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2018/11/7

菅野 直人

北朝鮮最新情勢「第2回米朝首脳会談へ向け、本格的な対応を迫られる北朝鮮と、どこへ往くのか不安な韓国」

前回『トランプ先生のダメ出しと、南北トレッキング外交』で「10月以降、米朝関係に新たな進展が見られるだろう」と予測しましたが、10月を待つまでも無くトランプ大統領から第2回米朝会談を「そう遠くない将来に」行う旨の発表がありました。その上で非核化に期限を設けないなど大幅譲歩が目立つトランプ大統領、それ以上に融和が進む南北関係と、少しずつ進展が見られます。







第2回米朝会談への『最初のステップ』と、北朝鮮の気持ち


2018年9月24日、米トランプ大統領は北朝鮮の金 正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長と「そう遠くない将来に」第2回の米朝首脳会談を行う意向を示しました。
そのちょうど1か月前には「北朝鮮の非核化プログラムがサッパリ進行しない」とポンペオ国務長官の訪米を取りやめさせて北朝鮮に強烈な『ダメ出し』を行った形です。

その後9月9日の北朝鮮建国70周年パレードにICBMなど対米攻撃用兵器が登場せず、9月18日からの南北首脳会談でも融和ムードを演出した北朝鮮の『回答』にトランプ大統領は満足したようで、米朝首脳会談をもう1度やろうじゃないか、となりました。
それも持ちかけたのは金委員長からだったようで、「非核化ブログラムを終了するための取引をまとめたい」という意向が伝わり、そのための調整を行うようです。

つまり6月12日に行われた第1回米朝首脳会談ではそこまで話が詰まってないことを意味したようで、『共に朝鮮半島の非核化を進めようじゃないか』と宣言しただけ。
それをいつどのようにやるかは、金委員長を平壌から引きずり出した時点で『戦勝国』だと考えているトランプ大統領から言い出す事ではありませんし、金委員長も明確に回答できる状態では無かったようです。

そこから察するに、北朝鮮の現在の政治体制は合議に近い、少なくとも金委員長が命じれば何でもその通りになる状態では無さそうで、独裁国家としてそれはどうなのか? 実は実権を握る人間が他にいるのではと、いささか心配になります。
ともあれ北朝鮮は少なくともトランプ大統領への個人攻撃は行わず、金委員長体制を堅持したままであくまでトップ外交で進める腹を固めました。

次の米朝首脳会談ではいよいよ「非核化条件とステップ」が話し合われる

どうもアメリカ側と北朝鮮側では第1回米朝首脳会談での合意内容の解釈に相違があった、つまりそれだけ何かを明言するのを避けた合意だったようで、とりあえず一部施設の解体を始めた北朝鮮に対し、何もアクションを起こさないアメリカに「アレ?」と疑問を持ったのが始まり。

一方のアメリカは、北朝鮮が自主的に施設解体、非核化を始めるなら歓迎ですし、始めたから何か見返りを与えると言ったわけでも無いのですから、アクションどころか何も言う必要はありません。
それを見た北朝鮮が「おいおい、話が違うというより、もしかしてちゃんと話しを詰めてから動かないとダメだったんじゃないか?」と気づいたようで、一旦非核化作業を取りやめたところ、トランプ大統領はご不満な様子。

これは金委員長に出馬してもらい、今度はちゃんとプロセスを決めてきてもらおう……でないと、何をどう進めたらいいかわからないじゃないか! と第2回米朝首脳会談を打診し、トランプ大統領も「断る理由は無いよ手土産よろしく?」というのが現状でしょう。

9月30日に国連総会で北朝鮮の李 容浩(リ・ヨンホ)外相が非核化に向けてアメリカとの信頼関係が不可欠だと述べたのがアメリカへの不信感への現れという説もありますが、むしろ「早急に信頼関係を構築したい」という譲歩に受け取れないこともありません。
トランプ大統領の方も「北朝鮮の非核化は2年でも3年でもかけていい」と譲歩したように見えますが、要するに北朝鮮から非核化の条件もプロセスも出ていないので、現時点で注文をつける段階に無い、と考えられます。

一度は中止された米ポンペオ国務長官の訪朝ではまさにこの「条件面」に向けた実務者レベルに近い協議、あるいはその感触を確かめてアメリカとして第2回米朝会談をいつ頃開催すべきか判断するための訪朝だったはずです。
おそらく国務長官の再訪朝、あるいは実務者レベル協議が何度か交わされ、米朝双方の準備が整って、何らかの成果が上がると判断された時点で首脳会談の時期と場所が発表されます。

その意味では首脳会談などしょせん親睦会の後に合意内容を発表する場に過ぎず、米朝交渉は今まさに熱く進行中なのだ、と考えた方が良さそうです。
そうなると、おそらく注目すべきは会談が行われる場所で、少しは進展が見られる程度なら前回同様シンガポールですが、もし第1回会談でトランプ大統領が語ったように、金委員長が本当にアメリカに行くようなことがあれば、会談場所発表の時点で非常に大きな進展があると予想すべきでしょう。

融和が急速に進む南北関係はまさに「板門店の春」?

Joint Security Area.jpg
By Kok Leng Yeo from Singapore, Singapore – Joint Security Area, Demilitarized Zone, Korea, CC 表示 2.0, Link

派手さとは裏腹に、未だに手探り状態が進む米朝関係をヨソに、南北融和は急速に進んでいます。
南北関係最大の接点、板門店にある国連軍と北朝鮮軍の共同警備区域で、1976年に監視の邪魔だからとポプラの木を伐採しようとした米軍将校2名が北朝鮮軍に殺害され、韓国軍兵士数名も負傷した『ポプラ事件』以来初めて、自由往来が可能になったのです。

10月25日までに両軍の武装や地雷が撤去されて非武装化が完了し、11月はじめ以降は非武装要員がそれまで許されていた会議施設のみならず、共同警備区域内全域で自由往来での勤務が可能になります。
さらに観光客の受け入れも可能で、非武装地帯にある北朝鮮軍と韓国軍の哨所各11ヶ所も年内に撤去予定と、急速に戦時色が弱まることとなりました。

ここから再び北朝鮮の態度硬化など起きた日には、「それ見たことか!」と韓国からも見放されかねない上に経済制裁がさらに強化されるのは必至なため、当面は南北関係が後退することは無いでしょう。
非核化や朝鮮戦争終結という大きなテーマを扱う米朝関係はともかく、南北関係は一足お先に融和ムードで、韓国の文大統領が「韓国だけでも経済制裁を緩和してもいいのではないか」と言いだしたのは少々フライングでしたが、世間の反応を見るパフォーマンスだと思えば納得です。

韓国の「取り込み」を懸念する声も

融和が進むのは南北関係だけでなく、THAAD(弾道弾迎撃ミサイル)配備以来自粛ムードのあった中国から韓国への観光事業も復活、まだまだTHAAD以前とはいかないものの中国人観光客が戻り始めています。
さらに中国は、米トランプ大統領の輸入品へ多額の関税をかけて国内産業保護を狙う貿易強硬路線に乗じて日本に貿易面での協調を持ちかけてきており、長年日本が中国へ続けてきたODA(政府開発援助)打ち切りにすら同意しました。

これには韓国も日本も中国へ強硬な姿勢ばかりとっていられない……ということで、東シナ海(尖閣諸島)や南シナ海(アメリカ主導の『航行の自由作戦』)で対立軸の残る日本はともかく、韓国は中国からの融和取り込み政策に抵抗できないのでは? と懸念されています。

つまり、南北融和と同時に、韓国も北朝鮮同様実質的に中国の影響下、『中国陣営化』してしまうのではないか、あるいは既にそうなのではないかと心配されており、アメリカに先立ち南北融和が進んでいるとはいっても、いいことばかりとは言えません。

日本にとっても、それまでどちら向きかよくわからなかった韓国が、アメリカの影響下を抜ければ明確に仮想敵国化してしまう上に、歴史的経緯からどう転んでも敵対的中立国以上にはなってくれそうもない韓国の扱いは、日本にとって今後とも悩ましいところです。

しかも北朝鮮をクッションとした米中関係改善の兆候が無きにしもあらず(そうでも無ければ北朝鮮が露骨にアメリカへ接近などできない)なのも気になるところ。
北朝鮮問題の中でも米朝関係、南北関係への積極的な関与が難しい日本にとっては、今できるのは中国とのこれ以上の関係悪化を防ぎつつ、イギリスや東南アジア諸国、オーストラリアなど近い遠いに関わらず「味方をなるべく増やす」しかできることがありません。

菅野 直人

物心付いた時には小遣いで「丸」や「世界の艦船」など軍事情報誌ばかり買い漁り、中学時代には夏休みの課題で「日本本土防空戦」をテーマに提出していた、永遠のミリオタ少年。
撤退戦や敗戦の混乱が大好物で、戦史や兵器そのものも好きだが、その時代背景や「どうしてこうなった」という要因を考察するのが趣味。

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