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2017/02/18

菅野 直人

軍事学入門(3)軍事学の観点から見た国家間関係

軍事的視点から見た国家間の関係というものは、経済や外交に関わる関係とはまた異なるのでしょうか?ある時はその延長でもあり、またある時は無関係にある時もあります。

「国家間関係」の例

あるA国とB国がそこに存在した時、そこにはどのような関係がありえるでしょう?
単純に言ってしまえば「友好的」「敵対的」「中立的」この3つのいずれかになります。

中には台湾(中華民国)や北キプロス(北キプロス・トルコ共和国)のように、国家として承認されている例が少ないため、正式な「国家間関係」をとりにくいケースもありますが、だから敵対的であるとは限りません。

名目上の関係と実質的な関係が異なるというケースは往々にしてありますので、より詳細に述べると、いくつかの国家間関係が成り立ちます。

•積極的友好
何らかの必要に迫られて、現在進行形で友好的関係を築いているケース。
日本で言えばアメリカ合衆国がその代表格です。
 
•消極的友好
これも必要には迫られての友好関係なのですが、何らかの事情でやむを得ず、あるいは部分的に友好的関係にあるケースです。日本ですとロシアや中国(中華人民共和国)がその代表でしょうか。
 
•積極的敵対
国家間に埋めがたい溝があり、お互いにそれを譲れない状態にある上に、友好関係を築く理由も無いケースですね。
日本が現状で明確に敵対的関係にあるのは北朝鮮くらいですが。
 
•消極的敵対
歴史的経緯や国民感情などの理由で、それほどメリットも無いものの、何となく友好的になりきれないようなケースで、日本からは韓国がそれに当たるかもしれません。
 
•積極的中立
複数の国との関係で、誰にも味方をしないことを固く決めているようなケースがこれで、世界的代表がスイスです。
時々誤解されますが、中立とは和やかなものではなく、必要とあらば誰もを敵にする覚悟が必要ですし、周辺各国がそれを認める必要もありますので、そう簡単にはなれません。
 
•消極的中立
どの国に対しても中立的な立場ではあるものの、「今は中立」程度で態度を決めかねていたり、国内情勢で手一杯で誰かの味方をしている場合では無いという場合が多いです。
第二次世界大戦中のトルコやスペイン、イランなどがそうでしたが、イランなどはドイツ寄りとみなされてイギリスとソ連に侵攻されてしまいました。

軍事的視点から見た国家間関係は?


ここまでの説明は、外交や経済的視点から見た国家間関係ですが、それでは軍事的にはどうでしょうか?
この場合、単純には「戦争をしているか、していないか」ということになります。

ただし、少しややこしいのが、「戦争をしているからといって外交その他の関係が無い」というわけでは無いことです。

例えばイラン・イラク戦争(1980~1988年)では戦争状態にありながらお互いの大使館を閉鎖せず、代理大使や職員を残していたケースもありました。

また、朝鮮戦争は国連軍と北朝鮮軍・中国軍(中国人民志願軍)の間で休戦協定が結ばれたことで一応の終結を見ましたが、韓国は休戦に署名しておらず、さらにあくまで休戦で戦争状態は終わっていませんが、それでも両国は外交関係を持っています。

さらに、スイスのように軍事的に中立を保っている国家の場合、ある意味では中立を破ろうとする国といつでも戦争をできる状態にもあると言えるでしょう。

軍事同盟の意味


さらに、軍事的同盟(日本で言えば日米安保条約)を結んでいる国家の場合、軍事的には単一の国家というよりも、「同盟を結んだ国家群」とみなすこともできます。

同盟の内容によっては、そのうちの一国が戦争に突入したからといって、必ずしも同盟を結ぶ他の国も戦争に突入するとは限りません。

しかし、「同盟を結んだまま、その同盟国と敵対する勢力につかない」ことが多いため、少なくとも同盟を結んでいる限りは敵対的になりにくいですし、その同盟国家群の一国と戦争になる国は、相手国の同盟国と敵対的になるリスクを負います。

第二次世界大戦以降の日本における具体的事例としては、アメリカがイラクやアフガニスタンに制裁的行動を起こした時、経済・外交面からそれに同調したケースが挙げられるでしょう。

そうした「同盟国家群」の形成によって国防を担保しているケースは、ほかにもNATO(北大西洋条約機構)のケースがありますが、外交的自由度を失うデメリットもあるので、フランスのようにNATOから出たり入ったりを繰り返すケースもあります。

軍事的な「中立」の意味


外交・経済面からの「中立関係」は実弾が飛び交わない分だけ穏やかに見えますし、時には国際的な話し合い、特に明確な外交ルートを持たない二国間の接触の場として有益です

ただし、「軍事的に中立を保つ」というのは難儀なことで、少なくとも周辺各国がその国に侵攻してもメリットは無い、と思わせるだけの軍事力その他の力を持たねば、成り立ちません

その典型的な例がベルギーで、第一次・第二次世界大戦のいずれでも、中立国でありながらドイツの侵攻を受けて戦場となり、占領されました。

たまたまベルギーは「フランスと戦争するには絶好の通り道にある」という地政学的・軍事的必然性から、そもそも中立を保というとすること自体に無理があり、第ニ次世界大戦以降は中立政策を放棄しています。

同じようなことは日本にも言えて、古代から中国やロシアが対外進出しようとする時、あるいはアメリカがユーラシア大陸に東からアプローチする時、いかなる勢力にとっても「格好の拠点」になることから、軍事作戦の標的になりやすいのです。

スイスのように「山に囲まれており、他国への侵攻ルートになりにくい」ですとか、ソマリアなどのように「民族紛争など面倒なことばかり多く、利益も少ないような場所」で、軍事作戦を行うメリットが無い地域では無いと、中立は維持できません。

つまり、「中立国」こそは、「軍事的中立の要件を満たせないと現実味が薄い」と言えるでしょう。

まとめ

今回は、軍事的な同盟・中立あらばこその国家間関係をご紹介させていただきました。

ほかにも「孤立した島国で周辺に敵対勢力も無いので、軍事的には他国と積極的な関係も無さそうな国」があり、1990年代の冷戦以降は「必要が無い」と空軍から戦闘機を廃止してしまったニュージーランドのような国もあります。

しかし、直接的な国防には関係が無くとも、外交・経済的な必要性に迫られた国際協調の観点から他国と軍事同盟を結んだり、国連平和維持軍に部隊を派遣するような国も。

インドと紛争を繰り返しているイメージがありながら、国際的孤立を防ぐ意味でも国連への部隊派遣に積極的なパキスタンなどは、そうした例のひとつです。

同盟で軍事的バックボーンを得て国家間関係を構築する国や、独自の軍事的裏付けを得ることで中立国としての関係を保つ国までさまざまですが、国家間関係に軍事が密接に関わることには代わりが無いですね。

次回は、国際貿易が大規模紛争を防ぐ現代の、「軍事と経済との密接な関わり」について、ご紹介します。

菅野 直人

物心付いた時には小遣いで「丸」や「世界の艦船」など軍事情報誌ばかり買い漁り、中学時代には夏休みの課題で「日本本土防空戦」をテーマに提出していた、永遠のミリオタ少年。撤退戦や敗戦の混乱が大好物で、戦史や兵器そのものも好きだが、その時代背景や「どうしてこうなった」という要因を考察するのが趣味。

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