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2019/03/1

菅野 直人

軍事学入門「航空自衛隊の戦闘機はどうやって決まってきたか」

F-4EJ改の後継としてF-35Aを採用、F-15Jの前期型後継としてF-35AおよびF-35Bの追加採用が決まった航空自衛隊。残る懸念はF-15J後期型とF-2の後継で、国産機メーカーが関わる共同開発を軸に検討が進められています。ここで航空自衛隊は過去にどのような方法で選定されてきたか、振り返ってみましょう。







初のF-Xは1950年代、採用されたのはF-104J『栄光』

航空自衛隊は1954年7月に発足、当初は練習機や連絡機、輸送機のみでしたが1955年に初の戦闘機F-86Fセイバー(日本名『旭光』)が配備されました。
当初は朝鮮戦争が終わって余剰となった米空軍機の供与を受け、後に防衛産業育成のため国産化もされて、実に480機も配備されます(多すぎたのでアメリカへ返還されたり、偵察機型RF-86Fへ改造された機体もあります)。

さらに在日米空軍防空部隊が最新鋭のF-102へ機種更新されたのに伴い、余剰となった旧式のF-86D全天候迎撃戦闘機を『月光』と名付け1958年から122機取得、うち98機を実戦配備して、この2機種が1960年代半ばまで日本の空を守る主力戦闘機でした。

その後継として初の『F-X(次期主力戦闘機計画)』が検討されたのはF-86Fの配備が始まったばかりの1957年で、まだアメリカからの援助で防衛力を整備していた時期でもあり、機種は最初からアメリカ製で、候補となったのは以下。

・ノースアメリカンF-100スーパーセイバー
・コンベアF-102デルタダガー
・ロッキードF-104スターファイター
・ノースロップN-156F(後のF-5Aフリーダムファイター)
・グラマンG98J-11(艦上戦闘機F11F-1タイガーの強化版)

このうちF-102は専守防衛を国是とする日本の国情にも適合する最新鋭高性能迎撃機でしたが、それゆえ高価で真っ先に脱落、N-156Fも当時はまだペーパープランだったため候補から外れます。

既にF-86Fを使用していた流れで当初の最有力候補はF-100で、ノースアメリカン社では迎撃戦闘機として機首にレーダーを搭載したF-100Jを提案していました。
しかし、当時の岸信介首相へ『戦闘爆撃機』としてF-100を紹介してしまい、「日本に爆撃機はいらん!」と一喝されて候補から落ちたエピソードは有名で、後に航空自衛隊の戦闘爆撃機はF-2の初期まで『支援戦闘機』と呼ばれる一因となります。

F-104J JASDF KwangjuAB 1982.jpeg
By SSGT Terry Smith – U.S. National Archives and Records Administration, パブリック・ドメイン, Link

結局候補はF-104とG98J-11に絞られ、一度はG98で内定したもののグラマンからのワイロがあったのではと疑われた『第1次FX事件』へ発展、再調査の末に「最初からマッハ2級戦闘機として開発されたF-104と、マッハ1級戦闘機を無理やりパワーアップしたG98では性能差は歴然」という調査結果が出て、F-104J『栄光』が採用されました。

F-100やG98がそのまま採用される可能性もあった波乱の第1次FXでしたが、結果的に上昇性能に余裕がある割に比較的安価だったF-104は1963年から1986年まで23年、当時としては長期間の配備に対応し、正解だったと言えます。

ヨーロッパ機への『当て馬』が始まった第2次F-XではF-4EJを採用

F-104の配備が始まって3年後、1966年には第2次F-Xが検討され、この時の候補は以下でした。

・マグドネルダグラスF-4E改(後のF-4EJ)
・ゼネラルダイナミクスF-111Aアードバーク
・ノースロップP-530コブラ(現在のF/A-18E/Fスーパーホーネットの最初期案)
・ノースロップF-5Aフリーダムファイター
・ロッキードCL1010-2(F-104発展型)
・SEPECATジャギュア(イギリス/フランス共同開発機)
・イングリッシュエレクトリック ライトニング(イギリス機)
・サーブ37ビゲン(スウェーデン機)
・ダッソー ミラージュF1(フランス機)

このうちイギリス、フランス、スウェーデンの機種は性能や特性以前にアメリカ式システムを採用している航空自衛隊には最初から馴染まないとわかっている戦闘機で、「一応アメリカ製以外も検討しますよ」というだけでの意味で検討された『当て馬』ですが、以後のF-Xでも続く流れです。

RF-4EJ Kai of 501st squadron at Hyakuri Air Base 2007.jpg
By A&W投稿者自身による作品, CC 表示-継承 3.0, Link

さらにF-111は高価すぎる上に実質攻撃機で迎撃任務へ向かず、F-5Aは能力不足。
ロッキードCL1010-2はF-104ベースの近代化案、P530はF-5の発展拡大案でいずれもペーパープランだったため問題外で、結局無難に実績豊富なF-4E改をF-4EJとして採用されました。

F-4EJは1973年から実戦配備が始まり、2019年2月現在でも近代化改修型のF-4EJ改がまだ配備中で2020年に退役するまでの47年間にわたり日本の空を守る長寿機
結果的には、発展余裕があるF-4の採用はF-104に続き正解だったと言えます。

支援戦闘機の第1次FS-X計画は戦後初の国産戦闘機F-1を採用

F-104が後継となったF-86Fですが、まだ機体寿命が残っていたため支援戦闘機(戦闘爆撃機)として3個飛行隊がF-86F部隊として現役を続行、その後継として第1次のFS-X(次期支援戦闘機計画)が始動します。
この時は国産超音速練習機T-2と、その発展版FS-T2改の開発が当初から決定していたようなもので、アメリカからはF-5EおよびF-5シリーズの練習機版ノースロップT-38タロンが提案され、コスト面では非常に魅力的ではありました。

三沢基地に着陸しようとする航空自衛隊・三菱F-1
By Rob Schleiffert from Holland – F-1, CC 表示-継承 2.0, Link

ただし、第1次FS-Xでは国内防衛産業の育成、国産空対艦ミサイルASM-1による海上攻撃能力に主眼が置かれていたため、いずれにも適合しないF-5EもT-38も落選し、第1次FS-XではFS-T2改あらため『三菱F-1』を採用、1977年から2006年まで配備されています。

F-1は精密爆撃能力や対艦攻撃能力こそ評価されたものの、あくまでT-2ともども「国産超音速機を作りたい」という願いが結実したものであり、戦闘爆撃機としての搭載力や戦闘機としての機動性、生存性を高めるための電子装備や妨害装備を追加する拡張性に欠け、あくまで習作、かつ国産機の限界を示した飛行機でした。

第3次F-Xでは名機F-15とF-14が火花を散らす猛セールス

F-104Jおよび将来的にはF-4EJも更新する第3次F-XはF-4EJの配備が始まった翌年、1974年には調査費の予算が認められ、1975年から選定されました。
当初13機種が候補に挙がったといいますからペーパープランも相当あったはずですが、第1次/第2次F-Xで結局実機が存在しない機種の採用はありえない事から、実機が存在し実績もある以下7機種が候補となりました。

・グラマンF-14トムキャット
・マグドネルダグラスF-15イーグル
・ゼネラルダイナミクスF-16ファイティングファルコン(アメリカ空軍で採用決定直後)
・ノースロップF-17(アメリカ空軍の軽戦闘機計画でF-16に敗北直後。後にF/A-18へ発展)
・ダッソー ミラージュF1(フランス機)
・サーブ37ビゲン(スウェーデン機)
・パナヴィア トーネードIDS(イギリス/イタリア/ドイツ共同開発機)

このうちミラージュF1とビゲンは第2次F-Xでもお馴染みで、F-4EJと同世代の戦闘機ですから当然落選し、トーネードIDSも実質攻撃機であり、戦闘機型トーネードADV登場前だったので、候補外となります。
まだアメリカ空軍へ採用直後だったF-16はもちろん、敗北してF/A-18に発展するまで誰も採用のアテがないF-17が採用されるわけもなく、実質的にはF-14とF-15の一騎打ちとなりました。

このうちF-14は開発費の高騰でメーカーのグラマン社は深刻な経営危機にあり、イラン空軍へ続いて航空自衛隊での採用も狙って日本の入間基地で行われた第5回国際航空ショー(1976年)では、F-15と派手なデモフライトを競い合います。

McDonnell Douglas (Mitsubishi) F-15J Eagle, Japan - Air Force AN2315091.jpg
By Toshi Aoki – JP Spotters – Gallery page http://www.airliners.net/photo/Japan—Air/McDonnell-Douglas-%28Mitsubishi%29/2315091/L
Photo http://cdn-www.airliners.net/aviation-photos/photos/1/9/0/2315091.jpg, CC 表示-継承 3.0, Link

しかし結果的に採用されたのはF-15で、航空自衛隊向けF-15Jが1982年より部隊配備を開始、2019年2月現在でも約37年にわたって主力戦闘機として君臨しており、後継機F-35シリーズの配備後も全機が退役しないため、F-4EJ以上の現役期間は確実です。

特にF-15MJとも呼ばれる後期型(1985年以降納入)はJ-MSIPと呼ばれる日本独自の近代化改修計画を受けて大幅な戦闘力向上を果たし、元々世界最強レベルと言われる空戦性能を活かして、第5次F-Xで選定された後継機が配備される数十年後まで現役に留まると思われます。

国産? 輸入? 共同開発? 大荒れに荒れた第2次FS-X

初の国産支援戦闘機F-1の配備開始から5年後、1982年に第2次FS-Xが始動しますが、これが大荒れでした。
日本としては引き続き防衛産業育成のため、支援戦闘機だけでも国産機を開発したいところで一旦話がまとまりかけたものの、激しい日米貿易摩擦によってアメリカ製戦闘爆撃機を有力候補とするよう、アメリカからの横やりが入り、候補は以下になりました。

・国産FS-X
・ゼネラルダイナミクスF-16Cファイティングファルコン
・マグドネルダグラスF/A-18A(F-17を発展させた艦上戦闘機)
・パナヴィア トーネードIDS(イギリス/イタリア/ドイツ共同開発機)

例によってトーネードIDSは『アテ馬』で、F-16もF/A-18も「空対艦ミサイル4発を搭載して長距離洋上攻撃能力を持つ」という要求仕様に不足していたため、最有力候補は国産案だったのです。
しかし、当時の日本(というかIHI)ではまだ戦闘機用の小型軽量大推力ジェットエンジンを開発できておらず、「エンジンだけアメリカ製を輸入、あるいはライセンス生産されてくれ」というのも虫のいい話でした。

そこでやむをえず折衷案として、「アメリカ機をベースに国産技術を最大限活用した日米共同開発の発展型支援戦闘機」となり、ベースにF-16が選定されます。
パッと見にはF-16と変わらないものの、対艦攻撃力を中心に大幅な性能向上を果たした通称『バイパー・ゼロ』ことF-2が誕生するにはこうした紆余屈折があり、F-1およびF-4EJ改後継の支援戦闘機型F-2Aと、T-2後継の複座練習機型F-2Bを開発。

2001年から部隊配備が始まり、国産技術である複合材を使った主翼の不具合など問題はあったものの、2019年2月現在では良好な機動性を活かした空戦から、対艦ミサイルによる『対艦番長』よも呼ばれる洋上攻撃力で、頼れる機体とされています。

紆余屈折を経て結局F-35A/B大量輸入が決まった第4次F-X

F-4EJおよびF-15Jの後継計画は2000年代に始まりましたが、この頃になると戦闘機開発、それも航空自衛隊の要求に沿うような長距離重戦闘機は開発しても採用国が極端に限られ、生産数の少なさが価格高騰に拍車をかけるという悪循環で、なかなか開発ができなくなっています。
しかも1990年代にはレーダーに映りにくい『ステルス性』が実戦で大きくモノを言うような風潮が生まれ、アメリカで開発された最新鋭ステルス戦闘機ロッキードF-22ラプターの採用が『唯一の選択肢』かと思われました。

しかし、あまりに高度な技術を使い過ぎたF-22はアメリカの議会で輸出が認められなくなってしまい、仕方なく後続の新世代機や旧世代の能力向上型に候補は絞られました。

・ロッキードマーティンF-35AライトニングII
・ボーイングF-15FX(F-15Eストライクイーグルの空対空能力向上型)
・ボーイングF/A-18E/Fスーパーホーネット
・ユーロファイター タイフーン(イギリス/イタリア/ドイツ/スペイン共同開発)

もはや『当て馬』とわかっているタイフーンは最初から熱心ではなく、F/A-18E/Fは既存機で今後数十年の現役運用を行うには既に古く、F-15FXは航空自衛隊でF-15Jの実績面は大きかったものの、F-2以外の全機がF-15系列になれば、飛行停止にでもなるとスクランブルに支障をきたします。

F-35A from the Japan Air Force.jpg
By 航空自衛隊http://www.mod.go.jp/asdf/notice/index.html – http://www.mod.go.jp/asdf/news/release/2016/0905/, CC 表示-継承 4.0, Link

となればF-35Aしか選択肢がないわけですが、通常離着陸式の空軍型F-35Aですら開発が遅れており、しかも配備を希望する国が国際分担金を拠出して開発されている機種だったため、後から採用を決めた日本が割り込むのは難しいどころか、先行して資金拠出していた国でさえ配備遅延にいらだっていたほどです。

それでも2018年からようやく寿命の面で待ったなしのF-4EJ改後継としてF-35Aの引き渡しが始まり、2019年には最初の飛行隊が配備される予定。
さらに2018年12月に決まった31中期防ではF-15J初期型(通称F-15SJまたはPre-MSIP)後継としてF-35Aの追加購入が決定、F-35A105機および、海上自衛隊の『いずも』級ヘリ護衛艦でも発着できるSTOVL(短距離離陸/垂直着陸)型F-35B、42機の配備が決まりました。

ここで特異なのは、当初F-35Aを日本で組み立てる(ノックダウン生産)予定だったのが、F-35A/Bともにアメリカからの輸入に切り替えられた事で、日米貿易摩擦対策にはなるものの、技術移転の機会が失われるなど、防衛産業の将来性にはやや不安な状況となっています。
ただし、早期配備や価格低減効果は確かにあるため、それによって急激に増大している周辺諸国からの脅威へ対処していく方針です。

なお、F-15J後期型(通称F-15MJまたはJ-MSIP)とF-2の後継は、当初国産機『F-3』が考慮されていましたが、結局完全国産機はまたも断念、国際共同開発となる予定。
もっとも、この2機種の後継はいつ選定するのか明確な時期が決まっていないため、また紆余屈折が予想されます。







菅野 直人

物心付いた時には小遣いで「丸」や「世界の艦船」など軍事情報誌ばかり買い漁り、中学時代には夏休みの課題で「日本本土防空戦」をテーマに提出していた、永遠のミリオタ少年。撤退戦や敗戦の混乱が大好物で、戦史や兵器そのものも好きだが、その時代背景や「どうしてこうなった」という要因を考察するのが趣味。

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