- コラム
軍事学入門「国家が国民から信用を得るための領土防衛」
2018/12/3
菅野 直人
すごいー! たーのしー!
2018/12/31
菅野 直人
2018年12月20日午後3時頃、日本海で海上自衛隊のP-1哨戒機が韓国海軍の駆逐艦『広開土大王』(クァンゲト・デワン)を監視中、火器管制レーダーの電波を2度にわたり照射され、回避運動を行った『事件』は日韓両国を震撼させました。たかが電波と思う人もいるかもしれませんが、これがどれだけ重要な事実なのかを知っておくのは、今後の国際関係を考える上で役立つかもしれません。
By 대한민국 국군 Republic of Korea Armed Forces – 13.11.17 필리핀 재난구호 Republic Of korea Air Force, CC 表示-継承 2.0, Link
問題の事件は2018年12月20日午後3時頃、能登半島沖の日韓漁業協定における『日韓暫定水域』と日本のEEZ(排他的経済水域)との境界線付近で起きました。
暫定水域内で日本とのEEZギリギリを航行していた韓国海軍の広開土大王級駆逐艦1番艦『クァンゲト・デワン(広開土大王)』に対し、海上自衛隊のP-1哨戒機が能登半島沖のEEZ内から監視していた、その時。
P-1の逆探(電波探知機)が突然、『クァンゲト・デワン』から発せられた電波を探知、火器管制レーダーと判断した同機は驚いて回避行動を取りますが、再度同じレーダーからの照射を受けたのです。
日本と韓国は日米安保条約のような軍事同盟を結んでいるわけでは無く、朝鮮戦争前やその後の李承晩政権時代にはむしろ険悪な状態にあったとさえ言えますが、少なくともこれまで戦争状態に陥ったことはありませんでした。
政治的介入を除けば、現場レベルでは韓国軍と自衛隊の関係も良好と思われていたのがこれまでの認識だったため、これほど明確に韓国軍が『不用意な行動』を行ったケースは無いとされています。
それだけに海上自衛隊側もP-1からその場で照射の意図を問いただしたものの、返答は無し。
後に韓国側から以下のように釈明されたものの……
・韓国海軍はそんなことはしていない
・火器管制レーダーを使ったが、それは遭難した北朝鮮漁船を捜索するためだ
・むしろ威嚇してきたのは上空を低空で飛行してきた自衛隊機だ
・我々は自衛隊機をカメラで撮影し、そのために火器管制レーダーを照射した
・いや、やっぱり照射などしていない(どっち?)
・通信に出なかったのは電波が悪かったからだ(携帯電話に出ない人の言い訳?)
・日本が呼び出したのは海軍ではなく海洋警察だ
・日本はなぜそんなに大騒ぎしているのか?
・そもそも事実関係をよく調べずに大騒ぎする方が理解できない
『事件』直後から予想はしていたものの、釈明が二転三転する上に逆ギレまでしており、さすがに右翼的思想の有無に関わらず政治から報道、国民一般に至るまで日本側では怒るやら呆れるやら。
むしろ「事実関係を調査中。お騒がせして申し訳無いが韓日関係に亀裂が入らないよう努力する」とでもコメントして、ほとぼりが冷めるまでしばらく沈黙していれば良かった気がしますが、慌てすぎて泥沼にハマっているようにしか見えません。
どのみち何が起こったのかは、当の韓国側ですらよく理解していない可能性が高いため、ここは一旦韓国側のコメントは棚上げし、何が問題かを整理したいと思います。
クァンゲト・デワンは韓国が建造した初の国産駆逐艦で1998年に就役、127mm単装速射砲や30mmCIWS(近接対空火器)、シースパロー短SAM(艦対空ミサイル)用の16セル垂直発射機やハープーン対艦ミサイル、3連装対潜短魚雷発射管などを装備し、対潜ヘリ1機を搭載。
海上自衛隊では2003年から就役したたかなみ型護衛艦に近い戦闘力を持つものの少々小さく、やや詰め込みすぎな感があったので3隻の建造に留まり、大型で戦闘力の高い駆逐艦の建造へ移行しています。
防衛省の発表によれば、収集した電波情報から『照射してきたのは火器管制レーダー』としている事から、127mm砲やSAMの射撃管制や誘導が可能なオランダ製のSTIR180を使用したのでしょう。
STIR180には光学監視装置(要するにカメラ)と連動したタイプもあり、クァンゲト・デワンに搭載されているのかは定かではありませんが、『海上自衛隊機をカメラで撮影するため作動させた』とすれば、一応理由にはなります。
ただし、もちろんカメラを回す以外にも使えるレーダーなため、「カメラを回すためSTIR180を使いました」と言ってしまうと、いささかどころではなく非常識と思われても仕方なのですが、それはなぜでしょうか?
『洋上で不慮の遭遇をした場合の行動基準』Code_for_Unplanned_Encounters_at_Sea、略して『CUSE』とは、異なる国の軍艦同士が出会った際に偶発的な事態で意図せず戦闘が起こる事を回避するため2014年の西太平洋海軍シンポジウムで合意された『ルール』です。
戦争をしているわけでも無いのに相手の航行を妨害するため過度に接近したり、武器を向ける事を禁じ、互いに無線連絡などが可能な状態を保つ事を約束したもので、アメリカや日本はもちろん、中国や韓国も合意しています。
実は日本も昔はかなり際どい事態を引き起こしたことがあり、航空自衛隊のF86F戦闘機がソ連のリガ級フリゲート艦を海上自衛隊の護衛艦と誤認、『対艦爆撃訓練』を始めてしまったことがありました。
よりによって仮想敵国の戦闘機が何度も急降下してくる上に、爆弾を落とすでもない事態に当のソ連艦は大いに困惑したか激昂したか定かではありませんが、少なくとも対空砲を振りかざして発砲しないまでも『応戦』まではしなかったようです。
その際はソ連からの厳重な抗議を受けた日本側が外務省を通じて平謝りに謝りまくってことなきをえたそうですが、もし間違って衝突事故でも起こしていようものなら、大変なことになるところでした。
これぞまさに『偶発的事態』という見本を自衛隊が経験済みだったわけですが、火器管制レーダーの照射もそれと同様です。
火器管制レーダーはその名の通り火器(兵器)を管理・制御するためのレーダーで、対空用なら空港など、対水上目標用なら漁船にも設置されている捜索レーダーとは全く意味が異なります。
火器管制レーダーを作動させているということは、捜索レーダーで見つけた相手に対し、艦砲なりVLS(垂直発射管)内のSAMで「お前を狙っているぞ」という意味になるため、戦闘行為に限りなく近い行為なのです。
当然そのままボーッとしていたら、次の瞬間対空砲弾が炸裂するか、SAMが迫って来るかもしれないので、火器管制レーダーで照射された方は逃げなければいけません。
おまけにこの場合、海上自衛隊のP-1は日本のEEZ上を飛んで、仮想敵国ですら無いはずの韓国海軍駆逐艦『クァンゲト・デワン』が日本のEEZまで誤って侵入しないよう、見守っていただけでした。
そんな状況でいきなり火器管制レーダーの照射を受けるのは意味不明ですし、「何やってんだ!」と怒るのが普通でしょう。
それではなぜ『クァンゲト・デワン』はこのような行為に及んだのでしょうか?
海上自衛隊が監視している以上、『クァンゲト・デワン』の側でも海上自衛隊機の情報を収集しようとカメラで撮影しようとしたこと自体は、たとえ同盟国であれ、情報収集の機会があれば逃さないのは当たり前で、ましてや韓国は同盟国ではありませんから、何の不思議もありません。
もちろんP-1はまだ新型機なので、より積極的な情報収集を行おうと「火器管制レーダーを浴びせてみたら、どのくらいの反応を示し、どのような回避機動をとるか」を試してみた可能性もあります。
もちろんそれは前述のように重大なCUES違反行為ですが、撮影にせよ意図的にせよ「相手が誰であれ、演習中でも無いのに他国の船や飛行機へそんな事をしたら敵対行為に当たる」とは、知らなかったのでは無いのでしょうか?
信じがたいことですが、『事件』初期の「え? 何でそんなに大騒ぎしているの?」という反応や、監視カメラのための作動だと言ってみたり否定してみたりと二転三転する釈明からは、どうも「ダメだと知らなかった」可能性が高いように思えます。
それが日本は大騒ぎしている上に、どうも他の国が擁護してくれる気配も無いため「これはマズイ」と慌て始めたのかもしれませんが、何しろ相手が相手なもので素直にすぐ謝罪ともいかず、混乱(錯乱?)しているのかもしれません。
韓国はまだ国家として成立してから70年ほどと若い国で、それ以前は我が国の植民地だったり中国歴代王朝の衛星国だったり、独立後も軍事政権が長く続いたりで民主国家としての歴史はさらに浅いものです。
韓国軍の方もアメリカから輸入した戦闘機のブラックボックスをバラして戻せなくなる『事件』を起こしたり何かとお騒がせで、全てとは言わないまでも一部どうしても国際協調という意味で問題が多い傾向にあります。
今回の事態は、韓国の国民一般はともかく、政府や軍部がまだまだ成熟した国家ではないという意味で、「隣国としては今後もちょっと気をつけておこう」と考えた方が良さそうです。
誤解してはいけませんが、いくら日韓関係が年々冷え込み、近年はさらに悪化しているとはいえ、我々は戦争しているわけではありませんし、どちらの国民もそこまで望んでいるわけではありません。
ただ、「悪い事はどんな理由であれ悪い」と諭しつつ、かの国の政府や軍部が成熟するのを待つか、あるいは何もかも変わってしまうのを待つしか無いのです。
物心付いた時には小遣いで「丸」や「世界の艦船」など軍事情報誌ばかり買い漁り、中学時代には夏休みの課題で「日本本土防空戦」をテーマに提出していた、永遠のミリオタ少年。撤退戦や敗戦の混乱が大好物で、戦史や兵器そのものも好きだが、その時代背景や「どうしてこうなった」という要因を考察するのが趣味。
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