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2019/03/15

菅野 直人

奇跡の海戦史『ひとりぼっちのミッドウェー海戦・駆逐艦「谷風」帰還せり』

多くの人が知るように、日本の大敗で終わった太平洋戦争の重大な転換点となった1942年6月のミッドウェー海戦。開戦以来『世界最強の無敵艦隊』として暴れまわった南雲機動部隊(第1機動部隊)が空母4隻全てを失って壊滅した戦いですが、戦ったのはもちろん空母だけではありません。壊滅した艦隊が戦場からトボトボと退避する中、落ち武者狩りとばかりに群がりよる米攻撃隊と単艦戦い、見事に生還を果たした1隻の駆逐艦がありました。その名は陽炎型駆逐艦14番艦『谷風』。







4空母炎上! 無残に敗北した機動部隊

北太平洋の洋上で、激しく炎上する航空母艦の群れが最期を迎えようとしていました。
ハワイの北西にある複数の島からなる環礁『ミッドウェー』を攻略、占領すべく勇躍日本を出撃してきた、南雲中将率いる日本海軍第1機動部隊の残骸です。

太平洋戦争開戦劈頭の日本時間1941年12月8日にアメリカ海軍太平洋艦隊の根拠地、真珠湾(パールハーバー)を攻撃して主力戦艦部隊を壊滅に追い込み、その後も西はインド洋から南は珊瑚海まで暴れまわり、誰もが認める世界最強の無敵艦隊でした。

1942年6月にミッドウェー攻略とアメリカ海軍の同族(空母機動部隊)撃滅を誓った第1機動部隊の主力空母4隻は、待ち伏せていたアメリカ軍のミッドウェー基地航空隊や空母艦載機の空襲をはねのけ進撃していたものの、終盤になって突如現れたドーントレス急降下爆撃機の奇襲攻撃で空母『赤城』『加賀』『蒼龍』が相次ぎ被弾炎上。
最後まで生き残った空母『飛龍』が放った攻撃隊で米空母『ヨークタウン』を撃破したものの(後に伊168潜水艦が止めを刺し撃沈)、『飛龍』もまた反撃を受けて被弾炎上、ここに世界最強艦隊の栄光は終わりを告げたのです。

この時点で空母2隻(『龍驤』『隼鷹』)を基幹とする第2機動部隊は遠くアラスカ沖、アリューシャン列島を攻略中であり、1か月前の珊瑚海海戦で傷ついたり搭載機を数多く失った第5航空戦隊の空母2隻(『翔鶴』『瑞鶴』)は内地。
他の空母はミッドウェー攻略部隊(『瑞鳳』)と後方から進撃してくる戦艦中心の主力部隊(『鳳翔』)に小型空母が各1隻あるのみで対潜哨戒や対地爆撃程度しかできません。

日本海軍はミッドウェー近海の洋上航空戦力を失い、第1機動部隊指揮官の南雲中将は護衛の戦艦や巡洋艦、駆逐艦による夜襲攻撃で敵艦隊撃滅を提案するも、敵はまだ空母2隻(『エンタープライズ』『ホーネット』)を残しており、ミッドウェー基地も壊滅できていない状況では、猛烈な航空攻撃で壊滅するのは目に見えていました。
夜戦での挽回も却下された第1機動部隊は、スゴスゴと引き返すほかなかったのです。

「『谷風』は『飛龍』を確実に処分せよ」

しかし、空母4隻を失って水上艦艇の突入も精算なしと悟ってミッドウェー攻略を断念、全艦隊が反転した翌朝、偵察のため主力部隊の『鳳翔』を飛び立った九六式艦上攻撃機が思わぬものを発見します。

「『飛龍』未だ沈没せず、艦上に生存者あり。」

Japanese aircraft carrier Hiryu maneuvers to avoid bombs on 4 June 1942 (USAF-3725).jpg
By
不明
– U.S. Navy photo USAF-3725, パブリック・ドメイン, Link

大破炎上後、艦隊反転直前に駆逐艦『巻雲』が自沈処分のため魚雷を命中させたはずの『飛龍』がまだ沈まず浮いていたのです。
『飛龍』は炎上・停止したものの実際の損害は見た目ほどではなく、機関部との連絡途絶により機関部全滅、復旧の見込みなしとして自沈処分命令が下されましたが、実際は単に機関部との電話が不通になっていただけでした(前述の生存者はこの機関部員)。

そのため『巻雲』の魚雷を受けてもなお浮いていたのですが、そのままではアメリカ側に鹵獲されたり、無残な姿を写真に撮られて宣伝に使われたりとロクな事がありません。
そこで第1機動部隊は隷下の駆逐艦『谷風』に『飛龍』の確実な処分および、生存者の救助を命じて反転させました。

とはいえ、そもそも『制空権がない中で作戦続行不可能』という理由で反転しているのに、そこへ単艦でもう1度飛び込んでこいというのですから酷な話ですが、戦闘から救難まで多用途にこなす駆逐艦の扱いは、どこの海軍でもそんなものです。

6月6日朝9時45分(現地時間6月5日12時45分)にただ1艦反転した『谷風』は、漂流する『飛龍』へ向けて、敵機がウヨウヨしている海へ戻り始めました。

『谷風』たった1隻のミッドウェー海戦

同じ頃、前夜にミッドウェーを砲撃すべく全速で先行していたものの、作戦中止命令で引き返している間に重巡洋艦『最上』と『三隈』が衝突事故を起こした攻略部隊第7戦隊が、事故を起こした2隻と駆逐艦2隻(『朝潮』、『荒潮』)を置き去りにしていました。

艦首が大破したため低速でノロノロ退避する『最上』に合わせざるをえず、敵地ど真ん中に取り残された4隻はミッドウェー航空隊や米空母艦載機の猛烈な攻撃を受け、『最上』『荒潮』が大破、『三隈』を撃沈されるという大被害を受けます。

Japanese destroyer Tanikaze at anchor in April 1941.jpg
By Shizuo Fukui – Kure Maritime Museum, Japanese Naval Warship Photo Album: Destroyers, edited by Kazushige Todaka, p. 102, パブリック・ドメイン, Link

このようにもはや米軍の草刈り場と化していたミッドウェー近海へただ1隻引き返していた『谷風』にも、過酷な試練が待っていました。
まず反転した数時間後に『エンタープライズ』『ホーネット』を飛び立った残敵掃討のドーントレス艦爆36ないし37機(『谷風』戦闘詳報による)が飛来、さらにミッドウェーを飛び立った米陸軍航空隊のB-17爆撃機隊までもが『谷風』に爆撃をしかけてきます。
まさに鶏へ牛刀を振るうがごとくの、無慈悲な集中攻撃!

本来なら多数の空母を持つ機動部隊攻撃に投入されていた戦力が、他に目標がないからと駆逐艦1隻に殺到したのですから、『谷風』はたまったものではありません。
ただちに主砲から機銃まで使用可能な全対空火力で反撃しつつ、殺到する急降下爆撃や高高度からの水平爆撃を回避すべく、全速で右へ左へとのたうち回ります。

何しろ多勢に無勢ですから攻撃は延々と続き、砲身を振りかざして応戦していた主砲(12.7cm連装砲2基6門)は対空砲弾(時限信管の榴散弾)などすぐに撃ち尽くし、命中が見込めなくとも威嚇とばかり徹甲弾を、次に星弾(照明弾)、しまいには訓練弾まで全弾射耗!
機銃弾も残り少なくなり、いよいよここまでか……とあきらめかけたところでようやく敵は引き上げましたが、気がつけば実に約90発も投下された爆弾を『谷風』は全て回避しきっていました

これで『飛龍』の処分と救援任務が無事終わればメデタシなのですが、偵察機の報じた『飛龍』の沈没地点へ到達してみると、その姿は洋上どこを探しても見当たりません。
後に判明したところでは、『飛龍』は谷風到着前に沈没しており、生存していた機関部員はカッター(短艇)で脱出後、アメリカ軍へ救助されていました。

燃料残わずか、しかし何としても日本へ還る!

幸い米軍が前述の『三隈』へ止めをさすのに夢中だったこともあり、その後の空襲を受けな方『谷風』ですが、さて引き返そうと思っても機動部隊ははるか彼方に去っています。
当然帰りも単艦、主砲弾は全弾、機銃弾も残りわずかで空襲を受ければ反撃の術もないままおそるおそる日本へと針路をとりますが、問題は燃料です。

居残りを命ぜられるだけあって反転時は燃料に余裕のあった『谷風』ですが、激しい対空戦闘でだいぶ消費してしまい、残燃料は危機的になっていました。
このままでは日本に帰還できない……とはいえ、主力部隊と合流して日本へ帰還する機動部隊側でも事情は承知しており、給油艦を『谷風』のために残置しています。

問題は予定された会合地点までも燃料がもつか怪しいことでしたから、空襲の危険がある海域を去るとともに、艦長から「給油艦を見つけた者には褒賞を出す!」という声がかかり、乗員総出で水平線を見張り、目を皿のようにして給油艦を探しました。

見つけたぞ!」
殊勲の者は誰かと思えば双眼鏡を構えた艦長で、褒賞よりも責任感のなせる業だったかもしれません。

無事に給油を受けた『谷風』は無事に日本へ帰還、その後幾多の激戦を戦い抜きますが、1944年6月9日、マリアナ沖海戦を前にタウイタウイ泊地で潜水艦の雷撃により撃沈されました。
しかし、群がる数十機の敵機による攻撃をただ1艦で回避、無傷で生還したのは太平洋戦争での日本海軍では『谷風』くらいかもしれず、数多の戦歴の中でも地味ながら、後年の研究では高く評価されています







菅野 直人

物心付いた時には小遣いで「丸」や「世界の艦船」など軍事情報誌ばかり買い漁り、中学時代には夏休みの課題で「日本本土防空戦」をテーマに提出していた、永遠のミリオタ少年。撤退戦や敗戦の混乱が大好物で、戦史や兵器そのものも好きだが、その時代背景や「どうしてこうなった」という要因を考察するのが趣味。

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