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2019/01/30

菅野 直人

2019年1月の軍事トピック「空自静浜基地の機能強化を!静岡県焼津市長から異例の要望」

今年最初の月間軍事トピックは何にすべきか……と考えていたところ、1月25日にちょっと驚きのニュースが飛び込んできました。静岡県焼津市の中野弘道市長が、同市に置かれた航空自衛隊静浜基地の機能強化を要望したというのです。航空自衛隊にしろ、在日米軍にしろ、軍用機の発着に対してウルサイ危険だ、戦争反対だ、出て行けという話はよく出るものの、「むしろ強化して」とは珍しい話。一体何があったのでしょう?







飛行場を持つ中では航空自衛隊最小、『静浜基地』

Shizuhama Air Base Aerial Photograph.jpg
By Copyright © 国土画像情報(カラー空中写真) 国土交通省, Attribution, Link

そもそも航空自衛隊静浜基地とはどういう所でしょうか?
元々は1945年1月、日本海軍の藤枝基地として開設されたのが始まりで、特攻を拒否した海軍第一三一航空隊『芙蓉部隊』の発足地としても知られています(もっとも、芙蓉部隊は結果的に特攻作戦をしなかっただけで、特攻そのものは否定していませんが)。

第2次世界大戦の敗戦、日本陸海軍の解体により一旦その役目を終え、1948年3月には米軍により接収されますが、1954年7月に航空自衛隊が発足後、1958年8月に航空自衛隊静浜基地として再出発。
最初の飛行隊は初等訓練用のT-34練習機による第15飛行教育団で、以後航空自衛隊の教育飛行隊基地として歴史を重ね、2019年1月現在はプロペラ練習機T-7を装備する第11飛行教育団が配備されています。

滑走路は長さ1,500m幅45mと短いものが一本だけで横風用滑走路などはなく、敷地面積の小さいためエプロン(駐機場)もそう広くはありません。
いわば純然たる小型プロペラ機専用訓練飛行場であり、滑走路など飛行場設備を持つ航空自衛隊の基地では最小限の規模となっています。

軍民共用飛行場ではないため自衛隊以外の飛行機やヘリコプターによる運用は少なく、常駐しているのは静岡県警察の航空隊が持つヘリコプター2機のみです。

焼津市長からの『機能強化要望』

普段はターボプロップ・エンジンの軽快な音を響かせるT-7練習機が発着する音がほとんどのノドカな訓練飛行場である静浜基地が、いきなりニュースになったのは2019年1月25日。
航空新聞社の航空宇宙業界/旅行業界専門紙『WING』にて、前日24日に静浜基地がある静岡県焼津市の中野弘道市長が『静浜基地環境整備に関する要望書』を提出し、静浜基地の機能強化を求めたと報じられました。

この報道ソースは同紙および航空新聞社の『おすすめ記事(http://www.jwing.net/news/8963)』のみで、他メディアでは一切報じられた様子がありません(少なくともインターネットにも配信されているニュースとしては)。
焼津市のサイトを見てもそのようなお知らせは配信されていませんでしたが、中野市長のtwitterおよび、Facebookページでも確認できたので、どうやら事実のようです。


航空新聞社によれば、要望は第1にまず『ブルーインパルスが静浜基地へ発着可能な整備』で、これにより以下が実現できるとしています。

・静浜基地航空祭で、より多くの来場者が見込まれる。
・災害発生時にもさまざまな航空機が発着可能なので、緊急時の支援など利便性にもつながる。

その背景には2018年5月20日に開催された『静浜基地60周年、焼津市・大井川町合併10周年記念航空祭』に飛来したアクロバットチーム『ブルーインパルス(航空自衛隊第4航空団第11飛行隊)』の展示飛行を楽しみに多くの来場者が訪れ、焼津市としても大きな経済効果が得られたことがあるようです。

さらに静浜基地は焼津市と『南海トラフ地震など災害発生時には地域住民の一次避難場所として厚生棟などを開放する』覚書を交わしている事から、災害時の機能強化を求めました。

滑走路が短いため航空祭での地上展示も限られる静浜基地の現状

前述のように、静浜基地は航空自衛隊の基地の中でも規模が小さく、滑走路長もプロペラ機や短距離離着陸能力のあるジェット機(C-1輸送機など)ならばともかく、ジェット戦闘機の離発着に十分とは言えません。
たとえばジェット戦闘機の基地としては比較的狭い築城基地(福岡県)でも2,400m級滑走路

ブルーインパルスと同じT-4ジェット練習機を使用する訓練飛行隊、第13飛行教育団が配備されている芦屋基地の滑走路長は1,640mのため静浜基地よりちょっと長い程度。
そのためT-4自体は静浜基地へ発着できない事もありませんが、4機編隊で離陸後、5番機・6番機も演技をしながらの離陸など離陸時から演目の始まるブルーインパルス用としてはちょっと狭すぎます。

そのため静浜基地のような狭い基地では近隣の基地から飛来、発着や地上展示は行わない『リモート』という方法でブルーインパルスの飛行展示が行われるため、静浜基地航空祭の来場客はこれまで、ブルーインパルスを地上で見る事はなかったのです。

基地拡張は難しそうだが……要望に時代の変化を感じる

静浜基地の航空写真を見ると、滑走路の延長線上はいずれも農地で農家も多数存在し、特に海側(東側)にはまとまった集落もあるため、滑走路延長といっても現実性はありません。

F-15やF-2、あるいは最新鋭のF-35Aなどジェット戦闘機を発着させるだけなら、万が一滑走距離が足りない時のためのアレスティング・ワイヤーやクラッシュバリヤー(空母にあるのと基本的に同じですが、空母艦載機ほど短い距離で止められるわけではない)を整備すれば、一応は可能。
ただ、それではブルーインパルス発着という希望に応えられませんし、エプロンが小さいため仮にブルーインパルスを地上展示するにしても、他の輸送機や連絡機、ヘリなどの展示機は少なくなります。

そもそも静岡空港を建設する際、静浜基地の滑走路延長も検討候補の1つでしたが結局は空港を新規建設しましたし、国土交通省などの防災計画でも静浜基地は『回転翼機(ヘリ)発着場』とされ、輸送機や民間貨物機の発着は想定されていません。

何より住民の理解を得ての事かはわからず、あらゆる意味で焼津市の中野市長による要望は実現が難しいとしか言いようがありませんが、それでも騒音問題に環境問題などで航空自衛隊の基地へは、従来もっと風当たりが強かったようなイメージです。

ブルーインパルスそのものも、飛んでくるだけで『軍国主義反対!』と言い出す人がいまだにいる中ですが、地域振興や防災のため自衛隊は必須と考える地方自治体の首長が登場したということは、時代の変化を表すという意味で『注目はされていないベタ記事扱いだけども、歴史的には大きなトピック』と言えるかもしれません。







菅野 直人

物心付いた時には小遣いで「丸」や「世界の艦船」など軍事情報誌ばかり買い漁り、中学時代には夏休みの課題で「日本本土防空戦」をテーマに提出していた、永遠のミリオタ少年。撤退戦や敗戦の混乱が大好物で、戦史や兵器そのものも好きだが、その時代背景や「どうしてこうなった」という要因を考察するのが趣味。

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