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2019/03/13

菅野 直人

北朝鮮最新情勢「実際は米朝ビジネスショー!?第2回米朝首脳会談は『話のできる金委員長』というイメージが最大の成果」

2019年2月27・28日に行われた、2回目の米朝首脳会談。当初の予定を2時間も切り上げた突然の閉幕に「決裂」という報道を見て、皆さんどんな感想を抱いたでしょうか? 毎月下旬に北朝鮮情勢を追っていた当シリーズでは2月下旬の段階で「大きな成果はないが対話は続く」と予想しており、「ほぼ予想通り」という印象です。会談後に当事国や周辺各国で生じた変化などから、今後の流れをまた予想してみます。

どこまでが「予定調和」だったのか?

第2回米朝首脳会談(2019年2月27・28日)が始まるまで、実務者レベルでの協議からある程度予想されるであろう結果が全く漏れてこなかったことから「あえて大きな進展なしで終わる」と予想していた筆者は全く油断していました。

どのみち今回は米朝間の交渉が絶えず続いている事をアピールするための会談に過ぎず、最終的成果に向けたカーペットをゴロゴロ転がして敷いていくワンステップだと見ていたので、大きなサプライズもなく淡々と「今後も交渉は続くだろう」程度の会見が開かれるのみと考えていたのです。

それゆえ、最後の記者会見のみ見れば良いと目を離していたら昼食会も開かれず、合意文書の署名がないのは予想通りとしても、トランプ大統領の記者会見が2時間も早く行われたのは、さすがに予想外。
慌てて報道を見ると、トランプ大統領が記者会見で述べた、米朝間の認識に「大きな隔たりがある」というコメントが大きくクローズアップされ、米朝間交渉は決裂に終わったという雰囲気が大きく拡散しています。

その後伝えられたところでは、会談前の実務者協議で既に「今回合意に達するのは難しいだろう」という結論が少なくともアメリカ側では認識されていたと言われており、それは会談前の「中身が伴わない」報道の流れからも予想できていました。

ポイントは「それでもトランプ大統領はハノイ(ベトナム)へ行った」ということで、第1回米朝首脳会談(2018年6月12日・シンガポール)を直前にキャンセルしたり、やはり開催すると北朝鮮を翻弄してみせたのとは対照的な動き。
結果が出ないのは予定通りなら、早々と切り上げてハノイを去ったのも、またトランプ大統領のパフォーマンスだと考えられます。

先月下旬の当記事では「2020年の大統領選挙で勝つため2019年のノーベル平和賞が欲しいトランプ大統領」というアメリカ側のスタンスを予想しており、その立場からは早々と2月に決着を急ぐ必要など皆無と予想できたからです。

一番慌てたのはマスコミかもしれない

ならばなぜ報道が「米朝決裂」一色に近かったかといえば、事前報道ではむしろトランプ大統領が北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)委員長へ安易な譲歩をしすぎるのではないか、と危惧されていました。
特に日本では「ここでヘタに譲歩して日本人拉致問題を棚上げにされてはかなわない」という想いもあってこの種の危惧は多く、実際に安倍総理大臣が安易な譲歩はしないでくれ、とトランプ大統領に依頼していたことがわかっています。

南北経済交流を加速するため制裁解除を望む雰囲気の強かった韓国のメディアなど、「日本では交渉結果に悲観的」という報道が飛び出すほどでしたが、会談後には韓国も北朝鮮も「合意に至らなかったのは日本のせいだ」と報道するあたり、妙に息が合っていたものです。

その他の国のメディアも会談2日目の28日、金委員長が会談を前に「核放棄の意思がなければここへは来なかっただろう」と述べるなど融和的な雰囲気から、「今回は重大な発表がある」と考えたようで、一転して予定を切り上げ、渋い顔で退場する米朝両国首脳の姿を予想できていなかったかもしれません。

しかしこの発言も、内容よりは「金委員長が海外メディアの質問に初めて答えた!」という歴史的意義の方が、実はより重要に思われます。
これは当記事で2月下旬に予想した「第2回会談の成果は、北朝鮮が話の通じる文明国だと印象づけること」と一致しており、北朝鮮としてもそこはしっかりとアピールに成功しました。

『早退』したトランプ大統領とは異なり、3月2日までハノイに滞在した金委員長はベトナムのホー・チ・ミン初代国家主席の墓へ献花するなどベトナム公式親善訪問の予定を一部を除き淡々とこなし、社会主義国家ながら改革・開放路線で経済発展に成功したベトナムを熱心に視察しています。

一方でトランプ大統領もベトナムの航空会社へボーイング製旅客機を合計110機も売り込む『お土産』を手に帰国しており、決して手ぶらで帰ったわけではありません。
第2回米朝首脳会談は何のことはない、『北朝鮮のイメージ刷新』と『米朝両国の経済発展に寄与する』という、トランプ大統領と金委員長のビジネスショーだったと思えばシックリくる結果です。

つまりは、マスコミにとっての関心事と、両首脳の目指す着地点の大きなズレが、悲観的報道の原因と思われます。

早速飛び出す『核・ミサイル施設再稼働』情報

今回の会談の結果は金委員長帰国後の北朝鮮や、周辺国の動静を注意深く見守っていかないと、なかなかわかりやすい形では見えてこないかもしれません。
早速というか3月上旬には『ミサイル発射施設の修復』『ウラン濃縮施設の再稼働』といった、「それ見ろ、また北朝鮮が怪しい事をやり出した」という報道が目立ち始めました。

しかし北朝鮮にとってはどちらもいずれは廃棄する施設だと思えば、短期的に再稼働の動きがあったとて将来的にトランプ大統領の手柄が大きくなり、そのぶん見返りも大きくなると計算できます。
というより、それらの動きに対するトランプ大統領のコメントが「本当なら残念だ」程度ですから、むしろ第2回米朝首脳会談という『商談』で打ち合わせた結果では、とも受け取れるわけです。

何しろミサイル発射場に至っては、現実的な弾道ミサイル発射には全く向かない地上発射設備であり、軍事的価値はそう高くありません。
実際に核実験なりミサイル発射実験を再開しない限り、遅くとも今年夏までには行われて大きな合意が得られる(であろう)第3回米朝首脳会談の阻害要因とはならないと思われます。

当初北朝鮮国内で報道されなかった会談結果も、発表されてみればトランプ大統領ではなく「見苦しい拉致問題を提起した日本の安倍総理大臣がアメリカを動かした結果だ!」と、なぜか日本批判を展開。

一応アメリカにも「新たな米韓軍事演習は第1回米朝首脳会談の合意違反だ」と非難する素振りはするものの、そもそも『新たな米韓軍事演習』とは、従来行われていた合同指揮所演習『キー・リゾルブ』を縮小したものですから、それ以上非難のトーンを挙げる余地はありません。
また、かつて激しく行っていたトランプ大統領本人への個人的非難は依然として避けていることからも、米朝関係は会談から2週間近くたった今も悪化の予兆が見られない、と判断できます。

その一方で、最近こじれにこじれていた日韓関係は第2回米朝会談直後から韓国の文大統領による日本批判がトーンダウン、急激とはいかないまでも少しずつ収束傾向にあるのが注目されており、トランプ大統領がアジア極東地域の緊張をうまくコントロールできている模様。

あるいはトランプ大統領だけではなく中国の習近平総書記も一枚噛んでいる可能性があり、超大国による国家間バランスが米中貿易戦争の裏で有効に機能しているとしたならば、大したものです。

日本の安倍政権はどこで出番があるか?

さらに北朝鮮からも韓国メディアからも「会談決裂の戦犯扱い」されている日本の安倍総理大臣ですが、当の安倍総理は会談結果を受け、小泉政権以来の訪朝を示唆しています。

どのレベルかまでは結果を見ないと判然としませんが、第2回米朝首脳会談でも日本人拉致問題はトランプ大統領からの議題に上っており、金委員長としても全く無視はできません。
しかしトランプ大統領の力で拉致問題を解決するというのはアメリカ国民(選挙民)にとっては大したアピールになりませんし、日本政府としても何もかもアメリカ頼りでないと話が進みませんでは具合が悪いところ。

おそらくトランプ大統領によって「北朝鮮が開放政策で経済発展を目指すなら、その過程でどのみち明らかになる事実は公表しないと、後からではスキャンダルになる。」とのアドバイスがなされていると考えられます。
しかし前述のように日本が全く噛まない状況で唐突に発表しても米朝両国にとってのメリットが少ないことから、第3回米朝首脳会談とセット、あるいはその直後に安倍総理大臣(あるいはその時の自民党政権)が北朝鮮を直接、あるいは第3国での交渉によって解決への糸口を見せるのではないでしょうか。

もっとも、そこで日本にとっての北朝鮮問題が何もかも解決してしまうと軍事的・経済的に困った存在になるのが対北朝鮮の切り札『イージス・アショア』で、配備を強行すれば中国が(韓国を通すなどして)横槍を入れてきそうですし、キャンセルするとトランプ政権下のアメリカから「代わりに何を買うんだ?」と言われかねません。

そう考えると、アメリカ相手のICBM(大陸間弾道弾)はともかく、日本向けのIRBM(中距離弾道弾)やMRBM(準中距離弾道弾)の通常弾頭版までは廃棄対象とならずに継続審議、拉致問題もメディア受けしそうな部分から段階的に解決、という結果が予想されます。

日本が絡む問題も含め、第2回米朝首脳会談で合意に達しなかった部分はアメリカのポンペオ国務長官が会談後の記者会見で「数日か数週間後には進展され、世界が望むことを達成できると思う」と含みを持たせており、3月下旬か4月中には実務者レベルで新たな進展が見られることを期待しましょう。

(2019年3月は第2回米朝首脳会談を受け、通常は毎月下旬の北朝鮮最新情勢を特別に月半ばにもお届けしました)







菅野 直人

物心付いた時には小遣いで「丸」や「世界の艦船」など軍事情報誌ばかり買い漁り、中学時代には夏休みの課題で「日本本土防空戦」をテーマに提出していた、永遠のミリオタ少年。撤退戦や敗戦の混乱が大好物で、戦史や兵器そのものも好きだが、その時代背景や「どうしてこうなった」という要因を考察するのが趣味。

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