちろん恐怖電話の都市伝説「メリーさんの電話」のパクリですが、ルーデルに関してはかなりマジでソ連軍は恐れており、なおかつルーデルの側は平然とソ連戦車を潰し続けました。

そう、撃墜されようとも負傷して入院しようとも、ヒトラー総統に止められようとも。

牛乳飲んで運動して、キミもルーデルになろう! (無理)

4009_01
そもそもルーデルは最初から何かものすごい技術やセンスを持っていたわけではなく、何が目立っていたかといえば、単に牛乳を飲んでひたすら運動しているだけで、他に大した興味も無いという偏屈ぶりでした。

根が単純なのか、空軍学校在学中に急降下爆撃が大好きなゲーリング(ドイツの国家元帥で空軍最高司令官、ヒトラーと古くからの盟友)が訪れた時の演説に感激して急降下爆撃隊に志願。

ほとんどの同期生が戦闘機を志願していたので希望は通ったものの、配属先で煙たがられて偵察機隊に追い出されたところで第二次世界大戦の開戦(1939年9月)を迎えます。

その後フランス戦の末期(1940年6月)にようやく急降下爆撃隊に戻してもらえたものの訓練中でバトル・オブ・ブリテン(イギリス本土航空戦)には参加できず、その後ギリシャでも地中海でも予備パイロットとして出撃させてもらえません。

結局ルーデルの本格的実戦参加は1941年6月のバルバロッサ作戦(ソ連侵攻)からとなり、ほぼ終始、ソ連軍を宿命の敵として戦い続けるのでした。

今はくすぶっているあなたも、牛乳を飲んでひたすら運動していれば、いつかは大活躍できる舞台に巡り合うかもしれませんから頑張りましょう!

Ju87Gを得た大迷惑な悪魔

Bundesarchiv Bild 101I-655-5976-04, Russland, Sturzkampfbomber Junkers Ju 87 G.jpg
By Bundesarchiv, Bild 101I-655-5976-04 / Grosse / CC-BY-SA 3.0, CC BY-SA 3.0 de, Link

写真はJu87G-1
 
戦争が始まって2年近く、何の戦績も無かったルーデルが初めて名を上げたのは、レニングラード戦で僚機とともにソ連戦艦マラートを爆撃、1t爆弾を直撃させて真っ二つにした時でした(ただしマラートはそれでも沈まない不屈の戦艦でしたが)。

以降、ひたすら出撃を繰り返してはソ連戦車に爆弾を叩きつけ続け、半年後には出撃回数が400回を超えたと言いますから、最低でも1日平均2回は出撃していたことになります。

それまでなかなか出撃させてもらえなかった恨みをソ連戦車に叩きつけるように出撃したのですから、ソ連兵にとっては迷惑もいいところでしたが、愛機を爆弾ではなく37mm対戦車機関砲に換装したJu87Gに換装してから、迷惑というより悪夢のような存在に進化します。

Ju87Gは決してハイパワーとは言えない急降下爆撃機Ju87を対戦車攻撃機に改良したもので、操縦性も命中率も優れたものとは言えませんでしたが、頑固一徹打倒イワン(ソ連兵)に燃えるルーデルにしてみれば「近づいて撃てばいい」だけの話。

ソ連戦車を見つけては後方上空に超低空で張り付き、至近距離から一撃して撃破しては旋回して繰り返す。

弾がある限り飛び去る後にはペンペン草も残らない勢いでソ連戦車を撃破しまくり、勲章もたくさんもらいましたが、当然そのような攻撃法では対空砲火のいい的ですし、たまりかねたソ連軍は彼の首に賞金をかけてまで撃墜しようとしました。

休んでいる暇など無い、さあ出撃だ!

4009_02
そのように大人気とも大迷惑とも言えるルーデルでしたから、幾度となく撃墜されます。

それでも敵中突破して帰ってきては出撃しますし、一度など重傷を負って後席銃手のガーデルマンともども野戦病院に入院させられますが、

「休養などとっていられない!さあすぐに出撃だ!」

と、肋骨を3本折っていたガーデルマンをひきずって強行退院して出撃します。

ソ連軍にとってだけでなく、同僚にとってもいい迷惑でしたが、このガーデルマンがたまたま医者でもあったのが良かったのか、ともかくルーデルは出撃を続けました。

ある時など対空砲火で右足を吹き飛ばされたルーデルが、右足を失い出血多量で意識が霞むと訴えるのを「本当にそうだったら飛んでなどいられないでしょう、しっかりしてください。」と妙な励ましをして帰還させているのですから、さすがルーデルの後席です。

結局公式記録では戦車だけで519両、つまりルーデルだけでソ連軍戦車1個軍団を全滅させたような戦果を上げましたが、

「病院から抜け出してコッソリ出撃したので、申告していない戦果もあるらしい」
「ルーデルは入院しているはずなのに、なぜか誰も攻撃していないはずの戦車隊が壊滅している」

といった逸話もあり、実際の戦果がどれほどなのかは不明です。

ひとつだけ確かなのは、あまりに戦果を上げるルーデルのため、そしてルーデルのような猛者がもっと出て欲しいため、12人限定の最高位勲章「黄金柏葉剣付ダイヤモンド騎士鉄十字勲章」が作られ、授与されたこと(キリスト教の使徒数が由来でしたが、結局ルーデルのみ授与)。

そして授与式でヒトラー総統から「撃墜されたらソ連を喜ばせるので、もう出撃しないでくれ」と頼まれ、本当に出撃禁止にするなら勲章などいらない、と総統命令すら拒否して出撃したこと。

そして結局ヒトラー総統すらルーデルのなすがままにさせるしかなく、出撃をひたすら繰り返してついに戦争を生き延びたことです。

その後のルーデル

1945年5月7日にドイツの敗戦を知ると、部隊をまとめて西部戦線のアメリカ軍に向けて飛び立ち、それを阻止しようとしたソ連軍戦闘機を「昨日と今日でそう急に変わってたまるか」と蹴散らして脱出。

降り立ったアメリカ軍基地では「いきなり着陸してきて食事とシャワーを要求した、戦争に負けたくせにえらく態度がでかいドイツ軍将校」に面食らいます。

しかし、ルーデルの経歴を見たところで「ひたすら出撃してはソ連軍を叩き潰した」だけで戦争犯罪も何も無かったため、何ごとも無く釈放されました。

戦後は実業家や登山家として成功を納め、アルゼンチンの経済・軍事顧問、米軍が新型攻撃機の開発をオーダーした時には、名攻撃機A-10を開発したフェアチャイルド社の顧問も勤めています。

1982年12月に亡くなりましたが、その葬儀では戦時中の軍歌が歌われ、右腕を高々と上げるナチス式敬礼が行われる上空では西ドイツ空軍機が訓練名目で追悼飛行を行うなど、「最後まで破天荒な死神」でした。

なお、戦後連合軍の尋問を受けたルーデルが何であれだけ出撃して生き残ることができたのかコツを聞かれると、こう答えたそうです。

「私には、これといった秘訣は無かった」

菅野 直人

物心付いた時には小遣いで「丸」や「世界の艦船」など軍事情報誌ばかり買い漁り、中学時代には夏休みの課題で「日本本土防空戦」をテーマに提出していた、永遠のミリオタ少年。
撤退戦や敗戦の混乱が大好物で、戦史や兵器そのものも好きだが、その時代背景や「どうしてこうなった」という要因を考察するのが趣味。

この記事を友達にシェアしよう!

この記事が気に入ったら
いいね!しよう

サバゲーアーカイブの最新情報を
お届けします

関連タグ

東京サバゲーナビ フィールド・定例会検索はこちら
東京サバゲーナビ フィールド・定例会検索はこちら

アクセス数ランキング