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2018/06/8

菅野 直人

シリア内戦最大の問題・主要勢力だけでも全く統一感の無い「反政府勢力」

日本にいると、北朝鮮情勢と入れ替わり立ち代わりに話題になっている印象のあるシリア内戦。もちろんそんなわけもなく、平和が回復されるまでかの地では連日の戦いが続いているわけですが、一向に内戦が終わる気配もありません。そもそも内戦の目的はアサド政権の打倒ですが、それが成功したとしてその勝者は誰になるのか? それがわからないのが1番の問題かもしれません。







誰が勝てば勝利になるのか? 統一感の無さが特徴のシリア反政府勢力

FSA rebels cleaning their AK47s.jpg
By VOA News; Scott Bobb reporting from Aleppo, Syria – https://www.youtube.com/watch?v=tDAxseKRHw4, パブリック・ドメイン, Link

内戦といえば大抵は旧来からの政権や大勢力の打倒を目指すわけですが、その過程で反政府側にまとまりがあればいいものの、無ければ泥沼になりがちです。
何でそうなるかと言えば、勝ったら勝ったで勝者の間で勢力争いがあり、その中で勝利すべく、あるいは最初から勝者に加わるのが許せないと、潰し合いが始まります。

内戦ではありませんが、かつてポーランドはドイツ占領時代にソ連から焚きつけられてワルシャワで蜂起したものの、肝心のソ連に見捨てられてドイツに制圧されました。
ベトナム戦争でも北ベトナムの勝利後、南ベトナム解放民族戦線の兵士が冷遇された例もあり、勝利者であり次にその地を勢力下に置きたい側にとって、「権力者に抵抗する者」とはとにかく面倒なのです。

何しろハナから戦力差など考えず抵抗してくるものですから、それが敵対勢力に向けてならともかく、自分たちに対して不満があれば、今度はそのホコ先を自分たちに向けてくるかもしれません。
戦争が終わってから火種になりそうなものは残しておきたくない、というのは普通の戦争でも内戦でも同じで、シリア内戦でも「我こそが政権打倒」とは言うものの、自分たち以外の勢力による勝利は認めないわけです。

それゆえ、現在のシリアでは反政府勢力の勝利にせよ敗北にせよ、「誰を相手にすればそうなるのか」がわからず、それがまた内戦の長期化の元になっています。

2011年3月に始まったこの内戦が、まるでレバノン内戦のごとき泥沼になっているのは、それが大きな要因で、アメリカなど西側が反政府勢力を援護したとしても、内戦終結へはあまり役に立っていません。

一応、『シリア民主連合』という反体制統一組織はありますが、これを反政府勢力の代表として認めない反政府組織が80もあったと言いますから、賛成・反対・どちらでも無いと合わせればいくつになるのか見当もつかない状態です。

主要勢力その1:ISIL(イスラミックステート)

İD bayrağı ile bir militan.jpg
By VOA – http://www.amerikaninsesi.com/content/suudi-arabistanda-93-isid-militani-tutuklandi/2739372.html, パブリック・ドメイン, Link

かつて『イスラム国』を自称したものの、特定の領土や首都などは持たないイスラム系過激派組織で、アルカイダの流れをくむと言われており、実際に国家としてはどこからも承認されていません。
とはいえ、シリア民主軍に叩き出されるまでシリアの都市ラッカを『首都』と自称し、一時はシリアの大半とイラクなど周辺諸国の一部まで支配しており、ヨーロッパなどからも参加者が相次いだことで有名になりました。

しかし、最近はかの地での退潮が著しく話題になることも少なくなり、再び旧来の過激派組織として地下に潜みながら世界中に拡散しているとも言われ、その実態は完全に定かになっていません(もっとも、この点はどこの勢力でも似たようなものです)。

その統治はイスラム法を統治に都合の良い部分だけ抜き取るようにして厳格に運用していると言われており、アフガニスタンでのタリバンがそうだったように、最初はともかくすぐに人心の離反を招き、統治を維持できないようです。

自分たち以外の全てを敵としているようで、シリア政府は元より他の反政府勢力全てと敵対しています。

主要勢力その2:反トルコ、反アラブのシリア民主軍

約40もの勢力が参加している反政府グループがシリア民主軍……という時点で既にまとまりがありませんが、ともかく主体はクルド系、アサド政権打倒というよりISIL打倒が第1の目標で、シリア軍とは対決していません。

アメリカからは手厚い援助を受けていますが、クルド人国家樹立を長年拒否して対立し続けているトルコとは敵対しており、実際シリアで政権を取ろうという勢力でも無く、イラクのクルド人勢力とも関係が深いので、単なるクルド独立勢力ではとも思われています。

もちろん、クルド人国家樹立により領土を奪われることを嫌う周辺国家全てが敵対勢力と言えるので、反アラブでもあり、シリアとは積極的に敵対していないだけで、内戦が落ち着けば、勝利した勢力と結局戦う運命です。

そのため、シリア民主軍以外にとっては内戦終結後の面倒を排除したいので攻撃対象となっており、シリア民主軍がそれで弱体化すれば、あるいは他の勢力と共倒れになればシリアのアサド政権にとっても有利なので、シリア軍は積極的に攻撃しません。

主要勢力その3:親トルコ、反ロシア、反アラブのファトフ軍

一番真っ当に「アサド政権打倒!」を目的としているのがファトフ軍で、これまたいくつもの反政府グループの連合体であって、方針の違いを巡って分裂や糾合を繰り返しています。
アサド政権や、誰もが敵のISILはもちろん、アサド政権を打倒するわけでもないシリア民主軍とも敵対的ですが、それゆえアサド政権打倒に集中することもできず、内戦を終わらせる勢力としてはあまりにも力不足です。

元々、シリア内戦の主役は反政府勢力となった市民たちの側についたシリア軍の一部による『自由シリア軍』でしたが、軍とは名ばかりで統一された組織では無かったため短期間で勢力としては衰えてしまい、取って代わった形になったのがファトフ軍。

シリア民主軍と違って、アサド政権に代わるシリア統治を明確に目標としており、アラブ諸国からの支持も取り付けており、何よりトルコとも敵対していないので、内戦に勝者がいるとすれば、このファトフ軍の勝利が一番の落としどころとも言えます。

ただし、アメリカはシリア民主軍を支援しており、アメリカの影響が強い一部のアラブ諸国もシリア民主軍を支援しているので、ファトフ軍だけが勝利すれば良いというわけでもありません。
一番良い落としどころとしては、このファトフ軍とシリア民主軍(そしてその他多数の反政府勢力)が連合を組み、アサド政権打倒と並行してクルド人国家を樹立することですが、それはトルコが許しませんからありえない話です。

さらに混乱に拍車をかけているのがロシアで、アサド政権を支援してISILを攻撃するのはともかく、他の反政府勢力の中ではシリア民主軍ではなくファトフ軍だけを目の敵にしています

つまりロシアにとってはシリアに親トルコ国家が樹立されては面白くない、アメリカにとっては反クルド国家ができては面白くないというわけで、ファトフ軍は一見もっとも真っ当な目的を持っていながら、ISILのごとく全てから攻撃される立場です。

一番統一感があるのは政府側という皮肉

ここまで反政府側の統一感の無さ、グダグダ感が露わになると、もしかして一番真っ当なのはアサド政権ではないのか、とも思えてきます。

しかしそれがまた大正解で、少なくともアサド政権は現在のところ多く国が認めるシリアの統一政権であり、統治勢力であり、少なくともシリアで誰かと交渉しようとすれば、代表はアサド大統領ということになりますし、どの国もその事実は無視できません。

反政府勢力が分裂したりくっついたりしながら、全くまとまりの無い中で政府側は一枚岩と言えて、アメリカなど西側諸国は非難しているとはいえ、それ自体アサド政権を代表として認めている証拠です。
しかしロシアやイランから支持されているアサド政権を、その敵対勢力が表向きは支持できません。

しかも、そもそもアサド政権に対する不満が爆発してのシリア内戦ですから、「やっぱりアサド政権でいいよ」と国民の大多数が認めることも難しいところです。

敵対するものは武装勢力でも、武装していない一般市民でも武力で制圧し、化学兵器を使用している極めて強い疑惑もあるため、仮にアサド政権側が勝利したとしても、ロシア以外の国はハイそうですかとも認められません。

ISILは問題外、シリア民主軍は自分たちの利益のみ守られればそもそも勝利に関心無いものの隣国トルコとの決定的な火種を抱え、ファトフ軍は隣国トルコはともかくクルド系のシリア民主軍と敵対し、アサド政権はロシアとイラン以外の全てと関係不良。

誰かが譲るべきところを譲ればうまくいきそうな反面、決して譲れない部分で敵対しているので、シリア内戦には全く出口が見えません。
しかも、今回例としてあげた反政府勢力は「2018年6月現在でそうと思われるもの」だけなので、いつどこの何が最大勢力になるのか、全く不明です。

誰がアサド政権を打倒してシリアを統一するのか、あるいは逆にアサド政権が統一を回復するのか、それが何年先になるのか。
日本でも戦国時代が100年以上続き、織田信長や豊臣秀吉の登場と、その頃には小勢力が淘汰されて大勢力を潰せば良くなっていたのと同じで、シリア内戦の終結にはまず無数の小勢力の統一を経てからになるでしょう。

菅野 直人

物心付いた時には小遣いで「丸」や「世界の艦船」など軍事情報誌ばかり買い漁り、中学時代には夏休みの課題で「日本本土防空戦」をテーマに提出していた、永遠のミリオタ少年。撤退戦や敗戦の混乱が大好物で、戦史や兵器そのものも好きだが、その時代背景や「どうしてこうなった」という要因を考察するのが趣味。

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