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2018/09/19

菅野 直人

奇跡の海戦史『史上最大の戦艦決戦ユトランド沖海戦!ドイツ巡洋戦艦ザイドリッツ帰還す』

世界の海軍史で一時期、戦争の帰趨を決める決戦兵器として主役の座にあった戦艦。巨大な鋼鉄の塊が主砲を振りかざし突進する姿、あるいは周囲の小艦艇を従えて悠々と航行する姿は『海軍』と言えば誰もが思い浮かべる象徴であり、ロマンです。実際、空母以外の戦闘艦艇は「戦艦だ!」と言ってしまう人も多いことでしょう。その戦艦のたくましさ、力強さ、タフさといった要素を実戦の場でもっともいかんなく発揮したのが、ドイツの巡洋戦艦ザイドリッツです。







英海軍グランド・フリート vs ドイツ大洋艦隊、史上最大のユトランド沖艦隊決戦!

InvincibleWrecksp2470.jpg
By Official RN photographer –
This is photograph SP 2470 from the collections of the Imperial War Museums (collection no. 1900-01)
, パブリック・ドメイン, Link

第1次世界大戦真っ只中のその日、デンマークのユトランド半島とノルウェーの間にあるスケガラク海峡の西側には霧が立ち込めていました。
視界が悪い中、互いに偵察の巡洋艦戦隊を先行させ激突の進路をたどっていたのは、大英帝国が誇るグランド・フリート(大艦隊)と、ドイツ第2帝国の大洋艦隊。紛う事なき両海軍の主力です。

霧を抜けたイギリス巡洋艦ガラティアとドイツ巡洋艦エルビンクが互いを視認したのは1916年5月31日14時18分、すぐさま両艦から至急報が発せられました。
敵、見ゆ!!」

巡洋艦同士の砲戦に続き、両者の後方でチカッ、チカッ、と閃光がきらめき、少し遅れて腹に堪える重低音、いや爆発音と言ってよい音響が響きます。
上空を通過音、着弾、激しく吹き上がる水柱、その向こうからさらに発泡の閃光と音響。
史上最大の戦艦同士の艦隊決戦『ユトランド沖海戦』はこうして、ビーティ提督率いるイギリス第一・第二巡洋戦艦部隊と、ヒッパー提督率いるドイツ巡洋戦艦部隊によって幕を開けました。

双方ともに巡洋戦艦部隊を前衛とし、後方から戦艦部隊。グランド・フリートはド級戦艦28隻と巡洋戦艦9隻、ドイツ大洋艦隊はド級戦艦16隻と旧式の前ド級戦艦6隻、巡洋戦艦5隻。
戦力はイギリスのグランド・フリートが圧倒的有利のはずでしたが、ドイツ大洋艦隊には戦力増強要素が、グランド・フリートには自らも気づいていない弱点があり、意外にも条件はイーブン。

そしてドイツ大洋艦隊・巡洋戦艦部隊の中に『ザイドリッツ』はいました。

ドイツ巡洋戦艦『ザイドリッツ』

SMS Seydlitz2.jpg
By Atelier Heinr. Meents, Wilhelmshaven, – Naval Historical Center., パブリック・ドメイン, Link

ザイドリッツ』はドイツ初の巡洋戦艦『フォン・デア・タン』および『モルトケ級』2隻に続くドイツで4隻目の巡洋戦艦で、この海戦には『フォン・デア・タン』『モルトケ』およびザイドリッツより新しい『デルフリンガー』『リュッツオウ』と5隻で巡洋戦艦部隊を編成していました。

第1次世界大戦を通し、当時世界一の大艦隊を擁するイギリス海軍に対して不利が明らかだったドイツ海軍の活動はあまり活発的とはいえず、下手に出撃して艦隊壊滅すると戦局に与える影響が大きすぎる事から、特に主力の戦艦は出撃が手控えられています。
そんな中でもザイドリッツを含む巡洋戦艦隊の活動が比較的活発だったのは、『巡洋戦艦』という艦種が持つ性格ゆえかもしれません。

イギリスのジョン・アーバスノット・フィッシャー提督が提唱し、ド級戦艦(戦艦『ドレッドノート』)に続いて誕生した『インヴィンシブル』は、ド級戦艦に近い火力の割に軽装甲で、軽い船体に強力な機関を備えて巡洋艦に近い高速を発揮する新型艦でした。
敵が巡洋艦以下なら火力で圧倒し、強力な戦艦なら高速で逃げ切ることで常に戦闘の主導権を握ろうとするこの新しい艦種は『巡洋戦艦』と名付けられ、その後イギリスのほかドイツや日本でも建造されることになります。

ザイドリッツもその巡洋戦艦の1隻でしたから、高速と大火力を活かすべく出撃、風のように現れて艦砲射撃を行ったり、イギリスの同類(巡洋戦艦)と激しい海戦を戦うこともありました。
第1次世界大戦も半ばとなったこの日、ヨーロッパ西部戦線での地上における大決戦(ヴェルダンの戦い)に呼応し、イギリス本土に艦砲射撃を加えて側面支援するため主力全艦隊を出撃させたドイツ大洋艦隊の先陣にザイドリッツを含む巡洋戦艦部隊があったのは、このような理由があったのです。

実質的に『巡洋戦艦決戦』だったユトランド沖海戦

実はイギリスのグランド・フリートも似たような事情でドイツ大洋艦隊との決戦を欲しており、迎撃に出動してやはり巡洋戦艦部隊を先行させていました。
イギリス側には6隻の巡洋戦艦に加え、戦艦でありながら巡洋戦艦と同等の速力を発揮する新時代の『高速戦艦』クィーン・エリザベス級4隻が加わっており、イギリス側10隻対ドイツ側5隻の戦いとなったのです。

なお、他に多くの戦艦を両軍とも抱えていましたが、高速で疾駆しながら砲撃を交わす巡洋戦艦同士の戦闘にはほとんどついていけず、ユトランド半島沖海戦は実質的に『巡洋戦艦(あるいは高速戦艦)決戦』となりました。

攻撃はドイツ側が先に有効弾を出して、イギリス巡洋戦艦3隻に多数の命中弾を与え、4隻目の『インディファティガブル』にドイツの『フォン・デア・タン』の主砲弾が集中、弾薬庫が誘爆し爆沈。
さらに5隻目の『クイーン・メリー』にはザイドリッツが『デアフリンガー』と共に射弾を集中し、これも轟沈させました。戦闘開始からわずか37分で圧倒的に有利なはずのイギリス巡洋戦艦隊は2隻を失い、3隻に深い傷を負います。

それに対してドイツ側の被害はザイドリッツが『クイーン・メリー』からの砲撃で4発の命中弾を受け、5基ある28cm連装砲塔のうち第4主砲塔が旋回不能になったのみ。まだ主砲は4基8門が建材で航行にも支障無く、戦闘可能!

しかし、壊滅の危機に瀕したグランド・フリート巡洋戦艦部隊を、増援として加えられていた『高速戦艦』部隊が救いました。
その強力な38.1cm連装砲4基8門×4隻=32門の大火力が火を吹き、ドイツ巡洋戦艦部隊も反撃したものの次々と被弾、ザイドリッツは『マレーヤ』などからの砲撃で約20発の命中弾に加え魚雷1本が命中し、全砲塔使用不能、大量の浸水により満身創痍となったのです。

不屈のザイドリッツ、ヴィルヘルムスハーフェンへ帰還す

結局、この海戦は両軍とも巡洋戦艦と高速戦艦が激しく撃ち合い、駆け回るのみで終始したのみで終わりますが、その終盤に危うく退路を絶たれかけた大洋艦隊主力を救うため、ドイツ巡洋戦艦部隊は囮になってグランド・フリートをかき回しました。

その結果、ドイツ巡洋戦艦部隊はさらにイギリス巡洋戦艦『インヴィンシブル』を『デアフリンガー』の砲撃で爆沈させたたものの、グランド・フリート主力を含む各艦から滅多打ちにあってボロボロになってしまいます。
旗艦『リュッツオウ』は復旧をあきらめ自沈、『フォン・デア・タン』と『デアフリンガー』は大破し、数発の命中弾を受けながら戦闘力を維持していたのは『モルトケ』だけになっていました。

そして沈没こそ免れたものの最も深刻な被害を受けたのはザイドリッツで、海戦中は主砲の全てが使用不能となって戦闘力を失っていたものの艦隊に追従して航行していましたが、かえって浸水が増したため海戦が終わる頃には航行が困難になります。
特に艦首の浸水がひどいため前進は困難でしたが、あきらめずに後進わずか3ノットでノロノロと帰途につき、ついに基地のヴィルフェルムスハーフェンまでたどり着いたのです。

満載排水量28,100トンに対して5,300トン、実に約20%もの浸水でしたから港に入る浅い水道には入れず手前で座礁しましたが、ともかく目の前まで帰ってきたので砲塔を外すなど応急的な軽量化や満潮を利用して離礁、ドックに入れることができました。

ボロボロになりながらもイギリスの巡洋戦艦3隻を撃沈、残る3隻も撃破したドイツ巡洋戦艦部隊が5隻中4隻が生還、ザイドリッツはその象徴として褒め讃えられるとともにわずか3ヶ月の修理で復帰して、ドイツ巡洋戦艦のタフさを証明する存在となります。
ドイツ巡洋戦艦は主砲の火力こそ28~30cm級で弱かったものの、戦訓を取り入れた強力な防御力を誇る実質的には『高速戦艦』であり、その後の戦艦(特に日本の戦艦)の防御力に強い影響を与えました。

後に第2次世界大戦に参戦して沈没に瀕しつつ帰還した、あるいは奮闘むなしく沈まざるを得なかった多くの軍艦の指揮官が、ザイドリッツに倣って最後まであきらめずに生き残るための戦いを繰り広げたことは、想像に難くありません。

菅野 直人

物心付いた時には小遣いで「丸」や「世界の艦船」など軍事情報誌ばかり買い漁り、中学時代には夏休みの課題で「日本本土防空戦」をテーマに提出していた、永遠のミリオタ少年。
撤退戦や敗戦の混乱が大好物で、戦史や兵器そのものも好きだが、その時代背景や「どうしてこうなった」という要因を考察するのが趣味。

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