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2018/07/2

菅野 直人

最新北朝鮮情勢・『米朝合意の行間と裏面をひたすら都合のいいように読んでみる』

2018年6月12日、誰もが疑心暗鬼になりつつ、この日が忘れられない日になることを願ったのでは無いでしょうか。結果は皆様御存知の通りで、良くも悪くも「そういえば、そんな事もあったっけ?」という日になりつつあります。あれは一体、何だったんでしょうか?軍事的には、今後どのような意味合いが出てくるのでしょうか?中身が無い合意だっただけに、書かれてもいない行間や裏面をひたすら読んでみます。







困惑のイージス・アショア整備予定地

Mda aegis.jpg
By Missile Defense Agency – United States Department of Defense – United States Naval Institute News, パブリック・ドメイン, Link

もう北朝鮮からの弾道ミサイルは飛んでこないんじゃないのかそれならもういらないだろうし、何でここに置くんだ?」
2018年6月22日現在、弾道ミサイル防衛用の地上設置型イージス・システム『イージス・アショア』配備予定地である、山口県秋田県での偽らざる声。

まさか本気で未来永劫北朝鮮から弾道ミサイルが飛んでこないと信じたわけでは無いはずです。
ただ、6月12日にシンガポールで歴史上初めて開催された米朝首脳会談によって、防衛計画を推進したい国も、何かにつけて防衛計画だけでなく全てに反対したい勢力も、誰も彼もが困惑することになってしまいました。
何しろ米朝首脳会談では何ひとつ、何ひとつ決まらなかったのです。

国としてはトランプ大統領の何だかよくわからない『成果』を真っ向から否定することもできませんし、さりとて北朝鮮の何が変わったというわけでも無いので、弾道ミサイル防衛計画は待った無し。

さらに言えば、トランプ大統領から貿易不均衡是正を迫られているとは言っても、中国と違って大した売り物の無いアメリカから買えるのは兵器くらいなものであり、イージス・アショアを買わないならどんな役立たずを押し付けられるか、知れたものではありません。
かと言って、今度は拉致被害者問題解決に向けた(そうであってほしいと願う)日朝首脳会談が決まりそうですし、住民に正面切って「北朝鮮から飛んでくるミサイルから守るためです!」と鼻息荒く言い放つわけにもいかないわけです。

そして反対勢力も何もかも否定したいと思いつつ、米朝首脳会談の中身が余りにも空っぽだったので、積極的に軍国主義だなんだとも言えません。
何しろ、北朝鮮がやっぱり非核化もしないし弾道ミサイルは持ち続けるし、米帝日帝上等! と言い始めた日には、「だから言ったじゃないか!」式に吊し上げを食らうのは反対勢力なのです。

結局、歯切れの悪い両者の間で住民は『何となく不安だけど具体的にどうかと言えば、ええと』とオロオロしてしまうわけで、誰もが何が正しいのかよくわからなくなっています。

オチも何も無いグダグダの米朝首脳会談

Trump and Kim shaking hands in the summit room.jpg
By Dan Scavino Jr. – https://twitter.com/Scavino45/status/1006346784795451392, パブリック・ドメイン, Link

今思えば、もしかするとあの瞬間がトランプ大統領の絶頂期だったのではないか? と思えるのが、米朝首脳会談で昼食会を終え、北朝鮮の金委員長と2人、マスコミの前に現れた時です。
思いもかけない素晴らしい成果が上がったこの後、調印するよ!」
この瞬間、もしかしたら歴史の転換点にいるのではないか、そうであってほしいと感じた人も多かったのでは無いでしょうか。

しかし、シンガポールの暑さゆえか、何か最初から出来上がっていたシナリオへの違和感ゆえか、大汗をかきながら金委員長がトランプ大統領ともども合同文書に署名した時も、そしてその後の記者会見でも、具体的な成果は何ひとつ出てきませんでした。

出てくる言葉は「~だろう」「~はずだ」「文書には含まれていないが~」という空虚なものばかり。
記者会見で質問攻めにするはずの記者団ですらも途中で飽きたのか、直前のG7(先進7カ国首脳会議)でのカナダ首相とのゴタゴタに関する質問など、米朝首脳会談と関係無い話になっていました。

日本にとっては非核化問題とともに最大の関心事である拉致問題は「話には出た」という程度で、後から日朝首脳会談で直接解決しろと丸投げ。
その後アメリカはイスラエル問題で国連人権理事会の離脱を表明したくらいなので、北朝鮮に対して人権問題で熱心になるわけもありません(もちろん自国民の安全を除く)。

それどころか、米韓軍事演習は「金がかかるからやるべきでない」と言い出す始末で、北朝鮮が何らかの対応を示すのを待つことも無く、次々と演習中止を表明しています。
それでいて「成果はあった最高だ!」と連発するので、最初からそう言うことが決まっていたので、その通りにしているだけ、という印象すら受けます。

ともかく戦争にならなくて嬉しい韓国?

当初は仲介役として米朝首脳会談へ同席も噂された韓国の文大統領。
こちらも結局は蚊帳の外になりましたし、韓国の国内世論でも「結局何も変わらないじゃないか!」という声が出ましたが、ともかくすぐ戦争に発展しない雰囲気にはなったので、満足げです。

トランプ大統領が猛烈な自己嫌悪に陥るか、あるいは北朝鮮が現状を悪化させてトランプ大統領の面目さえ潰さなければ、たとえ弾道ミサイルを廃棄しなくとも、核査察の受け入れが進まなくとも、北朝鮮が何もしなければアメリカから戦争を起こすことは無くなりました。

北朝鮮が攻めてきたのであれば仕方がありませんが、そうでも無いのにソウルを北朝鮮の砲兵に攻撃され、国内経済が滅茶苦茶になってまで戦争などしたくない立場にあるのが韓国の現政権ですから、少なくともマイナスにはなりません。

米韓軍事演習が無くなったのであれば代わりに、というわけなのか何なのか、竹島の防衛演習を始めたりして、当面切迫した防衛問題共有の必要性を感じなくなった日本に対して、どうも不穏な雰囲気です。
少なくとも日本にとって、北朝鮮問題について積極的に協調できるパートナーとは言えません。

駆け引きに割り込みそうな中国

おそらく最大のカギを握ると思われるのが中国で、米朝首脳会談前後に金委員長が訪中しており、単にシンガポールまでの飛行機を提供してくれた御礼を言いに行ったわけもありません。

そして中国はアメリカと貿易不均衡問題で対立し、経済戦争に発展しかけているところですから、何かとアメリカへ嫌がらせをするのに自ら正面切ってやらなくてもいいという意味で、北朝鮮は非常に好都合な存在です。
今後も影に日向に北朝鮮を支援して、アメリカを揺さぶる駒として使う可能性が高くなりました。

何しろ、ついにシンガポールにトランプ大統領を引っ張り出し、中身の無い合意をさせてすっかりトランプ大統領をピエロに仕立て上げたのは中国の可能性もあります。

何としても金委員長をシンガポールまで送り届け、そして迎えに行くため飛行機まで準備したあたりなど、もはや『裏から糸を引いているのを隠そうともしない』わけで、結局米朝首脳会談とは全てが中国のため開催されたのでは、とすら思わせられるほどです。

そうなると金委員長も米朝首脳会談で「北朝鮮としての意見」など言えるわけも無かったはずですから、あれだけ中身の無い合意文書調印に至ったのもうなずけますし、アメリカとしても全て承知の上だったのかもしれません。

米朝首脳会談最大の成果は「米中直接対決が無くなり、日本も良い意味で蚊帳の外」な事?

ここまで考えると、米朝首脳会談でトランプ大統領が述べた『思わぬ成果』とは、今後も北朝鮮をガス抜きとして使って、米中直接対決を避けられることなのではないでしょうか?
何しろ肝心の米朝合意の中身が無いので全くの憶測ですが、はじめから両国の間に具体的な何かを合意する必要など無く、中国の意向を確認するためのカモフラージュ的な会談だったと考えるべきかもしれません。

そうなると北朝鮮がいきなり核放棄をせずとも、高官同士の会談や、金委員長をホワイトハウスに招かれたり(行かないと思いますが)していた方が、ゆっくり米中の間の駆け引き材料として生き延びることができます。
自国を戦火にさらさない」という明確なメリットを得られる韓国もそれで構いませんし、日本も南西諸島を米中駆け引きの場に使われないということが明確になれば、国益になると言えなくもありません。

拉致問題については、あるいは日本以外ではあまり話題にならないからと、『米中からのアメ』として進めば良いのですが、北朝鮮が劇的に変わったという印象を与えてイージス・アショアの配備に影響が出ても、アメリカにとっては面白くないので微妙です。

そうした複雑な糸が絡み合って、案外『イージス・アショアの購入と配備が本決まりになれば、その時点でアメリカから北朝鮮に働きかけて日本の拉致問題が解決し、貿易赤字解消と日本を盾にした米本土防衛強化の功績でトランプ大統領もハッピー』という、妙な解決になるかもしれません。

ウッカリ当事者になって孤立するより、蚊帳の外のようでいて収穫は得られる立場にいる事で、案外日本にとっても得られる利益が大きい、ということなのでしょうか。
中身の無い米朝合意の『行間』と『裏面』を読む取る作業は、まだまだ始まったばかりです。

菅野 直人

物心付いた時には小遣いで「丸」や「世界の艦船」など軍事情報誌ばかり買い漁り、中学時代には夏休みの課題で「日本本土防空戦」をテーマに提出していた、永遠のミリオタ少年。
撤退戦や敗戦の混乱が大好物で、戦史や兵器そのものも好きだが、その時代背景や「どうしてこうなった」という要因を考察するのが趣味。

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