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2018/07/13

菅野 直人

『アメリカ軍』とは違うの?アメリカの『州兵』とは何か

戦争や演習などでアメリカ軍の部隊名が出ると、単に部隊名だけでなく『ニューヨーク州兵』や『アーカンソー州兵』などと、アメリカ軍として参加しているけども、アメリカ軍では無くて州の軍隊? と思うような部隊が出てきます。日本なら国の自衛隊と別に『埼玉県自衛隊』があるようで想像しにくいのですが、どんな組織なのでしょう?







実は連邦軍(アメリカ軍)より歴史が古い、アメリカの州兵

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By National Guard Bureau – http://www.ng.mil/news/archives/2011/12/images/121211-Born-full.jpg, パブリック・ドメイン, Link

アメリカ軍』と言えば、広い意味で言えばアメリカ連邦政府、つまりアメリカ大統領の指揮を受けて活動する軍隊のことになりますが、狭義で言えば『アメリカ軍』とはアメリカ合衆国そのものの軍隊『連邦軍』を指します。
つまり連邦軍以外の『アメリカ軍』がいることになりますが、それがアメリカ合衆国を構成する50州+1特別区それぞれが保有する『州兵』(州軍)というわけです。

地方分権が進んでいない日本で埼玉県や佐賀県が保有するのはせいぜい県警くらいなものですが、アメリカでは州が軍隊まで持っているわけですが、組織的には江戸時代日本の幕藩体制下で存在した、各藩軍に近いかもしれません(もちろん指揮系統などは全然違いますが)。

さて、その州兵ですが、元はと言えばイギリスなどヨーロッパ各国の植民地だった時代のアメリカで、入植者がインディアンなど先住民から身を守るため武装した自警団が始まりですから、アメリカ独立戦争時の『大陸軍』を起源とする連邦軍よりはるかに歴史は古いです。

イギリスからの独立を図った初期の13植民地(13州)が独立戦争を起こした時、13植民地の統一統治をおこなう『大陸会議』により、大陸軍が編成されてイギリスの植民地統治軍と戦うことになります。
しかし、相手は何しろ天下のグレートブリテン、武器弾薬装備の補給どころか食料にすらコト欠く大陸軍がそのまま戦って勝てるわけもありません。

そこで各州で自警団を元にした『民兵』や、狩猟を普段の生業としているので狙撃兵向きの鉄砲上手、『ミニットマン』を加えて大陸軍の指揮下に置いた結果、イギリス軍を圧倒してアメリカ合衆国は独立(1776年)を守り抜き、1783年までの戦争を戦い抜いたのでした!

いざとなれば連邦軍、普段は『州の軍隊』な州兵

そんな歴史的経緯と、独立戦争が終われば平時から大規模な軍事組織を維持する経済力もまだ無かったこともあり、『大陸軍』は大幅に縮小され、アメリカ合衆国各地の軍事力は民兵に依存するようになります。

ただし、各州の間で利権問題からなる小競り合いの懸念から、大陸軍を一気に解散して各州民兵の軍事的バランスが崩れるのが望まれなかったことや、未だ完全撤兵していないイギリス軍に対処する即応戦力としてわずかな大陸軍が残り、これがアメリカ陸軍(連邦軍)となりました。

アメリカ合衆国の拡大や南北戦争を経て、次第に連邦軍が巨大化する一方、州兵も各州の郷土防衛隊として維持されますが、何しろ各州の権限が強いアメリカですから、平時には治安維持や災害派遣のため州が自由に動かせる兵力を確保しておくことは、常に意味があったわけです。

それだけでなく、各自治体単位で自己主張が激しいものですから、地域の警察や保安官が連邦どころこか州の言うことさえ聞かない場合、州兵が投入されて実力行使を行うことも多かったという事情もあります。
こうした平時の活動はあくまで『州の軍隊が州の業務を行う』という形になりますが、その一方で連邦政府の要請を受けた州知事の命令で連邦政府の仕事を行う場合は『州の軍隊が連邦の業務を行う』形になり、ここまでは州の軍隊としての範囲です。

一方、戦争のために不足する連邦軍に州兵を加える権限が連邦政府にはあり、そうして連邦軍の一員として活動する場合は、『連邦軍として連邦の業務を行う』ことになります。
つまり、州兵とは『州の軍隊』である一方、連邦軍の予備戦力でもあるわけです。

もちろん、連邦軍にも予備役兵力はありますが、予備役を招集して復帰のための再訓練、再組織などを行うより、常設の州兵の方が即応戦力として優れているという側面があり、それは独立戦争以来変わりません。

第1次世界大戦以来、実質的に『アメリカ軍』でもある州兵

独立戦争、南北戦争、米西戦争と対外戦争を連邦軍と共に戦った州兵ですが、法的にも連邦軍を補完する戦力として定められたのは意外と新しく、1916年の国防法で正式に『州兵』として定められました。

翌1917年にアメリカが参戦した第1次世界大戦で連邦軍に編入された州兵は本格的に海を渡ってヨーロッパで外征軍として戦い、以後第2次世界大戦、朝鮮戦争、湾岸戦争、アフガニスタン侵攻、イラク戦争と、およそアメリカの関わるほとんどの戦争を戦っています。

例外的なのは、国内世論の支持を得られず小規模な動員に留まったベトナム戦争くらいで、それを除けばもはや州兵と連邦軍の境目は、『国内で連邦から求められていない時だけ、州の軍隊として振る舞う』程度になりました。

州兵が州の利益のために独自の活動を行った近代の例としては、1957年に黒人生徒の投稿を拒否したアーカンソー州知事が州兵によりリトルロック・セントラル高校を封鎖した『リトルロック高校事件』があります。
しかしこの時も、事件勃発に激怒したアイゼンハワー大統領が封鎖している州兵を大統領権限でただちに連邦軍へ編入、最高指揮官として撤退を命じ、現場指揮官も法に則ってそれに従ったことで、『州のための軍隊』は事実上終わりを告げました。

現在は、『連邦政府が用の無い時なら、州のために使ってよい』のが州兵だと思っても良いでしょう。

陸軍航空隊の空軍独立で、州兵にも『空軍州兵』が誕生

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By U.S. Air Force photo by Senior Airman Gustavo Gonzalez – http://www.af.mil/shared/media/photodb/photos/100702-F-4815G-217.jpg, パブリック・ドメイン, Link

歴史的経緯により基本的には陸軍部隊しか持たなかった州兵ですが、1947年に連邦軍の陸軍航空隊が空軍として独立すると、編入時の組織としての整合性をとる必要もあり、州兵の航空隊も空軍州兵として独立しました。

こちらは基本的に『陸上部隊の支援』または『国土防空部隊』としての性格が強く、特に1980年代以降はアメリカ本土防空用の迎撃戦闘機は空軍州兵が多くなっています。
もちろん、陸上部隊同様に空軍州兵もベトナム戦争を除く海外での戦争に動員されており、今や実質的に『国内であらゆる空軍部隊を平時からプールしておく組織』です。

B-2ステルス爆撃機(ミズーリ空軍州兵)やF-22ステルス戦闘機(ハワイ空軍州兵)すら配備されている空軍州兵ですが、もちろん州のために重要な航空作戦を行うわけではなく、平時は法律上、州知事の指揮下にあるというだけになっています。

ちょっと特別な州兵と、州兵以外の地方軍事組織

なお、州兵の中でも独特の立場にあるのがアメリカ合衆国の首都、ワシントンD.Cのあるコロンビア特別区州兵 / 空軍州兵で、数ある州兵の中でもここだけは地方自治体(ワシントンD.C市長)では無く、アメリカ連邦政府(大統領)指揮下にあるという、特殊な州兵です。

また、歴史的経緯から『州を守る民兵』として組織されたにも関わらず、連邦政府から一声かかれば連邦軍にされてしまうのが実情の州兵とは別に、本来の『州のための民兵を持とう』という動きもあります。

その具体例が『テキサス州防衛隊』や、ハドソン川や周辺港湾の警備を行うニューヨークの『ニューヨーク海軍民兵』であり、特にテキサス州防衛隊は州兵の支援は行うものの連邦軍の指揮下に入ることは無い、テキサス州独自の軍事組織(民兵)です。

日本で道州制が導入されたら、州兵(州自衛隊)はありえるか?

日本でも時々思い出したように地方分権議論で『都道府県制から道州制の移行』が持ち出される時がありますが、仮にそれが実現した場合、日本でも州兵(州自衛隊)が導入される可能性はあるでしょうか?

現実問題としてアメリカのような独立戦争以前からの歴史的経緯があるわけでも無ければ、旧ユーゴスラビアのように連邦構成共和国単位の予備軍事組織として郷土防衛隊が奨励されたのとは、かなり事情が異なります。

日本の国土防衛計画は、確かに海や空の守りに関して言えば、国土に対して広い領空、領海を守るため、各地に分散されていますが、陸上部隊となると経済や生活を阻害しないためもあって分散配備された部隊を、有事には急速移動させる機動的運用が基本です。

各州の実情に応じた部隊配備を行い、州知事の要請で出動させるのは災害派遣なら有効ですが、州外の部隊へ要請するにはかえって面倒であり、むしろ『陸上総隊』を2018年に設立して指揮を一元化しようとしているくらいですから、まずありえない話を思っていいでしょう。

菅野 直人

物心付いた時には小遣いで「丸」や「世界の艦船」など軍事情報誌ばかり買い漁り、中学時代には夏休みの課題で「日本本土防空戦」をテーマに提出していた、永遠のミリオタ少年。
撤退戦や敗戦の混乱が大好物で、戦史や兵器そのものも好きだが、その時代背景や「どうしてこうなった」という要因を考察するのが趣味。

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