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2017/01/28

菅野 直人

懐かしの仮想戦記名タイトル『征途』 佐藤大輔編

未だに仮想戦記は数多く出版されていますが、90年代の熱狂的ブームに比べて斬新さを感じなくなったのは、自分が年をとったからでしょうか、それとも作者が年を取ったから?両方?

仮想戦記ブームの頃を振り返り、あの頃の名作を今の視点で見るとどう感じるか、考えてみたいと思います。最初はミリタリーオタクの戯言かと思わせておいて、独特の「佐藤節」で泣いた信者も数多い、佐藤大輔の出世作にして唯一の完結長編「征途」です。

仮想戦記「征途」とは?

1993年から翌年にかけて全3巻が刊行された、佐藤 大輔氏の出世作が「征途」です。
とはいえ、当時は「紺碧の艦隊」(荒巻義雄)など仮想戦記大ブームの中、「逆転!太平洋戦史」シリーズで短編を書いている程度でほぼ無名。

しかも「〇〇の艦隊」や「〇〇大戦!」などと書いておけばとりあえず売れたところ、いきなり「征途」と仮想戦記とは思えないタイトルだったもので、本屋の仮想戦記コーナー(当時はどこの本屋にもあった)で浮きまくっていたのを覚えています。

1巻の売り上げが悲惨なことになり、当初全5巻の予定が全3巻に変更された…という説がありますが、作中だいぶ端折っているらしき部分もあるので、おそらく真実でしょう。

できることならば全5巻の「完全版 征途」を読んでみたい気もしますが、ほとんどの作品が未完となっている著者・佐藤 大輔氏にあまり無理を強いてはいけないような気もするのです。
(下手に書き始めると、一旦完結したはずの作品を未完リストに加えてしまいそうな…)

大まかなあらすじ

物語は維新以来、日本海軍に奉公してきた「海の家系」藤堂家の一族を、1944年10月の捷一号作戦(連合軍のフィリピン反攻に対する日本海軍の反撃作戦)から、1990年代の日本統一戦争までを通して描いています。

2隻の戦艦「武蔵」と「長門」の配置が逆だったことによる、シブヤン海での「長門」喪失
サマール島沖海戦での米護衛空母群撃滅と、戦艦「大和」艦橋被弾による第一遊撃部隊および第一戦隊司令部、砲術長・藤堂明中佐を除く「大和」首脳部の全滅

そして、歴史的電文「第38任務部隊どこにありや。全世界は知らんと欲す」が発せられないことによりハルゼー大将が継続した、囮艦隊(小沢機動部隊)への猛追撃「ブルズ・ラン」。

史実でも起こりえた「ほんの僅かな変化」の積み重ねが第一遊撃部隊をレイテ湾に突入させ、レイテ湾上陸部隊、そしてダグラス・マッカーサー元帥の破局にまで繋がるのでした。

そして第一遊撃部隊がレイテ湾で「空前の大戦果を上げてしまった」ことで、日本の歴史は大きく変わります。

その6年後、日本民主主義共和国による侵攻で幕を開けた北海道戦争を支援するため南下する、戦艦「ソビエツキー・ソユーズ」を旗艦とするソ連義勇艦隊。

それに対峙する各国寄せ集めで編成された国連軍水上砲戦艦隊「統合任務部隊A(JTF-A)」旗艦・戦艦アラバマに続行するのは…日本海上保安庁海上警備隊・超甲型警備艦「やまと」!

作品の見どころ

とにかく全編を通して「大和」そして「やまと」、同型艦「武蔵」の活躍が続くのですが、その活躍の仕方も時代を通して移り変わります。

太平洋戦争中の「大和」「武蔵」はレイテ戦と沖縄沖海戦で「米国が建造した戦艦の10%をこの2隻だけで撃沈」という獅子奮迅ぶりで、「栄光ある敗北」とは何かを、まざまざと見せつけてくれました。

そして北海道戦争の第二次日本海海戦でソ連義勇艦隊を相手に荒れ狂う「やまと」と、ベトナム戦争で陸自・空自と共同でベトコンを吹き飛ばす「やまと」。

統一戦争で、北日本赤衛艦隊の対艦ミサイル飽和攻撃をSAM(対空ミサイル)全力迎撃で一蹴する超大型イージスミサイル護衛艦「やまと」。

それだけでは無く、大和(やまと)以外の全てが「戦争とは物量であり、火力と鉄量である」という著者の持論を叩きつけるように展開していきます。

何しろ太平洋戦争後に再軍備した日本国(南日本)はすっかり火力信奉者。
日本民主主義人民共和国(北日本)も同様で、湾岸戦争では北日本義勇空軍が米空母ミッドウェーを撃沈、統一戦争では戦術核兵器による飽和攻撃で米空母4隻を撃沈破するという荒業ぶり。

しかも、ここまで苛烈な(90年代当時としては)近代戦を描いておきながら、最後はやはり「藤堂家一族の人間ドラマ」として終わり、実は大和(やまと)ではなく、それこそがこの作品最大の醍醐味であったと、読者は胸を打たれるのです。

これ以上、何を望めと言うのでしょう?

まとめ

著者の佐藤 大輔氏は「仮想戦記界における未完王(あるいは三巻王)」として有名なこともあり、1巻完結を除けば唯一完結している作品として、「征途」は安心してオススメできます。

ただし、この作品を呼んで著者が気に入ったからといって、他の未完の作品を手にしてしまったとしても、当方はいかなる責任をも負いかねます。

さよなら、マイティ・モンスター。
征途〈上〉衰亡の国 (徳間文庫)

征途〈中〉アイアン・フィスト作戦 (徳間文庫)

征途〈下〉ヴィクトリー・ロード (徳間文庫)

菅野 直人

物心付いた時には小遣いで「丸」や「世界の艦船」など軍事情報誌ばかり買い漁り、中学時代には夏休みの課題で「日本本土防空戦」をテーマに提出していた、永遠のミリオタ少年。
撤退戦や敗戦の混乱が大好物で、戦史や兵器そのものも好きだが、その時代背景や「どうしてこうなった」という要因を考察するのが趣味。

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