- コラム
平成軍事メモリアル(6)「最後の戦艦」~アイオワ級戦艦の退役で、世界の『戦艦』がゼロへ~
2019/02/22
菅野 直人
すごいー! たーのしー!
2019/03/22
菅野 直人
平成時代、海上自衛隊の護衛艦隊は草創期以来の対潜任務に特化した『対潜艦隊』を脱し、対艦・対空・対潜能力にバランスの取れた護衛艦8隻・対潜ヘリコプター8機による『八八艦隊』4個護衛隊群32隻を主力とする一大シーパワーへと成長しました。そして平成時代末期になると空母型艦型のヘリ護衛艦4隻、イージス艦も6隻+建造中の2隻で全護衛隊群のDDG(ミサイル護衛艦)イージス化が視野に入り、『いずも』級ヘリ護衛艦のF-35B運用能力追加が決定するなど、平成の次の時代に対応した整備が始まったのです。
昭和29年(1954年)、前身である保安庁警備隊から改編される形で発足した海上自衛隊は、その当初米軍お下がりのPF(パトロール・フリゲート)やLSSL(火力支援艇)程度の戦力でしたが、それでもPF16隻で2個護衛隊群を編成。
以後、米軍お下がりの駆逐艦をDD(護衛艦)として編入、国産DDの新造など戦力を増強し、昭和35年(1960年)には第3護衛隊群を編成、各護衛隊群を隷下に納める『護衛艦隊』を昭和36年(1961年)に発足させ、1971年には第4護衛隊群を編成・編入して現在に近い姿となりました。
しかし、各護衛艦はDDA(対空護衛艦)、DDK(対潜護衛艦)といった、特異な任務へやや特化した細かい種別はあったものの、基本的には有事の際に米海軍と協力して旧ソ連など東側諸国へ対処する対潜部隊の性格が強かったもので、対水上/対空戦闘力は非常に限定されていたものです。
昭和42~46年度(1967~1971年度)の3次防(第3次防衛力整備計画)、昭和47~52年度(1972~1977年度)の4次防でようやく『はるな』級および『しらね』級DDH(ヘリコプター護衛艦)各2隻、『たちかぜ』級DDG(対空ミサイル護衛艦)3隻が整備され、1次防で建造されたDDG『あまつかぜ』を加えて、ようやく対潜ヘリや対空ミサイル(ターターシステム)を得ました。
その当時構想されていたのはDDH2隻(ヘリコプター6機)、DDGまたはDDA1隻、DDK4隻による護衛艦8隻、ヘリコプター6機による『八六艦隊計画』でしたが、結局第1護衛隊群(横須賀)と第2護衛隊群(佐世保)しか八六艦隊化はできず、オイルショックなど逆風もあって4個護衛隊群の八六艦隊化はメドがつきません。
その間に旧ソ連の潜水艦部隊や航空部隊が進化し、海中/水中から発射される対艦巡航ミサイルの飽和攻撃に対処する必要性が生じたことや、艦載対潜ヘリ整備計画の見直しもあり、DDH1隻(ヘリ3機)、DDG2隻、DD5隻(ヘリ5機)からなる護衛艦8隻、対潜ヘリ8機からなる『八八艦隊計画』の整備へと変更されました。
新たな艦隊計画の中核となるのは対潜ヘリ1機を搭載し、対艦ミサイル『ハープーン』や個艦防空ミサイル『シースパロー』、近接自動防空機関砲『ファランクスCIWS』を装備した『はつゆき』級DD(汎用護衛艦)12隻と拡大強化版『あさぎり』級DD8隻。
昭和57年(1982年)から就役を開始した『はつゆき』級の配備で昭和60年(1985年)には第1護衛隊群が初の八八艦隊化を完了、順次4個護衛隊群を八八艦隊化する最中に平成時代を迎えました。
さらに昭和時代末期には、旧ソ連軍の対艦ミサイル飽和攻撃へ対処するには既存のDDGが搭載するSAM単装発射機とその管制システムからなるターター・システムでは著しく能力不足とされ、高性能火器管制システムと多数のSAMを弾庫から直接、立て続けに発射可能なVLS(垂直発射ランチャー)を組み合わせた『イージス・システム』が求められます。
By New Zealand Defence Force, CC BY 3.0 nz, Link
このイージス・システムを搭載した『イージス艦』と呼ばれる新DDGは、平成2年(1990年)に1番艦が起工された『こんごう』級4隻を皮切りに整備が始まり、2番艦『きりしま』が就役した段階で既に就役済みのDDH4隻、ヘリコプター搭載DD20隻に加えDDG8隻も充足し、平成7年(1995年)にようやく4個護衛隊群全ての八八艦隊化が実現しました。
後に建造される『あたご』級、『まや』級DDGを含めイージス艦は船体やシステムは米海軍のアーレイ・バーク級DDGをベースに拡大改良したもので、米海軍で標準的戦力となっているバーク級より数は少ないものの、各護衛隊群の戦闘能力の中核となっています。
しばらくこの状態で運用された護衛艦隊でしたが、日本周辺の軍事情勢の変化から『戦える護衛艦隊』への変貌を遂げるべく、平成20年(2008年)には各護衛隊群を再編成しました。対潜戦闘を主任務とするDDHグループ1個護衛隊(DDH1隻、DDG1隻、DD2隻)と、対空戦闘を主任務とするDDGグループ1個護衛隊(DDG1隻、DD3隻)です。
さらにDE(沿岸護衛艦)や旧式DD主体の地方隊所属護衛隊を廃止し、新型DD(『むらさめ』級、『たかなみ』級、『あきづき』級、『しらぬい』級)の就役で余剰となった『はつゆき』級と『あさぎり』級を配備した、各護衛隊群に属さない2桁護衛隊(第11護衛隊など)を発足させ、護衛艦隊直属としました。
もちろん改編で一新されていったのは護衛艦隊の4個護衛隊群および直轄護衛隊だけではありません。
By Hunini – 投稿者自身による作品, CC 表示-継承 3.0, Link
かつて涙滴型船体だった潜水艦は葉巻型船体を採用しステルス性や静粛性を向上させた『おやしお』級11隻が1998年(平成10年)から、AIP(非大気依存推進)やリチウムイオンバッテリー採用(新元号2年就役の11番艦『おうりゅう』から)の『そうりゅう』級12隻が就役を開始。
23大綱(平成23年度以降に係る防衛計画の大綱について)で潜水艦22隻+練習潜水艦2隻による24隻体制へと増強されるため、『おやしお』級ですら2隻が練習潜水艦化、『そうりゅう』級以降の新型艦も既に平成29年(2017年)に起工され、潜水艦隊も急速に増強されています。
輸送艦も昭和時代に建造された艦首のランプから戦車などを揚陸するLST型『あつみ』級『みうら』級といった古株は平成17年(2005年)のあつみ級『ねむろ』の退役で姿を消し、揚陸用ホバークラフトを搭載し、最上甲板へ全通式車両甲板を持つ『おおすみ』級3隻が登場。
これら3隻の第1輸送隊は一時期護衛艦隊所属でしたが、やはり『戦える海上自衛隊化』の一環で、掃海母艦+掃海艇による機雷戦部隊からFFM(機雷戦対応フリゲート)も配備された水陸両用戦闘部隊へ改編予定の掃海隊群所属へと平成28年(2016年)へと転属。
また、ソマリア沖海賊対策部隊など海外派遣任務が増えたことに対応し、昭和時代の給油艦や補給艦より拡大強化された『とわだ』級、『ましゅう』級計5隻を統一指揮運用する第1海上輸送隊を護衛艦隊隷下に平成18年(2006年)に編成するなど、支援部隊も増強されました。
平成時代も末期に入った平成26年度(2014年度)からは、東シナ海であまりにも急激なスピードで軍拡を進める中国海軍へ対処すべく、南西諸島の離島の警備や防衛、奪還を大きく意思した戦力整備が行われるようになりました。
かつて整備したものの能力不足が著しかったミサイル艇(1号級、はやぶさ級)は早々に姿を消すこととなり、掃海隊群の水陸両用戦艦隊への転換、護衛艦54隻体制への拡充に伴い、対空/対潜/対艦能力を小規模ながらバランスよくまとめ、機雷戦にも対応したFFM(多機能護衛艦)の大量建造を決定。
離島警備に海上保安庁のみならず護衛艦隊のDDが引っ張り出され気味な現状から、巡視船艇の海上自衛隊版と考えられる小型の哨戒艦も建造が決定しました。
By Kaijō Jieitai (海上自衛隊 / Japan Maritime Self-Defense Force) – http://www.mod.go.jp/msdf/formal/gallery/ships/dd/izumo/183.html, CC 表示 4.0, Link
さらに海上自衛隊史上最大の護衛艦『いずも』級2隻も、今後航空自衛隊が採用・配備するのが確実なSTOVL(短距離離陸/垂直着陸)戦闘攻撃機『F-35B』を運用可能にすべく改修も決まり、同機を運用可能な強襲揚陸艦の建造すら検討されています。
航空部隊も昭和時代から運用しているP-3C哨戒機に代わって国産ジェット哨戒機『P-1』を採用するなど強化が続いており、周辺国の脅威が高まる中、海上、海中、空中を問わず日本周辺海上へ強力な網を張る体制を築きました。
正直、あまりにも増強著しい中国海軍へ対処しきれるのかという不安はそれでもあるものの、来たるべき有事に備え、あるいは有事など来ないような戦力を備えるべく、平成の次の時代へ向けた関係者の努力は、今も続けられています。
物心付いた時には小遣いで「丸」や「世界の艦船」など軍事情報誌ばかり買い漁り、中学時代には夏休みの課題で「日本本土防空戦」をテーマに提出していた、永遠のミリオタ少年。撤退戦や敗戦の混乱が大好物で、戦史や兵器そのものも好きだが、その時代背景や「どうしてこうなった」という要因を考察するのが趣味。
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